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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第1章 魔王領編
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004 旧魔王領へ

 レイトとレテールは、1旬(=8日。約1週間)の間、旧魔王領外縁へと出掛け、レイトの鍛錬と実戦を重ねた。

 そして2人がロンテールの町に来て1旬が経った朝。

「レイト、これを」

 レテールから渡されたペンダントを、レイトはしげしげと見つめた。ペンダントヘッドには、中央に球形の魔石が嵌まった、薄い円盤状の魔石でできている。

「これ、前に姉様が言っていた、瘴気を防ぐ魔術具?」

「ああ。それの半径10テール(約1メートル)の瘴気を弾く結界を張る。体表魔力を吸って結界を張るから、今日からは魔力増強の訓練は無しだ」


 人体、人間に限らず生命体の体内で常に生み出されている魔力は、体内に収まらない分は皮膚から放出され、身体から離れると消えてゆく。体内蓄積魔力容量は人によって異なるが、魔力を意図的には外に出さずに押し込めておくと、その容量が増えてゆく。

 逆に、体内の魔力を意識的に体外に放出し、体内魔力を常に薄くしていると、体内での魔力の生産量が増してゆく。


 レイトは自身の魔力を増やすため、この相反する訓練を1旬ごとに交互に行なっていたが、レテールの用意した魔術具は体外に漏れ出た魔力をエネルギー源とするため、魔力を体内に押し込んでおくことも、逆に放出しすぎて薄くすることもできない。


「魔力は増やせるだけ増やしたいんだけど」

「無理をして増やすものじゃない。それにレイトの戦い方は、剣術を中心にして魔術を補助的に使うのだろう? それには、魔力量よりも魔力の使い方が重要だ」

「解っています、姉様。まずは剣術だけで姉様を圧倒できるくらいにならないと。じゃなきゃ、あの男には届かない」

 静かに言ったレイトの目が燃え上がり、奥歯がギリッと噛み締められる。しかし、レテールがレイトの頭を軽く叩くと、すぐに元の表情に戻った。


「焦りは禁物だ。この半年でレイトは剣も魔術も驚くほどに上達している。私を追い抜くまで、何年もは掛からないさ」

「はい、姉様」

 レイトは真剣な表情のまま頷くと、ペンダントを首にかけた。元からかけている物と合わせて、2つのペンダントヘッドを、レイトは服の下に仕舞い込んだ。




「今日は重装備だな」

 門を出る時、この1旬間で顔馴染みになった門番が、いつものようにハンター証を確認した後、2人の装備を見て言った。昨日までのレイトとレテールは日帰りのため軽装だったが、今日は野営もできそうな大荷物を背負っている。

「しばらくの間、もっと奥に拠点を移そうと思ってね」

「そうか。しかし気を付けろよ。旧ロンテールの辺りは、1季(=48日。約1.5ヶ月)で魔人化するらしい。3旬か、せいぜい4旬で戻って来いよ」

「ああ、気を付ける。ありがとう」


 2人はハンター証を受け取ると、門を通り抜けて旧ロンテールの町へと続く街道へと足を踏み出した。

「あの2人、拠点移動か?」

 レイトとレテールが門を抜けると、門番に同僚が尋ねた。

「だそうだ。確かに、奥に行った方が実入りはいいからな」

「そうか。残念だな」

「何がだよ」

「しばらく、あの姐さんの顔を見られないと思うとな」

「そんなことを言うと、伸されるぞ」

「言わないよ。でも解るだろう? 男勝りな口調と頬の傷は残念だが、それでも滅多に見ない美形だったからな」

「……解った。今日はお前の家に行って、奥さんに良く言っておいてやる」

「は? おい、それは止めろ。血の雨が降る」

「いい傷薬でも買っておけよ」

「おい。待て。冗談だろ? 冗談だよな? 告げ口されたら、本当に冗談じゃ済まないんだからな」

「どうだかな。それよりもほら、仕事だ」

「おい、待て。絶対に止めてくれよ」

 同僚の言葉を無視して、門番は外へ出ようとする5人組のハンターにハンター証の提示を促した。



────────────────────────



 半日ほど歩くと、旧ロンテールの町がレイトとレテールの視界に入った。

「町には寄るの?」

「まさか。ここから街道を逸れるさ」

「引き留められたら、奥に行くのが難しくなるだろうからね」

 2人は街道を離れて草原を進む。森には入らずに休憩にして、昼食を摂る。今日はここまで魔獣に遭遇しなかったので、干し肉などの携帯食料だ。


「夜までには1頭くらいは魔獣を狩らないと、食事が貧しいね」

「これからは、これまで以上に魔獣と遭遇するから、その心配はないだろう」

「そうだね」

「午後からは森に入る。場合によっては森の中での野営もあるからな」

「解っているよ」

「それならいい」


 簡単な昼食を終えた2人は、森と草原の間を通って旧ロンテールを迂回し、再び街道に出た。ロンテールの町と旧ロンテールを繋ぐ街道とは違い、旧魔王領の奥へと続くこの道は荒れている。

 荒れて歩きにくい街道の横、土の地面を道に沿って歩いて行くと、荒れた道は1テック(約1km)も行かずに森へと入った。この先にあるはずの、旧ロンテールの町よりももう1世代古い町から人が去って20年以上、森は遠慮することなく人の造った石畳を侵食している。


 荒れていても石畳のある地面は植物が少なく、また、魔王討伐の折には騎士団やハンターも入っているので、廃れた街道でも多少は進みやすい。森に入ってから、レイトとレテールは、石畳の上を足を取られないように注意しつつ歩いた。

 左右に生える木々はそれほど密集してはおらず、街道を外れても行く手を木に遮られることはなさそうだ。しかし、下生えは伸び、それを刈りながら進むのは骨が折れるだろう。


 その手間を避けて、2人は荒れた歩きにくい街道を進む。

 と、右手の森でガサリと木の枝が震え、何かがレイトに向かって飛び出して来た。

 枝の音が聞こえた瞬間にはレイトは剣を引き抜いている。その足元を狙って跳んで来た獣をサッと避けると、獣は止まることなく反対側の森へと跳び込んだ。


「今のは!?」

「魔猿だ。囲まれているぞ」

 レテールが答える。

 実のところ、彼女は結構前から囲まれていることを知っていた。道が森に入ってからというもの、魔力を周囲に広げて索敵していたからだ。

 それをレイトに伝えなかったのは、彼の気配察知能力を鍛えるためだ。命の危険があればともかく、そうでなければレテールはレイトにあまり助言をしない。


「解った。半分は頼むよ」

「了解」

 レイトも経験を積んでいる。2人を囲んでいる魔猿が8頭いることを察知し、視界の悪い森の中でも買って4頭は引き受けられる、いや、引き受けると決めた。

 レテールがレイトに返事をした次の瞬間、左右の森から魔猿が飛び出して来る。レイトに5頭、レテールに3頭。レイトの方が強敵と見做したか。

 しかし。


 ドシュッ。


「ピギャッ」

 地中から飛び出した4本の土の針が、レテールを襲った3頭とレイトに向かった内の1頭の魔猿の頭を正確に貫いた。それとほぼ同時に、レイトも真っ先に彼に跳び掛かった魔猿を真っ二つにしている。

「ギャギャッ」

 一瞬で半数以上の仲間を失ったことに気付いた残りの3頭だったが、すでにレイトに向けて宙を跳んでいるので回避はできない。レイトは1頭の魔猿を躱しつつ、2頭を振り回した剣で斬り伏せる。さらに、地面を蹴って森に逃げ込もうとした魔猿に一跳びで追い付き斬り倒した。


「ふぅ。魔石だけ獲ればいいかな」

「魔猿の肉は不味いからな。大した荷物にならないから、爪と牙も取っておこう」

「解った。それにしても、姉様の魔術の精度は相変わらずだね。4頭ともきっちりと頭を貫いているよ」

「近くに寄ってくれたからな。離れていたら、こうはいかないさ」

「それでも、4頭同時は並の魔術士じゃ無理でしょ?」

「私も鍛錬はしているからな。さあ、必要な物を獲ったら行くぞ」

「はい」

 2人は魔猿から魔石や牙を獲り、死体を地面に埋めると歩みを再開した。




 さらに森の中で魔兎に遭遇し、2頭を仕留めた。これは夕食用に、血抜きだけしてレテールが持った。

 やがて森の中は暗くなったが、レテールの魔術の光で先を照らしながら2人が森を抜けた時には、陽は完全には落ちていなかった。再び草原が前に現れ、先に旧いロンテールの町だった場所だろう、石壁が見える。

 そこまで行って今日は野営にしようと、光を消した2人は警戒を続けながら歩みを進めた。


「止まれ!」

 突然の声に2人は足を止め、レイトは剣の柄を握った。レイトばかりかレテールも声を聞くまで気付かなかったことから、慎重に気配を断っていたようだ。森を出てから、魔力での索敵をやめたことが悔やまれる。

「何者だ?」

 警戒しながらレテールは誰何する。目の前の石壁の陰から、槍を持った背の高い男が1人、現れた。


「お前たち、人間だな。ハンターか。こんな、瘴気の濃い場所に何のようだ」

 男が言った。


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