表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/122

第106話

「あ…」


思わず声が出た。それに反応するように一人がこちらに振り向いた。聞こえているはずないのに、なんという意思疎通。


「優!」


きらきらとした王子様スマイルで手を振る彼は私の幼馴染だった。

空の声で気づいた、もう一人の彼もこちらを向いた。西島くんである。彼は目を大きく見開いて、そしてどこか嬉しそうにした。

二人で一言二言話した後、こちらへ足を動かす。


「空と西島くんだ。何でこんな所にいるんだろ」

「....わたし、着替えてもいいかな?」

「あ、うん」


再び試着室に入った佐伯さん。


それにしても、何故あの二人がこんな所にいるんだろうか。二人が一緒にいることに対しては疑問を抱かないが、何せここは女性向けの店だ。


「藤田先輩、お久しぶりです」

「うん、久しぶり」

「あの、一緒にいたのは…」

「佐伯さんだよ。同じ中学だったんだけど、確か西島くんと面識あったよね?」

「はい。何度かお会いしたことがあります」


西島くんと佐伯さんが二人で話している場面を見たことがないからよく知らないが、私と空と西島くん、それにプラスして佐伯さんというシチュエーションは何度かあった。


「ところで、何でここにいるの?」


じろりと空を睨む。

私は空に佐伯さんと遊びに行くと伝えたが何処へ行くかは伝えていなかった。そのため、今日此処で会ったのは偶然だと思う。

それにしてもここで会うのはどうなんだ。


「あぁ、悟の妹がもうすぐ誕生日だから。女の子っぽい店があったんで入ったんだよね」

「はい。こういう所には雑貨やアクセサリーもあるからって空先輩に教えてもらって」


確かに、二人がいた場所にはアクセサリーが少し置いてあった気がする。


「それで、買えたの?」

「アクセサリーとかよく分からないんで、どうしようかと....」

「へえ、空がついてるのに」

「ちょっと、それどういう意味かな」

「普段から女をたらしこんでいる空なら、アクセサリーなんてちょちょいのちょいでしょ」

「変な言い方しないでよ。中学生とは年が離れてるから、さすがに分からないよ」


西島くんの妹は中学一年生だったか。


「最近オシャレに興味を持ち始めたようなんですけど、あんまり大人びたものも似合わないだろうと思って迷ってまして」

「うーん、私もそういうのよく分からない」


いやしかし、一人いるんだ。


「佐伯さんにも聞いてみたら?そういうの詳しそう。想像だけど」

「そ、そうですね」


西島くんも、空が今回に限って頼りないことを知ったようだ。

まあ、空は年下に興味はないようだし、中学生の好みまでは知らないよね。

こういう事は佐伯さんが頼りになるな、なんて思っていると白いワンピースを身に纏った佐伯さんが試着室から出てきた。


「優ちゃん、どうかな」

「可愛い」


即答だった。

いや、本当に可愛い。

真っ白というよりは、少し茶色の要素も入っているかもしれない。純白ではなかった。

しかし似合っている。佐伯さんらしさが出ていて、先程の服よりも断然こちらが良い。


「値段見たら、少し安くなってるようだから買っちゃう」


ふふ、と照れくさそうに笑う佐伯さんは再び試着室に戻った。

あ、そうだ。


「佐伯さん、西島くんが妹の誕生日プレゼント選ぶの手伝ってほしいって」


実際そんなことは言っていないが、助けてほしそうな表情をしていたため間違ってはいないだろう。

試着室の前で話しかけるのもどうかと思ったが、まあ、大丈夫だろう。


「いいよ」


その一言が返ってきたため、西島くんの方を見てみるとどこか安堵した様子だった。

兄からしたら妹へのプレゼントは良い物にしたいはずだ。中一というと反抗期が始まる頃だろうか。もしかしたら「お兄ちゃん嫌い」と言い出すかもしれない。プレゼント一つ買うだけでも苦労するのだろう。


試着室から出てきた佐伯さんは「先に買ってくるね」と言って会計を済ませてきた。

なんだか佐伯さんが買ってばかりだな。私も何か買った方がいいだろうか。買いたいものはないが、楽しくないのかと思われるのも嫌だ。そんな人ではない事は承知しているが気持ちの問題だ。


「佐伯さんは西島くんと話したことあるの?」


仲が良いわけではないと思うが、知り合いかな。先輩後輩の仲なのか、ただ挨拶をするだけの関係なのか。


「あるよ、何度か。ね?」

「は、はい!」


アクセサリーを前にして二人が並ぶ。

他の客もいるし邪魔にならないように私と空は少し離れることにした。


「優はあの二人がどんな関係か知らないの?」

「関係?知り合いじゃないの?」

「さあね」

「なんなの」

「まあ、あの様子だとすぐに買う物が決まりそうだな」


あの様子がどんな様子なのかは知らないが、空の言う通り、佐伯さんが少しアドバイスをすると西島くんは商品をとり、会計の方へ行ってしまった。


「はや…」

「だから言ったじゃん」

「佐伯さんのセンスが光ったのかな」

「それもあるだろうね」


佐伯さんにできないことはないと私は思っている。

西島くんは妹に良いプレゼントができたぞ、という感情を全面に出していた。可愛い後輩だと思う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ