四話~ギルドの力~
ルーリィ達がギルド併設の酒場で談笑しながら昼間っから酒を飲んでいた。普通の食堂でも、昼間から酒を出す店が無いわけでもないのが探すのが億劫でここにした。
普通のバーでは開店するには早すぎる。
消去法と手軽さで決めたが酒も料理やつまみも、中々どうして美味いものだった。
サイクロプスの肉の一部を切り分け、ステーキにしてもらったのだが。その際、ナイフの切味に驚いた顔をされると、第三十九号開拓村の、熟年のドワーフの作だというと納得してもらえた。
ルーリィ達三人に、五歳の誕生日の祝いとして贈られたものだ。剥ぎ取りは五歳の頃から十年やってきている。三人とも、プロの猟師もかくやという程に上達していた。
「あの、皆さん。少々宜しいでしょうか?」
食事も終わり、酒を片手に談笑していたそんな時、アイナから声を掛けられた。
「どうしましたアイナさん? 依頼書なんか抱えて」
恐らく依頼の話話だろうと思いつつも水を向ける。
「はい、お三方にギルドからの指名依頼が出ておりまして」
三人は「やっぱりか」と思いながら、話を聞く体勢になった。
「実は、山脈の方で何が起きているのかをしらべて来てほしいのです」
サイクロプスもアイアンウルフも山脈の向こう側から来た。もしかしたらエビルオーガも。何かあると思うのはその通りで、引き続き調査を依頼したいらしかった。
「分かりました。幸い酒の飲酒量もこの一杯だけですし、直ぐに向かいましょう」
「トリアイナの皆さんは仕事が早くて助かります。これ、依頼書です」
契約書にサインをし、依頼を受ける。
「さて、それじゃあ行こうか」
「「了解」」
それから三十分後。森の前にいるトリアイナの三人――ルーリィ、サイ、シャルロット――が早速気配を消して森に入る。
気配を消すことは幼少から第三十九号開拓村近くの森でやっており、七歳から狩りにも参加している。弓の扱いは三人とも狩りのプロ(シャルロットの父親)が仕込んだだけあって本職も顔負けの腕前となっている。
今でこそ、サイとルーリィの弓矢はルーリィのアイテムボックスで肥しになっているが、森の歩き方や罠の仕掛け方なども教わったものだった。
「とりあえず、森を真っ直ぐ突き抜けたら警戒しながら山の方へと行こう」
サイとシャルロットが頷いたのを確認し。森に入る。
「相変わらず、虫の音一つ聞こえないな」
「そうだね。モンスターの気配もこの間のアイアンウルフのモノらしきものしかないしね」
「蛇なんかも居ないし蝶だっていないね」
「蛇なんかは冬眠してるんじゃないか?」
「それもそっか」
などと談笑しながら一時間と少しで森を抜ける。そのまま山の端に行って。
「さて、気合入れないとね。気配は完全に殺して覗き見るよ?」
「ああ」
「ええ」
恐る恐る覗いてみると、まず最初に森が見えた。
だがその森は様子がおかしかった。つぎの瞬間――
バサッバサッと羽音がしてワイバーンが森から飛び立った。それも番なのか二匹連れだって海の方へ。
鑑定で見てみる。
<ワイバーン>
LV30 LV32
ガサガサと音がして遠くの茂みからドレイクが三匹出て来た。
<ドレイク>
LV28 LV29
<レッドドレイク>
LV30
「っ!」
何も言わず下がるル―リィに、意図を汲んだ二人も何にも言わずにその場を離れる。
森の近くまで来てから漸く人心地ついた。
「あ、あれ・・・・・・やばいんじゃないか?」
「やばいね、確実に」
「向こうの得物が居なくなったら間違いなくこっちに来ると思う。未開地の奥から来たんでしょうね」
三人が三人とも危機感知能力を最大限に働かせた先程の光景。これは一刻も早くバーソンの町に知らせねばと駆け足でさっき通った道を逆に駆けていく。
「何ですって!? ワイバーンとドレイクが!?」
「ええ、こちらに来るのも時間の問題でしょう。早急に何とかしなくては」
「一先ず依頼お疲れ様でした。こちらは依頼料の金貨一枚です。よくぞ一人も欠けることなくこの情報を持ち帰ってくださいました」
言うや否や奥に引っ込み、ギルド長! 大変です! という声を響かせながら奥の部屋に入っていったと思ったら、直ぐに出て来た。「ルーリィ! ルーリィはまだおるか!?」
血相を変えてギルドマスターが出てきて叫ぶ。焦燥感で視野が狭くなっているようで、きょろきょろしている。
「こっちですよギルドマスター」
軽く手をあげ声を掛けると。
「よし、直ぐについて来い。最初から最後まで通して説明せい!」
「はあ、分かりました」
十分弱使って山脈の裏っ側が恐ろしいことになっているのを説明する。
「なんということじゃ・・・・・・」
ギルド長が長い溜息をついた。若干哀愁漂うその様子に言葉も無いルーリィ達。
「アイナ、事情を説明してコヨンに斥候役を依頼してくれ、報酬は一日につき金貨一枚じゃ。それから緊急クエストの発令じゃ、Dランク以上の冒険者は強制さんかじゃ!」
「分かりました」
一緒に話を聞いていたアイナさんが顔を青くして退室していった。
「お主等はその時が来るまで英気を養ってくれるかのう?」
「「「わかりました」」」
ギルド長の執務室から出ていく三人。それを見ながら、内心では舌を巻いていた。閉まるドアを見ながら三人の様子を思い返してみる。
ワイバーンが二匹でドレイクが三匹。ランクAの冒険者が少ないバーソンの町にとって絶対絶命ともいえる。だというのに、緊張はしていても誰一人恐怖を感じた様子がなかったのだ。
第三十九号開拓村。人の住んでいる場所の中で辺境に一番近い村。そこから来た若者たちに、頼もしさと同時に奇妙さを感じさせる存在達だった。
それから三日後、ランクA冒険者の斥候役コヨンさんが定期的に山まで行って確認しているのだが、今の所動きは無かった。
代わりと言っては失礼だが、ランクAパーティーが六組、商隊護衛でバーソンの村に来ていた。これで、元々バーソンの町を拠点にしている二組と合わせれば八パーティーとなった。
結果、三日で集まったのは二百人余り。そのうちAランクパーティーは八パーティー四六人余りだった。続いてBランクは十一パーティー五十三人。Cランクが八パーティー四七人、Dランクが九パーティー六十一となっている。
Aランクパーティーが八パーティーも揃った為ギルド側も一安心だった。
ワイバーンとドレイクを発見して四日目、遂に動きがあった。
ズドドドドという音と共にドレイクが土煙をあげながら町に迫り、ワイバーンの姿も遠くの空から発見された。
直ぐに緊急招集された冒険者たち。衛士や騎士たちは町の守りを固めている。
西門から出て陣形を整える冒険者たち。そこに先陣をきったのはワイバーンで、その口から発せられる火炎放射とでも言える程の炎。
「来たぞーっ」
しかし百人余りの人間が唱えたエアカーテンの魔術が、その炎を、組んだ陣形の外まで流していった。
「先頭はレッドドレイクか、相手にとって不足無し!」
「おいおい、他のパーティーどころか同じパーティーの仲間も無視かよ」
「そうだぜ、まずは俺たちが壁になってあの突進を止めてやる」
「『鉄壁』のエアガイルさんが言うんだ、黙って待ってりゃいいんだ。動きを止めたら一気に行くぞっ」
「「「おう」」」
Aランクパーティーの面々が素材は山分けだぞなどと既に倒した後の事を話している。Bランク以下の面々にとっては頼もしい限りだった。
「「「ふぶけ氷雪、わが魔力を糧に吹き荒れろ、ブリザード!」」」
十人が同時に唱えたブリザードは効果覿面だった。本当なら勢いを殺すことが目的だったのに、ブリーザードだけで足を止めてしまった。
見た目がデカくて格好いいトカゲだし、変温動物なのかな。などと思いながら高みの見物をしているルーリィだったが。ワイバーンは健在だ。何とかしなくてはいけない。
「よし、やるか二人共!」
「オーケイリーダー。あの空飛ぶトカゲもどきを叩き落としてやるよ」
「私も、首狙ってみるね」
折よく、こっちに近づいてきたワイバーンを的に選ぶ。
「三連射」
ヒュヒュヒュっ、ドドドッ。
「グガア!?」
シャルロットの矢が一瞬で三本、ワイバーンの首にに突き刺さる。
更に、
「鋭き風、駆け抜けて刃となれ、ウィンドカッター」
サイの、スキルによって強化された魔術で左の翼が断ち切られた。
「ギャオウっ」
ワイバーンが急に速度を落として倒れて来た。
「ぐるうるる」
唸るワイバーンに素早く駆け寄って首を斬る。
「次元斬!」
このスキルは空間ごと対象を切断するという防御も不可能な技だった為、硬い鱗も弾いたりできずに綺麗に首を断ち切れた。その分、消費魔力は多めとなっている。オーラスラッシュ三発分ぐらいだろうか。
ともあれ、一匹は倒した。あともう一匹だ。
と思ったらAランクパーティーの一人がワイバーンに魔術を放った。
「逆巻く風よ、数多の刃となりて切り刻め、サイクロンエッジ!」
竜巻の様な風の刃を幾つも纏った魔術は見事に命中。ワイバーンの翼を斬り裂いた。そのまま組んでいた陣形の横に落下した。
「後は好きにしていいぞっ!」
ウオオォォ、と上がる歓声。後ろに居たランクCやランクDといった低ランクの冒険者たちが沸いた。
反面、Bランクの冒険者は先頭のドレイクと後ろのワイバーンにと二分された。
それでも問題なく討伐は進み、遂にドレイクの最後の一匹を倒した。
ドレイクの方も炎を吐いたり暴れまわりと中々の混戦具合だった。しかし、流石はAランク冒険者。危なげなくドレイク三匹を討伐した。
方がついてからは大人数での解体となっているが、ルーリィ達の落としたワイバーンは他の者がはぎ取る事は無かった。
これは、完全に三人で仕留めたものとして余計な手出しは無用だとAランクの冒険者が言ったためだ。その上で、ルーリィ達が解体を手伝ってくれというのであれば、手伝うといい。と言ったからだ。
だがそこは心配無用、と念を押して三人で剥ぎ取りをやる旨を伝えた。
どうせすぐに音を上げるだろうと思った大半の冒険者たちが近くで待っていたのだが、音を上げるどころか手際よく解体を進めるルーリィたちを驚愕の表情で見ていた。
「ルー、これアイテムボックスに頼む」
と言ってサイが取り出したのは大きな魔石と肝臓。ウォーターの魔術で血を洗い流されたそれを手渡してくる。
「分かった。位相の門よ開け、アイテムボックス」
大ぶりな魔石と肝臓はアイテムボックスに放り込んで更に解体していく。
結局ドレイクの剥ぎ取りが終わる前に解体作業は終了し、ワイバーンを丸々一頭アイテムボックスに入っている筈なのだが、そんなそぶりは一切見せない底なしのアイテムボックスを持つ男として有名になるのはこの少し後の話。
◆
名前:ルーリィ・グルブ
種族:人間と精霊とのハーフ 性別:男性 年齢:15 LV26
称号:湖の麗人の子
特殊:水体化 雷属性無効化 無詠唱魔術行使
常時型スキル
身体能力強化LV5 保有魔力増加LV3
発動型スキル
魔力制御LV4 オーラスラッシュLV4 フライングオーラスラッシュLV2
オーラスラストLV3 雷迅閃LV1 次元斬LV1 鑑定LV1 疾風突LV1(新)
魔法
ヒーリングライトLV4 アンチドートLV10 ライティングLV2 ティンダーLV3 ウォーターLV2 ファイアボールLV2 アイスブリットLV2 アイテムボックスLV4 エナジードレインLV1 フレイムランスLV1(新)アイスランスLV1(新) ピュリファイLV1(新)
◆
名前:サイ・コッツ
種族;人間 性別:男性 年齢:14 LV25
称号:無し
特殊:無し
常時型スキル
身体能力強化LV2 魔法威力向上LV4
発動型スキル
魔力制御LV4 魔力撃LV3 鑑定LV3 トライエッジLV1(新)
魔法
ライティングLV2 クレアボヤンスLV3 ソナーエコーLV2 ファイアアローLV3 フリーズアローLV3 ウィンドカッターLV2 ファイアボールLV2 アイスブリットLV2 エクスプロージョンLV1 サイクロンLV1(新) インプロ―ジョンLV1(新) ピュリファイLV1(新)
◆
名前:シャルロット・ベイカー
種族:人間 性別:女性 年齢:14 LV27
称号:美人姉妹の妹の方
特殊:回復魔法強化
常時型スキル
身体能力強化LV3 鷹の目LV2
発動型スキル
オーラスラッシュLV2 オーラスラストLV2 三連射LV3 アローレインLV2 速射LV1(新)クロスエッジLV1(新)
魔法
ライティングLV1 ヒーリングライトLV3 アンチドートLV2 ウィスパーボイスLV3 ソナーエコーLV3 ファイアアローLV2 アイスアローLV2 アイスブリットLV3 アースウォールLV3 ファイアウォールLV1(新)フレイムランスLV1(新) アイスランスLV1(新)