第10話
最近、若い子たちの間で流行っているSNSがある。小さなブログみたいなもので、今何をしているのかを細かく発信できるし、色んな人と繋がりを持てるということで流行しているらしい。芸能人や読者モデルなど様々な有名人もやっており、クラスメイトも9割はやっている。
私は結構前から始めていて、好きなアニメの情報などを入手できるため、オタク用のアカウントと高校生藤田優としてのアカウントの二つを持っている。
「それ、楽しいの?」
よく知らないクラスメイトにSNSでフォローされたので、フォローバックをしていると横から空が画面を覗き込んできた。
「うん、まあまあ」
「リア垢っていうんだっけ、その優のアカウント。クラスの女子とかたくさんフォローしてるやつ」
「そうだよ、メールは教えたくないけどこっちならまあいいかなと思って。オタク用のアカウントしかそんなに使わないし」
プロフィールの欄に低浮上です、と書いているし誰かが私にメッセージを送っても見ることができませんアピールをしておかなければならない。
空の知り合いがよくフォローしてくるから、それをいちいち返している。学校の情報とかもほしいし、まあ、便利だ。
空の部屋で、そのSNSを開いていると空が横からじーっと見てくる。空は昔、面倒だからやりたくない、と言っていたから今もやってないんだろう。友達から「お前、なんでやらないの?便利なのに」とよく言われるらしく、やれよとすすめられることがあるようだ。存在ややり方は知っているのだろう。
「ふうん、俺もやろうかな」
その呟きに驚いた。
「えっ、やるの?」
「うん、優もやってるし」
「面倒じゃなかったの?」
「うーん、まあそうだけど」
「空がこれやると色んな人から返信がきそう。全員に返すの絶対に面倒でしょ」
「俺、メールもロクに返信してないから、俺が返信しない奴だと皆分かってるんじゃないかな」
それもそうか。空は返信しないから言いたいことがあるなら直接言わないと取り合ってもらえない。
「で、それ何て言うアプリだっけ」
本当にやるつもりらしく、自分の携帯を持って検索をかけている。
いいの?本当に、いいの?
明日学校で女子たちが騒ぎそうだけど、いいの?
空の指は止まることなく、SNSのアカウントを作っていく。私は横で「名前って苗字だけにした?」「プロフィール画像って、どれにした?」「優のアカウント教えてよ」と言う空に返事をするだけ。
あっという間にアカウントができてしまった。
「あ、優いた。ふうん、画像とか何も設定してないんだね」
「あぁ、うん。面倒だったし」
「じゃあ俺も何もしなーい」
初期の画像なので、アカウントのトップ画像は大きな卵。その背景は灰色という、シンプルなものだ。
このSNSで繋がっている学校の子たちは自撮りや友達と撮った画像などを使用している。この場合、私たちが少数派だ。
自分が可愛くないという自覚はあるし、わざわざそれを載せたら空のファンに陰で「このブスが空くんの隣にいるの?」と言われるのが目に見えている。
顔の一部分だけを撮って載せている人も多いが、盛れたとしても「盛るの必死すぎ」と笑われるのがオチだろう。まさか自分がここまで他人の評価を気にしているとは思わなかったが、散々空と比較され続けられる人生だったのだ。今までが今までなだけに、こういう思考になるのは当然だ。
それでも一時期は何とか空に釣り合うよう見た目を努力したこともあった。私には美意識というものが欠如したため空に「短い髪が似合うよ」と言われたからセミロングからショートにしたし....そういえば、それくらしかしていない。そして今もショートヘアを保っている。空と釣り合うように、というのはただの気持ち程度にしか思っていなかったようだ。可愛くなるための行動は、ただ髪を切っただけ。私の努力は大したことないな。
「ねぇ、見て。できた」
「あぁ、良かったね」
「何か優をフォローした途端、通知が鳴りやまないや。通知オフの設定ってできるよね」
「もちろん」
空が私をフォローした途端、気づいた人たちが空をフォローしていく。ピコンピコンと音は鳴りやまない。通知をオフに設定できたのか、携帯を机の上に置き、昨日買った漫画を読む空。暇になればフォローを返しにいくのだろう、暇になれば。
「そういえば、優がさっき読んでた漫画結構面白かったよ」
「でしょ。私も当たりだと思った」
面白かった、と褒められてて嬉しい。
あれは書店に足を運んだ際、表紙に惹かれて買ったものだ。
それを面白かったと言われ、思わずニヤける。
「その漫画も負けず劣らず面白かったよ」
「へえ、期待しとこう」
空が手にしているのは、ドロドロの少女漫画。どちらかというと、少女漫画はより少年漫画を買うことが多いが、なかなか人間味が溢れている少女漫画は見ていて楽しい。特に、欲にまみれた女たちの争いなんて最高だ。ただ面白いだけでなく、最終的に辿り着く先が予期していなかったものだったりと、今回の少女漫画は当たりだった。