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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第3章 対決編

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059 戦地に集う

 ローランディア王国とラビトニア王国との戦闘が開始されたことがミナンディア軍に伝わったのは、ザグレッドの町を抜けてから2日後の昼のことだった。


「3日前に開戦か。予想通り、我らのザグレッド到着前には、ランゼは戦場に着いたようですな」

「そうですね。戦場は旧魔王領に近いですから、単騎ならともかく3,000で移動するとなるとそれなりにかかりますね。5日、いや、6日はかかるかな」

 昼の休憩中に齎された情報に、エルテリスは騎士団を率いる幹部たちと急遽の打ち合わせを行なっている。


「ここから6日となると……我らの到着は開戦から9日目となりますな。それまで、ラビトニア側は保ちますかね」

「数の上ではラビトニア有利ですが、ランゼが魔獣を操るという殿下の情報が真であるなら、不利なのはむしろラビトニアだ」

「ラビトニアにはランゼのことを伝えましたから、魔獣に対する警戒もしているはずです。ノーザリアのようにはいかないでしょう」


(それに、ソルシアがお願いした通りに動いてくれているなら……)

 エピスタたちと出会った時、コルテがソルシアに伝えた瘴気結界の自動発動魔術具を、ラビトニアと旧魔王領の間に広がる森に仕掛けているはずだ。どの程度の数を用意できたかは未知数ではあるが。


「とにかく、最速で戦場を目指す。そこで、少数の部隊を次の町まで先行させ、後続の部隊が到着するまでにプロパガンダを行う、というのはいかがですかな? 衛兵隊との衝突が予想されますが」

「この先の町はの衛兵はそれぞれ50、多くても100というところです。ある程度の数を割いていただければ問題ないでしょう」


 ザグレッドを含め、ローランディア国内に入ってから町に立ち寄るたびに、エルテリスは町の広場で“真の魔王”ランゼについて訴え、王位の奪還を誓った。さらに、予め大量に用意しておいたランゼに対する告発ビラを、人々に配って回っていた。なお、この告発ビラは、ローランディア各地に送り込まれたミナンディア王国の間諜も蒔いているはずだ。

 ローランディアをランゼの手から取り戻すに際して、国民を味方に付けるのは必要なことだった。何しろ、ローランディア国内ではエルテリスは今もなお指名手配の身だ。ただランゼを討っただけでは国内がどう動くかも判らない。予想される批判を減らすためには必要な措置だった。


 ローランディア国内のそれぞれの町には衛兵が配置されているし、町によっては少数の騎士も駐留しているが、3,000の騎士を抑える力はなく、またエルテリスがランゼを告発すると、衛兵たちはミナンディア軍の進路を阻むことはなかった。

 未だに指名手配の身であっても、エルテリスはローランディア王家の血を引く後継者たりえることは当然衛兵たちも知っており、エルテリスの言葉をすべて信用したかは不明なものの、エルテリスとランゼ、どちらを信用すべきか疑心暗鬼にさせることに苦はなかった。


 ただ、町々でプロパガンダを行うことで、どうしても行軍が遅れることになる。その足踏みを減らすため、本隊に先行してエルテリスが先に町でのプロパガンダを行い、行軍速度を維持する目的だ。


「先行部隊の数は?」

「1割、300というところだな。殿下に付けている50を除いて、250の人選をすぐに始めよ」

「「「は!」」」


 昼休憩を終えると、ミナンディア軍は行軍を再開する。



────────────────────────



「報告! 旧魔王領側の森から野獣が出現しました!」

「警告のあったアレか? 本当だったのか。対処は?」

「森側の部隊で対応しています。ただ……」

「何だ? 問題か?」

「いえ。むしろ逆です。魔王が操っているにしては、統制が取れておらず、数で威嚇するだけで大半は散ります」

「逃げる野獣の深追いはせず、陣形の維持に努めよ」

「は!」


 ラビトニアの本陣に報告が上がる。右翼にローランディア軍が攻め込んできて小競り合いの続く中、左翼に森から飛び出して来た野獣が襲い掛かった。何頭か倒したものの、魔獣かどうかは不明だ。死体に魔石が残っているかどうか確認している余裕まではない。

 しかし、魔王が操る魔獣にしては、統制が取れていないようだ。


 かつて魔王が健在だった頃、魔王を討伐するために魔王領へと進軍した際には、魔獣たちは厳しい訓練を積んだように統制された動きで、侵入者たちを翻弄した。

 しかし、今ラビトニア軍を襲う野獣は、統制が取れているようには見えず、数もそれほど多くはない。この程度であれば、後方警戒を怠らなければローランディア軍を相手取っていても、遅れを取ることはない。なにしろ、数ではラビトニア軍が勝っている。


 開戦から5日目、ローランディアとラビトニアとの戦闘は小競り合いが続いている。



────────────────────────



(くそ、どういうことだ!?)

 簡易砦の監視塔にて、ランゼは歯噛みした。開戦から6日目となった今日、彼は戦場には出ずに、塔の上から両軍の動きを確認しつつ、戦場の北側に広がる森を睨み付ける。


 ランゼは、王女リンゼーナの婿として王城で暮らすようになってから、悪夢を見るようになった。それが、魔獣と意識を同期しているということに気付くまで、しばらく掛かった。

 それに気付くと、意識して魔獣と同期し、その身体を操る術を覚えるまでには時間は掛からなかった。さらにその先、魔獣たちに命令を出すことも。ただ、意識の同期を複数個体に同時に行うのは無理だった。魔獣の存在を感知し、行動を命令できるだけだ。自身に意識が1つしかないのだから、当然のことかも知れない。


 ランゼは、自分がそれをできることに、自分が何になったのかということに、疑問を持たなかった。自分は魔王を斃した勇者、故に魔王を斃さねばならぬ、その目的を達するために行動した。

 そして今、旧魔王領包囲網を完成させるための一端として、ラビトニア軍を下してその指揮権を手にするために、ここにいる。エルテリスがミナンディア王国を頼っていることが判明した今、旧魔王領の囲い込みよりも優先すべき項目があることに、彼は気付いていない。


 ミナンディアの軍がここに到着する前にラビトニア軍を下すべく、旧魔王領側に広がる森に生息する魔獣に突入の号令を掛けた。

 しかし、魔獣たちが思うように動かない。いや、魔獣は一斉に動きはした。その動きも把握できる。しかし、森のラビトニア側に来た辺りで魔獣の存在を感じられなくなる。魔獣たちが旧魔王領からラビトニア領に入った途端に、消滅しているかのようだ。

 しかし、数は減っているものの、森から出てくる魔獣もいる。森の中、そう広い範囲ではないが、その空間だけ魔獣がいない、いや、魔獣が魔獣でなくなっているかのようだ。


 少数の魔獣と、魔獣に煽られたのだろう、それなりの数の野獣がラビトニア軍を襲ったが、統制の取れていない野獣の群れでは、訓練された騎士たちの敵ではない。数で圧倒すればその限りではないが、森を抜けて来る野獣の数はそこまで多くはなかった。

 しかも、ラビトニアの騎士の動きを塔の上から観察していると、森からの奇襲を予想していたかのように対応していることが判る。予め待ち構えている騎士に、統制の取れていない少数の野獣の群れをぶつけたところで、大した効果は期待できない。


(ミナンディアが到着するまでにこっちを片付けなければ……くそっ)

 込み上がる焦燥を面に出さないように注意しながら、ランゼは戦況を見守りつつ、魔獣の介入をなんとか成功させようと意識を集中する。




 そして開戦から8日目、間もなく西の空が赤く染まり始めようかという頃、ランゼのいる塔に伝令が登って来た。

「陛下! 後方に騎士団が現れました!」

「来たか。数は」

「およそ300とのことです。我が陣の後方1.5テックほどの場所、丘の向こう側に陣を張るようです」

(斥候からの報告では、ミナンディア軍の数は約3,000だったな。陣地設営のために工兵が先行したか)

 ランゼは少し考えると、すぐに意を決した。


「出陣中の騎士を引かせよ。工兵には、陣の後方に逆茂木を並べさせ、後方からの攻撃に備えよ。騎士が戻ったらすぐに会議を行う。幹部を集めよ」

「は!」

 伝令は敬礼すると、すぐに塔を降りてゆく。




 この時、ランゼがラビトニア軍を無視してでも、全軍で以ってミナンディア軍の先鋒300騎を討っていればその後の歴史は変わっただろう。しかし、彼もまさか、本隊ではなく先遣隊にエルテリスがいるとは考えていなかった。何なら、ミナンディアの王宮に匿われて戦場には出てこないだろう、とまで甘く考えていた。


 しかしエルテリスは、自らの手で両親の仇を討つべく、戦場に出ていた。彼がそこまで仇討ちに拘っているとは、ランゼにはまったく思いもよらないことだった。


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