第21話 京都駅、腹ぺこ戦士と黒炒飯
夕方の京都駅。
観光客、修学旅行生、仕事帰りのサラリーマン、外国人旅行者。
世界中の人間が集まってるんちゃうか思うくらい、人、人、人。
その中を、二人の高校生が歩いていた。
一人は、身長190センチのサッカー部ストライカー。
もう一人は、そのストライカーの体調と栄養を管理する女子高生マネージャー。
つまり。
前田利家と前田まつ。
ただし今日の利家は――
「……腹減った」
声が弱い。
めちゃくちゃ弱い。
「利家」
まつが横目で見る。
「なに」
「死にそう?」
「半分死んでる」
「まだ半分あるなら大丈夫」
「基準おかしい」
今日の練習はガチやった。
・インターバル走
・対人守備
・ポストプレー練習
・シュート100本
そして今。
利家のエネルギーは、ほぼゼロ。
「まつ……」
「なに」
「白米……」
「ラーメン屋行く」
「神」
まつが足を止めたのは、京都駅の一角。
暖簾が揺れている。
ラーメン福来菜館。
京都の老舗。
観光客がよく並ぶ店。
そして――
黒炒飯が有名。
店の前には、いつものように行列。
「並ぶ?」
まつが聞く。
利家は、ふらふらしながら言う。
「並ぶ……」
「倒れそう」
「倒れる前に食う」
列に並ぶ。
観光客が多い。
「Look! Ramen!」
「Kyoto ramen!」
外国人が楽しそうに写真を撮っている。
利家は、もうそれどころじゃない。
「……肉」
「まだ食べてない」
「肉……」
「チャーシュー麺頼め」
「頼む」
席に通される。
利家は即注文。
「チャーシュー麺大盛。ネギ多め、味濃め。
黒炒飯。餃子」
店員が一瞬だけ笑った。
「食べますね」
「スポーツ科です」
まつが答える。
まつは落ち着いて注文。
「ラーメン小、ネギ多め」
店員が去ると、利家は机に突っ伏した。
「眠い」
「食べたら回復する」
「人間、食べたら回復するん?」
「だいたいする」
店の奥から、鍋の音。
ジュワァァァァ。
黒炒飯の匂いが、ふわっと広がる。
利家が顔を上げた。
「……来た?」
「まだ」
「匂いで生き返る」
「単純」
まつは店内を見回す。
「ここな」
「ん?」
「京都の醤油ラーメンの王道」
「へえ」
「鶏ガラと醤油。シンプル」
「シンプルが一番うまい」
「そう」
料理人モードのまつが、少しだけ語る。
「ネギ多めは正解。
脂を切る」
「おお」
「味濃めは運動後やからOK」
「さすが栄養士」
「まだ高校生」
そこへ――
ドン。
黒炒飯。
真っ黒。
香ばしい。
「……神」
利家が言った。
「まだ食べてない」
利家は一口。
「……うま」
「やろ」
「黒炒飯、うま」
「焦がし醤油とラード」
「無敵」
餃子も来る。
ラーメンも来る。
チャーシュー麺大盛。
肉の壁。
「……幸せ」
利家が言う。
「さっきまで死んでたのに」
「人間、ラーメンで復活する」
「単純やな」
利家は麺をすする。
ズルズルズル。
「……あー」
「どう」
「うまい」
「語彙」
「うまい」
「それしかないん」
まつもラーメンを食べる。
「……あ、ええ」
「やろ」
「ネギ多め正解」
「ほら」
利家は黒炒飯を食べ、ラーメンをすすり、餃子を食べる。
完全回復していく。
「まつ」
「ん?」
「生き返った」
「人間って便利やな」
「ラーメンは偉大」
「それは同意」
利家は満足そうに言う。
「京都、ラーメン多いよな」
「多い」
「一乗寺も」
「戦争」
「ここも?」
「ここは観光戦争」
二人は笑う。
外では、また観光客が並び始めている。
京都駅のラーメン屋は、今日も忙しい。
利家は最後のスープを飲みながら言った。
「……明日も練習」
「知ってる」
「また腹減る」
「知ってる」
まつはコップの水を飲んで言う。
「ほな、また食べに来るか」
「ええな」
腹いっぱいのストライカーは、もう元気だった。
ラーメンと、黒炒飯と、餃子。
それだけで。
高校生の体は、だいたい元に戻る。
――京都の夜は、まだこれからやった。




