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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第3章 対決編

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063 対決!

「ランゼ!! 父上と母上の仇はボクが取る!! 覚悟しろ!!」

 両手で剣を構えたエルテリスは、仇敵に鋭い言葉を投げつけた。しかしいきなり斬り掛かったりはせず、ジリジリと間合いを詰める。それも、ランゼを守る2人の護衛を意識してのことだろう。


 ランゼを目の当たりにした時のエルテリスの行動を何パターンか想定していたコルテは、内心で安堵した。我を忘れて斬り掛かっては、エルテリスの剣がランゼに届くよりも早く、護衛のどちらかの剣に阻まれただろう。


 護衛の1人が笛を取り出して口に持ってゆく。かん高い笛の音が砦に響く。ほぼ同時に、ミナンディアの騎士の1人が炎弾を打ち上げた。それほど魔術の得意な騎士ではないようで攻撃力は無さそうだが、近くの仲間に報せるだけなら十分だ。


「ミナンディアに泣きついたと言うから籠っているかと思えば、こんなところまで出て来るとはな。手間が省けた」

 ランゼは口角を上げ、剣を鞘から引き抜いた。


「ランゼ! 貴様、目的は何だ!!」

 コルテが鋭く言った。その目はランゼと左右の護衛騎士を見据えている。

 改めて見ても、ランゼはコルテよりも強い。おまけにその護衛騎士2人も、ランゼには及ばないもののコルテと同レベルのようだ。ローランディアの王城に勤めていたコルテの見覚えのない騎士たちなので、近衛でない者を取り立てたか、新たに登用した者だろう。

 その手練れと思われる3人を相手に、エルテリスを飛び込ませるわけにはいかない。


「知れたこと。“真の魔王”の討伐だ」

 ランゼが手を前に出して剣をエルテリスに突き付ける。エルテリスは怖気付くことなく、それを睨み据える。


「それは貴様の嘘だな」

「何がだ」

「エルテリス殿下が目的ならば、殿下がミナンディアにいると知れた時点でラビトニアとは和睦し、ミナンディアに向かう筈だ。しかし貴様はラビトニアに拘った。これが証拠だ! 何より、“真の魔王”は貴様ではないか!! 我らには確証もある!!」

「はっ、そんな戯言を」

 ランゼは鼻で笑ったが、護衛の2人はチラリと目を見合わせる。その一瞬、2人の瞳に戸惑いの色が現れたのをコルテは見逃さない。ミナンディアの密偵を使って流した噂は、多少の効果を齎しているようだ。


 しかしこの状況を考えている時はない。ランゼたちの後ろ、彼らがこの広場に入って来た入口から、ローランディアの騎士が雪崩れ込んで来た。その数は11人。さらに、エルテリスとコルテの後ろからも、ミナンディア騎士が4人、飛び込んで来る。

 乱戦になるだろうその時、その引金をコルテが引いた。問答しながらも作っておいた魔術陣が姿を現し、3本の火線がランゼたちに飛ぶ。


「陛下を守れ!」

「魔王ランゼを討て!」

 騎士たちが左右に分かれて戦闘に入る中、コルテは走る。コルテの炎弾を魔術で強化した剣で弾いた護衛騎士は、続けてコルテとの戦闘に入ろうとランゼから僅かに離れる。その、隙とも言えない隙を突き、コルテの後ろに隠れて走ったエルテリスが横に跳び、護衛騎士たちをスルーしてランゼに斬り掛かる。


「陛下!」

 護衛騎士が叫ぶが、エルテリスの剣はランゼに簡単に防がれた。

「オレは気にするな! おまえたちはその女騎士を相手しろ!」

「は!」

 ランゼを気に掛けた騎士にコルテが斬り掛かるも、もう1人の騎士の攻撃を避けるため、攻撃を諦め防御に変える。相手の剣を受け流しつつ一旦後方に退き、騎士たちを引き付けてランゼから離す。

 しかし、彼らがランゼから離れるということはコルテ自身もエルテリスから離れることになるので、ほどほどに抑え、向かって来る騎士たちの剣閃を避けつつ、自分からも反撃する。


 2人とも、コルテが推測した通り実力は彼女と拮抗している。同格の剣士2人を相手に、コルテは劣勢を強いられた。

 もう1つ、コルテに不利なものがあった。ランゼと遭遇してから、探査結界を解除して範囲を狭めた瘴気結界に切り替えている。ランゼが魔獣を呼び寄せることを危惧してのことだ。

 探査結界ならそうでもないが、瘴気結界を維持するのは少々骨が折れた。それを維持しつつ、コルテは騎士2人と剣を交えた。




 エルテリスは、剣の腕で自分がランゼよりも遥かに劣ることを自覚していた。コルテと2人のハンター生活の中で鍛えてはきたものの、2年前後の期間では上達にも限度がある。

 それでも、ある程度は戦えると思っていたエルテリスだったが、剣を一合交えただけで、自分の予想が甘かったことを認識した。エルテリスの剣の腕は、ランゼに遠く及ばない。


 それでもエルテリスは、父母の仇敵をここで諦めることなく、これまでに学んだことをすべて使って、ランゼに立ち向かう。剣を使いながら魔術でも攻撃するというコルテのような戦い方は無理だが、身体強化と武具強化の魔術をピンポイントで使い、腕の力を一瞬だけ強化して剣速を速め、腕と籠手を瞬間的に強化して避けきれない斬撃を防ぐ。


「はっ、見た目よりも頑張るじゃないか!」

 ランゼは余裕でエルテリスの剣を受け、流し、弾き、避ける。エルテリスはランゼの軽口に応える余裕もない。話す言葉を考えるくらいなら、その脳内リソースを身体を動かすことに使った方がいい。


 周りでも騎士たちが戦っている。数ではローランディア側がやや優位だが、ミナンディア騎士たちも押されぬよう必死だ。

 周囲の剣戟の音に、認識外からの攻撃を警戒しつつ、エルテリスも必死にランゼに喰らい付く。足を魔力で強化して相手に素早く近寄り、強化した腕で剣を振り下ろす。強化した剣がランゼに軽く弾かれ、引き下がって体勢を整え、続けて相手に飛び掛かる。


「なかなかやるじゃないか。さすがは“真の魔王”と言ったところか」

 ランゼの言葉に、エルテリスは『何を!』と内心で激昂しつつも、努めて冷静さを保ち攻撃を繰り出す。ここで焦っては、相手に届く剣も届かない。

 エルテリスは、格上の相手に喰らい付いてゆく。




 自分とそう変わらない実力者2人を相手に、コルテは剣を振る。その視界に常にエルテリスとランゼを収めるように、右へ左へとステップを踏みつつ、基本的には防御に徹し、隙を突いて致命傷を狙う。

 しかし、同格2人を相手にしては、コルテの思うようには戦場をコントロールできない。1人の隙を突いて攻撃を仕掛ければ、もう1人が必ず攻撃を仕掛けてきて相棒の危機を救う。


 コルテは魔術陣を不活性化した不可視の状態でいくつか作っているものの、最初の攻撃に使った後は待機させている。積極的に手の内を晒したら、この2人の実力からすると、対応されてしまうだろう。

 いや、単に1対2の対戦であれば、コルテの魔力量と魔術精度を鑑みれば、戦術に魔術を組み入れることでコルテ優位に戦いを進められる筈だ。しかし瘴気結界を維持したままで、他の魔術を縦横無尽に使うとこは難しい。


 コルテが魔術にも長けていることは、ローランディア近衛騎士団で親しくしていた者たちも知らない。近衛騎士団を統べていた前団長のカタインすら知らなかったことだ。コルテの面識にないこの2人も知らないだろうから、魔術はコルテの戦いの切り札になり得る。

 それに、コルテの第一の目的は、この2人を下すことではなかった。


 コルテの視界の端で、ランゼの剣が振りかぶられる。その前には体勢を崩したエルテリス。

(殿下!)

 横薙ぎにされた剣を受け流したコルテは、腰から取ったナイフを空中に投げる。そこに隠れていた魔術陣が出現し、投げ上げられたナイフを捕らえるとランゼに向かって打ち出した。




 エルテリスは必死に、しかし落ち着いて剣を振る。そのすべてがランゼに躱され、受けられ、流される。その合間に、ついでのように繰り出されるランゼの剣を、エルテリスは必死に躱し、受けるが、受け流すことはそうできず、疲労が溜まってゆく。

 すでにエルテリスの全身は汗塗れだ。対してランゼには、まだ余裕が見える。


「遊ぶのも飽きたな。少し強くいくぞ」

 ランゼの言葉に、エルテリスはその機先を制するべく、両手で持った剣を上段から振り下ろす。ランゼはその剣を受け、振り払う。

「あ!」

 ランゼの力はこれまでで一番強く、エルテリスは体勢を崩す。振りかぶられた剣を目に、受け切れないと咄嗟に判断、両足を強化して飛び退こうとする。

(間に合わない!)

 足に込めた力はそのままに、せめて攻撃を受け止めようと剣を横に構える。


 しかしランゼの剣はエルテリスに振り下ろされず、横に払われた。


 キンッ!


 ランゼの剣は勢い良く飛んで来たナイフを弾き、その間にエルテリスはその場から飛び退き、ランゼと距離を取る。


「ふん。戦いも護衛頼りか?」

 嘲笑うように言うランゼに歯噛みしつつも、エルテリスは剣を構え直して再びランゼに向かう。


 その時。


 ドガッ。


 大きな音と共に、丸太を並べて造られた広場の壁の一角が吹き飛んだ。


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