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一乗寺ラーメン戦線異常あり! 前田家と前田家のラーメン戦争! まつと利家の、恋と麺  作者: イサクララツカ


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11/25

第11話 五月、木曜、西院こってり戦線

 五月の木曜日。

 夕方の西院は、阪急の高架下が少しだけ油の匂いをまとっている。

「……腹減った」

 前田利家、本日も第一声それ。

 今日も全力練習。

 芝の匂いと汗の匂いが混ざった男。

「毎日それ言うてへん?」

 まつがバッグを肩にかけ直す。

「減るもんは減る」

「せやな」

 二人が入ったのは、西院にある“京都発祥のチェーン”。

 赤い看板、堂々と掲げられた文字。

 ――ラーメン天下平定。

「名前、強すぎひん?」

 まつが呟く。

「天下取る気満々やな」

「前田利家、加賀百万石の子孫らしいで?」

「らしいな」

「その子孫が代々ラーメン屋って、歴史どうなってんの」

「知らんけど」

 二人同時に笑う。

 店内は活気に満ちている。

 カウンターの向こうで、湯気が立つ。

 京都こってりの匂い。

「注文どうします?」

 利家、即答。

「こってりラーメン大盛、餃子定食!」

「通常運転やな」

「今日は対人強度高かった」

「言い訳になってへん」

 まつは落ち着いて。

「こってり小」

「少なっ」

「今日は夜遅い。消化考えてる」

「管理されてる俺と違って、自己管理できてるやん」

「うちは理論で動いてる」

 ラーメンが運ばれてくる。

 どん。

 利家の丼は、堂々たる大盛。

 餃子も並ぶ。

「……ええなあ」

「お前のもあるやろ」

「量が違う」

 まつはスープを一口。

「……今日のスープ、ちょい濃い」

「わかるんか」

「わかる」

 真顔。

「こってりはな、乳化具合と温度管理や。

 高温すぎると油が暴れる。

 今日はギリギリ攻めてる」

「攻めてるの好きやけどな」

 利家は豪快にすすり、餃子をかじる。

「……うま」

「そらうまい」

 そのとき、隣のカウンターで。

「すいませーん、大盛もう一杯」

 まつと利家、同時に振り向く。

「……二杯目?」

「替え玉ないから、丼ごと二杯目や」

 常連らしき兄ちゃんが、平然と構えている。

「胃袋どうなってんの」

 まつが小声。

「勝負してるんちゃう」

「何と」

「自分と」

「意味わからん」

 利家が笑う。

「俺もいける気する」

「やめとけ」

 即座に止める。

「高強度練習後は、消化器も疲れてる。

 今日二杯いったら、明日重い」

「うわ、現実」

「プロ目指すなら、“食欲に勝つ”のも技術や」

 利家、箸を止めて、まつを見る。

「……なんか今日、厳しいな」

「優しいで」

「どこが」

「未来に」

 一瞬、静かになる。

 店内はにぎやか。

 こってりの匂い。

 餃子の音。

「なあ、まつ」

「なに」

「俺、ほんまにいけると思う?」

 まつはスープを置く。

「才能はある。身体もある。

 問題は“継続”」

「また理論」

「せや。

 こってりも、毎日食うたら身体壊す。

 せやけど、うまく使えば力になる」

「俺はこってりなん?」

「扱いむずい」

「ひど」

 二人で笑う。

 隣の常連が、二杯目をすすりながら言う。

「若いってええなあ」

「何の話ですか」

 利家が笑って返す。

「夢の話や」

 その一言に、まつは少しだけ真面目な顔になる。

 店を出ると、西院の夜風が涼しい。

「天下平定か」

 利家が看板を見上げる。

「前田家も、平定する?」

「一乗寺ラーメン戦争か?」

「サッカーか」

 まつは肩をすくめる。

「どっちもや」

「欲張り」

「京都人はな、表で静かに、裏で欲張るねん」

「知らんけど」

 また同時に笑う。

 木曜の西院。

 こってりの余韻をまといながら、

 二人は未来の話を、静かに続けていた。

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