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僕の愛しいモンスター

作者: ちはや

満月は不思議な力を生み出す。

普段影に潜むように生きている人ならざるものには強い恩恵を与え

人に対しては、それなりの恩恵を与える。


20mもある巨大な大木を持つ家。

まだ、新しく大きさも小さい。

しかし住人にとっては十分な広さだったし、

彼らにとって重要なのは、神木と呼ばれていたこの大樹にあるのだ。



木の上には良く似た顔立ちの二人が木の枝に座っていた。

20代前半を思わせる美しく長い白髪と水色の瞳の女性。

その女性は、自分と良く似た色合い顔立ちの少年を腕に抱きしめていた。

少年は、うとうとと舟をこいでいる。


『薫君、もう布団に入りなさい』

「やだ、母さんともっと一緒にいる」


空気の振動が発生しない、少年の脳裏に直接響く音。

彼女の声は息子にしか聞こえない。


半分寝ぼけた少年は、母親に抱き着いた。

少年の名は、渡里わたり かおると言う。

10歳で最近小学5年生になったばかりだ。

寝ぼけているとはいえ、

美しい20代前半の女性を母と呼び抱き着くと言う行為は年相応ではないだろう。



仕方ないとばかりに寝ぼけた少年を抱きかかえ木の上からフワリと飛び降りる。

家の屋根に降り立ち窓を出入り口としてつかい少年をベッドに寝かせる。

常にふわふわと浮いている状態の少年の母は、明らかな人外である。


我が子を寝かせ再び木の上に戻る母

まだ肌寒い時期にも関わらず、服を脱ぎ全裸となり月の明かりを全身で受け止めた。

無数の蛍が身体に集まったかのように、淡い光が女性の身体に集まり吸収されていた。

人に見られたなら、騒ぎとなるだろう。

しかし、彼女の姿を視認できるのは、今のところ息子である薫だけなのだ。




日課にしている植物・動物の世話のため、薫の朝は早い。


『優しく心を込めて世話をすれば、

動物も植物も味方になってくれるわ』


そう彼の母は語る。

薫とその母が、にこやかに話しながら世話にいそしむ。




「よぉ、流石オカマだけあって、趣味もババァ臭いな」


母親似の女っぽい顔立ちをからかうようにクラスメイトが、声をかけてきた。

母親が大切な息子をバカにされ睨むが、見えていないため効果はない。

母親はスッと立りあがり、ふわふわと薫の傍を離れた。


『我慢しておいてね

 母さんが何とかしてあげるから』


と言う言葉を残して……。

まだ早い時間であるが、サッカークラブの朝練のために登校しているのだ。

練習時間がくれば去っていくだろうと、薫は見えないかのように無視を決め込んだ。


「両親が居ないだけあって、友達の作り方も知らないんだな。

植物が友達って可哀想!」


正確にいうならば、人間の父は世間に認識され存在されている。

考古学の教授としてテレビにも出たことがあり、世間では知識人として認識されている人物だ。

1つ欠点を述べるなら、一か所に定住しないと言う事だろう。

薫は、ご近所の皆さまの温かな恩恵と、

息子にしか見えない母の愛に包まれ日常に何不自由ない生活を送っているのだ。


「挨拶の仕方もしらないなんて、やっぱ劣等民だなぁ~

 やっぱ親無し劣等民!」


彼らの会話の何処が挨拶なのだろう??

と微かに首を傾げた。


「コイツの家って、お化け屋敷なんだぜ~」


「友達はお花です~って言ってみなよ

 僕は、花精人かせいじんです。

 皆 仲良くしてくださ~~いって土下座しろよ!」


一人が楽しそうにし、それに対して反抗が無ければ徐々に人が増える。

薫の身体能力は一般の同年代の子供達よりもかなり高い。

それを知ってか、クラスメイトは言葉の暴力のみに集中する。



かつて

箒を使って殴りかかる、サッカーボールをぶつける等の行動を行ったが、

棒状のものを力任せに振り回せば、他の者たちと同士討ちになったり、バランスを崩して転んでいるうちに逃げられた。

それでケガをし教師に訴えかけても、薫の責任にすることは難しく、お互いが顔を見合わせ仕方なく全員仲良く保健室へと行った。

サッカーボールをぶつけようとした際にも、見事よけられた。

ボールの軌道がそれ在席中の校長室にボールが舞い込み、見事にお説教されることになった。


それらが積もり積もった逆恨みで、薫への攻撃は止まることは無かった。


そしてそれらを増長するのは、担任教師である。

人は生きるにあたってストレスは必ず発生する。

その処理としての生贄に選ばれたのは薫である。

現状の薫は、小学5年生にして両親不在の古い一戸建てで一人暮らしをしている。

彼に何かをしても怒るべき親がいないと認識されている。

そして薫の忙しい父親に迷惑をかけてはいけないと言うその思いが利用されているのだ。


それでも、父親のかつての担任でる校長は薫の強い味方だ。

きっと今の状況を知れば、涙ながらの謝罪と共に対処してくれるだろう。

が、それはそれでまた怒りが怒りを生む状態となるのが難しいところである。


母親に大人しくしているように言われ、花の世話に熱中している脳裏は冷静である。


イジメも楽しそうに行えば、祭りの賑わいとなる。

楽しそうな声を聞きつけてきたサッカークラブ所属の下級生達。

先輩を真似るように、それが正義だと言わんばかりに棒を振り回し踊りだす始末。


それに対して、嫌そうに薫が顔を歪めれば、効果的とばかりに高学年も一緒になって踊りだす。



「かせいじん かせいじん 星にかえれ~~~」

「宇宙人に触ると、病気になるぞ~~~!」


薫の周りを、カゴメカゴメの童謡遊びのように周る子供達。

登校の途中で拾った木の枝を、特別な聖剣のように振り回し踊る子供達。

子供達には遠慮がない。

何しろ彼らにとって相手は悪役なのだから。


木の棒を思いきり振り下ろそうとした瞬間。

それは、もともと土塊であったようにバラバラになり崩れ去った。


『薫君

 反撃していいわよ』




「アレ?大丈夫?普通木がそんな風になるなんてことないよね。

 変な菌がついていたんじゃないの?

 ボロボロに崩れてしまう菌がさ

 大丈夫?その菌素手で触ったんだよね?

 君もボロボロに崩れる前に病院言った方が良くない?」


薫が真剣に心配しているかのように言う。

こんな手口は、小さな子供にしか通用しないだろう。

内心苦笑いをしつつ続けた。


「ねぇ、君たちは大丈夫?

 かゆくなっていない?

 皮膚、ボロボロになっていない?」


ここ数日の乾燥した天気と花粉。

肌が、かさつきかゆくなる要素は十分なのだ。

そこに思い込みと言うインクを荒波だった心に落とし込まれれば、パッと広がり思い込みが拍車をつくた。


「ぎゃ~~~~~~」


棒を手にしていた下級生が怪獣の雄たけびのような声で泣き出す。

そんなバカなと余裕の顔を見せていた上級生。


「うわぁああああ」


キーパーをしている子の手袋が、ボロボロと崩れている。

原因は薫の母にある。

薫の母は、蚕に良く似た性質を持つものだと言う。

蚕は糸を吐く。

薫の母は、糸を生み出す。

その人は時に攻撃的に、全てを切り刻むのだ。


「ど…どうしよう……」


顔色が白く青く変わる。


「触るな!!」


こうなると大混乱だ。


「訓練を始めるぞ~~~~!」


サッカークラブのコーチが子供達を呼びに来た。

コーチに泣きながら駆け寄る子供達。


「な……なんだ、どうしたんだ」


と慌てたうえで、視線を薫へと向けた。

薫の傍の母が、ソッと薫に耳打ちをする。


「うん……、

 僕の周りを狂い踊りだしたかと思うと、突然に泣き出したんですよ。

 興奮状態になって混乱でもしているのではないでしょうか?」


病気云々の話を冷静に説明できるものは、もはやいなかった。

結局、イジメに参加していた生徒達は保健室に収容される。

後は、親のお迎え待ちとなっていた。





薫は職員室に呼び出される事となった。

担任は脅すように薫を見下ろし、低く怖がらせるかのような声を出す。


「お前、人を腐らせるバイキンを下級生につけたんだって?」


普通なら冗談だと判断つくだろうが、なぜか教師は真面目に尋ねた。

薫の母が、息子をバイキン扱いされご立腹だ。

ガシャン!

と言う音と共に、目の前の教師のために準備された珈琲をテーブルから落とした。

丁度、教師の腕があたる位置にあるものを選ぶあたり、怒っているが冷静なようだ。


「あっつ!」


砂糖たっぷりの珈琲はさめにくく、手に被った熱はかなり熱いらしい。

しかし薫はそんな様子を気にすることもなく、母の言うままに教師に伝えた。


「そんなの世の中に存在するんですか?」


存在していたら大変ですよね?とばかりに呆れた表情をしてみせた。

そして続ける。


「逆に、誰にも言われていない言葉、

バイキンを所持していると担任教師に言われたことの方が不名誉ですよ」


周囲の教師から白い視線が集まる。


ドンと机を叩けば、視線は散らばる。

やけどをした手を、珈琲で濡れたテーブルにたたきつければ、液体は散らばり洋服やら書類・教科書にシミを作った。

イラっとしつつ教師は声に一層力を込めた。


「言葉の勢いと言うものだ!!

 一体、お前は何をしたんだ!」


かなり威圧的である。

しかし、今の彼にはこの行動が必要だったのだ。

本気で言葉通りを思っている訳ではなく、自分の逃げ道を作るために。

まもなく子供を迎えに親達が現れる。

何があったか分からない状態に、説明と責任を求めてくるだろう。

それから逃れるためにも、薫の責任として認めさせる必要性があったのだ。


普通の子供であれば泣き出すだろう状況。

だが、薫の視界には常に母親が彼を元気づけつつ、職員室中を動き回っていた。

何よりも心強い母の姿が、そこにあるだけで薫は強くなった気になれる。

教師に対しニッコリ微笑みながら訴える。


「何もしていませんよ。

 ウサギと、花の世話をしていただけです」


「ならオマエは意味もなく精神的苦痛を彼らに与えたのか?」


「いえ、道に落ちているものは無暗に拾うのは辞めた方が良いですよ?

 と注意しただけです

 それに精神的苦痛であるなら、日頃の彼らの言動はいかがなものでしょうか?」


「そんなもんいじめの家に入るか!

 オマエが片親で、その父親にも捨てられたのは事実だ。

 事実を口に出して、嫌がらせとは減らず口を叩くな!

 父親に連絡を入れて早急に対処してもらわんとな」


と電話に手を伸ばそうとしたのを止められた。


「高橋先生!!言い過ぎです。

 と言うべきか、先生のその考え方が生徒に影響を与えているんではないですか?」


サッカークラブコーチの桃井が教師を止めた。


「他所の人間が余計な口を出さないでください!」


桃井は教師ではない。

学区内にあるスポーツ用品店店主であり、元レスリングのオリンピック代表候補にもなった人物だ。


「いやいや、これを見て下さい」


動画には、薫の周りを陽気な猿踊りをしつつ暴言を繰り返す生徒が映っていた。


「なっ……」


それは!!

有名な動画サイトである。


「仕事が早い人もいるんだね」

「お前か!!」


薫の言葉に教師が激高する。


「僕は撮影されていますし、ずっと先生と一緒にいるでしょう?

 おかしなことをいいますね」


そう、撮影も動画サイトに投稿も、薫の母が行った。

人外でありながら、人の世の道具を上手く使いこなす人である。


「誰にこんな事をさせた!!」

「僕は何もしていませんよ。

 こういうのは、人が集まれば良いお金になると言いますからね。

 僕に対するイジメは日常的でしたし、誰かが撮影の機会を狙っていたのではないですか?」


教師はきつく唇を噛んだ。


薫の母は、『薫に頑張れ!』と一言残し

職員室のある二階窓からフワリと飛び出しどこかへ消え去った。

それからシバラク後、数台の車が衝突・横転などを繰り返す音が響いた。


車が大破する音、人々の悲鳴。

驚いた教師たちが、救急・消防・警察へと連絡すると共に走り出した。

現地は登校中の生徒も混ざり大混乱である。

車は大破するほどの状態であり、人だかりが生まれている。

二次災害も巻き起こるが、けが人0の不思議な出来事だった。


そして、その日の授業は中止となった。

その後、動画は騒ぎになる事は無かった。

しかし、何時いつ爆発するか分からない爆弾がネット上に仕込まれた事には変わらない。


担任教師は胃潰瘍で入院することになった。




僕の母は最強のモンスターペアレント。


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