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西銀河物語 第四巻 ミルファクの夢  作者: ルイ シノダ
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第一章 ジュンとサリー (2)

第一章 ジュンとサリー


(2)

「ユーイチ、ユーイチ。起きて。もう時間よ」

昨夜、第二軍事衛星パープルレモンで午前二時過ぎまで仲間と飲んでいたカワイは、頭の芯が“ガンガン”なっているのを我慢しながら目をほんの少し開けた。

記憶の中では、今日は休みのはずだ。

「ユーイチ。ユーイチ」

記憶の奥底から強引に胸倉をつかまれ起こされるように、頭の中がゆっくりと起きて来ると、甘い香が鼻の中にゆっくりと漂った。

「ユーイチ、もう十一時だよ。起きなさい。私との結婚式に遅刻するつもり」

いきなり頭から一トンもの氷を頭と頬に押し当てられた気持ちと胸元に和らぐ甘い漂いに

「うんっ」

と声を出すと

「ユーイチ。今日はユーイチと私の結婚式よ。ユーイチと私の両親もメンケントから朝早い便でホテルに入っているのよ。式は二時からよ。早く起きてシャワー浴びて。お酒臭いんだから」

聞きなれた甘い声に体が弛緩するような感じを覚えると、目の前に迫ったピンクの淡い唇に少しだけ触れた。

 なんとなく過ぎる一瞬の時間に体を任せながら、マイが、体の上に乗っかって頬を顔に付けているのが心地よかった。

マイ・オカダ中尉・・カワイの所属する第一七艦隊A3G航宙母艦ラインの発着艦管制官長にして、五年前にパープルレモンの前で恋のキューピットに微笑まれた女性であった。

「ユーイチ。昨日の夜は楽しかったね。シノダ中尉とワタナベ中尉旨く行き始めたようだし。ふふっ」

“なんなんだ。この雰囲気は”。無条件で入ってくる状況に理解できない頭を回転できないままでいると、いきなり体から離れ、タオルケットをはがされて

「起きなさい。今日からは、ユーイチとずっと一緒なのだから」

と言ったとたん今度は、ダイブするように体に飛び込んできた。心地よい重さを体で受け止めながら“甘えっこだな”と思うと

「ユーイチ、今私の事、甘えっこと思ったでしょ」

一瞬、顔が引きつるようになったとたん指で頬をなぞりながら

「ここに書いてある」

“ふふっ”と笑って真綿のように柔らかい唇を押し当てると天使のような笑みを目の前で見せた。

 二人とも航宙軍所属の為、第二軍事衛星にいる。本来花嫁は、少なくとも前日は、両親の側で過ごすものだが、二人の両親とも第四惑星メンケントに居る為、わざわざ戻るわけにも行かず、結局、昨晩からの引き続きでカワイの官舎にいる。

官舎と言っても、大佐クラスになると結構な大きさだ。広い大きな部屋の2LDKだ。航宙軍では、妻を取った軍人は、官舎から出てどこかに家(と言ってもビルの一室だが)をもつか、軍から提供される所帯用の官舎に住むかだ。

後者は4LDKと広いが、周りは軍関係者だけだ。仕事と私生活がきり離れない。二人の場合、そもそも勤務航宙艦が一緒なので軍提供の官舎にした。

「戸締りチェック、OK。ユーイチ、行くわよ」

「わかった」

カワイは、マイが、ちょっと気が強くしっかりしていそうだが、支える人がいての強さだということを理解していた。


カワイが、両手にケースを持っているので足で部屋のドアを開けようとすると

「ユーイチ、ちょっと待って」

両手にケースを持っているカワイが振返ると淡い香が近づいて唇に触れた。

「さっ、行こう。もうこの部屋ともお別れね」

少しだけしんみりとした顔で言うマイに

「ああ」

とだけ答えると少佐になってからずっと住んでいた部屋をもう一度、見回した。ほんの少しだけ、心に寂しさを感じたカワイは、ケースを床に置くと部屋に向って一礼をした。オカダも真似た様に一礼するとケースの片方を持ってドアを開けた。


二人は、予約で待っているいつもより大き目の自走エアカーにケースを入れると二人並んで後部座席に座った。シートサイドにあるコントローラに宙港センターの一般連絡艇の場所をインプットするとスタートボタンを押した。

カワイの所属する第一七艦隊は軍事衛星アルテミス9を基地としている。アルテミス9は、他に第一八艦隊も基地としているが、厚さ四キロの半分ずつ上下で分かれている為、接触する事はない。

宙港センターは、全部で六層になっており、第一層から順次下に向って大型艦から小型艦の宙港なっている。

カワイとオカダの乗る自走エアカーは、居住区を出ると外縁のアベニューに出る為、ミッドウエイに入った。軍事衛星は十字に走るストリートと円形に回るアベニュー、そしてストリートとアベニューを斜めに走るミッドウエイがある。

官舎から宙港に行く為には、ミッドウエイからアベニューに出て宙港に向う。アベニューはアルテミス9の最外周で二五.一二キロある。官舎からミッドウエイ、ストリート、アベニューと通ると宙港の端が見えてきた。第一層から一般連絡艇が出る第六層までは、ゆっくりと斜めに走る道路を通る事もできるが、急いでいる時は、アルテミス9にある四箇所のエレベータを使う。

 二人は、アルテミス9の四箇所の一つに行くとゲートを管理している衛兵を見た。普段ならば軍服を着ているため、衛兵が身分証明書を見ると敬礼して通してくれるのだが、普段着の場合はきっちりと身分証明書、エレベータ許可書、行先証明などを見せないと乗れない。

ゲートが近づいてきたので身分証明書と他の二つの証明書を見せようとモバイルパッドを出そうとすると衛兵が銃を体の中心に持つ儀仗の形で並んでいる。

 不思議に思いながら窓を開け、モバイルパッドを出そうとすると衛兵の管理者だろう大尉の徽章をつけている男が近寄ってきて

「カワイ大佐、オカダ中尉。本日はおめでとうございます。第一七艦隊の誉れです。どうぞお通り下さい」

唖然とするカワイに大尉と他の衛兵はミルファク星系軍の正規の敬礼を持って二人を祝福した。

“参ったな。誰だ、ここまで俺たちのこと漏らしたのは”と思いつつ、少し気分いい気持ちでゆっくり通るとマイが、うれしそうな顔をしてカワイの顔を見ていた。

「さすが、私が選んだ旦那様」

うれしそうな顔をして少しだけ寄り添った。


エレベータが、ゆっくりと下りていく。実に一〇〇〇メートルの高さだ。体調がおかしくならないように三〇〇メートル毎に三〇秒ほど停止する。

カワイは、昨日の余韻が少しだけ残っている体にちょっとだけ抵抗を感じた。第六層まで降りると少しだけ青くなっている顔を見てマイが、

「ユーイチ大丈夫」

と声を掛けると

「大丈夫だよ」

と笑顔でマイの顔を見た。

自走エアカーを降りて、ケースを手にアルテミス9とシェルスターの連絡艇のところに行くと、乗員を確認する軍と民間の男たちが、近寄って来た。

カワイは、マイを守るように前に進み厳しい目つきで男の顔を見ると男がいきなり

「カワイ大佐ですか」

突然の質問にカワイは、目元をそのままに一度にらむと

「そうだ、貴官は誰だ」

その言葉に今までと違った目元を緩ませ

「お待ちしておりました。私は、アルテミス9第一一軍事衛星警護隊ミコモト中尉であります」

背筋を伸ばし敬礼する男に

「ミコモト中尉。何かあったのか」

「いえ、お二人をお待ちしておりました。到着時間の連絡がなかったので午前七時より待っておりました」

「午前七時っ」

カワイは絶句した。午前七時といえば、官舎に戻ってから三時間後だ。信じられない顔でミコトモ中尉の顔を見ると

「カワイ大佐の連絡艇は、いつ来られても直ぐに出発できるように用意しております。こちらへ」

唖然とする二人に前方に真っ白な連絡艇が、二人の女性パイロットを入り口に立たせドックヤードにつながれていた。

カワイとマイは、顔を見合わせて“驚きとあきれと喜び”を全部足して二で割ったような顔をすると警護隊の儀仗の中を歩いていて連絡艇に入った。

「マイ、お前誰かに何か頼んだか」

「ううん、何も。マイも何がなんだか分からない」

「そうか。しかし、これはどういうことだ」

通常、連絡艇は将官クラスが乗る連絡艇でさえ五つのシートとセルフカウンターがあるだけだ。しかし、二人が乗った連絡艇は、シートが二つ。テーブルが一つ。カウンターの側には、男性と女性が腕にタオルを巻いて立っている。

連絡艇に入ると通常、シートに座りシートホールドをする。出なければ、発艦時の衝撃が吸収できないからだ。ところが今回はそんな無粋なものがない。リラクゼーションの粋を極めたゴージャスな作りだ。

「カワイ大佐。発艦シーケンスクリア。アルテミス9を出ます」

体に何もホールドしていないカワイとマイは二人で顔を見合わせると一瞬身構えたが、体にいつもの負荷がない。“えーっ”と思いつつシートに座っていると

「何かお飲み物でも」

タオルを腕に巻いた女性が近寄ってきた。


シェルスター・・。軍事衛星アルテミス9の半時計周りに隣にある衛星だ。政治、経済、軍事、警察の中枢がありミルファク星系の中心部になっている。

二人は、この衛星の最上部通常“ミドリプラント”と呼ばれているシェルスターの食料と空気を生み出すところにある“ホワイトフィッシュ”と呼ばれるホテルで惑星メンケントから来てもらった家族と一緒にささやかな結婚式とパーティを開く予定であった。

もちろん、仲間には声を掛けてある。


シェルスターの最上部ホワイトフィッシュホテル。何故ミドリプラントにこの名前かは別として・・

「中尉、警護班からの連絡は」

「はっ、予定通り、シェルスターの宙港に二〇分前に到着したと連絡が届いています」

「そうか、では一〇分後、戦列を整えさせろ。警護兵の手配は確実か」

「はっ、航宙軍警護隊で固めています。本日に限りミドリプラントには我々以外いません。航宙軍にもシェルスターの警護を指示しています」

「宙域はどうだ」

「第一七艦隊の第二分艦隊がシェルスターの衛星軌道上で全方向に監視を行っています。万一にも問題が発生した場合、第一九艦隊の第一分艦隊が支援する事になっています」

「警察機構と治安部隊との連携は問題ないか。あの連中、仲悪いからな」

「はっ、本日の経緯を話し協力を求めたところ、警察本部長と治安本部長が自分自身の出席を条件に協力を申し出ました」

「なんだそれは」

「はっ、自分自身理解しかねる所でありますが、とりあえず協力を取り付けたというところで妥協しました」

「そうか。解った」

本当は、まったく理解できないが、とりあえず今日のイベント警護に協力するということは理解できた。

既に事前に確認済みのチェック項目の大分類レベルをいちいち確認するのは、普段の中将らしからぬ発言であった。


いつもは、瞳の奥に深い深慮を湛え、相手の心の中を見据えるように話す中将がまるで自分の娘を嫁がせるような忙しなさである。

実際、今日“暗黙の了解”の下に集まった人はミルファク星系の中枢と言って良いほどの人たちである。

万が一、パーティの時にホテルが攻撃されたら、ミルファクは一時的にせよコントロールを失う。その時に攻撃してきた相手が攻め込んできたらミルファクはこの世から名前が消えるだろう。

そんな状況にまでなるリスクがありながら、自分勝手に部下を説得し集まった連中だ。

本当は、“他の人は来ないけど、自分だけは行きたいな”という“来る人拒まず”のつもりで連絡したはずが、連絡した当の本人は、大して来るはずもないと“鷹をくくっていた”のが、誤りの元だった。

中将からの命令に即時に動いた中尉は、最近少尉に昇格した女性に中将の命令を伝えた。


シェルスターの中央宙港でも“何っ”と思うような対応を受けると、“少し・・”と言ってもシェルスターでは一番大きな自走エアカー(ドライバー付き)に乗り、ゆっくりとらせん状に回る幹線道路を走ると、ホワイトフィッシュホテルに続くミドリプラントの入口に着いた。

ドライバが先に降りて後部座席のドアを開けるとカワイが、さきに降りて続いて降りるマイ見ると、

「ありがとう」

と“にこっ”としながら降りて来た。マイが降りるのを確認してからドライバがドアを閉めると二人を見て航宙軍の正式な敬礼をしながら微笑んだ。

カワイが、目元を緩めて顎を引きながら礼を言った後、二人でなだらかに上がる道を歩くとやがてホテルの入口に着いた。

二人で顔を見合わせた後、歩き始めると最上部に一〇〇メートル近い人々が白いカーペットの両脇に立っていた。

それを見たマイは、その先頭に目を見張るほどに着飾った見知った顔を見ると小走りに近寄って、

「マリコ、今日は、何かイベントがあるの。有名な人でも来るの」

耳元で話すと自分より一〇センチほど高いショートカットの女性は、目元を緩ませ、やわらかい声で

「マイ先輩、今日は先輩たち以外、誰もここを利用しません。ジェームズ・ウッドランド大将とチャールズ・ヘンダーソン中将、そしてナオミ・キャンベル代表からのプレゼントです。皆さんお待ちかねですよ」

左に立つルイ・シノダが微笑むと

「皆さんが、お二人が来るのをお待ちしておりました」

カワイとルマイは、今になってやっと白いカーペットの両脇に並んでいる面々を見た。確かに家族と同僚の顔はあるが、・・・・

ウッドランド大将、ヘンダーソン中将、キャンベル代表、ウオッカー大佐、ホフマン中佐を始めとする第一七艦隊の中枢とユール准将、オコーネル大尉、ヤング大尉、ゴードン大尉などの航宙戦闘機隊の面々、更にタナベ少佐、ナカニシ大佐など航宙機開発センターの人まで来ている。ミネギシ少尉(ミサイル管制官)やミネギシ大佐(航宙艦開発センター開発部長)までいる。少し先を見るとモッサレーノ准将までいる。

シノダが、

「カワイ大佐、いつおいでか解らないお二人を迎える為、皆さんもう二時間以上お待ちしていました」

信じられないという顔をしながら、マイと呆然としていると

「カワイ、そんな驚いた顔をしないで、そろそろ皆さんの前に歩いてきたらどうだ」

ユール准将の声に我に返ったカワイとマイは、ケースを受け取るシノダに笑顔を見せるとゆっくりと白いカーペットの上をマイと一緒に歩き始めた。


遠く離れた、軍事衛星アルテミス9。

第一層宙港に係留している航宙母艦ラインの中でパワーをオンにされ整備されているジュンとサリーの青白いコンピュータヘッドが、”チカッ、チカッ”と光った。

「ふふっ、ユーイチ」・・・・


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