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一乗寺ラーメン戦線異常あり! 前田家と前田家のラーメン戦争! まつと利家の、恋と麺  作者: イサクララツカ


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第1話 春、桜、つけ麺三人前(合格発表日)

三月。

 洛西の空は、やけに明るかった。

 受験が終わった人間だけが、気づく明るさや。

 駅前の桜は満開で、合格発表を終えた中学生たちが行き交っている。

 泣いてるやつ、笑ってるやつ、無言でスマホを見つめてるやつ。

 それぞれの「結果」が、春の空気に混ざっていた。

「……受かったなぁ」

 駅前のベンチで、利家が空を見上げて言う。

 声がでかい。

 春の空に跳ね返って、ちょっと恥ずかしい。

「声でか。洛西中に聞こえるわ」

 まつが即ツッコむ。

 手には紙袋。中身は弁当箱――今日は使わん。

「ええやん。嬉しいんやし」

「嬉しいんは分かるけどな。

 うちら今から昼やろ。落ち着き」

 秀吉は二人の後ろを、少し遅れて歩きながら笑った。

「……ほんま、二人とも変わらんな」

「変わらんのがええんや」

「せやで秀吉。変わったら困るやろ?」

 まつが振り返る。

 その顔は、いつもより少し柔らかい。

 合格発表のあと特有の、肩の力が抜けた顔や。

「で、昼どこ行く?」

「決まってるやろ」

「……竹ちゃん、やな」

 三人の意見は、自然に一致した。

 洛西駅近所、つけ麺屋・竹ちゃん。

 受験帰りの腹を、何度も救ってくれた店や。

「いらっしゃいー」

 暖簾をくぐると、カウンターから元気な声。

 昼どきで、ほどほどに混んでいる。

「三人でええ?」

「奥どうぞー」

 席につくなり、利家は迷いなく言った。

「特製つけ麺、大」

「はいはい」

 まつはメニューを一瞬だけ見てから、

「特製つけ麺、小」

「……少なすぎへん?」

「うるさい。あとで歩くし、今日は調整日」

 秀吉は、少し悩んでから、

「特製つけ麺、普通で」

「了解」

 注文が通ると、どっと空気が緩む。

「……なぁ」

「ん?」

「高校、同じやな」

 利家の一言に、秀吉が小さくうなずいた。

「桂川高校」

「サッカー特待と、一般と、マネージャー」

 まつが指折り数える。

「立場バラバラやけど、昼は一緒」

「昼だけちゃうやろ」

「走るんは別」

 ぴしゃり。

「……はい」

 利家、即降参。

 カウンター越しに、湯気が立ち上る。

 つけ汁の香りが、腹を直撃する。

「来ましたー」

 まず、利家の大。

 丼が、でかい。

「……これ、普通の店やったら三人前やで」

「走るからええねん」

 次に、秀吉の普通。

 最後に、まつの小。

「小でも、具は一緒やな」

「特製やからな。ケチったらあかん」

 まつは箸を割りながら、淡々と言う。

「つけ麺はな、麺の水切りと温度管理が命や。

 今日は春やから、冷やしすぎたら腹壊す」

「はいはい」

「聞き流すな。

 秀吉、膝あるんやから、冷えは天敵や」

「……ありがとうございます」

 秀吉は、素直に受け取った。

「いただきます」

 三人、同時に箸を伸ばす。

「……うま」

「やろ」

「安定やな、竹ちゃん」

 利家は豪快に啜る。

 まつは噛んで、考えて、また食べる。

 秀吉は、ゆっくり、身体の反応を確かめるように。

「なぁまつ」

「なに」

「高校なったら、昼どうするん?」

「基本、弁当」

「ほら」

「サッカー部は体が資本やし。外食ばっかはあかん」

「たまにはええやん」

「たまには、な」

 にやっと笑う。

「秀吉は?」

「……リハビリある日は、軽め」

「よろしい」

 まつは満足そうにうなずいた。

 窓の外、桜が見えた。

 花びらが、ゆっくり風に揺れている。

「春やなぁ」

「せやな」

「……また、始まるな」

 秀吉の言葉に、まつは少しだけ間を置いた。

「始まるで。せやけどな」

「?」

「うちらは、うちらのペースで行く」

 まつは、最後の一口を食べ切る。

「まずは、今日」

「今日?」

「合格祝い。つけ麺で十分や」

 利家は丼を空にして、立ち上がった。

「俺、走れる」

「当たり前や」

「秀吉は?」

「……今日は、歩く」

 まつは、にっと笑った。

「ほな、鴨川な。腹ごなし」

 桜は満開。

 三人の春は、つけ麺の湯気みたいに、ゆっくり立ち上がっていた。

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