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西銀河物語 第四巻 ミルファクの夢  作者: ルイ シノダ
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第五章 ミルファク (3)

第五章 ミルファク


(3)

 ミルファク星系は、“未知との生命”いや、もはや未知ではないリリ種族“これは結局ヘンダーソンが便宜的につけた名前をそのまま星系代表部が認めたものだが”。

このリリ種族との友好的な接触と他の多大な功績により大将の地位を与えられた。但し、本人の強い意向で軍事統括ジェームズ・ウッドランド大将は、軍事統括の地位はそのままにミルファク星系航宙軍軍事顧問という立場になった。

大将の立場になったとはいえリリ種族との約束の一つであるリシテア星系に捕らわれた彼らの仲間の解放に一役買わなければならず、第一七艦隊はそのままヘンダーソン大将直属の艦隊となった。

ヘンダーソンの大将昇進と共に、他の人事も動いた。第一七艦隊A2G司令官マイケル・キャンベル少将は、第一八艦隊司令官チャン・ギヨンの退官に伴って・・事実上の更迭だが・・中将への昇進と共に第一八艦隊総司令官として着任した。 

第一八艦隊に第一七艦隊から転属していた副参謀ロイ・ウエダ中佐は大佐への昇進と共に主席参謀となり、主席参謀だったイアン・ボールドウィンは、准将への昇進と共に管制本部長として転属した。

 更に、第一七艦隊主席参謀だったアッテンボロー大佐は、一つ飛びの少将に昇進し、A2G司令官として着任した。

第一七艦隊主席参謀には、副参謀であったダスティ・ホフマン中佐が大佐への昇進と共に主席参謀に昇格した。

そしてチャールズ・ヘンダーソンは大将の昇格と共にミルファク星系の全航宙軍を統括することになった。

更にカワイ大佐は功績により准将へ昇格。第一七艦隊宙戦司令を指揮することになった。但し、特殊戦闘偵察隊“レイリア”の隊長は変わらない。


「ユーイチ、准将昇進おめでとう。ますます大変になるね。シノダ大尉のこともあるし」

「ああ、でもますます“やりがい”があるよ」

「ユーイチらしいわね」

「ねえ、ユーイチ、お話があるの」

下を向いて顔を赤くしてしまったマイに自宅のテーブルの反対側に座るカワイは、

「どうしたんだ」

と聞くと

「赤ちゃんが出来たの」

「えーっ」

ただ驚きだった。確かに最近妻のマイの体調変化に心配はしていて、まさかと思ってはいたが。

「マイ、よくやった。おめでとう。とても嬉しいよ」

「よくやったなんて。よくやったの二人でしょう」

真っ赤な顔して言うマイにカワイも顔が赤くなった。

「マイ、准将になるとこの“アルテミス9”のオフィスとは別に“シェルスター”の航宙軍作戦本部にもオフィスを設けなければならない。“シェルスター”は、この軍事衛星から比べればはるかに住み易い。あそこにも将官として立派な家を持つ事が出来る。この気に引っ越して見るか」

マイの顔が少しだけ曇った。マイはユーイチが仕事柄常にいるのは“アルテミス9”にいなければならない事が分っているだけに

「いや、ユーイチと毎日顔を会わせられるところでなければ、いや」

「でも、お腹に赤ちゃんがいるとなればメンケントにいる母親にも来ていただいたほうが良いし、僕ではなにも役に立たない」

「いいの、ユーイチが側にいてくれれば、私一人で十分。お母さんには、出産近くになってからで十分」

マイは、昔から一度決めたら動かない。その性格を知っているだけに、少し考えた後

「じゃあ、こうしよう、マイはこの官舎で僕と一緒に暮らす。その代わり生まれる近くになったら、近くにお母さんの部屋を借りるではどう」

実際、二人で住むには不便無いが、マイのお母さんまで住むには狭すぎる。

ユーイチの提案は嬉しかった。実際全てが始めての事で不安だらけだ。メンケントは近いといっても八時間は掛かる。身重の体になった時、早々には動けない。やはり母親が側にいるのはうれしい。

「ありがとう、ユーイチ」

嬉しそうに微笑むマイに、身を乗り出してテーブル越しにマイのおでこに唇を当てると、マイが右手の人差し指で自分の唇を指差した。ユーイチは更に体を出してマイの唇に自分の唇を当てた。マイは嬉しかった。

「そうか、僕も父親になるのか」

そう思いながら頭の中は、初めてのことで不安の山だった。


第一七艦隊の帰還から半年後のWGC3047,10/01。

アンドリュー星系では、突然の西銀河連邦からの命令に驚いていた。

「父上、どういうことですか。ミールワッツ星系での交渉探査が落ち着いて、我星系もこれからと言う時に」

チェスター・アーサーは、父であり軍事統括のアルフレッド・アーサーに西銀河連邦からの一方的な命令に腹を立てていた。

「連邦は、ミルファク星系の不穏な動きというより、勢力拡大が気に入らないのだろう。連邦といっても欲の皮の張った星系共の集まりだ。もしミルファクが連邦に反旗を翻さないまでも反抗的な態度を取った時、あの星系を力でねじ伏せるのはたやすい事ではない。だから、ミールワッツ星系での出来事を見ていた連邦はその時の当事者である我星系を使者に選んだんだろ。あわよくば共倒れを狙って」

「どういうことですか」

チェスターは、大将といってもまだ、三〇代半ば、大人の政治の世界は分るはずもなかった。

「我星系をミルファクに行かせる事により、あの星系内で万一戦闘でも勃発すれば、それをいいことに我星系を直轄星系することが出来る上、ミルファク星系を疲弊させることが出来る。まあ、そこまでは出来ないにしても、今後、統治への足がかりを見つけることが出来る。“政治的関与“という形で」

「それでは、あのミルファクと仲良くしろと」

「そういうことだ。表面上だけでもな。いずれにしろ使者としていくのはチェスター、お前を置いて他にはいない。第一艦隊それにロベルトの第二艦隊を連れて行くといい。用心のためにもな」

父、アルフレッド・アーサーの話を聞きながら、納得いかないまでも心の中で“もっと我星系が強ければこんなことにならずに済んだものを”と思っていた。


「父上、いつ動けと言ってきているのですか」

「なるべく早くと」

“連邦のやつらは、何かにつけて我星系への口出しのチャンスを作ろうとしているわけか”そう思うと腹立たしかった。“そんなに軽く見られているとは”

結局、ミルファク星系までは、一ヶ月近い行程を行く為に三ヶ月の準備を必要とすることを連邦側に伝えた。


「ロベルト、今回の事どう思う」

「チェスター、俺には政治向きのことは分らないが、アーサー軍事統括の仰っている事は俺にも理解できる。行きたくないのは同じだが仕方ないところだ。ところでチェスター、アフロデーテ嬢とは、その後どうなった」

切りなり話の方向を変えた親友の言葉に、少し顔を赤らめると

「特になにも」

とだけ言った。

「それよりお前の方はどうなんだ。フィルモア嬢は」

ロベルトはチェスターの言葉にミリアの顔を思い浮かべると

「別に」

とだけ言った。

お互い、今だ進まないそちらの方は親友と言えど、なかなか話題にすることが出来ないのだろう。


「ロベルト、ミールワッツ星系を経由後、ミルファク星系からの航路を信じれば、

ADSM82星系、ADSM67星系、ADSM24星系を経由してミルファク星系に到着する。三三日の長旅だ。西銀河連邦の代理として行く我艦隊に攻撃を仕掛けてくることは無いと思うが、ADSM24星系以降、星系内は標準戦闘隊形をとる。私が先行する。後続を頼む」

「分りました」

そう言って、まだアンドリュー星系内にいる二艦隊は〇.〇五光速で進んで行った。

アンドリュー星系航宙軍は一艦隊で回転砲台型メガ粒子砲を持つシャルンホルスト級改航宙戦艦四〇隻、やはり回転砲台型メガ粒子砲を持つテルマー級改航宙巡航戦艦四〇隻、ロックウッド級航宙重巡航艦六四隻、ハインリヒ級航宙軽巡航艦六四隻、ヘーメラー級航宙駆逐艦一九二隻、ビーンズ級哨戒艦一九二隻、ライト級高速補給艦二四隻、ミレニアン戦闘機五二一〇機を搭載したエリザベート級航宙母艦三二隻で構成している。


WGC3048,04/01。

チェスター・アーサー大将率いる第一艦隊とロベルト・カーライル中将率いる第二艦隊、一二九六隻は、ミルファク星系へと旅立った。


チェスター・アーサー大将率いるアンドリュー星系航宙軍が出発したことは、二週間後に星系間連絡網を通じて星系外交部よりもたらされた。

「ついに出発したか」

ヘンダーソン大将は腕を組みながら言った。ヘンダーソンはキム・ドンファン中将、マイケル・キャンベル中将と他の評議会委員と共にシェルスターの中枢部政治地区ある星系評議会ビルの会議室にいた。

「キャンベル代表、西銀河連邦は、何を我星系に要求しているのです」

キャンベル中将の言葉に慎重に言葉を選ぶように

「西銀河連邦は、我星系に星系連合体を作るに至った経緯と我星系の経済力、軍事力そして、開発中の星系を公開しろと言ってきています」

「無茶な。しかし、リリ種族の事は伝わっていなかったようですね」

キャンベル中将の言葉に全員が顔を見合わせると

「もし、連邦の言う事に素直に従えばいずれADSM72,ADSM98、リリ星系とその周辺星域も知る事になるだろう。今回アンドリュー星系航宙軍を迎えるに当っては、既に我々がミールワッツ星系までいける航路を開発していることが知れているから教えたが、それ以外の星系のことは、極秘にしなければならない。星系内に“かん口令”を引く必要があります」

厳しい口調で言うドンファン中将の言葉に全員が頷いた。キャンベル代表は口を開くと

「西銀河連邦の使者を迎える為の対応は考えるとして、もう一つ重要な事があります」

全員が代表の顔を見た。キャンベルは、ゆっくりと全員の顔を見渡すと

「西銀河連邦に我星系の内情を漏洩させた者をはっきりする必要があります」

強い言葉で言うともう一度全員の顔を見た。

「本来、漏れるはずはありません」

「しかし、リシテア星系の行動には、それをする理由があったのでは」

イエンの言葉にキャンベルは、

「リシテアにその余裕はありませんでした。そして彼の目的はリリ星系からRDSD12を経由して来るリリ種族に対する対応でした。そもそも西銀河連邦への加盟など、リシテア星系レベルでは、議題にも上がらないでしょう」

その言葉に

「では、漏洩した者が我星系内にいると」

イエンの言葉に

「そうです」

と言ってイエンの顔をにらみつけた。イエンは“なんだ”という顔で見ると

二つ隣に座るセイレンが、

「イエン委員、心当たりでもありそうな顔だが」

その言葉に顔を真っ赤にして

「ふざけるな、セイレン、お前こそ漏洩した犯人ではないのか」

「何を馬鹿な事を。我星系が連邦直轄になって得るものなどなにもない。むしろマイナスだ。するはずがないだろう」

セイレンの言葉に他の評議委員が頷いた。キャンベル代表が

「クレイン諜報部長」

そう言ってドアに向けて声を掛けると星系諜報部長ダノン・クレイン少将が二人の諜報部員と更に二人の衛兵と共に入ってきた。


クレインは、チャールズとキムに“久しぶりだな”と目線を送ると、二人とも同じように返した。

「クレイン諜報部長報告を」

「はっ」

そう言って評議委員と中将以上が座っているテーブルの前に立つと

「ラオ・イエン評議委員。あなたは半年前、西銀河連邦の委員と会いましたね。プライベートな旅行と言う事で星系を出ましたが、行先が珍しい星系だったので調査させて頂きました。これ以上言う必要がありますか」

そう言って諜報員と衛兵に目をやった。

イエンは椅子を外して後ずさりするようにすると

「お前たちが悪いんだ。おれはこの星系の将来を考えて連邦に話をしただけだ」

顔を真っ赤にして言うイエンに

「“連邦直轄になったら高等弁務官にする”とでも言われましたか」

イエンをにらみつけるキャンベル代表の目は恐ろしかった。

クレインは、目配せをすると、いつの間にイエンの後ろにいたのか、衛兵と諜報部員が、一瞬にしてイエンを取り押さえた。

上から見下すように

「詳しい事は諜報部で伺いましょう。イエン委員」

そう言って“連れて行け”と言うとイエンは引きずられるように会議室を後にした。

「クレイン諜報部長、ご苦労でした」

クレインは、キャンベル代表に敬礼するとヘンダーソンとキムに士官学校時代に使っていた“後でな”という仕草をして会議室から出て行った。

「しかし、イエンめ、何ということを」

「セイレン議員、言っても始まりません。この後直ぐにアンドリュー星系航宙軍に対する対応と連邦の使節団に対する対応を話し合います」

そう言って出席者全員の顔を見渡した。


「よう、久しぶりだな。チャールズ」

「ダノン、久しぶりだ。今日は活躍だったな」

「よく言うよ。お前ら士官学校同期の出世頭に言われても嬉しくともなんともない」

顔に笑みを浮かべながらクレインは、久々に会ったヘンダーソン大将とドンファン中将に挨拶をした。

「ダノン、出世頭はチャールズ一人だ。今じゃ大将閣下だぞ」

冗談とも本気とも分らない言い回しで言うと

「止めてくれ、二人とも」

そう言って琥珀色の液体とロックアイスの入ったグラスを目の高さまで上げた。それ機にクレインとドンファンもグラスを持つとカルク“カチン”と合わせて“ぐっ”と口の中に入れた。


「ダノン、久々に会って何だが、どうだ、連邦の使いで来るアンドリュー星系軍の情報は」

「それなんだが、どうも向こうも“自分たちがなんで連邦の使いに”と思っているらしい」

「どういうことだ」

ヘンダーソンの言葉に

「これは、連邦に入り込ませている諜報員からの情報だが」

と言って、二人の顔に自分の顔を近づけると小声で

「連邦は、“漁夫の利”を狙っているようだ」

“どういう意味だ“という顔をした二人に

「つまり、アンドリュー星系軍に対する回答が不満足なら、我星系に直轄とまでは行かないまでも回答不十分と言う事で介入をする。更に連邦の役目をしっかり果たせなかったアンドリュー星系にも口実を作って介入もしくは、あの星系規模からして直轄統治に持って行こうというのが連邦の思惑らしい。どうもミールワッツ星系での騒動を面白くないと考えた“やから”が、イエンをそそのかして情報を得たと言うところが本当らしい」

「なんだと」

つい口に出た言葉をドンファンは飲み込むと

「今回の件は相当に危ない橋だ。どちらに転んでも川の中に真っ逆さまだ」

「今のことキャンベル代表は知っているのか」

「まだだ、取りあえずお前たち二人に話してから出ないとな。おれは評議会に出席できないから、今日の結果を聞いたうえで話し方を決めるつもりだ」

“そう言うことだったのか”とヘンダーソンとドンファンは納得すると、あの後、打ち合わせた連邦使節団への対応とアンドリュー星系軍に対する対応に変更を必要とすることを感じた。

「しかし、難しいな。チャールズ、特にお前は、実質的な航宙軍の最高責任者だ。判断次第では、連邦と一戦交える事になる」

「うーっむ」

と言うと考えを深くした。

結局三人はその後二時間も対応を話し合った後、明日、三人でキャンベル代表に考えを伝えに行く事で合意して別れた。


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