4-2.鏡に背を向けて(2)
下船口の前の空間で、他に座る人もいない椅子に、二人で並んで腰を下ろしながら、列を作っていた人たちが、はけるまで待った。あえて示し合わせもせず、私たちは自然と、そうしていた。家族連れ、若いカップル、年をとったカップル、彼女よりいくらか上ぐらいの年齢の男の子三人組、そして、彼女のいくらか下ぐらいの年齢の女の人二人組が最後だった。その後に、いくらか間隔を置きながら、私たちは続いた。
先に行った彼女が検札を済ませると、私の方を振り返り、眉根を寄せながら、残念そうな苦笑を見せた。彼女はそれに、微笑んで答えた。やっぱり、ここで尻尾をつかまれることになるってわけだ。
乗り込んだ時よりもしっかりしているように思える即席の通路を進み、人のあまりいない、でも土産物屋は律儀に、あるいはちゃっかりと営業しているターミナルに着いた。振り返ると、そこは建物の一面がほとんど全部大きなガラス窓になっていて、降りたばかりの船が、手前に歩いてきた通路だかタラップだかを置いて、悠然とたたずんでいるのが、どーんとそこに見える。振動も音も、ここでは感じない。たったこれだけの距離を隔てたところに、そういうものは全部置き去りにしてきたのだった。しかし、まだふらふらと足下が揺れているような気がするのはなぜ?
私は苫小牧駅へ行くためにバス停に向かい、私は迎えに来る家族の車を待つために駐車場に向かう。人のほとんどいない、殺風景な、しかし出港したところに比べるとだいぶ明るい雰囲気のターミナルビルを通り過ぎた。建物を出たところでの別れ際に、私たちは携帯電話で連絡先を登録し合い、彼女からテストのメッセージが、かわいい絵文字を添えられて送られてきた。それに対して、彼女は丁寧な文章で答えてくれる。
こうして私たちは、そこで私たちが一緒にいる理由を、使い果たしてしまった。私たちにはそれぞれの行き先があって、砂時計の砂のように、重なった道から、また分かれていかなければいけなかった。
――それじゃあ。
私はそれだけを言った。そして、続く言葉が思いつかない。中途半端に手を振って、立ち去るタイミングを見計らっていた、あるいは見失っていた私に、同じように悩んでいたらしい彼女が、にっこりと笑って、言った。
――いろいろ、ありがとうございました。
そしてもう一度、言葉を探すように少しだけ黙ってから、続ける。
――あの……まあ気楽に、なんていうか、いきましょう、ね、お姉さん。
私はそれに、自然と笑顔で頷いて答えると、後ろに向き直り、もう長々とできているバスを待つ列の後ろにつくために歩き出した。いつまでもそれを見送るというか、待っている姿を見ているわけには行かず、私も反対側に、駐車場に向かって進んだ。空は相変わらず曇っている。空気は冷たい。出発した港よりも。しかし、あの暗闇の中の甲板よりは、その肌触りは優しかった。
そんな空気の中で肩をすくめ、マフラーに顔を埋めながら、私は、最後の言葉を頭の中で繰り返していた。それを文字にしたら、どんな漢字を当てることになるのだろうと、考えながら。