飛行機雲(読了時間1分)
1年前、僕は陸上部に入った。
正直部活なんて何でも良かった。中学校からのセンパイが部長をしていて、だから陸上部に入った。
種目は部長と同じ100メートル走にした。
色々戦略を立てなくちゃいけない長距離走とは違って、ただ無我夢中で走ればいいその明快さに心惹かれたからだ。
その日、グラウンドから見える飛行機雲は短かったけど、太かった。
半年前、僕は高跳びに浮気した。
学園のマドンナが高跳びの選手をカッコイイと言っていたからだ。
部長がマドンナの彼氏であることが発覚して、3日で本妻に縁を戻した。
高く跳んだ時に映ってくる飛行機雲は、大きく曲がっていた。
3ヶ月前、僕は死ぬ物狂いで走っていた。
朝練、昼練、夜間練。時間の全てを費やして、ただひたすら100メートルという距離を走り抜けた。何度も何度も走り抜けた。
部長の遊びの誘いも断って、ただ部活に身を粉にした。
毎日空に描かれた飛行機雲は、少しずつ長くなっていった。
1ヶ月前、僕は総体の100メートル代表選手に選ばれた。
2年連続で代表を務めてきた部長を差し置いての大抜擢だった。彼の突き刺さるような視線は痛かったけど、僕は内心で小躍りしていた。
その日、夜のグラウンドから見える飛行機雲は荒ぶっていた。
総体の前日、僕は脚を骨折した。
100メートル走のラインの途中に糸が張ってあった。
気づかずに躓いて、全治2ヶ月の骨折を宣告される羽目になった。
病院から出てくる僕を、笑いを噛み殺して残念がる部長が出迎えてくれた。
病院帰りに見えた飛行機雲は、ほとんど消えかけていた。
総体当日、僕は補欠のベンチに座っていた。
松葉杖を突いて、腹から声を出して、代理出場の部長を応援した。
客席には学園のマドンナがいた。彼氏の応援に来たらしい。
その日、部長は県内記録を叩きだした。
ベンチから見える飛行機雲は、短くて、曲がっていて、荒ぶっていて、薄れていたけど、繋がっていた。
どんなに変な形でも、目的地を目指して繋がっていた。
そして、今日。
2年目の総体で、僕は代表選手として100メートルを走り抜けた。
部長の結果には追いつかなかったけど、悔しくはない。
色々あって、僕なりに頑張って、それが全部繋がってできた結果だったから。
一位の高台に登るときに映った飛行機雲は、やっぱり繋がってた。