第四章 新たな遭遇 (5)
第四章 新たな遭遇
(5)
「X2JPまで、後〇.五光時です」
ハウゼー艦長からの定時報告に顎を引いて“分かった”という表情を見せるとコムを口元にして
「全艦に告ぐ。こちら総司令官ヘンダーソン中将だ。これからX2JPに行き,新たな“未知の生命体”との接触を試みる。ADSM98にいた“未知の生命体”とは違うと思いたいが、前回の事もある。X2JPまで五〇〇〇万キロまで迫った段階で第一級戦闘隊形を取る。その後の対応は相手次第だ。気を緩めることなく自分の仕事に当ってくれ。以上」
そう言って、コムから外すと心の中で“もし、今回も先と同じ様に“好戦的”な種族で有れば、今回の派遣は失敗と言わざるを得ない”そう考えると心の中が複雑だった。
「X2JPまで、五〇〇〇万キロです」
ハウゼー艦長の声にヘンダーソンは
「全艦、第一級戦闘隊形、〇.一光速で進宙。A1GとA3Gの哨戒艦と駆逐艦先行させ、X2JP跳躍点方面監視衛星の記録映像をすぐに旗艦に送れ。A3Gレイリア隊を発進させろ。以上だ」
ヘンダーソンの指示が終わるとハウゼー艦長は、
「全艦、X2JPに三〇〇〇万キロまで迫ったら前方防御シールド最大」
「攻撃管制、敵艦攻撃走査を最大」
「慣性航法、位相慣性システム確認」
「航路管制、進路確認」
「レーダー管制、進路方向イレギュラーないか。後方も注意」
「跳躍点周辺宙域走査最大」
次々と指示が出された。
やがてレイリア隊が先行して監視衛星宙域まで到着すると監視衛星の周辺三〇〇〇万キロのデブリに潜んでいた一〇〇メートル程の長さと四本足、前後円錐が独特の形状の“謎の物体”が突然その姿を見せた。
一機、二機ではない。いきなり四機もの物体が現れた。
「ジュン、サリー、変則飛行」
頭の思考を乗機レイサにも伝えると三機は、一体となって、上下左右に動きながら“謎の物体”が潜んでいた岩礁宙域へ進んでいった。
「総司令官、やはりいました」
アッテンボロー主席参謀が指さすスコープビジョンの左前方のスコープが拡大モードになるとデブリの中に、質量差を伴う岩礁が四個程点在していた。旗艦アルテミッツからX2JP方向三〇〇〇万キロ手前の位置だ。
「今、レイリア隊が、急行しています」
主席参謀の声にヘンダーソンは頷きながら、左前方に拡大モードで映し出されるスコープビジョンを見ていた。
「ユーイチ、気を付けて。前の事もある」
カワイは、自分と一体に近いほどになった右舷後方三〇〇メートルにいる無人アトラスジュンからの連絡を心地よく受けていた。
「解っている。いくぞ、ジュン、サリー」
「はい」
「はい」
三機一体の特殊戦闘偵察隊レイリアの隊長カワイ大佐は、四個の内の一個に急行していた。他の三個は、一個当り三機一体二編成で一個の岩礁に向かっている。
「ユーイチ、居た左舷一〇度、距離一〇〇万キロ」
人間の五感より早く反応する無人アトラス、サリーは、岩礁一〇〇万キロ手前で岩礁にへばりつくようにしている“物体”を発見した。
乗機レイサとジュン、サリーは、上下左右に変則的な動きをしながら岩礁に近づいて行った。焦点を絞らせない為の方法だ。やがて五〇万キロまで近づくと“物体”は、岩礁から離れた。
カワイは、以前の事も有り“オールビュースクリーン”に映る“物体”をヘッドアップディスプレイで補足しながら反攻出来るように構えてみていると岩礁から離れた“物体”は、カワイ達の方向には向かわず、反対のX2JPへものすごい速度で飛び去った。
“しかし、あの速度では、生命体がなかにいないというのも頷けるな”そう思いながら、今飛び去った“物体”がいた岩礁を見ていた。
「総司令官、四つの“物体”全てがX2JPの中に消えました。どういうつもりでしょうか」
主席参謀の言葉に自分でも相手の行動の意味が見えないヘンダーソンは、スコープビジョンに映るX2JPの姿を見ながら眉間に皺を寄せていた。
「首席参謀どう思う」
「はっ、ADSM98の時のような攻撃的な行為に出ない理由は分かりませんが、少なくとも我々を攻撃する意図は無いようです。それとも我々の行動を監視して勝てる相手ではないと考え逃げたか」
首席参謀の考えに一理有ると考えたヘンダーソンは、少しの時間の後、コムを口元にして
「全艦に告ぐ。こちらヘンダーソン総司令官だ。このままX2JPへ突入する。これから先は何があるか分からない。跳躍点から出た後、直ぐに戦闘出来るようにしろ」
「艦長、跳躍点の調査内容を見せてくれ」
「はっ」
ハウゼー艦長は、ヘンダーソンの指示を受けるとすでに、指示を出していた各管制官からの報告をヘンダーソンに送った。
「総司令官」
敬礼をして声を掛けると
「重力磁場、レギュラーアンセントレーションです。重力磁場周辺の磁力線の強さから跳躍距離は六〇〇から八〇〇光年と想定します」
「六〇〇から八〇〇光年、少し長いな」
ヘンダーソンは、ハウゼー艦長の報告に、自問するように言って少し考えるとハウゼーの艦長を見て
「わかった」
と言った。
「X2JP跳躍点まで、あと三〇秒です」
三〇秒後、第一七艦隊は、まだ、全く未知数の星系に続く跳躍点に突入した。
スコープビジョンが、一瞬にして灰色になった。いつものように時折、光が流れるように過ぎていく。
「航法管制、位相慣性システム状況を示せ」
「航路管制、イレギュラー無いか」
「通信管制、ノイズ分析急げ」
ハウゼー艦長は、跳躍空間に突入後、定時報告の確認を指示した。位相慣性航法が開発されてから長い月日が経っているが、未知の跳躍空間に突入するのはあまり気分がいいものではない。“今までの理論がもし通用しなかったら”と思うと“ぞっ”とする。
今回の跳躍は、星系の位置、跳躍点そして重力磁場の強さからとんでもない方向へ飛ばされることは無いと判断しての行動だ。通常は“広域航路探査派遣艦隊”の役割だ。新しい鉱床をもつ星系とそこまでの航路の開発をするために派遣される艦隊の役割だ。
今回はイレギュラーだが、今回の航宙目的が“未知の生命体”との接触であるから仕方ない。
「艦長、私は自室で少し休む。何かあった連絡をくれ」
ヘンダーソンはそう言って、席を立つとシノダ中尉も少し遅れて席を立った。総司令官の後について、司令フロアを出て少し後ろを歩いていくと
「シノダ中尉、跳躍空間に入れば出るまで我々にはあまり用はない。跳躍空間を出たら忙しくなるだろうからそれまでは、よく休んでいてくれ」
そう言って、“もう自由にしてよい”と目で言うと、司令官室へ歩いていった。
六日間何も無かった。ただ灰色の空間と時々流れる光の帯がスコープビジョンに映し出されるだけだ。
ヘンダーソンは毎日定時に総司令官シートに付き、艦隊の補給状況や先の戦闘での損傷艦の修復具合、各物資の残量値を確認するだけだった。
本来は、定時報告でそれらは報告が自分のスクリーンパネルに来るが、何もすることが無いので自分から意図的に見に行った。と言ってもパネル上の確認だけだが。
シノダ中尉は、何も無いと言っても、中将付武官の立場上、常にヘンダーソン総司令官のそばにいなければならない。
常に中将の行動を見つめて早回りして動かなければならない。ワタナベと会いたくとも出来ない状況だ。ワタナベ側では跳躍空間は、レーダー管制官には結構暇な時間だったが。
「総司令官、跳躍空間距離の計算が終わりました。位相慣性システムが割り出した計算では、全行程七日間です。後一日ででます」
「後、一日」
ヘンダーソンは、ハウゼー艦長からの報告に、思ったより短いなという感覚が有った。頭の中で八日間以上という算段も有ったからだが。
一日後、
「跳躍空間でます」
航路管制官の声と同時にスクリーンビジョンが一斉に映像を映し出し始めた。
「レーダー管制、アルファ〇-180、ベータ90-270、ガンマ90-180走査最大。宇宙機雷に気をつけろ」
「攻撃管制システム、敵艦管制集中」
「航路管制、進路方向に障害物無いか」
ハウゼー艦長の声に各管制官が必死に自分の仕事をしている。初めての星系だ。万一にもイレギュラーを見逃さない為に全員が必死だ。
旗艦アルテミッツ最大走査範囲一四光時のレーダーと光学センサーが次々と初めて来た星系のマップを表してきている。
「宇宙機雷ありません」
「進路方向に障害物ありません」
「攻撃管制システム、敵艦認識しません」
ヘンダーソン、アッテンボロー、シノダ、ハウゼーもが始めての星系に食い入るように見つめていた。
「艦長、全艦跳躍空間から出ました」
管制官の声に、ハウゼーは自分に戻ると
「総司令官、全艦跳躍空間から出ました」
と報告した。
先の“未知の生命体”との戦いで大破、中破と判定された艦艇も航宙中、特に跳躍空間の中で修復に励んだおかげで、自艦航行できるまでに回復していた。
アガメムノン級改航宙戦艦三二隻、ポセイドン級航宙巡航戦艦四八隻、アテナ級航宙重巡航艦六四隻、ワイナー級航宙軽巡航艦一二八隻、ヘルメース級航宙駆逐艦一九二隻、アルテミス級航宙母艦三二隻、ホタル級哨戒艦一九二隻、タイタン級高速補給艦二四隻そして特設艦四〇隻が、人類にとって始めての星系にその姿を現した。
「総司令官、この星系は」
アッテンボロー主席参謀も何回もの“広域派遣”を経験している軍人だ。そのアッテンボローも今回の星系の様子は初めてだった。
レーダーから映し出された3Dのマルチスペクトル分析スコープビジョンに映る星系の様子は、中心に青白く光る恒星があり、恒星から二光分の位置に小さな第一惑星、五光分の位置に第二惑星、一〇光分の位置に前二つの惑星より大きく、衛星を一つ持つ第三惑星、そしてこれも衛星を一つ持つ第四惑星が一五光分の位置にあった。
そして今までの四つの惑星とは比べ物にならない大きさの惑星が、一.五光時に一つ、二光時に一つ、そして四光時と七光時に更に一つずつあり、第五惑星には衛星が三つ、第六惑星には衛星が五つ有った。
ここまでは、普通の星系の様子だ。しかし、全員が目を見張ったのは、この第五惑星と第六惑星が、あの“謎の物体“の中にあった黒い箱から出ていた青白いシールドガスで覆われていたのである。それもつながれる様に。そして星系全体が、青みがかっている。恒星の色のせいだろう。
「これは」
少しの静粛の後
「まずいな。青白いシールドガスは、好戦的な“未知の生命体”から捕獲した“物体”の中にあった箱から出ていたものと同じだ。誘い込まれたか」
主席参謀の言葉に、全員が声を出せないでいる。
「艦長、左舷、惑星軌道水準面下方四光時の位置に跳躍点。更に左舷、前方惑星軌道水準面下方八光時の位置に跳躍点」
高性能レーダーが新たな跳躍点を捉え、スコープビジョンに“X21JP”と“X22JP”と表示していた。
第一七艦隊が出てきた“X2JP方面”跳躍点と星系との間には岩礁の帯となる“カイパーベルト”がある。星系まで、まだ二光時の位置だ。
「第五惑星、第六惑星周辺に艦艇あり。攻撃管制システム反応しません」
「どういうこだ」
「あの艦艇群は、粒子砲やミサイルの攻撃システムを持っていません。攻撃管制システムが、反応しないのは、そのためです」
通常、敵艦に攻撃システムが存在する場合、自艦の攻撃管制システムは、敵艦からの攻撃に対する防御と攻撃を提示する。今回は、敵艦からの攻撃に対する防御提案が無いのだ。
「あれは、全て輸送艦とでもいうのか」
分らないままに第一七艦隊は、“X2JP方面跳躍点”の前に布陣したままであった。
一時間後、ヘンダーソンは、A1G、A2G、A3G,A4G各グループの将官と参謀そして陸戦隊のローラ・アシュレイ少将と今後の行動について話し合った。
「ヘンダーソン総司令官」
司令官公室の3D映像に映るA2G旗艦プロメテウス司令官マイケル・キャンベル少将は、声を出すと他の将官の顔も見て、
「このまま、ここにいても埒が明きません。このまま進宙し“カイパーベルト“を越え、第五惑星と第六惑星の中間点一光時手前で相手の出方を見たらどうでしょうか」
「しかし、無防備に近づいても、いらぬ攻撃を受ける可能性もある。“カイパーベルト”の外で相手の出方を見るのも得策と思うが」
A3G、アティカ・ユール准将の発言に
「二人の案では消極的過ぎる。ここまで来たんだ。第五惑星と第六惑星の近くまで行き、交信をしては、いかがでしょう」
女性ながら二メートルを越える巨体にGIカットのゴリラと見間違えるほどの体を乗り出して言う陸戦隊司令アシュレイ少将の意見に
「早すぎるは、いらぬ痛手を生む。ここは慎重に行くべきだ」
A2Gのキャンベル少将は反論した。
ヘンダーソンは、将官の意見を聞きながら判断が付かないでいた。
「シノダ中尉。アレッジ技術官とクレア技術員を呼んでくれ。彼らの意見も聞きたい」
五分後、3D映像に二人の姿が現れた。第一七艦隊の将官クラスの会議に列席するなどありえないことだ。二人は、緊張した面持ちで敬礼をすると
「ヘンダーソン総司令官。お呼びでしょうか」
「アレッジ技術官、“捕獲した物体”の中で見つかった黒い箱からでる青白いシールドガスの事を説明してくれないか」
「分りました」
敬礼を止め、アレッジ技術官はシノダ中尉の意見も取り入れながら、他の将官に自分の考えを説明した。
「ガス生命体」
アシュレイ少将が、目の回りそうな声で言うと
「じゃあ、どうやって戦うんだ。相手がどこにいるか捉えられないではないか」
さすがに、他の将官が口元を緩めたが、真面目に言う少将に自分の意見も出せず全員が困惑していた。また少し沈黙が続いた。
やがて、
「ここにいても何も進展しないのも事実だ。目の前の世界は我々にとって全くの未知数だが、それだからこそ意味があるかも知れない。それに即戦体制で進むのもよいが、それでは我々が戦いをするために来たと思われてもしかたない。
よって、ここから先は標準航宙隊形で進む。カイパーベルトの上を通り第六惑星の一光時手前まで進宙後、こちらから呼びかけを行う。我々の言葉では通じないかもしれない。我艦隊の言語技術官からの呼びかけも行う。今から三〇分後、一一〇〇時に進宙を開始する。以上だ」
ヘンダーソン総司令官の言葉に、考えも無かった将官たちは頷くと、敬礼をしながら3Dが消えた。
“言語技術官は、宇宙に存在する人類外の生命体との意思を疎通する為の手段を研究してきた技術者だ。今までは意志の疎通の相手はどのような形状であれ、固体であった。今回は、シールドガスというまさに“雲を掴む”話だ。どうなるかは分らない。ただこれは人類にとって大きな価値かも知れない”そう思いながら発進の時間が来るのを待った。
一一〇〇時、
「全艦発進」
標準航宙隊形で発進した第一七艦隊は、カイパーベルトを越え、第八惑星を左舷下方に見ながら第七惑星付近まで来ていた。
青白い星系。第一惑星から第四惑星までは水色や赤色のどこにでもある惑星だ。しかし第五惑星と第六惑星は、今までの知識では理解できない世界だった。第七、第八惑星もガス惑星だ。
ただ通常のガス惑星と同じような感じだが。星系の外に見える星雲や恒星の光が星系内の色相まって幻想的な世界を見せていた。
ヘンダーソンは、艦隊の進宙をそろそろ一時停止しようとした時であった。先頭から円錐状に艦隊を囲むように哨戒艦の直径三〇メートルのレーダーが、わずかな信号も見逃すまいと艦隊外部に対して、最大モードで走査している時
「総司令官。左舷前方に展開する哨戒艦が信号音をキャッチしました。発進方向は第六惑星からです」
ハウゼー艦長からの報告にヘンダーソンは
「なに」
「送ります」
そう言ってハウゼーは、その信号音をビジュアル変換してヘンダーソンのスクリーンパネルに送った。




