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水の精霊と人間のハーフです  作者: 雨粒
トリアイナ
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プロローグ

チラシ裏第二弾

 夜の帳が落ちる中目出度い、こいつは目出度い! と騒いでいる。

 やれ的当てだ、やれ酒だのと騒いでいる。

 そう、今日は目出度い目出度い成人の儀式成功の宴。

 ここ、第39番開拓村の大賑わいな理由だ。

「酒持ってこーい! いやぁっはあああ」

 新たに成人となった三人を囲むように。宴は広まっている。

「ルーリィ、お前Aホーンスネークを倒したってのはホントなのか?」

 と、元傭兵のオールドウフのおっちゃんが言う。

 その問いにルーリィと呼ばれた赤い髪を短く刈り込んでいる碧眼の若者は。

「ああ、倒したよ。何せホーンスネークの最大の攻撃は、父さん譲りのスキルを持つ俺には通用しないからね。あっちでかば焼きにしてるよ、中々美味しかった」

 誇らしげに自分の産まれを誇示するように言った

「ああ、そうだったな。そういえばシャルロットも両親の血を色濃く引いてるよな」

「そうだね、シャルは間違いなくあの二人の子どもだよ」

「ふふふ、ありがとうございます。でも血筋の話とかしちゃったらサイが拗ねちゃいますよ?」

 シャルロットと呼ばれた金の髪をショートヘアにした赤い目の少女が、もう一人の主役へと目を向ける。

「別に拗ねてなんていねぇよ。ホントの事だしな。特に大した言われも無い只のフツーの一家だしな」

「そうは言っても、あの若さでランクA冒険者にまでなっていたんだろう? Sランクまでいけたんじゃないかって村中の評判だぞ」

 と、ルーリィ。

「噂は噂だ。実際にどうだったかは分からんと思うけどな」

 と、サイ

 この二人、初めて会った時は互いを嫌い会ってたものの、ほんの一月程度でもう親友と言ってもいい中になっていた。

「けどよう、サイんとこの両親、逆算したら二十歳そこそこでランクAだぜ。やっぱ尋常じゃないって」

 「まあ、そうかもしんねーけど。どうなんだろうな? その手の話って話題に上げても何も教えてくれねーんだよな」

「まあ、自分の子どもに昔話ってのも、確かに気恥ずかしいもんじゃないか?」

 とおっちゃん。

「なんだ、なら近所の子どもになら話してくれるかもしれないじゃない」

 するとシャルロットが名案とばかりに席を立とうとする。が――

「待てよシャル。何か深い理由でもあったのかもしれないだろ? 悪戯に首を突っ込んでいい話じゃないかも知れないだろ」

 ルーリィの一言で待ったが掛かった。

「そうだな、あまりあいつらの事は変に勘ぐらないでやってほしい」

「ジャックさん・・・・・・」

「父さん? どうしたのさ、長老まで一緒になって」

 オールドウフからはジャックさんと、ルーリィからは父さんと呼ばれた男は長剣が二本、弓矢が一組をその手に持っている。

「ルーリイ、成人おめでとう。これが祝いの長剣だ」

 ルーリィが目を輝かせて剣を受け取る。

「ありがとう父さん! 大事にするよ!」

「おう、その剣はゴンツさんが腕によりをかけて鍛え上げた逸品だ。大事に使え」

 ゴンツさんとは村で唯一のドワーフの鍛冶師だ。

「シャルロット嬢ちゃんには両親からのお古だ。中古だと侮るなかれ、売りに出せば金貨が動くこれまた逸品ぞろいだぜ? 両親からは照れくさいので代わりに渡してくれと頼まれたけどな」

 そう言って弓と矢筒に入った矢とロングソードを渡した。

「サイや」

「なんだい長老? 改まって」

「お主にはこのトレントの枝で作られた魔法杖じゃ。言うまでも無いが逸品じゃぞ」

「と、トレントの枝・・・・・・」

 紛れも無い貴重品だった。因みにルーリィの腰にさしてある木剣もトレントの枝であり、ルーリィが3歳の時に送られたものである。ルーリィの成長に合わせて長くなったり太くなったりしてきた。今じゃクレイモア以上の大きさの大剣になっていた。勿論、トレントの枝であるから魔術の発動や制御に補正がかかる。

「この杖、・・・・・・長老が?」

「いんや。儂は只渡しておいてくれと頼まれただけじゃ。面と向かっては恥ずかしいそうじゃ」

「そっか、父さんと母さんが・・・・・・」

「やったなサイ! これでお前も一人前の魔術師だっ」

 ルーリィがはやし立てると周囲の大人たちが歓声を上げた。

「出発までまだ優に三ヵ月。それまでに魔力を通して馴染ませるぜ」

 サイが豪語する。

「それは俺もそうだな。折角の名剣と言っても使い手の魔力やモンスターの血を吸わせないとな。成長していかない」

 ルーリィが毅然とした様子で呟く。

「その点、うちは剣も弓矢もお古だから、既に血と魔力が沁み込んでいるものね」

シャルロットが嬉しそうに言う。

「その分新しく魔力を馴染ませていかなきゃならね-けどな」

 サイが言う通り、幾ら親子と言っても魔力の質も微妙に違う。馴染ませるのは大変だろう。

「その辺りは追々で一つ」

 言って顔をそむけるシャルロット。肩口で切りそろえた髪がなびいた。

「さて、そろそろ僕らは眠るとしようか」

 そう言ってルーリィが立ち上がると二人もそれに習う。

「それじゃあおっちゃん、お休み」

「ああお休み。今日は三人とも疲れただろう、ゆっくり休みな」


「いよいよ独り立ちか。寂しくなるな」

「なぁに、まだあと三ヶ月間あるんだ。旅立ちの前には多少の言葉も交わせるだろうさ」

 成人の儀はその年に15になる子たちを、近くの森にまで行かせて魔物を狩ってこさせる。というものだ。

 今年は三人、ルーリィ、サイ、シャルロット。普通は森の浅い所を探して、ゴブリンやコボルドでも狩って戻ってくるのが普通だ。

 だがしかし、今年の子たちは冒険者を目指す精鋭となっている。森の中腹で其々に相手を見つけて倒してしまった。

 シャルロットはエンプーサと言う魔物を、サイはヘルハウンドという犬型の魔物を、ルーリィはホーンスネークという角の生えた、人間の胴まわりと同じくらいの太さの蛇型のモンスターをそれぞれ単独で撃破している。

 この村の中では、それだけで成人扱いだ。だが、この村の外に出ればそれは関係無い。実際に、産まれてから十五年経ったかどうかだけで成人かどうかが決められる。

 ならば、全員が成人するまで待って、それから冒険者ギルドに登録しよう。という結論に至ったらしく、今日、六月十二日はルーリィの誕生日だ。

 一番早く十五歳になる子に合わせて成人の儀が執り行われる。サイの誕生日は八月七日であり、シャルロットは九月十七日だ。

 なので、別れの時まで後三ヶ月ある。

 そう、彼らが新しい武器に慣れるまでの時間でもある。




 来る九月十七日の前日、旅の門出を祝って村人総出で宴会を開いた。その結果、深酒しすぎて三人ともが二日酔い。出発は一日延びるのだった。


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