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第103話

「あ、肉まんここだね。一個百円だってさ、安いね」

「生徒じゃなくて地域の人が売ってるかららしいよ、あそこに書いてある」


張り紙を指して空に言うと「じゃあ俺も買おうかな」と言いながら財布を取り出した。

さほど列は長くない。安いのにどうしてだろうかと考えるも、肉まんの種類が一つしかないから、という安易な理由しか思いつかなかった。


「お、兄ちゃんかっこいいね」


数分程で待ち時間も終わった。空は頭にタオルを巻いた老人に二人分のお金を渡す。


「ありがとうございます」

「最近ばあさんが韓流ドラマにハマっててよ、それに出てくる男も綺麗だが兄ちゃんも負けてないな!」

「あぁ、韓国の俳優さんは綺麗ですよね」

「いやー、兄ちゃんも負けてないぞ!それ以上かもな!!ワハハ!!ほれ、おまけでもう一個やるわ!」

「いいんですか?ありがとうございます」

「彼女と仲良くな!」


終始空に夢中だったおじいさんだったが、最後に私という存在に気付きおまけしてくれた。

空は綺麗だけどでも私のことがまったく視界に入らなかったっていうのはどうなの。隣にいたのに。慣れっこだけど。


「良かったね、もう一個貰えて。優、食べるでしょ?」

「うん」


なんだか食い意地のはっている女だと思われてそうだが、食べたいのは事実なのでありがたく頂戴する。


「あとは何買う?」

「焼き鳥」

「野菜は?」

「野菜なんて売ってないでしょ」

「考えものだよねぇ、油っこいものばっかでさ」


野菜がないだの栄養バランスだのとぶつぶつ言いながら不満をもらす空の横でしおりを見ながら足を動かす。


「焼き鳥買ったら帰ろ」

「えっ、もう?他はいいの?」

「だって欲しいもの無いし」

「から揚げは?」

「気分じゃない。っていうか、さっき油っこいものばっかとか愚痴ってたじゃん」

「帰ったらサラダ作るからね」

「はいはい」


丁度タイミングよく焼き鳥の店が見えた。

焼きそば程ではないが並んでいる。

しかしここで最後だし、並ぶくらい良しとしよう。


「焼き鳥めっちゃ良い匂いする.....俺も買おう」


購入し終えた客の手を見てみると、どうやら焼き鳥は紙コップに入っているようだった。

紙コップをそのまま鞄に突っ込むわけにはいかないため、透明のビニールに紙コップごと入れることにしよう。

ビニールやらがべとべとになりそうだが、どうせ家で食べる。簡単に処理できるだろう。

それか帰りながら食べる。


文化祭ならではの楽しそうな声があちこちから聞こえ、並んでいる中でも楽しくお喋りをしている。他校生との交流もあり、いつも以上に興奮している生徒の姿が見受けられる。


「もしかして、優ちゃん?」


楽しそうだなと最前列の方にいる男子高校生を眺めていると、私のすぐ前に並んでいた綺麗な黒髪ストレートの女性が振り向いた。

私を見て名前を呼んだということは知り合いだろう。しかし咄嗟のことで記憶から呼び起こすのに時間を要した。


「......あっ、佐伯さん?」


振り向いた彼女の顔は確かに見覚えのあるものであり、その上知り合いというカテゴリーへ置くのを躊躇うくらいには仲が良かった。姫子ちゃん程仲が良かったわけではないが、私は佐伯さんを好ましく思っている。


「わぁ、久しぶり!優ちゃんだ!」


漂うお姉さん臭は健在のようで、同い年とは思えない。

中学の頃より髪が伸び、顔も大人びているためすぐには分からなかった。


「佐伯?」


隣にいた空も認識できたようで、眉間にしわを寄せて目の前の彼女をじっと見つめている。

中学の頃も空は私と佐伯さんが仲良くすることを良く思わなかったようで、度々こんな顔をしていた気がする。


「やっぱりここの高校だったんだね!」

「そうだよ、佐伯さんは?」

「わたし引っ越したから高校はここから遠いんだよ」


佐伯さんとは中学三年の頃に知り合った。

顔はもちろん綺麗だけれど、笑った顔が一番綺麗。儚さもあり、男子も女子も彼女のことは一目置いていた。それと同時に、どこか線も引いていた。友達になるのもおこがましい気がするのだろう。そういう雰囲気を彼女は持っている。


「優ちゃん、この後用事ある?久しぶりに会えたから、お話でもしたいな」

「あ、いい…」


いいよ、と答えようとしたところへ空が割って入った。


「今日は俺と用事あるから無理」


用事という用事ではない。昼を一緒に食べるくらいだ。


「じゃあ優ちゃん、明日はどう?午後から一緒に」

「行く」


即答した。当然だ、佐伯さんは私の数少ない友達の一人なのだから。

佐伯さんはとても嬉しそうに笑ってくれた。

また連絡したいからとアドレスも登録し、焼き鳥を買うまで私も他の生徒と同じくきゃっきゃと文化祭を楽しんだ。


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