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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第2章 大陸南方編

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044 騎士団長との戦闘

「コルテ、できればお前を斬りたくはない。エルテリス元王子を差し出してくれるなら、貴様は見逃してもいい」

 平原に、ローランディア王国近衛騎士団長カタインの声が響く。

「言っただろう。私は殿下の護衛騎士だ。たとえ殿下が平民になろうと、魔人に変わろうと、魔王に成り果てようと、それは変わらない」

 エルテリスの護衛騎士コルテは静かに答える。


「貴様は強いが、俺にはまだ及ばない。コルテ、貴様はまだ若い。徒に命を棄てるものではない」

「相手が強いからと、主を見捨てるのが護衛騎士か?」

「そうだな。ならば、近衛騎士団長として、騎士コルテの元王太子エルテリス護衛の任を解く」

「戯言を。私の護衛任務と解けるのは、私にこの任を命じたルティエス陛下のみ、陛下亡き今では、陛下の血を継いだエルテリス殿下御自身のみだ」

「どうあっても戦闘は辞さないか」

「貴様が引かない限りは」

「ならば仕方がない!」


 カタインは地を蹴り、コルテとの距離を一気に縮めて剣を横薙ぎに振るう。目にも止まらぬその動きを、コルテは落ち着いて見極め、自分の剣でカタインの剣を受ける。


 キンッ。


 剣が触れ合った瞬間にコルテは自らも横に跳んで力を受け流し、カタインを常に正面に納めるように身体をに捻りながら着地、振りかぶった剣を振り下ろしながらカタインに向かって跳躍する。

 カタインは半身になって振り下ろされる剣を躱し、身体を回転させて勢いをつけた剣を振る。

 振り下ろした剣を続けて横への攻撃に切り替えようとしていたコルテは、カタインの反撃でその機を失う。

 彼の攻撃を避けるために斜め後方に跳び退くコルテ。カタインはすぐに追いすがり、剣を振り下ろす。

 コルテは自分の剣でそれを受けるが、膂力ではカタインに敵わない。振り下ろしのスピードも乗っている剣の勢いを殺しきれず、体勢を崩し膝をつきそうになる。

 しかし彼女はそれを利用し、片脚で身体を支えてカタインの脛を蹴り払う。


「くっ」

 ブーツと身体強化でそれほどのダメージはないものの、向こう脛を強く蹴られたカタインの力が僅かに緩む。それを逃さず、コルテはカタインの剣を跳ね上げて後方へ跳び退く。

 カタインはすぐに追い打ちを掛ける。下がるコルテを追い、剣を振り下ろす。コルテは剣で受け止め、弾く。カタインは剣を引いてすぐに次の攻撃に移る。コルテはそれも受け止める。

 2人の間に火花が散る。目にも止まらぬ剣の撃ち合い。対等に見えるが、カタインは常に攻撃側、コルテはすべての剣戟を受け、反撃の機を伺っているものの、攻め手に回ることはできていない。


 そのままカタインが押し切るかと思われたが、機を狙っていたコルテがカタインの剣を受けると同時に、左手を剣の柄から離して腰に差した投げナイフを投げる。

 それを目の端で捉えたカタインは、剣から離した右手で投げナイフを弾き飛ばし、左手に握った剣をコルテに振り下ろす。

 コルテは、今度はそれを剣で受けずに横に1歩動いて避け、この形になってから初めての反撃。斬り上げた剣はしかし、カタインの剣で受け止められる。

 2人の動きが止まった。


「足を出したりナイフを使ったり、随分と騎士らしくない戦い方をするようになったじゃないか」

 剣と剣の擦れ合う微かな音を背景に、カタインが言った。

「殿下を護るためなら、手段は選ばない。それが護衛騎士だ」

 コルテは動じることなく答える。

「だったら、護り切って見せろ!」


 カタインがグッと力を入れてコルテを押す。コルテはそれを受け流すように身体を引き、続けて突き出されたカタインの剣を横に跳んで避け、そこから剣を振り下ろす。

 カタインはそれを剣で受ける。コルテはすぐさま剣を引き、さらに横に跳んで角度を変えて攻撃。カタインは素早く反応してそれを防ぐ。

 先ほどとは攻守が逆になったように見えるが、カタインの剣圧に比べてコルテのそれは弱い。一見はコルテが一方的に攻めているように見えて、実のところ、ややカタインが押していた。

 コルテの額に汗が目立ってくる。しかし、疲労は見えるものの彼女に焦りはない。カタインに向けて剣を振り続ける。


「フンッ」

 キンッ。

「クッ」

 機を窺っていたカタインがコルテの剣を強く弾いた。コルテの体勢が大きく崩れる。すぐに地を蹴って一旦距離を取ろうとするが、カタインの攻撃の方がやや早く、突き出された剣が離れようとするコルテの左上腕を斬り付ける。鮮血が(くう)を舞う。


「っ!」

 少し離れて見守っているエルテリスが息を呑む。が、絶対の信頼を置いている護衛騎士を信じ、漏れそうになる声を抑えた。


 間合いを取ったコルテを、カタインは追わなかった。

「終わりだ。片腕では、貴様に勝ち目はあるまい。どうだ。元王子を差し出す気になったか?」

 カタインは鋭い視線でコルテを睨む。

「私は殿下の護衛騎士だ。主を護れなかった護衛騎士がどうするか、団長も知っているはずだ」

 真の魔王と信じるエルテリスを手に掛けた後、カタインはルティエスを護れなかった責任を命で贖うと、先に言った。その思いは、コルテも同じだ。


「貴様は俺と違い、まだ若い。腕もいい。ここで命を散らす必要はない」

 カタインは、できればコルテを生かしておきたいようだ。しかし、退かなければ斬ることを躊躇したりはしないだろう。

 だが、コルテも引く気はない。


「くどい。団長こそ、諦めてくれれば追いはしない」

 左腕から血を流しながら、右手だけで握った剣を構え、コルテは言った。

「その(ざま)で、まだ俺に勝つつもりか」

「当たり前だ」

「……仕方がない。ならば我が剣の錆にするしかないな」

「それは無理だ。まだ諦めないなら、私も全力を持って貴方を潰す」

「負け惜しみか。実力の差は貴様も解っていよう」

「知らないのか? 冒険者としての、私の職種を」

「何?」


 突然、カタインの周囲に、内部に炎を宿した魔術陣が出現した。その数、20以上。

「なっ!?」

「今の私は魔術士だっ!!」

 魔術陣から、細く絞られた火線がカタインに向けて一斉に伸びる。カタインはその場から跳び退き、魔力で強化した剣で受け、身体を捻って攻撃を躱す。しかし、次から次へと発射される無数の火線のすべてを躱すことはできず、その1つが脹脛(ふくらはぎ)を射抜く。


「グッ!」

 片足を負傷して動きの鈍くなったカタインに、あらゆる角度から火線が迫る。

「くそっ」

 それでもカタインは身体を捻り、剣を盾にして魔術陣からの攻撃を躱したが、片足に傷を負った状態で20以上の魔術陣からの連続攻撃をすべて躱し切ることはできず、全身を火線に貫かれる。


「グアッ!!」

 カタインが膝をつく。そこへコルテが踏み込み、剣を振る。

「グッ!」

 コルテの剣はカタインの右腕を斬り裂いた。剣が地面に落ち、血飛沫が噴き上がる。さらに、追い打ちをかけるように火線が左脚と脇腹、肩を前方から貫く。

 カタインは仰向けに地面に倒れた。


「終わりだ」

 倒れたカタインの首筋に剣先を突き付けたコルテが言った。

「くっ、コルテ、貴様、いつの間にそんな魔術を……」

 カタインが痛みに顔を顰めて吐き捨てる。

「騎士団に入団する前から、それなりに使えた」

「ずっと、隠していた、のか」

「そのつもりはない。騎士は武器を取って戦うものだろう。だから使わなかっただけだ」

「そう、か。……俺の負けだ。殺せ」

「断る」

 コルテは冷たく言い放ち、剣を引いた。


「主の仇……も討てずに……俺に、生き恥を……晒せと、言うのか」

 カタインは苦しそうに言った。

「死にたいなら勝手に死ね。今の貴方に殿下を害する力はない。ならば、私が手を下す必要などない」

 コルテは冷たく言い捨てた。


「姉様、傷は?」

 エルテリスがコルテの後ろにやって来た。

「問題ありません」

 コルテは視線をカタインから逸らさずに答えた。

 エルテリスを視界に納めたカタインが、カッと目を見開く。


「魔王……! 貴様さえ……いなけれ……ば!!」

 力を振り絞るように起き上がろうとしたカタインだったが、頭と肩を少し上げることしかできず、咳と共に口から血を吐いた。エルテリスはカタインの気迫に思わず後退りそうになったが、グッと堪え、逆にコルテの前に出ようとする。が、コルテはエルテリスの前に手を出して、彼を止めた。

 エルテリスはコルテを見た後、カタインを見下ろし、睨み付ける彼の目をまっすぐに見つめて、口を開いた。


「ボクは魔王ではない。魔王は別にいる」


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