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西銀河物語 第四巻 ミルファクの夢  作者: ルイ シノダ
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第四章 新たな遭遇 (6)

第四章 新たな遭遇


(6)

「“何をする為にここに来た。我々の世界に何のようだ。お前たちは、我々を苦しめる。出て行け”」

ヘンダーソンは、シノダとアッテンボローにこの通信文を送った。

「これは」

アッテンボローの言葉にハウゼーは、

「信号に言語技術官が翻訳を加えたものです」

「どういう意味でしょう。“我々を苦しめる”とは」

アッテンボローの言葉に返答も出来ないままにスクリーンパネルを見ているヘンダーソンとアッテンボローに

「中将、意見具申を許可願いします」

声の方向に目を向けるとシノダ中尉がオブザーバシートを立ち、起立の姿勢で立っていた。

ヘンダーソンは、シノダ中尉の顔を見ると

「意見具申認める。なにか」

「はっ、“未知の生命体”は、既に我艦隊より先に交戦経験があると思われます。ゆえに、“我々を苦しめる”と言ったのではないでしょうか。見る限り彼らは、ADSM98とは別の生命体と考えます。なにより彼らの艦には、攻撃用の武器が搭載されていません。彼らを襲ったのは、我々と同じ“人類”である可能性が高いと思います。我艦隊を見た時、このメッセージを送ってきたのは、それが理由と考えます。但し、彼らが襲われたのは、この星系ではないと考えます」

「どういう意味だ」

ヘンダーソンの言葉に

「彼らは今見えているX21JP、X22JPのいずれかの方向に進宙し、人類に襲われたのだと考えます」

「なんだと、つまり中尉の考えでは、あの二つの跳躍点のいずれかが、人類が生存する星系につながっていると言うのか」

「はっ、そう考えるのが理にかなっていると。なぜならばこの星系は綺麗です。もし、人類の艦隊が、武器を持たない彼らの住むこの星系に既に進宙していたならば、もっと荒れている、いや征服されていたかもしれません」

ヘンダーソンもアッテンボローもシノダの意見に考え込んだ。

「総司令官、彼らにこちらからメッセージを送ってはいかがでしょうか」

「どのような」

そう言ってヘンダーソンは、シノダの顔を見た。

シノダの提案したメッセージは、言語技術官によって、複数の信号に変換されて第六惑星に向けて発信された。

それから、一時間後、

「総司令官、返信がありました」

司令フロアが色めきだった。

「交信が出来たのか。直ぐに変換した通信を送れ」

「はっ」

というと直ぐにスクリーンパネルにタッチした。

「これは」

「総司令官、間違いありません。リシテア星系軍です。彼らはリシテア星系軍と接触したと考えられます。但し、見る限りこの映像に映る星系はリシテア星系ではありません」

「つまり、リシテア星系軍が“広域航路探査”の時に、彼らは遭遇し攻撃されたと言うのか」

「そう考えるのが妥当と考えます」

アッテンボローの考えにヘンダーソンは、眉間に皺を寄せた。


「総司令官、こちらの映像は見ましたか」

ハウゼーの声に、ヘンダーソンはスクリーンパネルに映る星系の隣にあった映像にタッチすると

「なんだ、これは。これがやつらの姿か」

「いえ、よく見るとリシテア星系航宙軍の軍服のようです。彼らは、リシテア星系の軍人を模造したのかと思います」

「しかし、この色は」

ヘンダーソンのスクリーンパネルが映し出す映像には、リシテア星系軍の軍服らしきものに青白い人間の形をした人形のようなものが映っていた。

その人間もどきが喋っていた。

「“我々の星系から出て行け。死ぬぞ。出て行け”」それを繰り返しているだけであった。

「ハウゼー艦長、これを彼らに送ってくれないか」

更に一時間後、

「形とはなんだ。お前たちの言っていることは分からない。我々はお前たちと違う」

「総司令官、第五惑星付近の艦隊が、こちらに向ってきます。数およそ三〇〇。

航宙駆逐艦クラス二〇〇隻、航宙軽巡航艦クラス五〇隻、航宙重巡航艦クラス五〇隻です」

ハウゼー艦長の報告にヘンダーソンはコムを口元に置くと

「全艦に告ぐ。こちらヘンダーソン総司令官だ。“未知の生命体”の艦隊が、こちらに向ってくる。第一級戦闘隊形を取れ。フォーメーションはデルタフォーだ。前方に航宙戦艦と巡航戦艦を配置しろ。但し、絶対に命令あるまで発砲するな。以上だ」

ヘンダーソンの命令に前方と側面に傘のように展開していた哨戒艦が、前方制御スラスタを吹かすと、前進体制を取っていた中央の艦隊が前方に出た。

更に後方に布陣していたアガメムノン級航宙戦艦とポセイドン級航宙巡航戦艦がその巨体を前面に押し出した。“未知の生命体”が使うDMG分子分解網に対抗する為だ。

「特設艦は、航宙戦艦の間に布陣しろ」

ヘンダーソンは、装甲の厚い戦艦を盾にして、こちらもDMGで対抗しようと考えた。


A1G、A2G、A3G、A4Gがそれぞれ航宙戦艦、巡航戦艦を前面に押し出しながら三角形の隊形を縦横に布陣させると前進を停めた。

「総司令官、敵艦、進宙を停めました」

「なに」

スコープビジョンには、第一七艦隊の前方三〇〇〇万キロの宙域で進宙を止めた艦隊が映し出されていた。

「主席参謀、どう思う」

「進宙を停めたということは、少なくとも我々と戦闘する意思は、今は無いと考えます。もう少し彼らに呼びかけてみてはいかがでしょうか」

「うむ」

「総司令官、信号入りました。第六惑星からです」

「“お前たちが捕らえている我々の敵を渡せ”」

「何だと。どういう意味だ」

「言語技術官、トランスレーション。電文は“これはお前たちと同じ種族ではないのか”直ぐに送れ」

ヘンダーソンの命令に言語技術官が素早く信号変換すると

「“ちがう、我々の敵だ。渡せ”」

「言語技術官。トランスレーション」

ヘンダーソンは、彼らが少し見えて来た気がした。

「“我々は、人類という種族だ。お前たちの敵は、我々にも敵だ。お前たちを襲った人類は、我々とは違う”直ぐに変換して送れ」

言葉を単語単位で切るように伝えさせると少し空白の時間が出来た。

「総司令官、信号です」

「“人類”、我々はお前たちのような固体を持たない。意思が全てだ。我々はどこにいても同じだ。何故ここに来た」

「総司令官、今までとは違う感じです」

主席参謀の意見に顎を引いて“うむ”と言うと

「言語技術官、トランスレーション。“我々は、お前たちと友好関係を結びに来た”送れ」


長い時間が掛かった。どの位か分らないが、第一七艦隊の誰もが、“敵艦隊が直ぐに襲ってくるのではないか”という緊張と第六惑星と総司令官の会話の内容に注目した。

“未知の生命体”の艦隊も第一七艦隊もスラスタを吹かせながら現宙域を維持している。

「アッテンボロー主席参謀、ハウゼー艦長、“捕獲した物体“を我々の星系に持って行くということは、好戦的な”未知の生命体“を連れて行くようなものだ。彼らに引き渡そう。その代償として、我々がまだ研究中のDMGの技術をもらおう」

少しの沈黙の後

「総司令官、賛成です」

そう言って、ハウゼーとアッテンボローはヘンダーソンの顔を見た。

「しかし、リシテア星系に対しては、交渉する必要があるようだな」

ヘンダーソンは、キャンベル星系代表がリシテア星系を屈服させたことをまだ知らなかった。

「総司令官、特設艦より連絡が入りました。“DMGの技術設計情報”を手に入れたそうです。その中に彼らと我々の“言語変換テーブル”が一緒に入っていたそうです」

「なに、どういうことだ。何故かれらは、我々の言語を知っている」

「リシテア星系軍と交戦した時に捕まえた捕虜から情報を得たのではないでしょうか。他に彼らが得る情報は無いようなので」

ヘンダーソンはアッテンボローの意見に少し考えると

「そのテーブルは、今すぐ使えるか」

「はっ、既に言語技術官に調査を依頼しています」

二時間後、言語技術官から連絡が入った。

司令フロアの総司令官シートの前に3D映像で映る言語技術官は、直立の姿勢で敬礼をしながら緊張した面持ちだった。

「ヘンダーソン総司令官、言語トランスレーションのリンクに成功しました。今総司令官のスクリーンパネルにあるリンクボタンを押してお話頂ければ、彼らと直接話せます」

敬礼している腕は下ろしたものの緊張したままの顔の言語技術官に

「ご苦労、よくやってくれた」

そう言うとヘンダーソンは直ぐにリンクパネルを押した。

「私は、ミルファク星系航宙軍第一七艦隊総司令官チャールズ・ヘンダーソン中将だ。我々がここに来た目的は、君たちと友好的に双方に利益のある関係を結びたい。君たちの仲間がリシテア星系に捕らえられている事については、我々が君たちの仲間を君たちへ引き渡すよう交渉しよう。リシテア星系航宙軍と接触したのはどこか教えてくれ。そして最後に、君たちは何者だ」

ヘンダーソンは今までのストレスを吐き出すかのように一気話すとコムを口元から話した。


少し間があった。三〇分後、

「お前たちの言葉とやらに理解できないところがあるが、お前たちが我々の敵でないことを分った。我々は、お前たちのように固体を持たない。形というものもない。我々の種族は、ガンシュントレイ宙域一体の星系にいる同一体だ。我々は攻撃をしない。自分を守るだけだ。だが、一部の独立した体が、お前たちの攻撃の武器を操り、お前たちに攻撃を仕掛けている。お前たちを敵と見なして。リシテア星系航宙軍とは、お前たちから四光時の位置ある“インスター”から移動した時に接触した。彼らは、いきなり攻撃を仕掛けてきた。我々は仲間を取り戻す為、何度も彼らの星系に行ったが、我々に理解できないもので我々の進宙を妨害した。我々を助けてくれ。お前たちがこの言葉を理解できる事を期待する。我々にお前たち人類と同じような名前は無い」

司令フロアは、静かだった。なにも言えなかった。

「総司令官、我々は、初めて“未知の生命体”との会話に成功しました。これは人類にとって大きな進歩です」

顔を紅潮させて言う言語技術官は、“信じられない”という面持ちだった。

「名前が無いと人類は会話に困る。言語技術官、彼らが理解できる“名前”を付けられないか」

「はっ」

うれしそう顔をして言語技術官は敬礼すると3D映像から消えた。

「主席参謀、首都星メンケントに“我々は友好的な未知の生命と接触、いや会話に成功した”と伝えてくれ。それとDMG技術の取得とリシテアの件もな」

「はっ」

アッテンボローもうれしそうな顔をして、スクリーンパネルの星系間連絡手段である“高位次元連絡網”のボタンにタッチした。


それから、六時間後、ADSM72で捕獲した“物体”を未知の生命体“リリ”に渡すと第一七艦隊はADSM72星系跳躍点方面に転進した。

直接リシテア星系にRDSM12を経由してリシテア星系に行き“リリ”種族の仲間を取り戻したかったが、補給物資のことを考えると断念した。ヘンダーソンは、“リリ”種族に必ず取り戻すと約束すると一度ミルファク星系に戻ることを決めた。

ガンシュントレイ宙域は、人類が規定したノーマ宙域の最端部一帯である。ADSM98星系、ADSM72星系より更に外側で、銀河系の外宇宙に接触する宙域だ。ヘンダーソンたちが、後に発見する未開の三つの星系が存在する。更にその外側には、広大な闇が広がっていた。


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