第四章 新たな遭遇 (4)
第四章 新たな遭遇
(4)
第一七艦隊は、ADSM98方面跳躍点から転進し、X2JPへ行くべく、X3JP方面へ進路を変えた。第一七艦隊がいるADSM98方面跳躍点は、ADSM72恒星の惑星公転軌道水準面からすると上にある。ミルファク星系方面跳躍点と同じ面だ。
しかし、X3JP及びX2JPは、惑星公転軌道水準面の下にあり、ヘンダーソン達は、直線的にX2JPを目指せば、惑星公転軌道を横切らなければならない為、進宙速度を落とさなければならない上、惑星軌道に入らないように注意しながら進まなければならない。それを避ける為、ADSM72星系外縁部、カイパーベルトの外を進宙することにした。X3JPまで四光時、更にX2JPまで三光時、計七光時を進宙することになる。
既にADSM98より一光時、惑星公転軌道を外縁部から通りすぎる位置まで来ていた。ヘンダーソンは、スコープビジョンを見ながら、特に何も起こらないだろうと思っていた。
第一七艦隊の右舷後方に位置し、哨戒を続ける第六哨戒分隊哨戒艦カリュケの乗組員が、いきなり後方に現れた艦隊を発見した。
「ADSM98監視衛星信号途絶。何だ、これは」
「どうした」
カリュケに乗艦する司令官がレーダー管制員に声を掛けた。
「後方より接近する艦隊があります。急速に近づいてきます。重巡航艦クラス二〇〇、軽巡航艦クラス二〇〇、駆逐艦クラス五〇〇です」
「なに、直ぐに旗艦に連絡だ」
その頃、第一七艦隊旗艦アルテミッツの高性能多元レーダーは、既に後方に突然現れた艦隊を捉えていた。
「全艦に伝える。後方より艦隊が現れた。友好的な状況ではなさそうだ。まだ、〇.五光時ある。一四〇〇に時計回りに進宙し、艦隊を後方からの艦隊に対峙させる。全艦方向が一八〇度変わったところで、第一級戦闘隊形を取る。A1G、A2G、A3G、A4Gは、所定の位置を取れ。以上だ」
それから一五分後、第一七艦隊は、時計回りに艦隊を進駐させるとA1GとA3Gが上下にA2GとA4GがA1GとA4Gの間に左右に分かれて展開した。
ヘンダーソンは、光学センサーが既に捉えた艦隊を見ていた。まだ、〇.二光時ある。
「以前ADSM72まで追いかけてきた艦隊と同じですね。ADSM98から来た“未知の生命体”の艦隊と見て間違いありませんね。数的には我方を上回りますが、攻撃力で我方が優位です」
「うむ、前と同じ横に長い長方形の隊形だ。また例の攻撃方法を取るのでしょうか」
「分からん。特設艦と“捕獲した物体”は、後方に下がらせてあるな」
「はっ、大丈夫です。回りを巡航戦艦と航宙空母で守らせてあります」
「特設艦と一緒か」
「何か」
ヘンダーソンは、アッテンボローと話している中で、何か“わだかまり”があった。
「主席参謀、“捕獲した物体”は、特設艦と離して防御するようにしてくれ。直ぐに頼む」
「はっ」
アッテンボローは、“総司令官の意図は見えないが、何か考えるところがあるのだろう”と直ぐに前を向きなおすとスクリーンパネルから指示を出した。
「総司令官、敵艦隊が、上下左右に分かれます」
砲有効範囲まで五分と迫った時、突然、長方形の艦隊が、四つの小さな艦隊二二五隻ずつに分かれた。やがて長方形が今度は縦長の直方体のようになると第一七艦隊に正対して四角の四点方向に進むように進路を取った。それを見ていたヘンダーソンは、
「A1G、A2G上下、A3G,A4G上下に配置、敵艦の目的は“捕獲した物体”だ。各個撃破しろ」
“未知の生命体”の攻撃パターンは、かつて第一七艦隊を追ってきたときとは違った。明らかに戦術思想をもつ動きだった。
「前面シールド防御最大」
「中距離ミサイル発射」
「主砲射程に入り次第、討て」
「やつらを通すな」
ハウゼー艦長のコムを飛ばすような声に各管制官は、素早いスピードでコントロールパネルに指示を出している。実際は、人間が標的するわけではない。
全て“攻撃管制システム”がコントロールする。各管制官は攻撃管制システムの推奨攻撃方法に従って指示を出しているだけだ。適切な距離になったら全てシステムが自動的にしてくれる。
双方が秒速三万キロ、合成速度秒速六万キロで接近する艦隊が人間の目で追えるはずが無い。全ては、有効射程に入る前に指示を出し後は、その経過を見るだけだ。
“未知の生命体”の艦隊は、主砲射程まで接近すると先行する艦が強烈な光を発した。一瞬だけであった。後は何も変わらず迫ってくる。中距離ミサイルが、敵艦に接触寸前だった。
「ミサイル消滅。敵艦ミサイル発射しました」
「なにっ」
スコープビジョンに映し出される映像は、先行して発射した中距離ミサイルが宇宙空間の中で消えていく姿があった
「ミサイル来ます」
各グループの艦隊の前方に位置するヘルメース級航宙駆逐艦の前面防御シールドが光った。航宙駆逐艦が揺れている。一本目は防ぎ切れたが、二本目以降は艦本体に突き刺さり始めた。
航宙駆逐艦と言ってもヘルメース級は全長二五〇メートル、全幅五〇メートル、全高五〇メートルある。一発や二発の近距離ミサイルで破壊される事は無いが、前面に装備しているレールキャノン一二門の半分が破壊された。
CICは艦中央部にあり、ミサイル程度では、破壊される事は無いが、運悪く艦の両舷にはみ出たように装備された近距離ミサイル発射管に当たったミサイルは、敵艦に発射するべく装填されていたミサイルを誘爆させた。
航宙駆逐艦が、一瞬だけ膨らんだように見えた瞬間、内部から爆発が起こり灰色の巨大なガスが出来上がった。そしてガスが消えていった後には、何も残っていなかった。艦内の乗員は痛みも感じなかったろう。
第一七艦隊もやられっぱなしではない。アガメムノン級航宙戦艦のスフィンクスの足の様に突き出された部分から発射するメガ粒子砲、口径二〇メートル四門の破壊力はすさまじかった。
荷電粒子の束が、ミサイルが通過できなかった目に見えないシールドを躊躇なく突き破ると、前面に布陣している航宙駆逐艦レベルの艦四隻が串刺しのように艦中央をつき抜けた。後には、動かなくなった航宙戦艦があるだけだ。ヘンダーソンは、先の戦いで自爆して自分の艦隊にいらぬ犠牲を出した戦い方に“自分たちの存在を知られたくないのであれば徹底的に破壊しろ”と指示を出していた。
やがて、第一七艦隊を遠くに巻くように展開した敵艦は、ポセイドン級航宙巡航戦艦とアルテミス級航宙母艦が取巻くように守っている“捕獲した物体”の宙域に一斉に砲火を浴びせた。
「重巡航艦と軽巡航艦部隊を後方へ展開させろ」
ヘンダーソンは、アッテンボロー主席参謀に指示を出すと、あの位の攻撃力では大丈夫だろうと思いながらそれでいて一抹の不安を覚えながらスコープビジョンを見ていた。
敵艦の粒子砲が巡航戦艦や航宙母艦の防御シールドに衝突すると凄まじい光を発した。一瞬、巡航戦艦が横に揺れたような気がしたが、粒子砲の衝撃が収まると何事も無かったかの様に攻撃を受けた巡航戦艦は自分の位置を守っていた。
巡航戦艦レベルの防御レベルは高く、重巡航艦レベルの主砲ではやぶれない。巡航戦艦も近距離ミサイルとパルスレーザ砲で応酬する。“捕獲した物体”を守る為、艦の方向を変えられないのだ。
「敵も必死ですね。しかし彼らの攻撃能力では、あの防御陣を突破するのは無理でしょう」
アッテンボローの言葉に返すことなくスコープビジョンに映る戦闘を見ていたヘンダーソンは、
「いかん」
というとアッテンボローは、ヘンダーソンの見ている方向に映る映像を見た。
敵の重巡航艦が凄まじい光を発したと思った瞬間、何か一瞬だけ網膜に映ったかの様に見えたものを巡航戦艦に向って打ち出した。
一瞬の間の後、巡航戦艦の側面防御シールドが凄まじい光を発した。やがてそれが消えると巡航戦艦の側面装甲が徐々に消えて行き、側面を四分の一ほど消したところで止まった。
巡航戦艦は全長五〇〇メートル、全幅一七〇メートル、高さ一〇〇メートルの巨大艦だ。この攻撃で消える事は無いが、後部側面にあった大型核融合エンジン4基のうちの一基が消滅した。爆発しなかったのはせめてもの幸いだ。
そこにA1G、A2G、A3G,A4Gの各分艦隊の前方に布陣していた重巡航艦や軽巡航艦が艦隊後方に展開してきた。重巡航艦六四隻と軽巡航艦一二八隻から放たれた粒子エネルギーが敵艦の側面に突き刺さった。
艦首を第一七艦隊に向けていた敵艦群は、もろに側面を衝かれた。側面を衝かれた敵艦がよろめく様に回転しながら戦闘宙域を離れていく。何度もの攻撃で何百隻とあった敵の艦が数えるほどになると急に第一七艦隊から離れるように戦闘宙域を離脱した。
ヘンダーソンは、敵艦の残骸と攻撃を受けた味方艦の破棄された跡が、戦闘の凄まじさを物語っていた。
ヘンダーソンはコムを口元にすると
「駆逐艦の近距離ミサイルで敵艦の残骸を全て破壊しろ」
言いたくない言葉だが、先の戦闘の事もあり、徹底的に破壊すると決めていた。
やがて、少し減らされた一〇八隻のヘルメース級航宙駆逐艦から発射された六四八発のミサイルがそれぞれ攻撃管制システムの指示に従って定められた方向へ飛んでいく。
第一七艦隊の側面後方で凄まじい光の光景が広がった。そして白いガス状になるとやがてそれも消えて、後には細かいデブリだけが残った。
「すごい爆発ですね。駆逐艦や巡航艦レベルの爆発ではないですね。あれに巻き込まれたら航宙戦艦もあぶない」
アッテンボローの言葉にヘンダーソンは頷くと
「敵から受けた攻撃で被害を受けた艦の乗員の救護と修復を急げ」
それだけ言うと自分の体が司令官席のシートから前のめりに離れているのが分かり、どっとシートに体を預けた。
ヘンダーソンは“いらぬ犠牲が出たな”被害上を映し出すスクリーンパネルを見ながら頭の中で思った。
ヘルメース級航宙駆逐艦、中破一五隻、大破五隻
ポセイドン級航宙巡航戦艦 大破三隻
アルテミス級航宙母艦 大破二隻
“幸い、特設艦や哨戒艦などに被害はなかった。“未知の生命体”は明らかに“捕獲した物体”の奪取もしくは破壊を狙っての事だろう。“捕獲した物体”の究明を急ぐ必要があるな“そう考えると少し目を閉じた。
六時間後、大破と判定された巡航戦艦や航宙母艦の曳航準備も終わるとヘンダーソンは
「全艦に告ぐ、こちらヘンダーソン総司令官だ。全員よくやってくれた。“捕獲した物体”も守りきれた。今回の先頭で“捕獲した物体”の解明がいよいよ重要だということも分かった。我々は引き続きX2JPへ向い、“未知の生命体”との友好的な接触を求める。以上だ」
やがて、第一七艦隊がX2JPの通過点であるX3JP方向へ進宙を開始した。
X3JPまで残り一.五光時の位置である。
「総司令官、先行する哨戒艦からの連絡です」
総司令官席に振向いて話すアッテンボローの声にヘンダーソンは、顔を向けると
「X3JP監視衛星は、無事でした。また、記録にも“未確認物体”に相当するものは何も映っていないようです」
「そうか」
それだけ言うと
「主席参謀、全艦このままX3JPを通過。X2JPに向う」
「はっ」
アッテンボローは、航宙軍式敬礼をすると前を向きなおし、スクリーンパネルに指示を入れた。
「ルイ、ちょっと怖かった」
「大丈夫、この第一七艦隊旗艦アルテミッツは、早々にはやられない。ミルファク星系軍でもトップのヘンダーソン中将率いる艦隊だ」
本当は、シノダ中尉に自分の体を寄せたいワタナベ少尉だったが、今は回りに人がいる。レクルームに入って右手奥のいつものシートに座って見つめ合いながら話していた。
ワタナベは、シノダの手を持ちゆっくりと自分の腿の上に乗せると自分の手をシノダの上に乗せた。シノダが少し恥ずかしがるような仕草をするとワタナベは、ほんの少し首をふり、そして少しだけ“コクン”と頭を下げると“こうしていて”という目をした。
「ルイ、今回の航宙は、安全と思っていたのだけど」
「マリコ、航宙に安全という言葉はない。ただ入念な検討と十分な準備を行えば、危険を少しでも減らす事ができる。それが安全と言う言葉につながるんだ」
シノダはワタナベの目を見ながら“君は自分が守る”という意思をはっきりと見せた。その目に嬉しそうな微笑を浮かべるとワタナベは
「ルイ、お腹空いていない。私少しお腹すいた。食堂に行きましょう」
自分の腿の上にあった手をしっかりと握るとワタナベは、ゆっくりと立ち上がった。
レクルームを出て通路の突当りを右に三〇メートルほど行くと一度に二〇〇人は座れる中級士官食堂がある。ちょっとした合同ミーティングなどにも使う為だ。普段は、満席になることはありえない。
ワタナベは、自分たちの座る席を見つける為、士官食堂の中を見渡すとちょうど右奥のドリンクサーバの前の四人掛けのテーブルが開いていた。
ワタナベは、シノダの顔を見て
「中尉、あそこにしましょう」
と言うと自分で先に歩き始めた。
周りからの視線がはっきり感じる。ワタナベは、第一七艦隊随一の美人だ。ショートカットの髪の毛にはっきりとした大きな目、すっきりとした鼻筋に締まって潤った魅力的な唇。首から肩にかけて透き通るような肌に淡いブルーのミルファク航宙軍レーダー管制官の制服をきっちりと着込み胸元が適度に盛り上がっている身長一七五センチの女性だ。
シノダは、青黒い髪の毛をGIカット程短くは無いが短めにまとめ、精悍な顔立ちの身長一八三センチの男だ。この二人が士官食堂とはいえ、テーブルの間を歩けばいやでも目につく。
更にシノダは、三分の二以上を総司令官と一緒に食事する。いつもはここを利用しない。ゆえに、“こいつだれだ”という目で見る士官も多い。
「中尉、座って。私がプレートを取ってきてあげる。何が良い、と言っても選べるのは二種類だけだけど」
「ワタナベ少尉と同じものでいい。あっ、それと白ワイン」
「勤務終わったのね。じゃあ私もそうしよう」
と言って、カウンターの方へ歩いて行くワタナベの後ろ姿を見ながらシノダは、初めて有った時の事を思い出していた。“あれから、もう半年以上経つのか。早いな”
仕事の都合もあり、中々二人きりになれないが、唯一、カワイ大佐と士官同期のオカダ中尉の結婚式の時だけが、長く二人で時間を取れた時だった。
“あの時以来、マリコとゆっくりと話したことないな”そんなことを思いながら、“ぼーっ”としているといつの間にかワタナベ中尉が、トレイに二人分の食事を持って近くにまで来ていた。
「疲れているの。“ぼーっ”とした顔している。ちょっと待って、あと白ワイン持ってくるから」
そう言ってまた、カウンターへ戻って行った。
シノダは、壁に付いているドリンクサーバに“白ワイン”と書いてある文字を見ながら
“どうして”という文字を頭の中に浮かべながらワタナベを見ていると、やがてハーフボドル二本とグラス二つを両手の指の間に器用にはさみながらやって来た。
「はい、中尉」
と言って、片方のボトルとグラスをシノダの前に置くと自分のボトルを開けてシノダのグラスに半分ほど入れた。そして自分のグラスにも半分ほど入れるとシノダは、
「ありがとう」
と言って手にグラスを持った。ワタナベは同じ様にグラスを持つと
「今日は、お疲れ様」
と言ってグラスを口に運んだ。勤務直後なので口紅は付けていない。
シノダが、壁のドリンクサーバを見たので
「ああ、あれはただで飲めるの。でもあまりおいしくない。このハーフボトルは、私のクレカから引かれるの」
“えっ”と顔をして
「悪いよ。僕のクレカに変更しよう」
と言うと
「ううん、いいの。たまにはごちそうさせて。私、ルイと会っても一度も自分で払ったことないでしょ。私より一つ上の階級の中尉と言ってもルイは、私たちと同じ様な“手当”付かないんでしょ。だからたまには良いの」
そう言って、“にこっ”と笑うと頬にほんの少し可愛いえくぼがでた。シノダは、そんな事を言いながら笑顔を見せるワタナベに
「それでは、マリコにご馳走してもらいます。頂きます」
と言ってワタナベのグラスに自分のグラスを軽く当てるとグラスを口に付けた。
艦内時間二〇時、惑星時間二三時。さすがに士官食堂も人がまばらになった。シノダは、ワタナベの顔を見ると
「そろそろ、戻ろうか」
そう言って席を立とうとした。
「どこへ戻るの」
少し酔ったような顔で言うワタナベに
「えっ、自分の部屋だけど」
ワタナベは、シノダの顔を“じっ“と見てシノダの手をきつく掴んだ。
シノダは仕方なくもう一度席についてワタナベの目を見ると
「ルイ、ずっとそばにいたい。いまは我慢できる。でもいずれ“ずっと”一緒にいるようにしてほしい」
と言って自分の目を閉じた。シノダは、ほとんど人気のなくなった士官食堂で、少し前に体を出して、ワタナベの唇に自分の唇を合わすと
「うん」
とだけ返事をした。ワタナベは、ゆっくりと目を開け、頭を縦に振ると
「じゃあ戻ります」
と言って椅子を立った。
女性士官の部屋のある入口まで送ってワタナベと分かれたシノダは、最上階に行くエレベータに乗った。
“自分は親を知らない。航宙軍士官学校のモッサレーノ准将が親代わりに育ててくれた。そんな自分が、人を愛して一緒に暮らして行くことなんて出来るのか。家庭を知らない人間が、家庭人になれるのか”そんな思いがシノダには有った。
故にワタナベに対しても一線を越えられないでいた。ワタナベは、そんな気持ちを“うすうす”感じてあえてそこまで踏み込もうとしなかった。子供の様な感じの付き合いになっているのはその辺が理由だ。ただ、ワタナベは、それがとてつもなく寂しいと感じている。




