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第119話

こういうタイプは罪悪感を抱いたらマイナスへと傾いていく。自分自身と向き合ったとき、自分のこういうところに非があった、と他に目がいかなくなることが多い。まずはそこを解決した方がいいのでは。思考回路がそちらの色に染まっていく。


優のことは好き。でも悟からの好意を蔑ろにするのは不誠実なのではないか。自分の好きな人から不誠実な態度をとられたら嫌だ。だったら自分も、相手と向き合わなければならないのではないか。


そういう思考回路になるのがこの佐伯という女だ。


根が良い人間だから、一度抱いた罪悪感から逃れることができない。どうにか解決しようとするのが、俺が今まで見てきた佐伯だ。


優等生という皮を被っているし、本人もその自覚があるのだろう。ただ、その皮も本人の一部になったというわけだ。取り外し可能な皮ではなくなり、その皮に侵食されたのだろう。

本来の性格が元々優等生寄りであったからか、優等生を演じ続けていくうちに、優等生の皮を剥がすことができず今の性格になったのか。中学の頃よりもボロが出ていると思ったのは、ボロではなくそれが今の性格というわけだな。


はは、被った皮が取れなくなって自分の中に取り入れてしまった馬鹿な女か。


「それで蒼井くん。話はもうおしまい?結局、わたしの恋心を潰しに来たのね」


恐らくこういうのも、隠さずに生活しているのだろう。

引っ越したと言っていたから、その性格でも高校では大丈夫なのだろう。知り合いはいないだろうから、上手く高校生活を送れているということか。


「そういうわけじゃないけど、そう思ってしまうよね。俺はただ知りたかっただけなんだけど」

「白々しい。今更取り繕っても遅いわよ。まあ、人間誰しも裏はあるものよね。わたしだって嫌われたくなくて善い行動とったりするし」


返す言葉も特になかったので、残っているコーヒーを飲み干し、これで話は終了という空気をつくる。


「あ、そうだ。最後に一つ聞きたいんだけど」


これを聞くとクズ認定されるだろうか。愚問という気もするが、一応聞いておく。


「なんで悟と付き合わなかったの?そんなに鬱陶しいなら、都合の良い条件を付けて付き合えばあいつも静かになったんじゃない?」


悟は一般的に見て誠実な男に映るはずだ。

自分に都合の良い、例えば「頻繁に話しかけるな」「メールはしない」「口出ししない」などと条件を出して交際すれば静かになったと思う。


実際、去年同じクラスだったとある女子が告白されたとき似たような条件を出して、クラスメイトと交際していたはずだ。


佐伯は伝票を取り、長話をする程のものではないと言いたげに席を立った。


「好きでもない人の一番になるより、好きな人の二番目になる方が良いに決まってるでしょ」


当然といった顔で言われた。

なんとしてでも一番をもぎ取ることはしない。できないのが正しいが、俺だったら絶対どんな手をつかってでも一番の座につく。

やはり俺たちは根本的な部分が違う。


「それに、そんなことしたら西島くんに悪いし。そんな考えすらなかったよ」


これは俺の性格の悪さが露見しただけだな。


今日呼び出したのは俺だし、少ししか注文してないため、佐伯が持っていた伝票をひょいと奪う。


「今日は楽しかったよ」


その言葉を最後に佐伯はさっさと店を出た。

一人で会計を済ませ、来た道をもう一度戻る。


会話を済ませて思うが、二人きりで話すことでもなかったかもしれない。

牽制というか、個人的に佐伯に感じるものがあったから。気にくわないと言えばそれまでだが、なにか、こう、優の横に立たせたくない人間だ。


誰であろうと優の横には立たせないが、優に好意があるあの女は一層立たせたくない。


理由はなんとなくわかっている。

自分とはまた違った人間、しかも優が気に入っている。

大袈裟に言うと相思相愛のような二人だ。優が例え佐伯の顔だけが好きだとしても、その好きがあの女に向けられていることは事実。


当然俺の方が優に好かれているしそれはもう昔から揺らぐことはないのだが、優のことを好きな人間が近くにいると気に入らない。その上優も気に入っているのだから一層気に入らない。


余裕がないわけではない。ただ気に入らないだけだ。


それに、結局佐伯は、悟の好意に気づいていても受け入れることができないように、いくら優を好きでも振り向いてくれないことくらい分かっているはずだ。そこまで馬鹿な女ではない。


それに、悟に対しての罪悪感は持っているみたいだし。俺としてはラッキーだった。


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