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西銀河物語 第四巻 ミルファクの夢  作者: ルイ シノダ
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第三章 リシテア (2)

第三章 リシテア


(2)

 第一九艦隊の各分艦隊が展開し終えるとドンファンは、

「艦長、準備は出来ているか」

「はっ、いつでもリシテア星系首脳陣とのコンタクトが取れるようになっております」

ドンファンは、クレメント艦長に向って顎を引いて頷き“分かった”という仕草をすると左後ろに座っているキャンベル代表に

「用意が整いました。司令公室にていつでもコンタクトできるようになっております」

と言った。キャンベルは

「分かりました。ドンファン司令とユイ主席参謀に同席をお願いします」

と言って自ら席を立った。

 司令公室は司令官室の隣にあり、公的な訪問者を旗艦に迎えた時やこういう交渉毎の時に使われる。ドンファンは、自分のIDを壁の横にあるパネルにかざすとドアを開けた。

ドアを開けると横一〇メートル、奥行き一五メートルの部屋に直径五メートルの円形テーブルがあり、座り心地の良さそうな椅子が置いてある。奥の壁には巨大なスクリーンパネルと手前に3D映像を映し出すフロアがある。

 ドンファンは、キャンベルに席に座るように進めると自分も座った。席に座ると席の前の少しほんの少し高くなっている部分からマイクが張り出してきた。同時に円形のテーブルの上に宙域図が浮かび上がった。ミルファク星系、リシテア星系そしてビルワーク星系とアルファット星系が映し出されている。

ドンファンは、キャンベルに

「どうぞお話ください。既にリシテア星系首脳陣とは回線を開いております」

それを聞いたキャンベルは、鋭い目でドンファンをしっかりと見ると顎を引くようにして“分かった”という風に頷いた。

数秒の間を置いてリシテア星系首脳陣が現れた。私服姿の男性と女性それに制服姿の三人だ。制服姿の三人の胸には、溢れんばかりの勲章が付いている。

「リシテア星系の方々。私はミルファク星系評議会代表ナオミ・キャンベルです」

少し置くとリシテア側が答えた。

「ミルファク星系の方々、私はリシテア星系評議会代表マシリコフ・テレンバーグ、こちらはカレラ・ヘンセン評議委員です。そしてカルマ・ドイッツエル大将とその部下です」

そこまで言うと一呼吸置いて

「今回は我星系の依頼に快く応諾してくれる為、来られたのかと思いましたが、星系外縁部に到達早々、迎えに出た我星系の艦隊に攻撃を仕掛けるとはあまり良い行動とは思えません。我星系は貴星系の将来を思い、西銀河連邦の一員となる為に我星系の要求を受諾することが、貴星系にとって良い選択だと判断していました。それを自ら選択の幅を狭めるとは賢い判断とは思えません。残された選択は、我星系の一部となり西銀河連邦に貴星系の宙域を差し出す事が生き残れる道です」

そこまで言うとテレンバーグはキャンベルの顔をにらんだ。

あまりに現実を見ない発言にキャンベルもドンファンも呆れるばかりであった。

キャンベルは

「テレンバーグ代表、貴星系は、我星系に何を求めているのですか」

と空々しく言うとテレンバーグは顔を赤くして

「キャンベル代表、直ぐに我星系の属領となりなさい。そうでなければすぐにでも貴星系に攻撃を仕掛けますぞ」

呆れるばかりのテレンバーグに

「今、リシテア星系、第四惑星テーベの周りには、貴星系の艦隊は一隻もいません。既に軍事衛星も排除しました。我々の艦隊は直ぐにでもテーベに攻撃を仕掛けられます」

「何を馬鹿な事を言っているのです」

そこまで言った時、制服姿の男が、ヘンセン評議委員に耳打ちした。ヘンセンは、黙って頷くとテレンバーグに耳打ちした。

テレンバーグは、赤い顔が余計真っ赤になりいきなり立ってテーブルを叩くとリシテア側の会議室を出て行くように姿を消した。

「どうしたのです」

理解しがたい状況にキャンベル代表は、つい口から出るとヘンセン評議委員が

「少しお待ちください」

と言って席を外した。制服組の三人は、ただ困り顔をしてミルファク星系側と視線を合わせないようにしている。

キャンベルとドンファンは、顔を見合わせて呆れ顔をすると“しかたない”という感じで視線を外している制服組の三人を見ていた。


一〇分程経った時、席を外していたテレンバーグとヘンセンは、再び交渉の席に戻ると今度は打って変わったように低姿勢になった。まるで先程の態度がうそのようだ。

「キャンベル代表、今まで話した事は、お詫びしたい。私は少し勘違いしていた様だ」

そう言って深々と頭を下げた。

“何なんだ、こいつは”と思いながらテレンバーグを見ていると

「キャンベル代表、そちらの条件を示して下さい」

そこまで言うと言葉を切った。

「テレンバーグ代表、我々は友好的な関係を結ぶ為に来ました。外縁部での事がなかったらそれなりに話が進んだでしょう。しかし、貴星系は我々を敵と見なし、攻撃を仕掛けてきました。それもステルス機雷という卑怯な方法で。今の状態では同等の友好関係を結ぶのは無理な状況になっています。結果として貴星系は、四軍事衛星を失いました。もしこれ以上の損害を出したくなければ、我々の言う条件を飲みなさい」

一呼吸置くとキャンベルは条件を出した。

一.ミルファク星系に対して出していた全ての要求を撤回する。

二.リシテア星系は、今後ミルファク星系の発展の為に協力する。

三.リシテア星系が持つ開拓中の星系を含む全ての資源星系マップをミルファク星系に公開する。

四.リシテア首脳部は友好の証としてミルファク星系を訪問する。

「以上です。特に三については、直ちに提供する事。四については、今日から三ヶ月以内に実現すること。これがミルファク星系からの提案です。これが守られない場合、ビルワーク星系とアルファット星系からリシテア星系に対して行っている資源供給を停止させます」

ここまで言うと一度言葉を切りテレンバーグの顔をにらんだ。

テレンバーグは青ざめていた。“これは、ミルファク星系に要求していた事を全てリシテア星系に要求された事と同じではないか。まさかビルワーク星系とアルファット星系まで抱き込まれていたとは”リシテアの他の出席者も声が出なかった。


 テレンバーグは、自分の横に座っているヘンセン評議委員の顔を見ると気落ちした気持ちで

「キャンベル代表、代表の要求は分かりました。しかし、ここにいるメンバーだけでは、返事ができません。評議会にかける必要があります。明日まで待って頂けませんか」

自分だけではどうしようもないという顔をして話すテレンバーグにキャンベルはドンファン総司令官とユイ主席参謀の顔を見ると、テレンバーグの方に顔を向け直し

「分かりました。明日の一四時まで待ちましょう」

そう言うと一方的に3Dコンタクトを切った。一方的に映像が切れたリシテア側は、

「どういうことだ。ミルファク星系軍を迎えに行った時、我艦隊は何故暴挙に出たのだ。あそこにあったステルス機雷は“アンノーン”対策用ではないか。何故そこを避けるように言わなかったのか。挙句逃げ帰り、軍事衛星まで破壊されるとは、今後の防衛をどうするつもりだ。まして資源供給を打ち切られては、今後が立ち行かなくなるぞ」

 テレンバーグは、怒りが心頭したような真っ赤な顔で軍事統括カルマ・ドイッツエル大将に怒鳴ると鋭い目でにらみつけた。

ドイッツエルは、ただ下を向いているだけで何も言わない。テレンバーグの言葉が止まると下を向いていたカレラ・ヘンセンが

「テレンバーグ代表、連絡を取ろうとしたのですが、通信がミルファク星系軍に届く前にステルス機雷が攻撃を受けたと艦隊司令から報告が届いています」

「ばかもの、現実を見ろ。ミルファク星系軍はステルス機雷が敷設されている事を自分たちへの攻撃と見なしたではないか。何故機雷の前で待っていなかった」

何も言わないほかのメンバーを見るとテレンバーグは両方の手で頭を抱えた。


 翌日、リシテア星系から開拓済み航路と資源星系マップを手に入れたキャンベルは、リシテア首脳陣のミルファク訪問の約束を取り付け帰路に着いた。

「しかし、まさかステルス機雷が”アンノーン“対策用とは。全部破壊してしまったのは、悪かったかな」

他人事のように言うドンファンにユイ主席参謀は、

「あの状態では仕方ありませんでした。破壊しなければ我々が機雷にやられていたかも知れません」

右後ろを振向きながら言うユイに

「リシテア星系の技術力は我々が想像していたより低いな。まさか光学センサーレベルの通信能力しか持たないとは。我々を発見したのが、我々が到着してから二時間後、それも"アンノーンと“見間違うとは」

「二光時手前の映像です。艦の判別がつきにくかったのでしょう」

ユイ主席参謀の言葉に納得しながらスコープビジョンから目を離し、左後ろを見るとオブザーバシートに座るキャンベルの姿はなかった。自室のオブザーバルームで報告書をまとめているらしく、シートは主人のいない寂しさがあった。

「今回は、実質的には第一九艦隊の成果とはいえ、キャンベル代表にとっては大きな成果だ。これで当面、反キャンベル派を押さえる事が出来るだろう。しかし、今回の考えの側面となっているビルワーク星系とアルファット星系からの資源供給停止の考えは、あのイエン評議委員の提案によるものだと聞いている。イエンのやつが、これを気に大きな顔にならなければ良いが・・今回のリシテア星系訪問が成功したおかげで自分を利すろうとする輩がいるのは確かだが、よりによってその代表格がイエンとは」

軍人は口を出す領域ではないとはいえ、帰還後のミルファクの政治情勢を気にすると気が重くなっていった。

スコープビジョンには、リシテア星系は既に右後ろの映像になりつつあった。


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