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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第3章 対決編

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065 決着

 迫るランゼの剣を、避け切れない、と覚悟を決めるエルテリス。その彼の視界に、ランゼの後ろ、エピスタとリエラの破壊した広場の壁が映る。その向こうから、ここにいるとは思えなかった人物が、広場へと飛び込んで来た。

 復讐に燃える目で、手にした剣を上段から振り下ろす。


 無言で振るわれたその剣にランゼが気付いたのは、大気の流れか、それとも剣に乗った殺気だろうか。

 エルテリスを捉える寸前まで振り下ろしていた剣筋を咄嗟に変え、後方からの攻撃を振り向きざまに受けようとする。しかし、それは一瞬、遅かった。


「ガァッ!」

 ランゼの強化魔術を打ち破って振り下ろされた剣が、ランゼの剣を持った右腕を肘の上から斬り落とした。


「カタイン!?」

 危機を脱したエルテリスの口から驚きの声が迸る。

 ランゼに一撃を入れたのは、以前エルテリスを狙って襲撃を掛けた、ローランディア近衛騎士団前騎士団長カタインだった。思いもよらない人物の乱入に驚きつつも、エルテリスはランゼから飛び退き、体勢を整える。


「陛下の仇! 覚悟!」

 叫んだカタインが剣を横に薙ぐ。ランゼは左手で右腕を押さえ、カタインの剣筋を避けた。ランゼの切断された腕がドサッと地面に落ちる。


「陛下!」

 コルテとリエラを相手にしていた護衛騎士がランゼの危機に意識を向ける。その隙をコルテとリエラが逃すはずもない。


「ぐぁっ」

「くうっ」

 コルテの剣が相手の左腕を斬り付け、リエラの槍が太腿に突き刺さる。コルテはさらに、魔術陣を活性化させて雷撃を浴びせた。2人の護衛騎士が地に倒れた。


「逃げるか!」

 カタインはさらにランゼへと剣を振り上げる。その前に大剣が突き出され、カタインは動きを止めた。


「邪魔立てするなら貴様も斬る!」

「邪魔するつもりはねぇ。が、斬る前に話をさせてくれ」

 鋭く咎めるカタインに、大剣を持ったエピスタが言った。彼はチラッとエルテリスにも視線を向ける。エルテリスも、カタインに一歩遅れたものの斬り掛かりそうだった。


「おかしな動きを見せればすぐに斬るぞ」

「その時はおれが斬る」

 カタインは剣を引いたものの、油断なく構えたままランゼを睨んでいる。エピスタも横にしていた剣を構え直す。

 ランゼは逃走経路を確認するように周りを見たが、前をエルテリス、エピスタ、カタインに押さえられ、後ろも護衛騎士を倒したコルテとリエラがそれぞれの武器を構えている。


「ランゼ! てめぇ、一体全体なんでこんなことをしているんだよ! ルティエス陛下を殺したのは本当にお前なのか!?」

 戦闘音が消えた広場に、エピスタの声が響く。いつしか、周囲の騎士たちの戦いも止まっていた。無事な者もいるようだが、剣を引いてランゼとその周囲の状況を見守っている。

 ランゼは警戒を解くように、やや落としていた腰を上げ、左手で右腕を押さえたまま背を伸ばした。


「……憎いんだよ」

「何?」

 呟くようなランゼの声に、エピスタが聞き返す。


「憎いんだ! 人間が! 滅ぼさねば俺が()られる! その前に滅ぼしてやる!」

 ランゼの咆哮に、エピスタも次の句をすぐには繋げられない。斬られた腕を押さえて身体を小刻みに震わせているランゼを、初めて見るような目で見つめる。


「憎い? 何でだ。お前だって人間だろう? 人間のために魔王を斃したんじゃないのか?」

「ああ、そうだ。だけど魔王を斃してから、頭の中で声がするんだ。人間が憎い、人間を殺せ、残り1匹も残さず殲滅しろ、って。始めは無視できたけど、そのうちはっきりと聞こえるようになった。いくら無視しようと思っても、どんどん大きくなるんだ。

 そのうち、変な夢を見るようになった。自分が獣になる夢だ。獣になって平原や街を歩いている。獣になって、人間に追われるんだ。剣を振り下ろされ、矢を射かけられる。

 そのうち、本当に人間が憎くなってきた。だから、人間を滅ぼすために行動を始めたんだよ!」


 エピスタは絶句した。リエラも同じ気持ちだ。ハンターとしてずっと共に行動をしてきたランゼが、そんなことを考えているとは思いもしていなかった。

 いや、ランゼの言葉を聞く限り、昔からそう考えていたわけではなさそうだ。


「……それが魔王を斃した代償、いや、魔王に掛けられた呪いか」

 エピスタがそう考えたのは、以前エルテリスとコルテにその可能性を聞いたからかも知れない。

 ランゼが魔王にとどめを刺した時に彼が浴びた魔王の血、アレに魔王の意思が残っていて、それがランゼに囁いたのだろうか、とエピスタは考える。


「知らないよ! とにかく、人間が憎くて仕方なかった! けれど1人1人殺していたんじゃ埒が明かない。それで、俺の考える最速の方法を取ったんだ!」

「そんなことはどうでもいい!」

 エルテリスが吼えた。隣にいるエピスタが驚くほどの声量で。


「お前はボクの目の前で母上を殺し、魔獣を操って父上も殺した! お前はここで、ボクが斃す!」

「そうだ。貴様は陛下をその手に掛けながらオレを騙し、仇を殿下と誤認させた。陛下の仇はここで討つ!」

 エルテリスに続いて、カタインも声を張り上げ、剣を構え直す。エピスタとリエラも、できればランゼの命までは取りたくなかったが、彼らを止める言葉を持たなかった。


 場の緊張が一段高まった時、ランゼがニヤリと口角を上げる。

「コルテ!」

 エルテリスは、少し前まで感じていたコルテの魔力……瘴気結界が消えていることに気付き、自分の護衛騎士の名を呼びつつランゼに向かって走り出す。一拍遅れて、仇討ちを取られるものかとカタインも踏み込む。


 その時、上空から3羽の大きな鳥が急降下して来た。1羽はエルテリスに爪を向け、もう1羽はカタインを狙う。


「殿下!」

 瘴気結界を解いてしまったことを後悔するよりも前に、コルテはエルテリスを襲う魔鳥に向けて走り出す。

 エルテリスは上空からの襲撃に気付いて足を止めると同時に剣を振り上げる。その剣は魔鳥の足の付け根を斬り付けたものの、魔鳥は痛みを感じていないかのように、エルテリスに爪を突き立てようとする。その魔鳥の翼を、コルテが剣のひと振りで切断した。


「ギャアアァァッ」

 バランスを崩した魔鳥の胴体が斬り裂かれ、絶命する。


 カタインは、自分を襲った魔鳥を自らの剣で斬り裂いた。その動きで、ランゼへの対応が遅れる。

 ランゼの両肩を、3羽目の魔鳥が掴み、翼を強く羽ばたかせた。大型の魔鳥といっても、人1人を掴んで飛べるわけもない、と誰もが思ったものの、魔鳥はランゼを両足で掴んだまま飛び上がる。魔術を併用しているようだ。


「ランゼ!」

「逃すか!」

 上空に逃れようとするランゼに向かって、エピスタとカタインが飛び上がり、剣を振る。しかし、剣先が僅かにランゼの足を掠るだけに止まった。


「くそ!」

「まだだ!」

 カタインが右手を突き出し、炎弾を放つ。しかし魔術のそう得意でない彼の炎弾を、ランゼは蹴り飛ばした。

 そのまま逃げ去られるかと思われた時。


「はっ!」

 ドシュッ。

「ギャアアァァッ」

 投げられた槍が魔鳥の胴体を貫き、魔鳥はランゼを掴んだまま墜落した。


「ランゼ!」

「覚悟!」

 剣を掴み直したカタインと、コルテの陰から飛び出したエルテリスが同時に剣を突き出す。


「くそっ!」

 ランゼは暴れる魔鳥を振り解けず、左手に魔力を集中させて最大強化し、剣を受けようとする。が。


 ザンッ。

 ドスッ。

「ガアアアアァァァッ」

 カタインの剣はランゼの左腕を斬り裂いて胸を貫き、エルテリスの剣はランゼの腹に突き刺さった。


「ぐ、う、あ、こんな、ところ、で……ぐはっ」

 ランゼはしばらくもがいていたが、最後に口から血を噴き出して、力尽きた。




 ここに、エルテリスの復讐は成った。


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