in the garden
どこか遠く、すごく遠くの空の果て。
深くて暗い青の中に、
まあるいまあるい、明るく輝く青い星がありました。
その青い星には1人のお姫様が住んでいて、
広い広いお庭にたくさんの動物や精霊たちと一緒に、
毎日静かに暮らしていました。
その星にはなんと雨や雪は降らないのです。
かわりに、春には色とりどりの金平糖が。
夏にはくるくる回りながらひまわりの花が。
秋には赤や黄色の紅葉の葉っぱと一緒にたくさんの木の実が。
冬には雪のかわりに可愛らしい冬薔薇が。
そういった様々なキレイなものや可愛いものが、はらはらはらと降るのです。
ある晴れた冬の朝、お姫様は、ほう、とさみしげなため息をつきました。
するときらきら輝く空から優しい色の、開きかけのパンジーが降ってきました。
開きかけの小さな花は、地面に触れるとふわりと咲いて、そしてしばらくすると消えていきました。
花はくるくる降り続け、地面はまたたくまにパンジーで埋め尽くされました。
お姫様が花の庭を眺めていると、つる薔薇のからんだアーチに扉が現れて、
そこから小さな子どもたちが何人も出てきました。
子どもたちはお姫様を不思議そうに見上げました。
「ここはどこ?」
「あなたはだあれ?」
お姫様は嬉しそうに、でもなぜか少し悲しそうににこりと笑って、
子どもたちの手を取ってお城へと招き入れました。
もちろん、お城にはお姫様の他はだあれもおりません。
でも、子どもたちのお腹が空けば、お菓子やごちそうがテーブルにたくさん並びます。
子どもたちはお姫様や動物たちとたくさん遊んで、退屈する暇なんてありません。
お姫様の庭は子どもたちの笑い声でいっぱいでした。
お腹いっぱいになって、遊び疲れて眠った子どもたちは、1人、また1人と消えていきます。
お姫様の庭は夢の庭。
ここは起きているあいだに辛いことや悲しいことがたくさんあった子どもたちが、寝ている時にやってくる庭なのです。
また1人、子どもが消えていきました。
お姫様は子どもたちを優しく撫でながら、それを嬉しそうに眺めていました。
みんなここで美味しいお菓子やご馳走をいっぱい食べて、
たくさん笑ってたくさん遊んで、元気になって帰っていくのです。
お姫様は消えていく子どもたちを1人1人、撫でながら見送りました。
さよなら、さよなら、さよなら。どうかもう来なくて済みますように。
お姫様の星では雨は降りません。
雪も降りません。
お姫様を楽しませるように、慰めるように、きれいな可愛いものがはらはら、きらきらと降ってきます。
その星には人はお姫様だけ。
お姫様は動物たちと、精霊たちと一緒に暮らしています。
お姫様がほう、とさみしげなため息をつけば、空はお姫様のために色々なものを降らせます。
お姫様は今日も1人。
さみしげなため息をついて、でもなぜか嬉しそうに贈り物で溢れる庭を眺めるのです。
今日も1人、たった1人。
空から降った花が一輪、お姫様の髪を飾って香りました。




