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西銀河物語 第四巻 ミルファクの夢  作者: ルイ シノダ
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第二章 次へ (2)

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(2)

第一九艦隊が、リシテア星系に向って跳躍している頃、首都星メンケントの衛星軌道上、軍事衛星アルテミス9から見てシェルスターの更に向こうに浮んでいるミルファク星系軍研究開発衛星の中にある研究施設では、第一七艦隊がADSM98星系から持ち帰った“手土産:破壊された艦の一部”の解析が行われていた。

「どうだ、分析の進捗状況は」

「艦の破壊は間違いなく我星系が開発中のDMG<デコンプマリキュラーグリッド:分子分解網>と同じものと思われるものによって破壊されたと想定されます」

「DMGと同じものと思われるもの」

回りくどい言い方に聞き返したヘンダーソンは、本件の分析主任である大尉の顔を見た。

「現在開発中のDMGとは少し異なっています。専門的な表現は差し控えさして頂きます」

少しだけ間をおくと

「我星系の技術より高度であるということです。我々の技術でここまで綺麗に物質を消滅させることはできません。切れ味のいいナイフと切れ味の悪いナイフの違いです。プロとアマの差です」

解ったような、解らないような気分になったヘンダーソンは、中将付武官シノダ中尉の顔を見ると少し呆れた顔をした。

「研究主任、その技術は今の研究に利用できそうなのか」

「まだ解りません。但し、中将の持ち帰られたこの艦の他の部分は結構利用できます」

そう言って研究主任は説明を始めた。


それから一週間後、既に第一九艦隊がリシテア星系の外縁部に近づいた頃、第一七艦隊は軍事衛星アルテミス9の宙港で出航の準備に忙しかった。

「主席参謀、例のものの準備はどうだ」

「はっ、特設艦四〇隻に積み込んでいます」

「四〇隻。少ないな」

「開発が間に合わず、用意できたのが特設艦四〇隻分です」

「そうか。仕方ないな。ミルファク星系を出る前、星系外縁部付近でテストをしよう。機密保持は徹底してくれ。なぜか最近、レベルAの機密まで漏れているようだ」

「中将、その件について少しお話があるのですが」

主席参謀の言葉にヘンダーソンの奥に深みを湛えた目が、鋭く光った。

「今回の航宙の目的は、表向きあくまで訓練航宙だ。最近情報統制が緩んでいる。艦隊全体に本当の目的を説明するのは、ミルファク星系を離れる時にしよう」

「はっ」

そう言ってアッテンボローは、ヘンダーソンに敬礼をした。


ミルファク星系は、近隣星系から比べると経済力、軍事力共に大規模の星系と言っていい。航宙軍の戦力は、全二〇艦隊だ。

しかし、これらが全て戦闘や航路開発に使用されるわけではない。半分の艦隊は、輸送艦の護衛や開発した星系の防衛そしてミルファク星系宙域の治安維持に使われる。

 ミルファク星系は、軍事力を強化することによって、資源開拓とその航路の安全確保を行ってきた。資源豊富な星系が見つかってもその星系の開拓の安全と資源輸送の安全を確保しなければ意味がない。故にそれを行う為、軍事力が必要になったのだ。

 ADSM98星系の鉱床は発見されたものの、“未知の生命体”との遭遇という“おまけ”が付き、その方面の航路の安全が揺らいだ。

 特にADSM98につながるADSM72はおろか、比較的安全と思われていたADSM24の資源開拓を行っている民間企業から“安全確保”のためのADSM98星系跳躍点方面の監視強化を星系評議会に要請してきた。

星系評議会は、ADSM24の資源供給は規定路線となっている為、その要求に応じざるを得なかった。

 その為、また“未知の生命体”を発見した第一七艦隊は、その矛先を向けられ(大した勘違いだが)。

本来、ADSM98の航路確保と重要な資源の発見と言う功績で十分な休養と整備のための時間をもらえる筈だった第一七艦隊は、リシテア星系の問題が持ち上がった事もあり通常三週間の休養と二ヶ月の整備が二週間の休養と二ヶ月の整備となった。

 整備期間も一ヶ月という議員もいたが、キャンベル代表が発言者に

「整備期間の短縮による副次的な故障と事故の誘因リスクに責任が取れるか」

という問いに答えられず整備だけは通常の期間となった。


「ユーイチ、また航宙ね」

「ああ、仕方ない。それが我々の役割だ」

「もう少し、ユーイチと二人だけで居たかったな」

ソファに座りユーイチの側に寄り添いながらワイングラスを手に持つマイ・カワイ(旧姓オカダ)は、残念そうに目を下に向けた。

「今回のミッションは訓練航宙と言う事になっているけど、少し変だと思わない」

既に軍歴も五年が過ぎ、有る程度、航宙軍の年間のスケジュールも頭に入って来ているマイは、“不思議だよね”という顔でユーイチの顔の側に自分の顔を持っていった。

可愛い瞳に映る自分の顔を見ながらユーイチは、ほんの少しだけ唇を合わせると両手をマイの背中に回し軽く抱きしめた。

夢のような結婚披露パーティをシェルスターのホテル、ホワイトフィッシュで行ってからまだ、五日しかたっていない。

ユール准将からは、二人に対して結婚特別休暇を取るように勧められたが、無人戦闘機アトラスのジュンとサリーの事も気になっていたカワイは、マイに状況を話し今回のミッションが終了してから取得すると准将に言った。

“ユール准将は、仕方ない”という顔で納得すると今回のミッションの説明をした。

カワイは少し躊躇したが、今回のミッションの為に無人戦闘機アトラスがあるのだと考えると自分なりにミッションの意味を消化させた。

立場柄妻とはいえ、同じ艦隊に所属するマイに言うわけには行かなかった。


二日後、二人はアルテミス9の宙港センターの第一層、アガメムノン級航宙戦艦とは反対側にあるアルテミス級航宙母艦の宙港にいた。

アルテミス級航宙母艦は、その巨体を宙港に並べていた。全幅一五〇メートルの航宙母艦三二隻が並んでいる風景は、まさに壮観だ。

第一七艦隊A3Gに属するラインは、A1Gの一番艦を基点に半時計方向一七番目のドックに係留されている。

 ユーイチ・カワイ大佐とマイ・オカダ中尉(新姓カワイだが、混乱を避ける為旧姓を使用している)は自走エアカーでラインの後部側ゲートのエアカーの発着所に着くとそれぞれの荷物を持ってエアカーを降りた。

ここまで来ると夫婦ではなく大佐と中尉である。二人はエアカーの走路を覆うようにある歩道橋を歩くと最頂点で止まってラインの後部を見た。三分の一は、ドック両脇にある通路の下側にあるため、アトラスの発着艦口は見えない。

 カワイは妻であるオカダ中尉に

「さっ、マイ行こうか」

と言ってマイの顔を見た。ユーイチの顔を見ながら頷くと二人は真直ぐラインの方に向って歩き出した。

 周りはラインに乗艦するクルーたちでいっぱいだ。名目上”訓練”となっている為、クルーたちを見送る家族で通路の周りは人の群れでいっぱいである。実際航宙母艦一隻当たり八〇〇人近いクルーと九六名のパイロットが乗艦するのだから、その倍以上の家族が見送りに来ている計算だ。

 二人は、強化セラミックの柵の側に居る人々を見ながら、柵の中に入った。柵を通り過ぎ三〇メートルほど歩くとラインの両側の自走路に別れた。

 オカダ中尉は、右側の道路に、そしてカワイ大佐は、一五〇メートル離れた左から乗る道路に歩いた。

 カワイは、オカダ中尉が自走路に乗りながらラインの影に隠れるのを見届けると自分も自走路に乗った。

二〇〇メートル乗ったところで自走路を降りて、艦に横付けされているエスカレータに乗ると一五メートルほど昇ったところで降り、ラインの側面にある入り口を通り、左に折れると一番奥から二番目にある右側のドアが自分の部屋だ。IDカードを左の壁にあるパネルにかざすとドアが右にスライドした。

 手に持ったバッグをドレスボックスを開けて中に入れると部屋を見回した。ベッドのシーツは新しく、小さいがシャワールームも綺麗だ。デスクも綺麗になっている。二ヶ月前まで自分がここに居たとは解らないくらい綺麗になっている。

大佐クラスになると小さいながらも一人に一つ整った部屋を与えられるが、尉官クラスになると二人で一部屋、下士官以下になると四人から八人部屋になる。デスクなどあるはずもない。

“ふっ”とマイのことを思い出す“マイは確か旗艦アルテミッツのミサイル管制官ミネギシ少尉の友人と一緒のはず。名前は確か・・・”必要のない心配をしていることに気がついて苦笑いすると壁に着いている時計を見た。

“七時四〇分”。”八時〇〇分“からパイロットブリーフィングルームで今回の航宙について大尉以上の士官に航宙プランを話さなければならない。”八時三〇分“には発進だ。

 カワイは少し伸びをして軽くストレッチをするとパイロットブリーフィングルームに行った。

 カワイがブリーフィングルームに到着するとまだ一〇分前だというのに既に全員が席についていた。

 カワイは、今ラインに搭載されている九六機のアトラスを含むA3G(第一七艦隊は全七一二隻を四つの分艦隊に分けている。旗艦アルテミッツが指揮するA1G、分艦隊旗艦プロメテウスが指揮するA2G、分艦隊旗艦シューベルトが指揮するA3Gそして分艦隊旗艦アドラステアが指揮するA4Gに分かれている)に所属する八隻の航宙母艦のうちの半分四隻分のアトラス三八四機を指揮する宙戦隊長である。更に無人機アトラス戦隊四八機の隊長でもある。

三八四機は、三機を一小隊とし、二四機で中隊、そして四八機で大隊としている。そしてこの四八機を一編隊として2編隊が一つの航宙母艦に搭載されている。

 その航宙母艦四隻分がカワイ大佐の配下にある。ユール准将は、一分艦隊八隻の航宙母艦が彼の指揮下にある。今回のブリーフィングでは、ラインと他の航宙母艦からのテレコネクトで中隊長以上が参加している。

 カワイが現れると先任のマイケル・ヤング少佐が

「起立、敬礼」

と掛け声を上げた。

カワイは、答礼をして全員の顔を見回すと手を下ろした。

“着席”の声の元に全員が椅子に腰を下ろすと静かになるのを待って

「全員、聞いてくれ。今回の航宙はミルファク星系外縁部における新型機材の試験とADSM72星系における無人機アトラス編隊の訓練、そしてADSM72星系の監視だ。第一七艦隊は通常航路にてADSM72星系跳躍点方面に向った後、惑星軌道を越えた宙域にて一度試験を行う。その時、A3Gの航宙機隊は、周辺宙域の警戒に当たる。その後、ADSM72星系に跳躍後、無人機アトラス編隊と有人機アトラス編隊の合同演習を行う予定だ。その後、ADSM72星系宙域の哨戒を行った後に帰還する。約2ヶ月の行程だ」

 一通り話すと全員の顔を一度見た。そして一呼吸置いて

「質問は」

と言うと少しの時間を置いて

「例の敵が現れた場合、戦闘になるのですか」

テレコネクトで参加している大尉の質問に

「今回は、極力戦闘は避けるようにとの命令だ。未知の生命体とは友好的な対応をすることが目的の一つだ」

一瞬、ブリーフィングルームがざわついた。

「友好的な対応とはどういう意味だ。いきなり攻撃を仕掛けてきたのは連中の方だ。そんな事出来るのか」

誰からともなしに聞こえてきた言葉に

「その辺の対応については、民間の専門家が同行する。彼らに頼むしかない」

少し呆れた顔になったというか、しらけた雰囲気になったが、カワイはそれを見越した様に

「これ以上質問はあるか」

と言って全員の顔をもう一度見ると

「では、解散」

と言った。ヤング少佐が

「起立」

と言うと全員が立ち上がって敬礼をしたのを見計らって答礼してブリーフィングルームを出た。

 一度自室に戻った後、パイロット待機室に行くと第一七艦隊がアルテミス9より出航すると連絡が入った。


WGC3046、10/30 AM8:30

出航シーケンスを完了したラインは、ゆっくりと第一七番ドックを外側に向って進み始めた。宇宙側のゲートが開かれ、アルテミス9側のゲートが既に閉じられた状態だ。

 やがてドックを離れると宙港センターの指定航路に従って第一七艦隊が集結する宙域に向った。カワイは、パイロット待機室の壁に擬似的に映し出されるアルテミス9の映像を見ながら少しだけマイのことを思い出していた。






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