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西銀河物語 第四巻 ミルファクの夢  作者: ルイ シノダ
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第五章 ミルファク (1)

第五章 ミルファク


(1)

 第一七艦隊はX2JPから跳躍した新しい星系で友好的な“未知の生命体”リリ種族との接触に成功した。

ADSM72星系にあるADSM98跳躍点付近で捕獲した“謎の物体”の引渡しとリシテア星系に捕らわれているリリ種族の仲間を取り返す交換条件としてミルファク星系が開発中の“DMG”の技術と周辺宙域の星系マップを手に入れた。

これは望外の収穫であった。何より人類が“ガス生命体”リリ種族との会話に成功した事だけでもすばらしい成果である。

 ヘンダーソンは、未知の星系を“ガス生命体”につけた名前“リリ”と同じ“リリ星系”と名づけた。もちろんこの名前は、命令遂行の都合上、名付けただけであって正式にはミルファク星系の星系代表部がその権限により付ける。

第一七艦隊はそのリリ星系からADSM72を通りミルファク星系外縁部まで後一光時の位置に来ていた。

「ヘンダーソン総司令官、“リリ種族”との接触の結果報告が全て出来上がりました。確認をお願いします」

アッテンボロー主席参謀からの報告に顎を引いて“分った”という表情をすると、総司令官席を立った。

報告書は、全て総司令官公室で確認する。3Dとポップアップ説明それに付属文書だ。それだけに総司令官席で確認するわけには行かない。

総司令官の後を付いて行くシノダ中尉に、ヘンダーソンは、

「シノダ中尉、私の武官を勤めて何年になるかな」

「はっ、四年と三ヶ月であります」

「もうそんなになるのか」

ヘンダーソンは、シノダの前の武官が都合で退官した後、航宙軍士官学校のモッサレーノ准将に頼んで紹介されたシノダのことを気に入っていた。申し分がないと言ったら嘘になるだろうが、そう言っても良いほどによく仕事をしてくれた。  

それだけに自分の側にいらせてはせっかく持って生まれた才能を無駄にしてしまうと考えていた。“自分の側にいたらこれ以上のことは出来ない。航宙軍人として働く事が、シノダ中尉にとっても航宙軍にとっても良い事だ”と考えていた。

ヘンダーソンは、司令官公室で報告資料を確認し終った後、“確認”のボタンを押した。そしてデスクにあるセクレタリボタンを押すと司令官公室のドアの右側にある部屋からシノダ中尉が出てきた。

 ヘンダーソンは、シノダ中尉の顔を見ると

「報告書の確認は終わった。司令フロアに戻る」

そう言って席を立った。

司令フロアに戻るとヘンダーソンの帰りを待っていたかのようにハウゼー艦長が

「総司令官、後二時間でミルファク星系惑星軌道に到達します」

敬礼をしながら言った。ヘンダーソンは、それを聞くと総司令官席に座り、コムを口元にすると

「第一七艦隊全艦に告ぐ。こちら総司令官ヘンダーソン中将だ。我艦隊はミルファク星系惑星軌道上に後二時間で到達する。一時間後に標準航宙隊形を取り、〇.〇五光速で星系内に入る。以上だ」

総司令官の司令を聞くとハウゼー艦長は、

「通信管制官、“アルテミス9”と連絡を取れ」

「航路管制官、星系内の監視衛星に連絡。第一七艦隊は、星系下方より入り、“アルテミス9”に向かうと伝えてくれ」

「レーダー管制官。艦隊の周りにいる貨物艦や連絡艦に注意しろ」

ハウゼー艦長が星系内進宙の注意事項を改めて指示した。言わなくても分かっていることだが、改めて言うことで管制官の注意を促すのが目的だ。


ミルファク星系、首都星メンケントの上空四万キロ(正確には、三五、七八六キロ)に浮ぶシェルスターでは、リシテア星系から帰った第一九艦隊総司令官キム・ドンファン中将と共にナオミ・キャンベル評議会代表が評議会ビルの会議室で評議員を前にリシテア星系での結果を報告していた。

「評議委員の皆さん、以上が今回のリシテア星系訪問の結果です」

誇らしげに言うキャンベル代表の隣に座るラオ・イエンが“この功績は自分の案を代表に提案したからだ”と、さも自分の手柄のような顔をしていた。

ダン・セイレンは、一度は見捨てたイエンの自慢げな顔が気に入らなかった。“お前が上げた功績ではない。代表が行って上げた功績だ”腹の中でそう思いながらキャンベルの報告に耳を傾けていた。

「なお、リシテア星系の訪問団の到着と同時にビルワーク星系とアルファット星系からも代表団を招き、ミルファク星系の力を示してあげましょう」

言葉を切って評議委員の顔を一通り見るとイエンが拍手を始めたのをきっかけに他の委員も拍手を始めた。イエンは

「キャンベル代表、すばらしい成果です。私の案がこれほどうまく行くとは思いませんでした」

他の委員の顔を見ながら誇らしげに言うと

「ラオ・イエン委員、あなたは何か勘違いしていませんか。ミールワッツ星系攻略の失敗の責任は大きく、今回のリシテア訪問に対しても案はあなたが出しましたが、実際にビルワーク星系とアルファット星系との交渉をしたのは、星系交渉部です。勘違いしないように」

そう言ってキャンベルは、威圧するようにイエンの顔を見ると、イエンは首から上を真っ赤にしながら下を向いた。

 その姿見たセイレンは、“ざまあみろ。黙っていれば良かったものを、功を急いで失敗するいい例だ”と腹の中で笑った。

「リシテア星系の報告はここまでですが、もう直ぐ、第一七艦隊がすばらしい報告をミルファク星系に届けてくれるようです。楽しみにしていましょう」

そう言って評議会を終わらせた。

評議委員全員が会議室を出るのを見計らってドンファン中将が会議室を出ようとするとキャンベルが声を掛けた。

「ドンファン提督、もう直ぐ第一七艦隊のヘンダーソン提督が戻られます。ヘンダーソン提督も多大な功績を挙げたようです。報告を待ってお二人に“ミルファク星系第一等功労賞“を授与したいと思います。今回は本当にご苦労様でした」

そう言って、ドンファンの顔を見た。

「“ミルファク星系第一等功労賞”ですか。ありがとうございます」

そう言ってドンファンはキャンベルに敬礼をした。

“ミルファク星系第一等功労賞”は、星系に多大な功績を上げた人に贈られる賞だ。通常は大将が退官する時に授与されるのが普通であり、任官中の軍人それも中将レベルでもらえるわけではない。ドンファンは“なぜ自分が”と思いながら“代表の功績に色を付けるためか”そう思うとあまり感激するものではなかった。

“だがヘンダーソンは違う。あいつは自ら立てた功績だ。帰ったらうまい酒でもおごってやるか”そう考えて、少し目元が緩むとキャンベルは、ドンファンが喜んだと勘違いして

「喜んでくれて私もうれしいです」

キャンベルンもほほ笑むと会議室を後にした。


第一七艦隊は、“軍事衛星アルテミス9”を目の前にしていた。

「アルテミス9宙港管制センター、こちら第一七艦隊総司令官ヘンダーソン中将。入港許可を申請する」

少しのラグの後、

「こちらアルテミス9入港管制センター。第一七艦隊の入港を許可する。各艦は、各層の宙港管制センターの指示に従い入港せよ」

やがて、第一七艦隊は各クラスの艦艇毎に各層へ動いた。

軍事衛星アルテミス9は第一七艦隊と第一八艦隊の衛星基地だ。直径一〇キロ、厚さ四キロの円盤形をしており、上下に円盤を二キロで区切り上半分が第一七艦隊基地、下半分が第一八艦隊基地である。

軍艦艇は円盤の上部外縁から順に戦艦、航宙母艦が第一層、巡航戦艦、重巡航艦が第二層、軽巡航艦、駆逐艦が第三層、四層そして第五層、六層が哨戒艦、特設艦、工作艦、輸送艦、強襲揚陸艦のドッグヤードになっている。

「アルテミス9第一層宙港管制センター。こちら第一七艦隊旗艦アルテミッツ。入港許可を申請する」

「こちらアルテミス9第一層宙港管理センター。誘導ビームに従い第一番ドックヤードに入港してください」

「こちら第一七艦隊旗艦アルテミッツ。了解しました。誘導ビームに従い第一番ドックヤードに入港します」

アガメムノン級改航宙戦艦アルテミッツが、第一番ドックヤードを正面に見える位置に来ると、ヤード側から照射した誘導ビームがアルテミッツの艦前部にあるアクセプタに接続した。そして誘導ビームに従いその巨体が、ゆっくりとドックヤードに進んで行った。

ドックヤードに侵入し接舷すると、艦体を包んでいる巨大なドームの後ろが閉じた。続いてロックランチャーが艦の周りのリンクホールをロックすると艦体が、静かに少し下に動いた。

「アルテミッツ。ランチャーロックオン。ゲートロック」

やがてドックの中に空気が充満すると

「エアーロックオン」

という管制官の声と共に艦体を包んでいたドームのアルテミス9側が開いた。

スコープビジョンが白くなり、何も映さなくなるとハウゼー艦長が後ろ向いて

「アルテミッツ、アルテミス9に帰港しました」

言いながら第一七艦隊司令官へンダーソン中将に敬礼をした。答礼するとヘンダーソンは、

「ご苦労」

そう言って少し目を緩ませた。それを見てハウゼー艦長は艦橋の各管制官側に体を戻し

「各管制官、ファイヤープレイスロック。ダブルチェック。コントロールをリモートにして宙港管制センターに戻せ」

その声を聞くとヘンダーソンは総司令官席を離れ艦橋を後にした。すぐに後にシノダ中尉が続く。

ヘンダーソンは、アルテミッツを降りると、直ぐにシノダ中尉に

「シノダ中尉、ウッドランド大将の元へ報告に行く。直ぐに連絡艇を手配してくれ」

と言うと

「はっ」

とだけ言って敬礼をし、直ぐに手持ちのパッドからシェルスターへ行く連絡艇を確認した。


シェルスターの航宙軍ビルに行くと衛兵がヘンダーソンの顔を見るなり緊張した面持ちで敬礼をした。ヘンダーソンは答礼をすると、直ぐに軍事統括のオフィスへ足を運んだ。

「ヘンダーソン中将、報告は前もって読ませてもらった。しかし、にわかに信じがたい。“ガス生命”とは」

「ウッドランド大将、私も始めは信じられませんでした。しかし、彼らは存在します。ただ、なかなか理解しがたいものです。その目でご覧頂いたとしても」

「君が嘘をついているとかではなく、評議会の連中が信じるかだ」

ウッドランドは、眉間に皺を寄せ難しい顔をすると

「とにかくキャンベル代表には、報告しなければならない。君からの助言が必要だ。報告の時間が決まったら連絡する」

「はっ」

と言って敬礼するとウッドランドのオフィスを出た。ヘンダーソンは、少し後ろを歩くシノダ中尉に

「シノダ中尉、疲れているだろうが、キャンベル代表の報告までがんばってくれ」

「お気遣いありがとうございます。しかし、自分は、体力がまだ十分余っています。提督こそ無理しないで下さい」

そう言って、本当に心配そうな目で見る中尉に

「ありがとう。ところで相談があるのだが」

エアカーに乗りながら言うヘンダーソンになんだろうと思いながらフロントパネルにあるシェルスターの宙港のマークにタッチすると次の言葉を待った。

「シノダ中尉、私の元から離れてはどうかね」

シノダは、心臓が飛び出しそうになった。“何か落度があったのだろうか。振返っても、思い当たらない。まさかワタナベ少尉の事で”自分は解雇されるのかと思って、いきなり後ろを振向くヘンダーソンの顔を見て

「提督、私に何か至らないところがあったら治します。申し訳ありません」

そう言って少し言葉を切ると

「僕は、航宙軍士官学校を卒業以来・・」

「待った、待った」

シノダ中尉の言葉を切るように

「シノダ中尉、勘違いしないでくれ。私の本心は、中尉が私の側にいてくれるのが一番だ。しかし、四年間の間、中尉を見てきたが、私の武官として終わらすには、中尉はあまりにも有能だ。だから、航宙軍のそれなりのポストでミルファク星系のために君の能力をもっと発揮してほしいんだよ」

「しかし、それでは提督が」

「おいおい、私は中将だぞ。武官はまたモッサレーノ准将に頼む。君を見つけた時と同じようにな」

笑いそうになりながら仕事を超えて本当に自分の事を考えてくれているシノダの顔を見ると、心の中でほんの少し風が流れた。

シノダは言葉が出なかった。ヘンダーソンの言葉を聞いた後、狭いエアカーの中で敬礼すると前を見た。


結局、それから二日後にキャンベル代表への報告が終わると、シノダは二週間の休暇をもらえた。もちろんシノダだけではない。“未知の生命体”の発見の責任を取らされ・・本来、本末転倒だが・・その接触の為に遠征した第一七艦隊であったが、今回の功績により将官を含め全員に二週間の休暇が与えられた。

もっとも同じ期間と言うわけにはいかず、八〇〇〇人以上の将兵の調整をした艦隊本部の連中の涙ぐましい努力は認めるが。

 そんな中で、シノダは、ワタナベと一週間の二人だけの時間を作る事が出来た。

「ルイ、嬉しいな。二人でこんな時間取れるなんで夢にも思わなかった」

「うん、僕も、ヘンダーソン提督が、二人の為って言って用意してくれたんだ」「えっ、提督が。何で私たちの事を」

惑星間連絡艇“ゆるり”のファーストクラスでシノダの隣で座っているワタナベ少尉は、大きな目で驚いた顔をすると

「僕も驚いたよ。でもマリコ覚えている。初めてアルテミッツの艦内案内を任された時のこと。僕もアッテンボロー主席参謀から聞いたとき、呆れたと言うか、嬉しかったと言うか、何のともいえない気持ちだった」

一息をつくと

「あれは、ヘンダーソン中将が、アッテンボロー主席参謀の提案で、僕に誰かをという話になって、カワイ大佐に話を持って行ったら、側にいたオカダ中尉が、“パープルレモン”のことを話したらしいだ。後はマリコも知っている通り」

少しの時間の後、マリコは一言

「今度アッテンボローに会ったら、絶対頬をつねってあげる」

「なんだそれ」

「顔殴るわけにもいかないし。頬だったら、痛いけど笑い話で済ませられるし」

「まいったな。マリコには」

そう言って、隣に座るマリコの少しだけ桜色に染まっている頬に手を触れた。

“ご搭乗の皆様、ゆるり八号は、後三〇分で惑星レベンに到着します。

ご搭乗ありがとうございました」

マリコは、アナウンスの後、本当にルイと二人だけで過ごせる七日間を心が浮き上がるほどに楽しみにしていた。

シノダは、ワタナベのそんな顔を嬉しくてしょうがなかった。髪の毛を左手で触ると

「マリコ」

と一言だけ言った。


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