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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第3章 対決編

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056 出陣前の演説

「集まってくれた騎士諸君! ご苦労である!」

 王城の正門内側の広場に整列した騎士たちに、国王セティクスの声が届く。前方の演壇に立った国王の声は、整列している騎士の最後尾にまで良く届いている。


「此度、我が国は建国の昔より友好を築いてきたローランディア王国と刃を交える! しかしこれは、裏切りではない!

 貴君らも知っての通り、ローランディアは現在、王家の血を引かないランゼなる者が王位に就いている! 今のローランディアは、我らが同胞たるローランディアではない! ローランディアの王位は姦計を弄したランゼなる者に奪われているのである! 我がミナンディアは、ローランディアの盟友として、彼の国を受け継ぐべき正統な者を助けるために立ち上がるのだ!」


 セティクスの言葉を騎士たちは微動だにせずに聞いている。相手が盟邦ということに動揺している者もいるだろうが、面には出していない。

 それを確認すると、セティクスは言葉を続けた。


「我らがローランディアを僭王ランゼから取り戻したとて、誰が王位に就くのかと疑問に思う者もおろう! それには、本人の口から答えてもらおう! ローランディア王国の正統なる継承者、エルテリス王子殿下! ここに!」

 ルティエスの呼び掛けに応えて、ローランディアの王太子に相応しい誂えの衣装に身を包んだエルテリスが演壇に登壇し、国王は彼に場所を譲る。


 無数の視線に注目されて一瞬怯んだエルテリスだったが、広場から視線を外さず、集まっている騎士1人1人を見渡した。


「紹介に預かった、ローランディア王国王太子、エルテリス・ド゠ル・ローランドである!

 集まってくれた貴君らは、我が“真の魔王”であるとの醜聞を耳にしている者もおろう! しかしそれは、完全な濡れ衣である! 真の魔王は別にいる!

 そもそもの発端は、魔王を討伐した剣士ランゼが仲間たちと共にローランディアの王宮に凱旋した時に遡る! 我が父、ローランディア先代国王ルティエスは、ランゼに勇者の称号を与え、我が妹リンゼーナとの婚約を決めた! 魔王討伐によりランゼは、ローランディアの王家に潜り込むことに成功したのである!

 ローランディア王家に入り込んだランゼは、すぐに次の行動に移った! それは、我に“真の魔王”の烙印を押して我が命を狙い、我がその手を逃れて王城から逃げ延びると、我の後ろ盾となる我が母レイネーゼを手に掛け、我が王家に戻る道を閉ざした!」


 エルテリスはここで一旦言葉を止め、目を閉じた。しかし、すぐに目を開いて、言葉を続ける。


「我に“真の魔王”の汚名を着せ、正妃レイネーゼを弑したランゼは、時期を測って我が父ルティエスをもその毒牙に掛け、リンゼーナの夫という立場を利用してローランディアの王位を簒奪した!

 さらに、“真の魔王”討伐のためと称してノーザリア王国とラビトニア王国に軍権を要求し、聞き入れられない解ると実力を以てノーザリアに侵攻、そして今まさにラビトニアにも侵攻しようとしている!

 何故か! それは、僭王ランゼがローランディアを足掛かりに、この大陸の征服を画策しているからである! 奴を野放しにしておけば、その毒牙はやがて、このミナンディア王国にも伸びるだろう!

 しかし、奴の真の脅威は奴の野望ですらない!」


 ここでもう一度、エルテリスは言葉を切った。整列した騎士たちは、彼が次に何を話すのかと、息をするのも忘れたように次の言葉を待っている。

 エルテリスは1つ深呼吸すると、話を続けた。


「ランゼが我に被せた汚名、“真の魔王”、これはただの言い掛かりで、真の魔王など存在しないのか!? そうではない! 今際の際の魔王が真の魔王について言及したことは、ランゼだけでなく彼の仲間たちも証言している! では、“真の魔王”は誰か!?

 そう、僭王ランゼこそが“真の魔王”である! 自分が真の魔王であることを隠すと同時に王太子を排除するため、奴は我に“真の魔王”の汚名を着せ、魔王の能力で操った魔犬で我が父を弑し、そしてノーザリアとの戦闘でもその能力で魔獣の群れと共闘した!

 奴を野放しにすれば、やがてはローランディアが魔王領と化し、その領域はこのミナンディアはもちろん、大陸全土を覆うであろう! その時こそ、大陸が真の魔王の手に堕ちるのだ!

 真の魔王の野望を阻止するため、我はランゼを討ち、ローランディアの玉座をこの手に取り戻す! ミナンディアの者たちよ! 我に力を貸してくれ!」


 最後の言葉と同時に、エルテリスは腰の鞘から剣を引き抜き、天に向けて突き上げる。

 一瞬の静寂の後。


「「「「おおぅ!!」」」」

 天が割れたかと思えるような歓声が響き、広場に剣の林が林立した。


「「「「ローランディアに力を!! ランゼを討て!!」」」」

 騒めいていた騎士たちの声が揃ってゆく。その光景に、エルテリスは身を、心を震わせた。

 コルテに連れられて王城を落ち延びてからというもの、コルテと2人きりで秘密を抱え、剣の腕を磨き、追手から隠れて逃げて来た。長い孤独な旅の果てに、借り物とはいえ、ついにランゼに一矢報いる力を手に入れた。その実感が、騎士たちの声でエルテリスの心に染み入ってきた。


 演壇から下りていたセティクスが再び壇上に上がり、エルテリスの肩に軽く手を置いた。振り返るエルテリスにニヤリと笑いかけて、セティクスは反対の手を軽く上げる。

 それだけで、騎士たちは静まり、剣は鞘に納まった。エルテリスも上げていた右手を下ろして納剣する。


「騎士たちよ! 聞いた通りだ! 我がミナンディアはエルテリス殿下のローランディア王国奪還に協力し、真の魔王ランゼを討伐する!」

「「「「おおっ!!」」」」


 今度は剣ではなく、拳が天に向けて突き出された。それを後に、エルテリスはセティクスと共に演壇を下りる。

「なかなかの演説だったぞ。王位に就いた後で国民の前に立つ時も問題なさそうだな」

「ありがとうございます。初めてのことなので緊張しましたけれど」

「すぐに慣れる。が、まずはランゼだな」

「はい。必ず討ちます」

「それが其方の悲願であろうからな。こちらのことは任せてもらって構わん」

「はい、よろしくお願いします」


 対ローランディア王国の、というよりも対ランゼの派兵に、セティクス王はもちろん同行しない。王自らが出陣するような場面ではないし、それに彼には国内でやるべきことがある。

 先日、ミナンディア王国の協力を表向きに仰ぐため、閣僚や貴族たちを集めた会議の場でも、エルテリスは今日と似たような演説をした。本当の“真の魔王”ランゼの危険性を説いて協力を求めたわけだが、それでも難色を示す閣僚は当然ながら存在した。本当にランゼが魔王なのか、エルテリス自身が魔王であることを誤魔化しているのではないか、そもそも内政干渉に当たるのではないか、などなど。


 事前に宰相やティヌート王妃が根回しをしていたし、最終的な決定はセティクス王が下すことではあるが、それでも反対の声をゼロにするのは不可能だ。それでも問題になることは普通はないのだが、貴族によっては、計画が始まってから裏工作してそれを潰し、『やはりやるべきではなかった』などと言って自分の影響力を広げようとする者もいる。裏工作の証拠が上がれば罪にも問えるが、そういう貴族は証拠の隠滅にも長けていて、上手く逃げられることもある。

 セティクスの言った『任せろ』とは、この対応のことだ。邪魔が入ればエルテリスの行動にも影響が出るが、邪魔はさせない、と言っているわけだ。


「エルテリス、気を付けるのよ」

 ティヌートが、演壇から下りたエルテリスを迎えて優しく言った。その表情には不安の色も含まれている。エルテリスは努めて作った笑顔を叔母に向けた。

「はい、大丈夫です。コルテもいますから」

「はい、お任せください」

 演壇の下に控えていたコルテも軽く頷いた。コルテは、ミナンディア王国の護衛騎士の制服に、ローランディア王国の王国章を着けている。エルテリスは見映えもあったので服を誂えて貰ったが、コルテは『たかが護衛のために予算を使わせるわけにはいかない』と、既成の服を使うことを選んだ。迷惑をかけているミナンディア王国に、護衛騎士の服くらいで迷惑を掛けられない、と。実際のところ、コルテの服1着程度、どうということもなかったが。




 エルテリスとランゼの決戦の時は迫る。


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