表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西銀河物語 第四巻 ミルファクの夢  作者: ルイ シノダ
10/18

第四章 新たな遭遇 (2)

第四章 新たな遭遇


(2)

「ライン、こちらレイサ、ジュン、サリー、これから着艦シーケンスに入る」

「こちらライン。レイサ、ジュン、サリー了解しました。着艦シーケンスオン」

カワイは次第に大きくなってくる航宙母艦ラインの姿を見ながら右後ろに位置するジュンと左後ろに位置するサリーに目をやった。オールズビューモードで見る視界はクリアだ。まるで自分が宇宙に浮いている様な気がする。

 やがて巨大なラインの艦底部の格納エリアに入ると誘導ビームがアトラスを包み込むように所定の格納エリアの位置まで誘導する。やがてランチャーアームが艦底部から伸び、レイサの機体を掴む。

“ガツン”という感覚でホールドされると、もうカワイは何もすることがない。ジュンとサリーも同様の状態だ。

レイリア隊の他のアトラスも順次帰還してきている。レイリア隊に属するアトラス四八機は、格納エリアが決まっているので着艦準備を待つこともない。

 ランチャーアームに掴まれた機体が、ゆっくりと格納エリアの中に入ってくるとオールズビューモニターが消えた。やがて格納エリアの底が横からスライドし、完全に密閉されるとレイサの前にあるランプが赤から青に変わった。

「レイサ、エアーロックオン」

聞きなれた心地よい声が聞こえるとレイサを包んでいた格納エリアの上部が両側にスライドしてレイサの姿がラインの格納エリアに現れた。

整備員が駆けつけ、コクピットドームの外側からロックを外すとコクピットドームが上部後ろ側に上がりカワイの姿が出てきた。

カワイは、自分でフルフェイスヘルメットとスペシャルスペーススーツの結合を外した。同時に整備員がスペシャルスペーススーツに入っている三本のホースを外すとカワイは

「ふうっ」

と息を吐き自由になった体をレイサから起こした。まだ体がレイサの中に居る状態で

「ジュン、サリーお疲れ様」

と言うと

「ユーイチ、お疲れ様」

と二つの声が聞こえてきた。既にヘルメットはしていないので生の声だ。

 シンクロモードになる時は、スペシャルスペーススーツを着てスーツにあるスイッチをオンにしないとならないが、シンクロモードがオフになるのは、スーツを脱いだ時だ。

カワイは半年以上に及ぶ訓練のおかげで体のリズムが取れるようになった。

カワイがジュンとサリーの機体の側に行くと

「ユーイチ、体が少し疲れを示しています。今日は良く休んでください。飲酒は控えたほうが良いでしょう」

サリーからのメッセージに

「分かった」

と言ってサリーの機体に触ると発着艦エリアを出た。前ならばそれなりに抵抗があったが、ジュンとサリーが自分をマスターとして認め、自分との三機一体を望んでいる事を知ってからカワイの気持ちが変わった。

おせっかいからではなく、本当にマスターとして常に万全の体調を維持してほしいという気持ちで言っているのが分かったからだ。

「総司令官、回収したX2JP方面監視衛星の解析結果報告が入りました」

第一七艦隊は監視衛星を回収後、X2JPを通過してX3JPへ向かう予定だったが、X2JP付近に“謎の物体”があり、カワイ大佐乗機レイサが攻撃を受けたので、一時的に臨戦態勢でX2JPを監視していたが、その後、変化はなかった。

一〇時間ほどX2JPで臨戦態勢を取っていたが、何も起こらなかった為、X3JPに向う事になった。

 その後、第一七艦隊の技術員が回収した監視衛星とサリーが撮った“謎の物体”の攻撃を解析している。その解析した結果報告が届いたのだ。


「アッテンボロー主席参謀、司令官室の方へ解析結果報告をまわしてくれ。主席参謀とシノダ中尉は私と一緒に司令官室へ来るように」

と言うとハウゼー艦長に目で“席を離れる”と合図をし、司令フロアを出た。

司令フロアのドアを出てから左へ五〇メートル、途中三〇メートルの所にある下の階へ行くエレベータを通り過ぎて二〇メートル程行った左手のところに司令官室がある。オブザーバルームは右手だ。

 ヘンダーソンは自分のIDをドアの左の壁にあるパネルにタッチするとドアが開いた。三人は部屋に入ると左手にある3Dパネルに向く様な位置でテーブルに着くと

「主席参謀始めてくれ」

と言った。

 アッテンボローがテーブルの自分の前にあるスクリーンパネルにタッチするとあらかじめ準備していたのか二人の技術員が現れた。二人は航宙軍式敬礼で起立したまま

「ヘンダーソン総司令官、第一七艦隊技術官アレッジです。こちらは技術員のクレアです」

自分の左手に立つ男を紹介しながら言った。

ヘンダーソンは答礼しながら

「アレッジ技術官、始めてくれ」

と言って答礼を終わらせると技術官と技術員の二人も敬礼を止めた。


「総司令官、まず解析結果から始めます」

技術官の言葉にヘンダーソンは頷くと

「X2JPから我々の識別にはない艦艇が多数出入りしています。但し、半年前にADSM98方面から来た“未知の生命体”に攻撃された時の艦艇とは明らかに異なります」

「どういうことだ」

と主席参謀が質問すると

「ミサイルや粒子砲などの遠距離攻撃装置を持っておりません。我星系が今回テストを行ったDMG相当のものが武器と思われます」

「しかし、あれは攻撃を防ぐ事は出来ても積極的な攻撃は出来ないぞ」

主席参謀の言葉を受けて技術官は

「そうです。防御のみです。カワイ大佐乗機レイサが攻撃されたのも、実は攻撃ではなく自分を守る為に取った行動と考えられます。つまりADSM98星系方面からの“未知の生命体”とは違う種族と考えてよいと思います」

技術官の報告に眉間に皺を寄せ

「ADSM98星系からの種族とは別の種族。確信はあるのかアレッジ技術官」

「有りません。しかし、X2JPに出入りしている艦の形から想定する構造とADSM98方面から現れた艦の形や構造を比較するとまったく別の種族と考えるのが妥当と思います」

「ADSM98方面からの“未知の生命体”に対応するだけでも大変なのにX2JPの先にも“新たな生命体”が存在するだと。まったくこの星系は“新種の生命体のメインストリート”か。いずれにしろこれはメンケントに連絡するしかないな」

考えを一度切ると

「アレッジ技術官、クレア技術員、報告ご苦労だった。引き続き調査を頼む」

「はっ」

と言って敬礼すると技術官たちの映像が消えた。


「総司令官、いかが致しますか」

「取合えずメンケントに報告だ。ADSM72星系の調査と“未知の生命体”との接触活動は続けなければなるまい」

「はっ、了解しました」

そう言ってヘンダーソンに敬礼すると、アッテンボローはシノダ中尉を見て

「分かっていると思うが、絶対他言無用だぞ。例え相手が第一七艦隊随一の美しい女性だとしてもな」

そう言って笑うと

「そんな事分かっています」

少し赤ら顔で言うシノダの顔を見てヘンダーソンも目元を緩ませた。

ヘンダーソンは“過日の冷やかしかもしれないな。中尉がそんな人間でない事は十分に承知している。出なければ三年もの間、私の武官など務まるはずもない”そう思って“はっ”とした。

“もう三年か。モッサレーノ准将から中尉を紹介してもらってから。そろそろ独り立ちさせないといけないか。しかしこの子程の人間がまた見つかるか”どんなにヘンダーソンの仕事がきつくても嫌な顔一つせず働いてきた、自分の息子のような中将付武官にかわいさと一瞬の寂しさを胸に感じながら、取合えず今日は、目の前に有る問題を片付けなければと思った。

「司令フロアに戻るぞ」

そう言ってアッテンボローとシノダに司令官室から出る様に目で合図した。


スコープビジョンは、既に後方に過ぎ去ったX2JPを映してはいなかった。X3JPまで後二光時、二〇時間の行程だ。X3JP方面監視衛星はX3JPより三〇〇〇万キロ手前にあり、回りのデブリに隠れるように置いてある。X3JPが常に正面に来るように制御スラスタを吹かせながら回りのデブリにぶつからないように動いている。

 監視衛星を注視していれば気がつくかもしれないが、半径五〇〇メートルの岩礁にカモフラージュした衛星など分かるはずもなかった。

 X3JPまで後五〇〇〇万キロまで接近すると第一七艦隊はレイリア隊を発進させた。X2JPの事もある為、ヘルメース級航宙駆逐艦二隻とホタル級哨戒艦一隻を三機一隊一六組の編隊にそれぞれにつけている。

「総司令官、全機所定の宙域に配置しました」

「分かった」

ヘンダーソンとアッテンボローの会話の間にもX3JP方面監視衛星の回収と新たな監視衛星の設置の為に航宙駆逐艦と哨戒艦が向っていく。全員が緊張と伴いながら作業の終了を待った。

五時間後、回収と設置を終えた航宙駆逐艦と哨戒艦が戻ってくると、その後ろから警戒監視に出ていたレイリア隊が戻ってきた。

「今回は何もありませんでしたね」

「ああ」

回収した監視衛星の分析結果からも何のイレギュラーな映像は無く、デブリのみが映っていた。

「X3JP方面には、新種族はいなかったようだ」

「さすがに何種類もの種族がいたのではたまらないですからね」

アッテンボローのいらぬ言葉に頷きながらヘンダーソンはスコープビジョンを見た。ADSM98星系方面跳躍点まで四光時。スコープビジョンは、外宇宙のきらめきを映し出しているだけだった。

ヘンダーソンは航宙軍支給の腕時計を見ると二〇時を回っていた。

「艦長、私は自室に戻って休む事にする。何かあったら直ぐに連絡をくれ」

「了解いたしました」

ヘンダーソンは司令フロアを出ると一緒について来たシノダに

「中尉、私はもう休む事にする。特にしてもらうこともないから君も休みなさい」

ヘンダーソンはシノダに言うと自室に消えた。


カワイは警戒監視のレポートを作り終えるとスクリーンパネルに部下からのレポートが溜まっているのが見えた。インシデントレベルはどれも“情報”と言う意味のマークしか表示されていない。

今回の警戒監視の報告がほとんどだ。特に今見なければいけない内容ではない。空腹を覚えたカワイは、自然の欲求を満たすのを優先させることにした。

 自室を出て二〇メートル先にあるエレベータに乗ると階下にある士官食堂に行った。同じ階にある上級士官食堂はエレベータを挟んで反対側にあるが、カワイはあえて、士官食堂に行った。この時間ならば居るはずだと思ったのである。腕時計は一八時を指している。

エレベータを降り左側に行くと直ぐに士官食堂は有った。中に入ると二〇人位の士官が喋っていた。食事を取るもの、喋るだけの者、既に勤務が終わったのかアルコールを飲んでいる者もいる。

カワイが入って来たのを見つけた少尉と中尉の階級章をつけた男女の士官が直ぐに椅子から立ち上がって敬礼をした。カワイも答礼をしたが、

「休憩中だ、敬礼はいい」

と言うと他にも気が付いて立ち上がった士官たちに左手を少し上げ“気にするな”という仕草をした。

目的の人は入って右奥のドリンクサーバの側にいた。カワイに気がついたのか、椅子から立ち上がると一緒に座って喋っていた同僚が座ったまま後ろを振向いた。

カワイ大佐だと分かると跳ね上がるように立ち上がり敬礼をしたので

「休憩中だ、楽にしろ」

と言って答礼はせず、右手を軽く上げた。

「マイ、同僚と休憩中だったのか。悪かったな。邪魔をして」

「あっ、構わないけど。勤務時間終わったの」

と尋ねたオカダ(旧姓)中尉に

「ああ、後寝るだけだが、何も食べていないので、ちょうどマイが居る時間だなと思って降りてきた」

「えっ、まだ何も食べていないの。何がいい、取ってきてあげる」

カウンターへ向おうとしたオカダ中尉に

「マイ、じゃあ私たち行くね」

と言って立ち上がったままだった二人の女性士官に

「ごめん、また」

と言って挨拶をすると二人が向う出口とは別の方向へ歩いていった。


二人の女性士官の後姿とマイの後姿を見ながら“やっぱり、悪かったか”と思いながらいるとマイがカウンターから士官用の食事の乗ったトレイを持ってきた。

「勤務終わったのでしょう。アルコールは」

と聞くマイに

「じゃあ、ブルゴーニュ星系のドメーヌ星のワインを」

と言うとテーブルにトレイを置いたマイは、

「ここは、中級士官用の食堂よ」

と言って顔を寄せて軽く怒った振りをした。

カワイは「あっ」と言うと

「ごめん、じゃあ適当に白ワインを」

と言うと“にこっ”と笑ってもう一度カウンターに行った。横目で壁にあるドリンクバーを見ると“白ワイン”と書いたグリップがある。

“はてっ”と思ってカウンターの方向を見るとハーフボトルにグラス二つを持ってマイが戻ってきた。

「マイも勤務終了したの」

と聞くと

「うん、取合えず交替の仲間が座っている」

マイはもう一度“にこっ”と笑うと二つのグラスにワインを注いだ。

「同僚の間では“うまくて評判のワイン”よ。上級士官食堂の様に一本一本生産地を選べるわけではないけど、おいしいよ」

と言うと自分の分は右手に、左手にカワイの分のグラスを持ってカワイの前に差し出した。

カワイは、ワイングラスを受け取ると口元よりほんの少しだけワイングラスを上げて

「お疲れ様」

と言ってワインを口に含んだ。マイも

「お疲れ様」

と言ってワインを口入れるとほとんど味わわずに飲み込んだ。少し驚いた顔をしたカワイに

「高級品じゃないからユーイチみたいに味わって飲むなんてしないの」

そう言ってもう一度口の中にワインを入れた。

カワイは口の中に含んでいたワインを一度口の中に広げるとゆっくり喉の中に流し込んだ。

「確かに高級品じゃないけれど、おいしいね」

そう言うと

「“高級品じゃない”だけ余分よ。ここでは」

そう言って夫の目を見ると手に持っていたグラスをテーブルに置いた。

少し笑いそうになりながらフォークを右手に持ち、野菜らしいブロックの塊を食べると「まあ、悪くない、しかし・・」

と言う顔で食べると

「そんなに悪くはないでしょう」

と言って笑顔を見せたマイにカワイは、任務で緊張していた心が緩んだ。


 結局もう一本ハーフボトルを飲んだユーイチとマイは、一時間半の楽しい時間をすごした後、それぞれの自室に戻った。カワイは一人一部屋の佐官クラスの部屋だが、妻のカワイは、中尉の為、二人一部屋である。

カワイは、自室に戻るともう一度シャワーを浴びて、スクリーンパネルに“読んでくれ”と溜まっている部下からの報告書に目を通し始めた。


「マイの旦那様、素敵ね。第一七艦隊の第三グループ航宙隊の隊長で特殊戦闘偵察隊レイリアの隊長。腕前はミルファク星系航宙軍の中でもトップクラス。その上かっこいい。いいな。私もマイの旦那様みたいな人ほしいな」

マイと同室の女性レーダー管制官は、羨ましそうに言った。

「ありがとう、ミルキーも早く旦那様見つければいいのに」

「もう簡単に言ってくれるな。マイほど可愛くないし、スタイルも良くないし。そもそもなぜか縁がない。どうして。神様は不公平だ・・」

言葉が、途切れたのでどうしたのかなと思い、自分のベッドが置いてある壁の反対側にあるベッドを見ると、眠くなりながらも会話の相手をしていたはずの同室の女性はいつの間にか寝息を書いていた。

マイは、少し目元をお潤ませると

「お休み」

と言って眠りに入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ