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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第3章 対決編

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057 開戦間近

 王都ランドロスを進発したミナンディア騎士団は、ザグレッドを目指して一路北上する。エルテリスとコルテももちろん、その列に入っている。

 エルテリスは彼のために選ばれた白馬を駆り、魔馬のシュバルにはコルテが騎乗している。エルテリスはシュバルを使うつもりだったが、小柄な彼が1人で駆るにはシュバルは大き過ぎた。かと言って、謂わば総大将のエルテリスが他の誰かと2人で騎乗するのでは格好が着かない。そこでシュバルにはコルテが乗り、エルテリスには彼の体格に合った小柄な馬が用意されたわけだ。


 この派兵はエルテリスの要請に応える形で行われたこともあり、エルテリスが総大将的な立場にあるが、もちろん実際に率いているのはミナンディア騎士団の将官だ。今までに軍を一度も率いたことのないエルテリスが指揮しては、勝てる戦も勝てなくなる。


 現時点で、ミナンディアはまだローランディアに宣戦を布告してはいない。しかし、それを伝える密使はすでに各国に向けて放たれている。ローランディアの王都を進発したランゼがラビトニア近郊に展開済の本隊に合流しラビトニアに宣戦布告する時期を見計らって、ミナンディアの書状も届けられる寸法だ。その頃には、ミナンディア軍はザグレッドに到着する予定になっている。




「しかし、3,000騎というのはさすがに心許ないですな。いや、出陣する前に話し合いはしましたが」

 道中で泊まった町の宿の1室を一時的な司令部として、軍を率いる首脳陣は先のことについて話し合う。収集した情報の共有や整理が主な目的になる。

 その席で懸念を口にしたのは、この騎士団の副団長だった。


「出陣したローランディア軍の数を考えれば心許ないのは解るがな。しかし我らはラビトニアとで挟撃する布陣だ。そう心配することはなかろう」

 副団長の懸念に、団長が答えた。


 ローランディア、いや、ランゼへの宣戦布告を、ローランディア・ラビトニアの戦端が開かれた後にするのは、これが理由だ。ランゼがラビトニアに攻め入る前に宣戦を布告してしまうと、ラビトニアを後回しにしてミナンディア軍を先に叩きかねない。

 ラビトニア国境に展開しているローランディア軍は、およそ15,000。正面衝突したら、3,000のミナンディア軍はひとたまりもない。しかし、タイミングを合わせてラビトニアと挟撃できれば、3,000でも十分だろう。


 ローランディアの本隊を追う形で王都を出たランゼ率いる騎士団は、僅か100騎と報告が入っている。本隊はラビトニアに近い国境地帯に簡易的な砦を建設しているそうで、その完成に合わせてランゼは王都を出立したものと思われる。

 その100騎だけを相手にできれば3,000も用意する必要はなかったのだが、時間的に間に合わせられなかった。次善の策として、ラビトニアとの挟撃を画策した形になる。

 それでも、だらだらと行軍していてはローランディア軍とラビトニア軍との戦闘が終わってしまう。全速で進軍しても戦端が開かれるまでには間に合わないが、戦場に可能な限り到着する必要がある。

 ラビトニア軍と挟撃するといっても、それなりに数を揃える必要かわあり、また急ぐ必要もあり、その兼ね合いを考慮した結果の3,000騎だ。なお、3,000のうち300は輜重部隊、200は魔術士なので、騎士の数は2,500となっている。


「戦端が開かれたら、手加減などできませんが、殿下もそれで構いませんね?」

 副団長は今度はエルテリスに顔を向け、確認するように言った。

「はい。手を抜いてミナンディアの騎士たちに余計な被害を出すわけにはいきませんから。ただ、相手が背を向けた場合には見逃して戴きたいのですが」

「通達はしてありますが、乱戦になったら保障は致しかねます」

「それは仕方ありません。戦場では何が起こるか解りませんし」

 エルテリスとしては、なるべくならローランディア軍にもミナンディア軍にも被害を出さずに、ランゼ1人を討ち果たしたい。しかし、相手が軍を率い、対抗するためにこちらも数を頼んでいるのだから、どちらも無傷というわけにはいかない。せめて、可能な限り被害を小さくするように策を弄するくらいだ。


「新しい情報はまだないが、早ければ我らがザグレッドに到着する前に戦端が開かれることもあり得る。戦況次第では、部隊を分けて少数で先行することも有り得るので、皆、そのつもりでいるように。

 他に、今話しておくことはないか? ……ないな。では、今夜は解散だ。明日も強行軍になるから、休める時にしっかりと休んでくれ」

 団長が締めて、首脳陣たちの会議は終わった。



────────────────────────



 ミナンディアから各地に送られた密使が最も早く届いたのは、ラビトニア王国の王宮だった。その知らせを受けたラビトニア国王は、本格的な会議を開く前に信のおける数人の閣僚だけを集めた。

「忙しいところすまぬの。ミナンディアからこの信書が届いての。皆の意見を聞きたい」

 国王は自ら密書の概要を集まった者たちに説明し、意見を求めた。


「エルテリス元王太子が? 生きていたのですか」

「そして“真の魔王”はローランディアの現国王ランゼである、と?」

「ミナンディアはエルテリス王子に全面協力すると。むしろ、後ろ盾としてなっているようですな」

「ミナンディアの国王の妃は、確かエルテリス王子の叔母です。それも関係しているでしょう」


「それよりも、今重大なことは、こちらでしょう。ランゼが魔獣を操ること、それによって現在ローランディア軍と対峙している我が軍の後背ないし側背を突くであろうこと、そしてミナンディア軍がローランディア軍の後ろから攻撃を掛けること」

 近衛騎士団長の言葉で、閣僚たちは現在ローランディアとの国境付近に展開中の騎士団のことに思い至ったようだ。


「戦端はまだ開かれていないのでしたな」

「近いうちに始まるであろうな」

「ローランディアの先行部隊にランゼが合流するまで、あと3、4日と思われます。戦端が開かれるのはその1、2日後かと」

「ミナンディアの軍は開戦には間に合わんな」

「数日は遅れるでしょう」

「ふむ。魔獣については、どこからか警告がなかったかの?」

「ハンターギルドから、警告はありました。総騎士団長は一笑に付していましたが」

「取り急ぎ、コロン鳥(伝書鳩)を飛ばせ。旧魔王領側からの魔獣の警戒と、ミナンディア軍の動向を知らせよ。それから、敵軍が引くなら深追いは控えるようにも」

「は、すぐに」


 近衛騎士団長が部屋を出て、すぐに戻って来た。部下に命じて来たのだろう。


「さて、ミナンディアがローランディアの元王太子を擁して介入してくるとなると、戦後処理の計画も練り直さねばなるまい。相手は魔王を倒した勇者であり、ミナンディアの密書の内容が真であれば“真の魔王”でもある。予断は許されない。

 しかし、ミナンディアが敵軍の後ろから攻勢を掛けてくれるのならば、戦闘そのものも、その結果も、大いに変わるであろう。対策を早急に検討する」

「「「「はっ」」」」

 人数を絞ったことで、会議は迅速に進められた。



────────────────────────



 小規模な騎士団を率いたローランディア国王ランゼは、先行した騎士団が築いた簡易砦に入った。

「状況は?」

「はっ。敵軍の数はおよそ20,000。およそ2テック離れた位置で陣を張っています」


 ローランディア軍が陣を張ったのは、旧魔王領に近いローランディアとラビトニアの国境付近のなだらかな平原だ。旧魔王領側は森で覆われている。

 対するミナンディア軍は、国境線の向こう側に陣を張っている。築城はせず、天幕だけで済ませている。やや横に長い陣形だが、長すぎはせず、ある程度の厚みも保っている。


「すぐに使者を出せ。明日の夜明けまでにこちらに軍権を渡さなければ、実力行使に出る、とな」

「明日ですか? 陛下には、強行軍でお疲れではありませんか? 1日休みを入れてはいかがでしょう?」

「問題ない。今すぐに、単騎ででも攻め込めるくらいだ」

「さすがは陛下ですね。いや、勇者と言うべきでしようか。解りました。すぐに使者を送ります」

 ランゼの命を受けた騎士は、敬礼して彼の前を立ち去った。


 ランゼは、王都から彼に付き従った騎士たちを休ませ、騎士や兵士たちに労いの言葉をかけつつ、砦に作らせた監視塔へと上がった。遠眼鏡を手に取り、監視塔から辺りを見る。

 西に、布陣するラビトニア軍。北には旧魔王領の深い森。南には遠く、森や町、川の流れが見える。


 一通りの状況を確認すると、ランゼは塔を下りた。その口角は満足そうに上がっていた。


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