3-3.18年という鏡(3)
――そういう、期待通りには行かないことはよくありますから……たぶん、この先も。
――そうですよねえ……あの、大学って、やっぱり大変ですか?
――いや、楽しいですよ。確かに、大変かもしれないですけど。今考えてもそうだし、その時にも、やっぱり楽しかったと思います。まあ、なんか途中で見なくなる人もいたりするんですけどね……その先どうなったのかは、知らないんですけど。
――なるほど……現実ってやつですねぇ。
――まあ少しは、歳のおかげで、経験して知ってることもあるんで。楽しそうでうらやましいくらいだったんですけど、ちょっと心配になっちゃって……あー、余計なこと言っちゃいましたね。
――いえ、お姉さんのおかげで、ちょっと安心できました。でも、ちょっと怖いなあ。私も結構、うじうじするタイプですし。死にたいとか、また思っちゃうのかなあ。
――受験のせいで、そうだったんですか?
――ああ、もっと前のことですよ。中二病ってやつです。変なこと考える子供だったんです。今でも、まだちょっと残ってますけど……この船から落っこちたら、いい感じに消えてなくなれるんだろうなあとか、考えちゃいました。あはは、大丈夫ですよ、本気じゃないんで。
――ふふっ……でも、どうしていい感じなんです?
――だって、真っ暗で、誰にも見られずにできるじゃないですか。今はダメですけど。お姉さんが目撃者になっちゃうんで。
――それはまた、残念ですね。
――あはは、いやあ、本気でするつもりだったら、出直しですね。それで、落っこちた後も、見つからないでしょうし。そしたら、本当に、消えてなくなるみたいな感じで、一人っきりで死ねるんじゃないかなあって。
――同感ですね。都合のいい場所だなって、思います。
――ですよね! 道路に飛び出すとか屋上から飛び降りるとか、一瞬で終わるし確実だと思うんですけど、相手とか周りとか、迷惑が大きすぎるよなあって。自分で刃物とか使うのだって、ビビっちゃいそうですし。ああ、うーん、でも……すぐには死なないんですかね? ここから落っこちても。睡眠薬でも、ガバガバ飲んでからとかじゃないと、いつまでも浮かんでたりしそうで……あ、今は水が冷たいから、そうでもないのかな。
――溺れたことって、あります?
――ないんです。小さい頃から、水泳やってたので。だから、溺れて死ぬってどういうことか、よく分からないんですよねえ……なんかやっぱり、死ぬまでに時間かかって苦しそうだし、ダメですかねえ。
――すぐ楽に、とは行かないかもしれませんね。あと、このフェリーだと、たぶん降りるときにチケットの確認がありますから。それで、乗ったのに降りなかった人がいるって、発覚しちゃうかもしれませんね。
――なるほど……じゃあ、完全に誰にも知られずに、迷惑もかけない、って感じじゃないですね、うーん……いい方法に思えたんですけどね。
――かなり上位に入るんじゃないですか。私も同じで、いろいろ考えちゃって。だから私も、かなり都合がいいとは、思ってるんです。
――やっぱり、そうですよね。でも乗ってる間がこんなに楽しいと、決心、できなさそうだなあ。
――その楽しさがもう続かないって分かってれば、できちゃうでしょうね。
――そんなに深刻な気持ちだったら、確かに。でも私は、そこまで行かないんだろうなあ……死ぬこと考えてたような時も、結局、すぐに持ち直してましたから。怒られた時とか、夏休みが終わる時とか、友達に何かされた時とか、そのときはめっちゃ深刻でも、少し時間が経ったら、意外と平気だなって、けろっとしちゃう、単純な子供だったんですよ。