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世界を救った(元)勇者の放浪記  作者: 太陽と月
第一章:ファントム家での日々
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第三話、死人族(デドリアス)

 お待たせしました。第三話です。

 現在、俺は命の恩人であるミーニャの家へと向かっている。無一文の俺を、彼女はしばらく泊めさせてくれるそうだ。なんて優しい子なんだと、改めて思ったよ。

 

 道すがら、彼女は何かを聞きたそうな顔をしている。しかし、行動には移さない。人見知りであろう彼女にとって、人に自分から話しかけるのは難しいのだろう。ここは、俺から話しかけるのがいい気がする。


「そういえば、俺の名前ってまだ教えてなかったよな。“フレイム=ジャーミー”だ。よろしくな」


 唐突に俺がそう発語すると、ミーニャは話しかけられることを予想していなかったのか、きょとんとした表情で俺を見つめ始めた。その状態で銅像にすれば、さぞ間抜けな銅像として有名になることだろう。


「…………」


 ……動かない。彼女は未だに俺を見つめたまま、まるで凍りついたかのように身動きをしない。本当に銅像になってしまったのだろうか……。


「っぇえええええ!!??」


「っ……」


 耳をつんざくような叫声きょうせい。とても温厚そうな彼女からは聞こえないであろうその声に、俺は少しだけ後退した。一体どうしたんだ、彼女は。あれか。俺の後ろに、何か驚くような物体でもあるのか。

 だが、後ろを向いてもそこには何も存在しない。あるのは、白い土で作られた地面と、そこに芽吹く僅かな草花だけだ。


「フレイム=ジャーミー……」


 白い少女は再度俺の名を反復し、何かを考えこんでいる。別に何か意味が含まれている名前ではなかろうに。どうしてそんなに悩む必要があるのだろうか。


「っておい! どうして急に距離を取る!? 俺、なんかしたか?」


「あ、あの御方の名前を勝手に使うのは犯罪なんです! つ、捕まっちゃいますよ!」


 あの御方って、誰だ? まさかとは思うが、同姓同名の知らない奴じゃないよな。知りもしない奴の名前を持つだけで捕まるなんて、理不尽すぎるだろ。試しに聞いてみるか。


「質問。あの御方ってどんな人なんだ?」


「……え? あ、あの御方はこの世界を救った勇者様じゃないですか! まさか知らないんですか?」


 ……驚くのは分かるよ。俺だって、一般常識を一般人が知らなかったらそりゃ驚くさ。でもな。そんな、人を馬鹿にしたような表情で見ることはないだろう。俺が眠ってから何年経ったかは分からないが、その間の知識なんて知っている訳がないんだから。


「そんなの知ってる訳ないだろ」


 少しだけイライラしてしまった俺は、辛辣しんらつな返答を返した。命の恩人である彼女に対して、あまりにも不敬な行いだ。その所為で、彼女は怯えた表情を見せてしまった。自分で言っておいてなんだが、後悔してる。ここにリリーが居れば、間違いなく俺を非難することだろう。そして、しばらく口を聞いてくれないに違いない。俺はそういう行為をしてしまったのだ。


 よくキレっぽいと言われてきたが、相変わらず治っていない。俺の短所であり、嫌いな部分だ。些細な事でイライラして、他人を傷つけることを何度繰り返してきたか。自殺未遂までさせたこともあるっていうのに、何故学習しないんだ俺は。そんなんじゃ、いつか本当に誰かを殺してしまうぞ。後悔する前に、ちゃんと治さなければ。


 今回は俺が全面的に悪いので、彼女に頭を下げて謝った。これから彼女の家に行くというのに、ぎくしゃくとした状態では会話もろくに続かないだろう。いつまで泊まるか分からないが、その間ずっと気まずかったら精神的に辛いしな。


 っと、そうだ。いつまたこんな状態になるか分からないし、俺のことを認識してもらわねば。


「話を戻すけど、俺は本当にフレイム=ジャーミーなんだ。これでも、勇者なんだぜ?」


「も、もし本当だったら世紀の大発見ですよ。だって、二百年以上も捜索されているのに、見つからないんですから」


 そうか。あの大戦争の後、俺って二百年近くも眠ってたのか。となると、今の俺は十八歳ではなく二百十八歳以上になるな。その間、誰かは分からないがずっと捜索してくれてたのか。なんか悪いことしちまったな。


 と、知りもしない人たちに心のなかで謝っていると、珍しくミーニャから話を振ってきた。


「に、二百年以上もどこにいたんですか?」


 だとさ。


 それについての返答は、極寒の洞窟で眠ってたんだ……なんだが、あんまり信憑性しんぴょうせいが無いな。俺は妙な体質を持っているからいくら寒くても生きられるが、普通は勇者でも死んじまうだろう。まして、0℃を下回るであろうあそこでは絶対に生きていけない。嘘だと言われる可能性があるな。

 ……なら、どうするか。何かいい理由はないだろうか。


 あれやこれやと考えつつ、俺はふと、目線を下にずらす。するとそこには、当然ながら白い土がある。つま先でぐいぐいやっても掘ることの出来ない、固い土だ。

 そうだ……地底にいたというのはどうだろう。いくら長い間捜索されていたとしても、地底までは調べられないだろう。そんな場所にいるとは、誰も思わないだろうしな。


 その事をミーニャに伝えてみると、本当に信じてくれた。「た、確かにそこなら見つからない訳です」と、どもりながら納得してくれた。ついでに、肩に刻まれた勇者のタトゥーを見せることで、さらに信憑性を高めた。


「あ! 見えてきましたよ、わたしの家です!」


 俺が勇者だと分かってもらえてから、しばらく道を進んでいると、ミーニャが前方を指さしながらそう言った。だいぶ前から何か建物がある事には気づいていたが、あれは家だったのか。結構でかいな。


「おかーさーん! お客さんだよ~!」


 まるで小さい子供のように、ミーニャは手を横に広げて家へと走って行った。家には母親がいるのだろう。垣間見えた満面の笑顔からするに、相当大好きに違いない。見た限り十四歳辺りだと思うから、まだまだ母親から離れられない年齢なのだろう。


 一足遅れてミーニャの家にたどり着くと、俺はそのあまりに綺麗で大きな家に度肝を抜かされた。その家は銀一色で構成された、シンプルな丸型の造りなのだが、太陽の光できらきらと輝いて見える。それはさながらミーニャの髪のようで、彼女に合わせているのではないかと思える程だ。家と彼女が並べば、さぞ美しい事この上ないだろう。


「フレイムさん、はやくはやく~!」


 ミーニャが家の中から呼んでいる。その隣には、俺と同じぐらいの背――170レール程――の女性が、にこにこと笑みを浮かべて立っている。恐らく、ミーニャの母親だろう。とても綺麗な人だ。


「こんにちは。あなたがミーニャちゃんのお友達の、フレイムさんね? 私はミリュア。ミーニャちゃんの母親です」


「あ、どうも。フレイム=ジャーミーです」


 ミリュアさんって言うのか。凄い優しそうな人だな。ミーニャと同じ、銀髪で赤い瞳を持っている。見たことのない組み合わせだ。


「ふふふ。私達の髪と目、気になります?」


 まじまじと見つめすぎたか。銀髪に赤目って、神秘的で凄く綺麗だから、思わず目を離せなかったんだよな。十八年……じゃなくて、二百十八年近く生きてきて初めて見たかもしれない。


「……あ。もしかして、二人は希少種族ですか?」


「ふふ、そうです。私とミーニャちゃんはね、死人族デドリアスと呼ばれる希少種族なんです。言い換えれば、不死身の一族ですね」


 希少種族は五十年に一度のペースで生まれる、絶対的に人数が少ない少数種族。特徴的な容姿や特技を持っていて、既存の種族とは異なる文化を築く。俺が知らない訳だ。こんな果てに住む種族、聞いたこともないからな。


 しかし……まさか不死身の種族がいるとは。この世界で一番長生きするのは長耳族エルフの五百年だが、それすらも超えるということになるじゃないか。俺も結構な寿命を持っているが、それでも多いと感じているんだぞ。一生生きることが出来るって、ある意味残酷だよな。だって、絶対に死ねないって事じゃないか。時代が移り変わっても、世界が滅んでも、存在し続ける。俺だったら耐え切れずに、発狂しちまうな。なんて辛い人生なんだ、って。


 そんな俺の心境を察したかは分からないが、ミリュアさんは俺にこっそりと、死人族の秘密について耳打ちしてきた。


『死人族はですね、死ぬことが出来るんですよ。最愛の人が亡くなった瞬間、そこからはもう普通の人に戻りますからね』


 なんだ。死人族は恵まれない種族だと思ってしまったが、俺の思い違いだったのか。別に恵まれていない訳じゃないんだ。最愛の人さえいれば、いつかは死ぬことができる種族なんだ。ただ少し勝手が違うだけで、あまり人間と変わらないじゃないか。

 

 ……となると、ミリュアさんは最愛の人を見つけたのだろうか? こうしてミーニャと共にいるが、どこかにその人はいるのだろうか? 気にはなるが、プライバシーに関わることなので聞くのはやめておくか。

 ってか、さっきからミーニャがむくれてるから、そろそろ彼女もいれて会話をするか。自分から進んで話しかけられないのは、もう分かっていることだしな。


 それから、しばらく俺は銀色の二人と他愛の無い会話をして、晩飯を食い、ファントム家で一夜を明かした。しばらく泊めてくれるそうだから、お言葉に甘えさせてもらおう。二百年の間何かあったか、色々と聞きたいしな。

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