蝉の墓
夏の終わり、土の下で眠るのは──誰?
ヒロシは生き物が大好きだった。
夏の間、野原を駆け回り、虫かごを蝉やバッタでいっぱいにした。アパートの庭は仕切りがなく、隣のお婆ちゃんの庭とつながっていた。
二階建ての小さな建物の中で、ヒロシと彼女はいつも一緒に過ごした。
古い木の幹に止まる蝉の名前を、お婆ちゃんは優しく教えてくれた。アブラゼミ、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ…。
彼女の皺だらけの笑顔は、夏の陽だまりのように温かかった。やがて夏が終わり、虫たちは次々に静かになった。
ヒロシが泣くと、お婆ちゃんは庭の隅に小さな墓を作ってくれた。
ヒロシはそれが楽しくて、いろんな形のお墓を増やしていった。ピラミッドのような石積み、十字の木の墓標。
そしてお婆ちゃんがスコップで掘ってくれた、きれいな小さな池。
「おばあちゃんも、こんなお墓で眠りたいな」
ある日、お婆ちゃんがそう言って、ヒロシの頭を撫でた。ヒロシはこくりと頷いた。
それからしばらくして、お婆ちゃんの猫が車に轢かれて亡くなった。二人は一緒に庭に穴を掘り、猫を丁寧に埋めてあげた。
お婆ちゃんはとても満足そうに微笑んでいた。
そして――ある朝、お婆ちゃんがいなくなったと、アパートは大騒ぎになった。
近所の人たちが庭をうろうろし、警察の声が響いた。ヒロシは二階の窓から、静かにその様子を見下ろしていた。
庭にはこれまでよりも少し大きな新しい墓標が、そっと増えていた。
いつものピラミッドの形に、十字の飾り。そして、池であったはずの場所が埋められ、その土は黒々と、水気を帯びていた。
ヒロシはポケットから小さなスコップを取り出し、庭へ降りていった。土はふかふかで、まだ湿っていた。
彼は歌うように小さな声で蝉の名前を呟きながら、新しい穴の縁を整えている。
お婆ちゃんは、きっと喜んでくれるはずだ。だって、あんなに「こんなお墓で眠りたい」と言っていたから。
ヒロシは土の匂いを胸いっぱいに吸い込み、にこりと笑った。
夏の終わりの風が、庭の木の葉を優しく揺らしていた。
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