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水の精霊と人間のハーフです  作者: 雨粒
トリアイナ
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五話~スノーエレメンタル~

 一二月。町は雪が降り積り、本格的に冬の様相を呈していた。

 そんな折、トリアイナの三人は防具屋に来ていた。目的は革の防具を新調するためだ。

 これまで、只の村人同然の服装しかしていなかったのだ。防御力の有る鎧の一つも欲しいところだった、

 ましてや、エビルオーガの皮、サイクロプスの皮、ワイバーンの皮と鱗という上位の魔物たちの皮を使うとなれば防御力も充分。一人銀貨八〇枚で作ってもらった。

 金貨二枚と銀貨四〇枚。高い買い物ではあるが必要なものだ。因みにルーリィの持つ羽金の剣は魔剣の一種とあって、価格にして金貨五十枚はする。サイのトレントの枝を使った杖とて、売れば金貨数十枚は動く逸品だった。

 命を預ける品に金に糸目はつけないのが普通の冒険者と言えるだろう。

「へえ、表面にはワイバーンの鱗が貼り付けられてるのか」

「俺のローブは鱗の生えていた皮と腹の皮とを使った仕上がりだな。鱗の上からサイクロプスの革が張り付けてあるし、頑丈そうだ」

「思ったよりも軽いわね。鞣した革はそれなりに重いはずなのに」

「ワイバ-ンの皮は一級品ですからねぇ、軽くて丈夫なんですよ」

「へえ、そうなんですか。流石ランクAモンスターですね」

「ええ、普通のモンスターとは一線を画しています」

 店員さんが説明してくれるけれど、どれぐらいすごいのかは分からない。

「ベースは革の鎧ですが、鱗を張り付けてあるので区分としてはスケイルメイルとなります」

 そう言うと揃いのグローブを取り出して言った。

「こちらが、ワイバーンの鱗をあしらったグローブです」

 こちらは手の甲だけを鱗で覆ったものだ。

 グローブも受け取り、新しい鎧とローブ、グローブを装着して店から出た。

「折角だし、記念に依頼でも受けない?」

 シャルロットが奇妙なことを言う。

「折角ってのはどういう意味だ?」

 サイが訝しげに首を傾げる。

「鎧は魔物と戦う為のものでしょう? だったら、完成したその日に戦ったら鎧のデビューを飾れるんじゃないかと思ったんだけど…・・・」

 やっぱり要領を得ない説明にかぶせて、「せっかく作ったんだから戦わなきゃ」などと言っている。全く分からないが別に構わないので、「分かった、じゃあ、何か討伐系の仕事を受け負おうか」と言った。

「やったー、流石ルーリィ、分かってるねぇ」

 等と言われたが、ルーリィは全く分かってはいないのだが。言わぬが花かだった。

 シャルロットにしてはひどく子供っぽい態度を取っているが、なぜだろう? と考えたらルーリィは思い当たった。新しいおもちゃを買ってもらった子ども。そんな表現が今の状態とぴったり当てはまっている。

 少し口元がほころぶ。絶対に言えないが、子どもの様で可愛らしい。

 そう思うルーリィ。 

ともあれ、ギルドに向かうトリアイナの三人だった。



 ギルドに入ると何やら騒がしかった。どうやら珍しいモンスターを仕留めて、そのモンスターの肉を大盤振る舞いしている様だった。

 そのモンスターの名前は雪マグロ。冬にしか姿を現さない貴重なモンスターらしい。何でも、空を泳いでいるそうだ。今回は運よく低空飛行している個体を見つけて、二匹ばかり仕留めたそうだ。

 ルーリィ達も御相伴に与り、その美味さにこの騒ぎようは然るべきものだと納得した。

 それはともかくとして、壁際に貼られている依頼書に何か良いものは無いかな、と物色しようとした所で、いつの間にか近くに居たアイナに問いかけられた。

「皆さん、依頼をお探しでしたらギルドからの指名依頼があるのですが、如何ですか?」

「依頼、ですか。どんなものですか?」

「また森の生態調査なのですが、スノーエレメンタルという魔物が居るかどうか見てきていただきたいのです」

「成程。存在を確認するだけでいいのですか?」

「いえ、出来れば仕留めてきていただきたいのです。スノーエレメンタルが居ると、周辺一帯を猛吹雪で覆ってしまう特性を持っていまして。そうなると流通が絶えてしまうのです」

「そうですか。二人ともどう思う? 僕は受けても良いかなって思ってるんだけど」

「俺も構わないぜ、エレメンタル系との戦闘を経験しておきたいしな」

「わたしもいいよ。スノーエレメンタルか、どんな魔物なんだろう?」

「外観は六角形の結晶体ですが、人と同じくらいの大きさがありますね」

「へえ。生き物の形をしている訳じゃないのね?」

「ええ、そう聞いております」

「じゃあ取り合えず、依頼を受けるとして、ってランクBの魔物なんですね。そのスノーエレメンタル」

「ええ、ですからトリアイナの皆さんが適任だと思いまして。 

依頼書に目を通してからサインするルーリィ。

「さて、じゃあ早速行こうか」

「「おー」」


 という訳で森へ到着。通常三十分の片道を、雪の為に四十分程掛けて森に辿り着いた。さっそくソナーエコーの魔術でサイとシャルロットが、周囲を探索しながらの道のりだったが意外と早く発見できた。

 スノーエレメンタルはただ宙にふよふよと漂うだけで、特に何かをしている訳じゃあなさそうっだった。

 ところが、間合いまであと数十センチという所で、スノーエレメンタルが縦回転で回り始める。車輪の様に旋回しながら飛んでくるスノーエレメンタル。とっさに避けたが、そのスピードはかなりのものだった。

「成程な、ランクBの魔物の本領発揮って訳だ。だが甘いぜ、魔力撃!!」

 サイが自分に向かって突進してくるスノーエレメンタルにカウンターを放った。スノーエレメンタルは吹き飛び、吹き飛んだ先に居たシャルロットに――

「クロスエッジ!」

 新しく覚えたばかりの技を見舞われた。

 更に吹き飛ばされるスノーエレメンタル。

 いい加減に仕留めてやった方が慈悲なのではないかと思い、一刀両断にした。

「次元斬」

 放たれた一振りは空間ごとスノーエレメンタルを両断する。

 一撃で方を付けてやった。すると、スノーエレメンタルが淡い光となって消えていく。最後に残ったのは半透明な水色をした雪の結晶を象った核の様なものと、大きめの魔石だった。

「何だろう、この雪の結晶みたいなの」

 そう言って手の平サイズのそれを拾い上げるルーリィ。

「核か何かじゃねーか?」

「そうね。形もそっくりだし」

「そうかな? まあどっちにしろ持って帰る訳だけど」

 言いつつアイテムボックスに放り込むルーリィ。

「それで、どーする? 来る途中で見た感じだと、ゴブリンが百匹近くに増えてるしアイアンウルフの方も二十匹以上になってたし、間引いた方がいいんじゃないか?」

「そうだね。ゴブリンを七十匹、アイアンウルフを十匹ほど間引こうか」

「じゃあ、もう一仕事ね」

「そうなるね。索敵は任せたよ」

「おう」

「うん」

 程無くして見つけた十二匹頬のゴブリンを倒し、また別のゴブリンを二十匹程倒し、またゴブリンを見つけ、とやっていたらあっという間に七十匹を越えていた。

 今度は、アイアンウルフを探し、二十数匹の群れを発見した。

「オーラスラスト」

「アイスアロー」

「疾風突」

 アイアンウルフは斬撃に強い耐性を持っているので突き技が主な攻撃手段になる。ランクCのアイアンウルフは倒しづらいというのが一般的な認識である。

 ただ、ルーリィたちが突き技を主体に戦っているのは、毛皮を傷めない為であり、上手く眉間を突いたり、毛並みに沿って掻っ捌いたりしている。

 群れの被害が八匹に達した所で、撤退を始めたアイアンウルフを追いかけ更に二匹仕留めたところで追うのをやめる。

 予定通り十匹倒した所で、剥ぎ取りを始めた。



「行って来ました」

 なんでもないことのように言っているが結構な仕事をした後だった。

「いかがでした? スノーエレメンタルは居ましたか?」

 内心、この軽さなら、いなかったのだろうと検討を付けていたのだが、アイナの目利きは間違っていた。

 「いましたよ、スノーエレメンタル。あと、ゴブリンが百匹を越えていたので三十匹くらいになる様に間引いてきました。アイアンウルフも二十匹居たので十匹程間引いてきました」

「へ?」

「倒した後にこんなものを残していったんですけど、なんですかね、これ?」

 と、アイテムボックスから手の平サイズの雪の結晶のような形をしている水色のそれは、ギルドの照明をうけ輝いた。

「あら、珍しい。それは、食べると氷雪系の技や魔術に耐性ができるアイテムですね。美味しいらしいですよ?」

「え、食べ物なんですか、これ?」

「ええ、一つでも結構な耐性がつくらしいですよ」

 ルーリィは暫し考え込んだあと述べた。

「シャル、これは君が食べてくれ」

「え、私? 良いの?」

「ああ。ね、サイ」

「ああ、至極当然な流れだな」

「じゃあ、いただきます。 あ、サクサクしてる、甘くて美味しい」

「ホントに美味しいんだ?」

「うん、温度の無いシャーベットみたい」

「「「へー」」」

 ルーリィ、サイ、アイナの声がハモる。

「あ、これがスノーエレメンタルの魔石とアイアンウルフの毛皮です」

 ルーリィが取り出した毛皮を見て思わずと言った様に。

「相変わらず綺麗に剥ぎ取りますね」

 と言った。

「剥ぎ取りなんかは小さいうちから仕込まれていたので」

「これなら最上級品質なので一つ千マール。十枚で一万マールだしますね。魔石の方は一万二千マールといった所でしょうか」

 加えて、七十匹のゴブリンの討伐報酬が、銀貨二枚に銅貨四十枚 

本日の稼ぎは、二万二千二百四十マール。金貨二枚と銀貨二十二枚に銅貨四十枚となった。

 財布の中身は既に十万マール、金貨十枚以上の余裕がある。

 これなら別に依頼を受けなくても冬をこせるだけの蓄えがあった。

 ――のだが。

「そう言えば、この近辺に賞金首モンスターが来ているらしいですね」

 というアイナの一言でトリアイナの三人が動きを止めた。

「その情報、もう少し詳しくお願いします」

 一発で食い付いた。

「は、はい。ええと――」

 胴体にある十字傷が目印のお尋ね者のケルピー。何でも、Dランクパーティーが一人を残して全滅したらしい。金貨二枚というランクCモンスターにしては高額な賞金が魅力だった。

「良し、明日はケルピー退治だ」

「賞金首ですか、何でかな? わくわくしてきた」

「俺もだ。そのケルピー、俺たちが仕留めてやる」

「だね。僕もわくわくしてきた」

「皆さん食いつきが良いですね。賞金首モンスターにやられでもしたんですか?」

「いえ、元々春が来たら賞金首モンスターを狩る旅に出ようと思っていたのです」

「え、そうなんですか?」

 三人が同時に頷く。

「そうですか・・・・・・」

 これはバーソンの町の冒険者ギルドも戦力低下は免れないな、と考えていた。

 それはさて置き。

「すみませんが人混みで混雑してきたので、他に何もなければ後ろに居る方に席をお譲り下さい」

 と言われて後ろを見れば、長蛇の列をなしていた。


「っこれは失礼。直ぐに帰ります」


 そう言って三人は即座に席を立ち、帰路へと着いた。

 明日はケルピー狩りだ。と意気込みながら。

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