表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一乗寺ラーメン戦線異常あり! 前田家と前田家のラーメン戦争! まつと利家の、恋と麺  作者: イサクララツカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/25

第12話 五月、金曜、四条河原町――抹茶で鎮火、うちらは生き返る


 五月の金曜日。

 中間テスト、ぜんぶ終わった日。

 四条河原町は、いつもどおり人が多い。

 観光客、修学旅行生、仕事終わりの大人、買い物の家族。

 その中に、制服の女子高生二人が混ざると――京都は急に“日常”になる。

「……終わったぁぁぁぁ」

 寧々が、四条通のど真ん中でふにゃっと声を出した。

「声。河原町に吸われる前に回収して」

 まつが即ツッコミ。

「無理。うち今、脳みそ焦げてる」

「焦げた脳みそでよく歩けるな」

「歩ける。甘味に引っ張られてる」

 利家は部活。

 秀吉はリハビリのあと自習らしい。

 つまり今日は、女子二人だけの自由時間。

「聞いて。今日、うち頭から煙出てるから」

「比喩な?」

「比喩やけどガチ」

「どっちやねん」

 寧々がスマホを掲げる。画面には――

『クレープ にじ:究極の抹茶クレープ』

「これで鎮火する」

「火事場に抹茶投げて消えるか?」

「消える。抹茶は強い」

「信仰やん」

 二人は笑いながら、店へ向かった。

 角を曲がると、もう列が見える。

 “にじ”の前には、ずらーっと行列。

 観光客が写真撮ってる。常連らしき女子大生が手慣れた顔で並んでる。

 外国の人も「MATCHA!」って言うてる。

「……え、並びすぎ」

「通常運転」

「河原町の通常運転、地獄」

「でも並ぶ価値あるから、みんな並んでんねん」

 寧々は列にスッと入る。

 迷いゼロ。

 この子、ほんま甘味の時だけ判断が早い。

「ねえ、まつ」

「なに」

「今日のテスト、数学さ――」

「爆発した?」

「爆発した」

「どっちの意味」

「悪い方」

「知ってた」

 まつ、容赦ない。

「まつは?」

「燃え尽きた」

「それも悪い方?」

「悪い方」

「仲間!」

 寧々が肩をぶつけてくる。軽い。

 でも、その軽さが救いでもある。

「てかさ、利家部活ってほんま体力バケモンやな」

「スポーツ科やし。午後ずっとやろ」

「そんで夜、こってり行くんやろ?」

「行く」

「やっぱバケモン」

「バケモンを支えるのが、うちの仕事」

「ドヤァ」

「ドヤるな」

「ドヤる」

 列が進み、ようやく注文の番。

「ご注文どうぞー」

 寧々、即。

「究極の抹茶クレープ!白玉増し!あと抹茶濃いめいけます?」

「濃いめできますよー」

「勝った」

「何に」

「人生に」

 まつも同じものを頼む。

 寧々が横でニヤつく。

「まつも結局、抹茶よな」

「今日は鎮火日」

「ほんまそれ。うち、今、頭の中ヤバい」

「テスト終わった直後の女子高生、だいたいヤバい」

 受け取ったクレープは、緑が深い。

 抹茶クリーム、抹茶アイス、あんこ、白玉。

 見た目だけで“効く”。

「……見て。色、勝ってる」

「勝ってるって何」

「抹茶の勝ち」

 二人で一口。

「……っっ」

 寧々が目を見開いた。

「え、なにこれ。抹茶が刺さる」

「苦みが生きてる」

「生きてる抹茶って何」

「新しい粉使ってる。香りが立ってる」

 まつのうんちくが始まる。

「抹茶はな、空気と光で落ちる。

 せやから店の回転が早いと、味が安定すんねん。行列は正義」

「行列を肯定する女」

「京都で生きるには必要な思考」

「こわ」

 寧々が、もぐもぐしながら突然言う。

「なあ、まつ。うちさ」

「ん?」

「テスト期間って、余計なこと考えへん?」

「考える」

 まつは即答した。

「うち、秀吉のこと考えすぎて、頭さらに焦げる」

「通常運転やな」

「うるさい」

 寧々は笑いながら、でも目が少しだけ揺れる。

「なんかさ……うちだけ必死で、相手は通常運転って、しんどない?」

「しんどい」

「やろ?」

「でも寧々、それでも好きなんやろ」

「……好き」

 抹茶の苦みが、口の中に残る。

 甘いのに、最後はちゃんと苦い。

「恋も抹茶やな」

 まつがぼそっと言う。

「急に詩人」

「苦みがないと、甘さが死ぬ」

「それ、誰の名言」

「うちの胃袋の名言」

 寧々が吹き出した。

「ほんまにまつって、なんでも身体に落とすよな」

「現実主義や」

「そのくせ、利家のことは甘やかしてる」

「管理してるだけ」

「それを世間は甘やかしって言うねん」

 四条大橋が見えてくる。

 鴨川の風が、抹茶の香りを少しだけ薄める。

 観光客が写真を撮って、修学旅行生が騒いで、

京都の夕方はいつも忙しい。

「……でもさ」

 寧々がクレープの最後をかじって言う。

「こうやって食べてたら、ちょっと落ち着く」

「糖と、抹茶のカフェインやな」

「ロマン返せ」

「返さへん」

 二人、笑う。

「次どこ行く?」

 寧々が目を輝かせる。

「え、まだ行く気?」

「京都女子の甘味制覇やで?御朱印巡りみたいに、スタンプ集めるやつ」

「それただの食べ歩きや」

「正解!」

 まつはため息をつきつつ、ちょっとだけ嬉しそうに言った。

「ほな、次は鴨川沿いのあそこ。

 歩いて消化しよ」

「歩くのもセットなんや」

「当たり前。甘味は“摂取”と“調整”セット」

「出た、管理栄養士」

 寧々が空を見上げる。

「……煙、消えたわ」

「よかったな」

「また明日、燃えるけど」

「燃える前に食うな」

 五月の金曜日。

 抹茶で鎮火して、笑って、また明日を迎える。

 それが、令和の京都女子高生の、いちばんリアルな回復やった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ