1-3.36歳の私と18歳の彼女(3)
彼女と出くわすという偶然は、その後に大浴場でも続いた。彼女はそこで、見られたくはなかっただろうなと思える様子でいた。私にとっては、私が目にしてきた彼女の無邪気さの表れ方の一つでしかなくて、そんな微笑ましい印象を強めるだけのものだったにしても。だからこそ私にとっても、罪悪感というか、気まずさがあったわけだけれど。
そんな雰囲気をごまかそうとでもしたのか、同じ浴槽に浸かったとき、彼女は私に声をかけてきた。
――あの……これから向こうに行くところですか? 向こうから帰るところですか?
最初、言われていることの意味が分からなかったのは、たぶん彼女自身気づかないまま、同じ言葉に違う意味を持たせていたからだったのだろう。何秒かの間、笑顔の卵のような表情(孵化寸前)や、濡れてまとまり、つやつやする黒い髪や、瑞々しく張りのある肌、そのなめらかな質感などなどをうっとりと観察しながらゆっくりと考えた末に、ようやく私は、前者の方だという答えを発した。
――じゃあ、あの街に住んでるんですね!
彼女は目を輝かせて、明るい声でそう言った。そして続けざまに何か言いかけ、一度口をつぐみ、明らかに意識して気持ちを落ち着かせてから、旅行ですかと尋ねてきた。そんな話をしている間、彼女の言いたいことはもっと他にあるのだと、私にははっきりと分かった。そしてうずうずとしている様子を隠しきれないまま、彼女は先に浴場を出ていった。私がそれに続いたのはだいぶ後で、おかげで、かなりの長湯をするハメになった。しかしそうしないと彼女と出くわしてしまいそうだったので仕方がない。
寝台に腰掛けながら自動販売機で買ったペットボトルに口をつけていると、やっと頭がはっきりとしてくる。続いた偶然に改めて感心しながら、彼女のことを考えた。彼女がなぜあんなに楽しそうなのか、今の私にはもう、少なくとも実感によって理解することはできそうにないと思い、彼女の年齢を考え、それがちょうど、今の自分の半分なのだと気づき、唖然とした。
しばらくうとうととしてから、起き上がって、寝台を出た。もう食堂も売店も閉まっているけれど、窓辺に置かれた席には、驚くほどの人たちがいた。菓子と酒をテーブルに広げてつまんでいる人たちもいたし、新聞とにらめっこをしている人もいたし、何も必要とせずただ話している人たちもいたし、並んで腰掛けながらそれぞれ携帯電話をいじりながら、時折思い出したように言葉を交わす人たちもいた。大浴場から出てくる父親と子供の姿もあった。船がどこにいるのかを地図と航路で示しているモニターの前で、脇に置かれているパンフレットを見ながら話している男女の組み合わせもあった。
そして彼女も。甲板(「こうはん」と読む)に出るドアが重くて、手間取っているらしかった。ダッフルコートに手袋まで身につけて、完全武装している。ダウンジャケットを着込んできた私と同じように。上げた顔を私に向けて、彼女は照れて笑った。私も笑っていたと思う。こんなに奇遇なことがあるだろうか? そんな気持ちの苦笑だったかもしれないし、ただ自然と笑ってしまっていただけのことかもしれなかった。
彼女はまたドアに向き直って真剣な顔になり、思い切り力を入れて、開けた。ひどく冷たい風が、野太く響く音とともに吹き込んできた。