くさったみかん
ぼくシリーズ第五弾
中学の時に、美術で紙ねんどを扱った。
課題はくだもの。
ぼくは、みかんを目指した。
紙ねんどに、意外と手こずった。
ねんどよりも硬くて、そのくせあっさりと引きちぎれる。
名前の通り、紙をねんどにしたような感触だった。
手こずったのは、一度乾くと、ほとんど形が変えられないことだ。
ぱらぱらとこぼれた紙ねんどの小粒をつかんで、それを実感した。
みかんの形はすぐにできた。
いわゆる楕円だから、多少いびつでも問題ないのだ。
みかんのつぶつぶとした模様は、尖った棒を突き刺して作る。
あとは、色を塗って完成。
できあがったのは、緑色の斑点に侵食されたみかん。
ごとりと置いて眺めると、笑えた。
手のひらにのせて目線の高さにもってくると、笑えた。
みんな、何の変哲もないくだものを仕上げていくのに、ぼくだけちがう。
おかしかった。
みんなに見せると、みんなも笑った。
特に感慨もなく、それを提出してぼくは帰った。
まさか、それが棚に置かれるとは思わなかった。
ガラス越しに眺めると、それが笑えるぐらい際だっている。
色とりどりのくだものに混じって、それはあまりにも場違い。
やる気もない、ふざけてるだけのそれに貼られた名前は、もちろん、くさったみかん。
最後にはそれを、家のみかん箱にぶちこむことになる。