3-2.18年という鏡(2)
あるいは別の記憶にも結びついたりする。日曜日、ショッピングモールへ向かう電車。確かちょうど私の正面の席に座って、スーツケースのハンドルを握りしめながら、背後の窓に振り向いたり、首や体を傾けて、向かいの、つまり私の後ろの窓を覗こうとしていた女の子は、どうやら今私の隣にいる彼女だったらしいと思い当たった。
私は先に降りたけれど、きっと彼女は、終点の空港まで向かうところだったのだろう。今日と同じように、でも違う道で、帰るところだったというわけだ。
私のときは、新幹線を使った。もちろん彼女とは行き先も違う。そもそもその頃は、北海道までは新幹線で行けなかったような気がするけれど、よく覚えていない。私が乗るとすれば、大抵は東京までだったから、あの街まで行ったのも珍しかった。もっとも、そういうことに関係する記憶としては、受験の時よりも、その半年ほど前に、下見のためにあの街に行ったとき、地震でダイヤが乱れまくって、帰り着いた時には日付が変わって何時間も経っていたということの方が、印象深く残っている。
そのときには彼女は、文字通りにどこにもいなかった。世界中のどこを探しても。別の、もう少し最近の大きな地震のことを、ええと、たぶん六歳だった彼女は、覚えているんだろうか。私はよく覚えている。自分が中にいた建物を、ひっつかんで振り回されでもしていたような感覚を、今でもはっきり思い出せるほど。そもそも、彼女はそのときどこにいたんだろう?
――おうちは、いいところ、見つかりましたか?
――一応決まりましたけど……すごく綺麗っていうか、綺麗すぎて、いいのかなぁって思っちゃいましたね。
――街中ですか?
――あ、はい。駅の前から通じてる通りから、二つ目くらいの大きな通りを、こう、南に行って、少し横に入ったくらいですね。
――ああ、なんとなく、だいたい……分かります。その辺の街中に住むのは便利だから、いいと思います。
――でも、ちょっとビビっちゃってて。大丈夫かなあって。すごく都会だし、そんなところに住むのって、全然分かんないんで。楽しそうな気もしてますけど。
――意外と、すぐに慣れちゃいますよ。
――そうなんですかねぇ。どんな感じのところですか?
――いい街ですよ。まあ、長く住んでると、そうでもないところにも、気づいちゃいますけどね。
――へえーっ……あの、お姉さんは、どのくらい住んでるんですか?
――大学の頃からですね。
――あ、ってことは……もしかして、先輩ですよね!
――まあ、一応。私からすると、北海道の方が憧れますよ。
――うーん……地元民だと、そういうのよく分からないですよねぇ。私の家の方は、札幌みたいな都会でもないし、支笏湖みたいな有名なところも、身近にあると、ありがたみが薄いし。いや、そんなに近くもないんですけど。
――住んでると、そうなっちゃいますよね……この船は、初めてですか?
――そうです。来るときは親と一緒に飛行機だったんですけど、いろいろ都合があって、私だけ、遅れて帰ることになっちゃって。
――楽しそうに見えますよ。
――あははっ、いや本当、そうです。受験勉強から解放されてから、ずっとですよ。
――気持ち、分かります。
――いやあ、なんか楽しいですよねぇ、船旅って。外はちょっと……まあ、寒いし、思った以上に真っ暗で、星空が見えるってわけでも、ないですけど。