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西銀河物語 第四巻 ミルファクの夢  作者: ルイ シノダ
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第五章 ミルファク (4)

第五章 ミルファク


(4)

「ADSM24方面跳躍点付近の質量、増大します」

ミルファク星系外縁部ADSM24方面跳躍点宙域を監視している有人監視衛星から跳躍点方面を弓形レーダーで見ていた監視員が、声を上げて上官に報告した。

「連絡員、直ぐに“アルテミス9”に報告」

「監視員、艦数、艦型分かり次第報告しろ」


一時間後、艦数と艦型の報告が入った。ヘンダーソンは、その報告内容を見て驚いていた。

「まさか、こんな陣容で来るとは、まるで戦闘でもするかのようだ。それにこれは戦闘隊形だ」

ADSM82星系には、監視衛星が無いが、ADSM67星系には、無人監視衛星を敷設している。さらにASDM24星系は既に入植して日も長く監視衛星からはひっきりなしに連絡が入っていた。

故にミルファク星系に到着した事は、驚くことでもなかった。既に星系外交部を通じて情報は届いているとしても実際に到着した陣容には実際驚いた。

アンドリュー星系航宙軍は一艦隊でシャルンホルスト級改航宙戦艦四〇隻、テルマー級改航宙巡航戦艦四〇隻、ロックウッド級航宙重巡航艦六四隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦六四隻、ヘーメラー級航宙駆逐艦一九二隻、ビーンズ級哨戒艦一九二隻、ライト級高速補給艦二四隻、エリザベート級航宙母艦三二隻を二艦隊引き連れていた。


WGC3048,05/05。

チェスター・アーサー大将率いる第一艦隊とロベルト・カーライル中将率いる第二艦隊、一二九六隻は、ミルファク星系に到着したのだった。

デスクの前にあるスクリーンパネルにタッチするとデスクの前に3D映像の第一七艦隊A2G司令官アッテンボロー少将が既に準備を整えて現れた。

「アッテンボロー少将、お客様が来た出迎えに行ってくれ」

「はっ」

と言うと直ぐに映像が消えた。来航した時の準備は既に綿密に整えていた。

A2G旗艦アガメムノン級改航宙戦艦プロメテウスに搭乗した、アッテンボローは司令官席に座るとコムを口元にして

「全艦に告ぐ、こちらA2G司令官アッテンボロー少将だ。お客様を迎えに行く。丁重に迎えるぞ。全艦発進」

そう言って既に、アルテミス9の宙港センターから発進していたA2G一七八隻は発進した。


「ここがミルファク星系か」

始めて見る星系にチェスター・アーサーは感心していた。

シャルンホルスト級改航宙戦艦のスコープビジョンが、次々と星系の映像を出している。特に第四惑星の上空に浮いている軍事衛星の数や、星系内を行きかう輸送艦や貨物艦の多さに驚いていた。

「経済力、軍事力共に我星系の五倍はあるな。よくこの星系と一戦交えたものだ。リギル星系のシャイン提督が苦労したのも分らぬでもないな」

実際、アンドリュー星系は編成されたばかりの艦隊を入れても四艦隊だ。それに比べミルファク星系は二〇艦隊を擁している。真っ向から戦えば、一瞬にして全滅させられる。航宙軍艦同士の戦いは一部の優秀な軍人や戦艦ではなく、数の勝負だ。

チェスターは、コムを口にすると

「第一艦隊、第二艦隊の全艦艇に告ぐ。こちら総司令官アーサー大将だ。艦隊を標準航宙隊形にして、カイパーベルトの内側、惑星軌道上の外側で待つ。迎えがくるにしても後三日は掛かるだろう。全員休息を取っておけ。以上だ」

チェスターは、星系規模と航宙量からして迎えは三日後と判断した。


「アーサー総司令官、ミルファク星系軍です」

「なに」

アンドリュー星系軍がミルファク星系に到着してから、まだ一日しかたっていなかった。

ADSM24星系方面跳躍点は、惑星軌道水準面に対して左上方向にある。ADSM72と丁度上下に反対だ。

アッテンボロー少将率いる第一七艦隊A2Gは、一般航路を避ける為、惑星軌道水準面に対し垂直に上昇した後、ADSM24跳躍点レベルの高さになったところで改良型推進エンジン“リバースサイクロンユニット”を利用したのだ。これを使用すると一光時を五時間で移動できる。パッケージ化しているため、ミルファク星系の全ての軍艦艇に装備している。

“どうやってきたんだ。第四惑星からは六光時ある。通常航宙しても六〇時間、一般航路を考えればもう少し掛かるはず”そう考えて三日と読んだ。

アーサーは自分たちの技術では理解できない状況に焦っていた。

「アーサー総司令官。ミルファク星系軍から電文です」

「読め」

「はっ、ミルファク星系にようこそ。これから送る航路データに基づいて航宙されたし。わが方は貴星系軍の前を進む。ミルファク星系航宙軍アッテンボロー少将」

少し馬鹿にされた感じがしたが、ここまで来ては従うしかなく

「“了解した”と送れ」

「はっ」

ウィリアム・タフト艦長にそう指示するとアーサーは、先手を取られた感が否めなかった。


アンドリュー星系軍は、アッテンボローたちA2Gに付いて行きながら一般航路を行きかう艦の多さに驚いていた。

「すごい。我星系に比べ圧倒的な物量だ。それに我星系では建造出来ないだろう。あの輸送艦の大きさを見ろ。物量、技術共にすごい星系だな。ミルファクは」

アーサーたちが見たのは、恒星間連絡艦であった。全長二キロ、全幅一キロ、全高五百メートルの巨大貨物輸送艦だ。

やがて、アンドリュー星系軍は、ミルファク星系の首都星、第四惑星メンケント上空四万キロでシェルスターと同じ静止軌道に遷移すると連絡艦に乗った。


西銀河連邦使節団としてきたのは、チェスター・アーサー大将、ロベルト・カーライル中将、マクシミリアン・ヘンドル大佐、ハロルド・ハーランド中佐そして陸戦隊隊長アルベルト・ミュール少将だ。

ミュール少将は、交渉というよりアーサーの護衛という感じだが。その他に星系交渉部員五名が同行した。

西銀河連邦使節団が案内されたのは、シェルスターの中枢部政治地区にある、星系代表部が入る評議会本部ビルだ。

出迎えたのは、ナオミ・キャンベル代表、セイレン議員他八名の議員とチャールズ・ヘンダーソン大将、キム・ドンファン中将、マイケル・キャンベル中将、ダノン・クレイン少将他二名である。

ミルファク星系側は、アーサーとロベルトの若さに驚いていた。大将、中将と聞いていたので、自分と同年代五〇前後と思っていた。まさか三六歳の若者が来るとは思っても見なかった。

アーサーもこれだけの大きさの星系代表が女性とは思ってもいなく、心の中でショックを受けていた。肌の色も違う。双方共に相手を見て驚いている時間、沈黙があった。ヘンダーソンが我に返り、

「キャンベル代表」

と声を掛けると一同も気を取り直したのか、やっと声を出せるようになった。キャンベルが

「西銀河使節団であるアンドリュー星系の方々、私はナオミ・キャンベル、ミルファク星系評議会代表です。遠く我星系までようこそいらしてくれました。ミルファク星系を代表して心からお礼申し上げます」

そう言うとアーサーが立ち上がって

「私は、チェスター・アーサー、アンドリュー星系航宙軍総司令官です」

そう言うと、ミルファク星系側から驚きの声が漏れた。テーブルの端の方にいる評議委員が小声で

「アンドリュー星系航宙軍は、お坊ちゃま軍団か」

からかう様に言うとヘンダーソンが一瞥した。その評議員が下を向いて顔を青くするとキャンベル代表は、間をいれず

「早速ですが、ご紹介をお願いします」

と言うと双方が立って自己紹介を始めた。


ヘンダーソンは、アンドリュー星系のメンバーの紹介を聞きながら

「確か、第一次ミールワッツ攻略戦の時、アンドリュー星系軍がたいした手腕を発揮していた。まさかこの若者があの時の司令官か。壊滅寸前だったリギル星系軍を救い、ほぼ勝てる状況でいた我軍を追い込んだあの時の司令官、そして我第二次ミールワッツ攻略部隊を完膚なきまでに叩いた司令官がこの男とは」

ヘンダーソンは、悔しいとか言う感情ではなく、“感心した”という気持ちで見ていた。それと共に”あなどれない“と言う感情が心の中に残った。

一通りの紹介が終わるとキャンベルは、

「それでは、西銀河連邦使節団から今回の我星系へ来航したご説明を頂きたいと思います」

“既に十分に知った上で、その準備も整えてありながらあえて、使節団の来航目的を聞く”キャンベル代表の思惑にヘンダーソンは感心した。

「キャンベル代表及びミルファク星系の方々、西銀河連邦よりのメッセージを伝えます」

そう言ってアーサーは、話し始めた。


「我星系に、リシテア星系併呑の意図はありません」

強く言うキャンベルに

「しかし、連邦からの情報に寄れば、あなた方は、“ミルファク星系の発展の為に協力しろ”と言ったと聞いています。これは、連合ではなく、組み込む意思があったと連邦は考えています」

「それは思い違いです。我々は“協力してほしい”と言ったのです。実際に協力を強要する事はしていません」

「それでは、“ビルワーク星系とアルファット星系から資源供給を止めさせる”と言ったことは、どう弁明しますか」

“イエンのやろうそこまでぺらぺらと連邦の連中に話していたのか”セイレンは聞きながら一度見限った男の顔を思い出して怒りが浸透していた。

「それは」

言い淀んだところに

「ビルワーク星系とアルファット星系からは、我星系に対し輸送艦の補修協力依頼が来ていました。補給を止めたなどということは事実では無く、実際には両星系からリシテア星系へ資源供給をしたくとも出来なかったのが事実です。実際、動く補給艦で資源供給は継続していました」

いきなりの発言に全員が声の方向を向いた。ヘンダーソンの言葉にキャンベルは、頷くと

「我星系からそのような事を言っても両星系が無視すれば簡単な事です。星系間ビジネスですから」

実際は、両星系に圧力を掛け、資源供給を二割程度まで落としていた。補給艦が整備中という理由で。そう言う意味ではヘンダーソンは、嘘をついてはいなかった。

「分りました。キャンベル代表、既に会議は五時間を過ぎています。明日また、開きましょう」

そう言ってロベルトに目配せするとアーサーは立ち上がった。


「しかし、驚いたな。あの若さとは。それにおれが言うのもなんだが、結構いい男のようだ」

「キム、おれも同じことを考えていた。アーサー大将の本音、今回の来航の落しどころをどう考えているのかってね」

「いずれにしろ、突きつけられた要件の一つも終わっていない。今日が初日だがな」

「ああ、結構厳しい交渉になりそうだな」

「そうだな、あの大将結構鋭いな。さすがミールワッツ攻略戦、向こうから見れば攻防戦か、勝ち抜いただけのことはある」

ヘンダーソン大将とドンファン中将が上級士官クラブで話している頃、


自分の艦に戻った、アーサー達一行は、

「ロベルト、ミルファク星系は経済的にも軍事的にも大きい星系だ。ヘンダーソン大将とドンファン中将は、ミールワッツ遭遇戦の時、リギル星系軍のシャイン中将とも手合わせしている。第一次ミールワッツ攻防戦の時もだ。経済力、軍事力共に豊かで優秀な人材もいる。羨ましい限りだ」

「チェスター、らしくないな。お前が泣き言を言うとは」

「なあに、たまには星系外に出てみるのも良い事だと思っただけさ」

ロベルトにそう言うと琥珀色の液体のロックアイスの隙間の透明な部分を見て

「綺麗な落しどころは見つけられないかな。事実、ヘンダーソン大将には、“敵愾心”が沸かないどころか“尊敬の念”を抱かせるところがある」

そう言ってロベルトの顔を見ると

「チェスター、俺もそう思う。あの提督、結構懐が深い」

お互いの思惑の中で時が流れていた。


それから二〇日後

「ヘンダーソン提督、お会いできた事を光栄に思います」

「こちらこそ、アーサー提督」

「帰路も長旅です。お気を付けて」

「ありがとうございます」

アーサーは、西銀河連邦使節団の代表として長かった交渉を思い出した。

「ミルファク同盟を解消すると。それは本心で言っていますか」

「本当です。我々はミルファク同盟を解消し、ビルワーク星系、アルファット星系及びリシテア星系に対して近隣星系として協力していくことにします」

アーサーは、唸った。“まさか、同盟を解消するとは。これでは、連邦も口が出せない”ミルファクの提案に少なからず驚いていた。

「更に、未開拓星系マップとして、アンドリュー星系の方々が来られたADSM24、ADSM67、ADSM82を公開します」

「なんですと」

アーサーは、連邦からのクレームを全てミルファクが飲んだ事に驚いた。

最終的な連邦使節団との交渉は、ミルファクが全て折れる形で決着がついた。


「ロベルト、どう思う。ミルファク星系のやつら、全て連邦の“けち“を飲んだぞ」

「チェスター、連邦はミルファク星系を甘く見ていましたね」

「どういうことだ」

「今回の同盟などミルファクにとっても本当はどうでも良かったんですよ。連邦からクレームがついた時点で、彼らは落しどころを既に決めていたんでしょう。

形ばかりの同盟を作っておいて、それを解消すれば、いかにも連邦に屈したように見せれます。更に公開した星系マップも彼らにとっては、一部でしかなかったのかと思います」

「三星系もだぞ。我星系はミールワッツ一つ開拓するにも星系全体の力がいるというのに」

「ミルファクはそれだけ大きいと言う事です」

「うーっむ」

カーライルの意見にアーサーは、唸った。

「我星系など及びもしない星系力。連邦など気にもかけない力。我星系にとっては、当分敵にしたくない相手だな」

アーサーの独り言のような考えにカーライルは、

「そうですね。チェスター、今回の報告書もう直ぐまとまります。目を通しておいて下さい」

そう言って3Dに映るカーライルが、アンドリュー航宙軍式敬礼をすると映像が消えた。

壁に映し出されるミルファク星系が後ろへと流れて行った。


「やっと終わりましたね」

「ああ、長かった。久々に疲れたよ」

ヘンダーソンは、連邦使節団との交渉にずっと一緒に対応したドンファンと上級将校クラブのテーブルでワインを飲みながら話していた。

「でも、あれでよかったのかな」

「さあな、連邦の連中が我星系を辺境の一星系と見ていればあれで十分だろう」

「見ていなかったら」

「一戦交えるしかないだろうな」

「連邦とか」

「ああ、しかし連邦と言っても既に二五〇〇年以上がたっている。一枚岩ではないだろう。いくらでも付け入るチャンスはある。だが、その時我々が、まだ現役でいるかだ。そのためにも今の若いやつらには苦労してでも育てておかないとな」

ヘンダーソンはワイングラスの周りに“たゆまる”透明な部分の液体を見ながら言った。

ミルファク星系はその後、協力関係ということを表面に出しながら、実質的にビルワーク星系とアルファット星系を手中に入れた。そしてリシテア星系には、自星系への恭順を指示した。


「ヘンダーソン提督、まだまだ、我星系はあなたを第一線から退く事を許す事が出来ないようです。大変でしょうが、もう少しお願いします」

そう言ってキャンベル代表は、ヘンダーソン大将の手を握ると頭を下げた。


「マイ、今度の航宙も長くなりそうだ。帰ってくる頃には、お腹がずいぶん大きくなっているかな」

嬉しそうな顔をして言うカワイに

「やっと体調も落ち着いたのに。でも仕方ないね。それがユーイチの仕事だから」

そう言って、まだ目立たないお腹に手をやった。

「でも気を付けて。もうあなた一人の体とは思わないでね。私も一緒に行けないし」

「分っている。気をつけるよ」

マイは、お腹に“赤ちゃん“がいる事が分ると、航宙軍に退官の届けを出した。マイの上官は残念がったが、理由が理由だけに喜んで受理した。そして既にお腹の子も五ヶ月目になっていた。


シノダは、ワタナベへのプロポーズの後、ヘンダーソンの元を離れ、航宙軍戦闘機搭乗員養成課程に編入した。おかげでこちらは、毎日会うことが出来たが、

今回の航宙でワタナベは、旗艦アルテミッツのレーダー管制官として搭乗しなければならず、シノダがアルテミス9に残る事になった。


連邦の使節団が、帰還してから二ヶ月後、第一七艦隊は、リリ種族から渡されたX3JPを通って新たな星系の開拓の為“第三二二広域調査派遣艦隊”としてアルテミス9を離れた。


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