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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第2章 大陸南方編

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038 地竜狩り

 商隊の馬車が向きを変えて街道を後退し、十分に離れたことを見計らって、レイトとレテール、それに《雷獣》の面々は行動を開始した。街道を少し外れた大岩の手前で左右に分かれ、《雷獣》の6人は左から、レイトとレテールは右から回り込む。


「本当に1人で()れるのかね、奴らは」

 仲間だけになった気安さからか、《雷獣》の剣士の1人、バルデスが疑問を口にした。レイトたちの言葉を疑っているというより、信じられないといった感じだ。

「できると言ったんだ、信じるしかない」

 リーダーのボークルが低い声で答える。


「向こうの心配は後にしろよ。オレたちで地竜3体を引き回さなきゃならないんだぜ?」

 槍士のビランザが前を睨みながら言った。すでに5体の地竜が視界に入っている。6人は、岩陰から地竜を観察する。

 2体は全長およそ100テールほどだろう。成体としては標準サイズだ。残る3体はやや小さく、60テールから70テールほど。幼体というには大きいが、地竜としては小型だ。放っておけば、まだ成長するだろう。


 ボークルは地竜を確認し、さらにざっと周囲を見渡す。身を隠すものは、街道から地竜を隠していた大岩くらいだ。他に小さな岩が点在しているが、身体を隠せるほどではない。離れた場所に森があるが、結構な距離がある。

「よし。地竜を威嚇しつつ、あの森へ向けて後退する。森に辿り着く前に2人が加勢してくれれば良し、森へ入ったら奥には入らず、木を盾にして迎え撃つ。いいな?」

 ボークルの指示に全員が頷き、《雷獣》は地竜の陽動に出る。


 盾士のボークルが盾を構え、剣士の2人はその左右に展開、槍士のビランザは後衛を守る位置で構える。配置と同時に、弓士のブリンドと魔術士のべアールが後方から遠距離攻撃を開始した。

 弓から放たれた矢や魔術陣から迸る火線が地竜に直撃する。どちらの攻撃も、地竜の硬い鱗を貫くほどの威力はなかったものの、地竜の気を引くことはできたようだ。矢や火線の当たった3体の地竜が《雷獣》たちに顔を向け、遅れて残る2体も頭を巡らせる。


 ブリンドとべアールは連続して攻撃を加える。地竜たちは《雷獣》たちに向かって進軍を始めた。

「割と簡単に喰いついたな。後退のタイミングを間違えるなよっ」

「「「おうっ」」」

 ボークルの声にビランザ、ブリンド、べアールが答える。左右に少し距離をとっているバルデスとパナルスは、剣を少しだけ上げて答えた。


 5体の地竜が砂煙を立て、6人に向かって走って来る。が、後方の2体の地竜の尾部をそれぞれ2本の火線が貫き、その2体は足を止めて振り返った。

(地竜の鱗を貫く魔術を4発同時かよ。敵わねーな)

 魔術士のべアールは内心で思ったが、すぐに余所事を頭から振り払う。余計なことを考えていては地竜に遅れを取ってしまう。


 《雷獣》は遠距離攻撃を仕掛けつつ、森に向かって後退を始める。地竜との距離が縮まって来ると、左右に別れていたバルデスとパナルスが先頭を走る地竜に肉薄、一撃ずつ斬り付ける。ビランザもボークルの前に飛び出し、槍で一撃を加える。

 嫌がらせ程度の攻撃をした3人はすぐにその場を離脱、そこを、地竜の強靭な尾がブンッと薙いだ。べアールの火炎が地竜の前方に続けて着弾、目眩しをする。その間に、剣士2人と槍士は距離を稼ぐ。


 先頭の地竜が足を止め、後続の2体も足を乱す。ブリンドとべアールはボークルの後方から攻撃を加え、バルデス、パナルス、ビランザの3人は一撃離脱を繰り返す。

 地竜に追い付かれないように嫌がらせ程度の攻撃で足止めしつつ、《雷獣》は後退を続ける。3体の地竜の後方では、残る2体の地竜が身体の向きを変え、レイトとレテールに向かっていた。




 魔術陣を使って2体の地竜の気を引いたレテールは、レイトと距離をとって1体の巨大な地竜に攻撃を集中する。もう1体、やや小型の地竜にはレイトが肉薄して引き寄せている。

 それにチラリと視線を送りつつも、レテールは自分の相手に集中する。最初は地竜の硬い鱗を貫いた火線だが、今は貫けない。身体強化をしたようだ。相手が並の獣であれば身体強化されていても、レテールならものともしないだろう。しかし、もともと硬い鱗を持った地竜に身体強化まで使われると、魔術陣を使ったレテールの炎の攻撃も通用しない。


 レテールに向かいながら、地竜はガバッと口を開くと、レテールに向けて炎を吐く。レテールは魔術による加速を加えて横に跳んで炎を避ける。地竜はレテールの動きに合わせて頭を振る。

 追ってくる炎の前からレテールが消え、転移魔術で反対側に出現する。炎を消した地竜の横っ面に、レテールが魔術で飛ばした大きな石が当たった。弾かれた頭の動きに逆らわず、地竜は身体を回転させ、尾を振り回してレテールを牽制する。地竜の尾が、レテールの目の前を通り過ぎる。


 身体を一回転させた地竜がレテールに向き直り、レテールに向かって飛びかかる。その開かれた大口に、地中から飛び出した石の槍が飛び込む。

「ガグワァァァッ」

 身体強化されていないし鱗もない体内への攻撃に、地竜はレテールへの攻撃を中断して身悶える。追い討ちをかけるべく、レテールは地中で作った複数の石槍を地竜に放つが、それは強化された鱗に防がれた。


(硬いな。それなら)


 レテールは地中から切り出した大きめの岩を、地竜の上空に転移させる。

「ドグゥワァァァァッ」

 落下した岩に圧し潰された地竜は巨大を仰け反らせ、大口を開く。そこへ、レテールの用意していた最初のものよりも巨大な石の槍が飛び込む。さらにその石槍は、仕掛けられた魔術陣により地竜の体内で爆散した。


「ガバゥワァァァァァァッ」


 体内で爆散した石槍により内臓を傷付けられた地竜は、最後に断末魔の声をあげて動かなくなった。

 仕留めた地竜に背を向け、レテールは他の状況を確認する。

「レイトも問題ないな。後は……」




 大型の地竜をレテールに任せて、レイトは小型の地竜に向かって駆ける。小型といっても、全長は60テールほど。それでもレイトは、自分の5倍近い巨体に臆することなく挑む。

 地竜に正面から挑むレイト。地竜がレイトを餌食とすべく、ガバッと顎門を大きく開く。

 レイトは足に集中させた魔力で身体を強化、地竜に向けて飛び跳ねる。地竜の上空で剣先に魔力を集中して強化、剣を振り下ろしつつ地竜の背中に飛び降りる。


「グガアァァァァァッ」


 深くはないものの、レイトの剣は強化された地竜の鱗を切り裂いた。レイトの強化した剣は、地竜の身体強化にやや勝るようだ。

 地竜の背中に降りたレイトは、そこからすぐさま地面へと飛び降りる。そこへ尾が振り回されるが後方に跳んでそれを避けると同時に、剣を振るう。

「ギャッ」

 ほとんど狙わずに振った斬撃だったが、レイトの剣は地竜の尾を薙いだ。ダメージは大したことはないが、地竜の気勢を削いだようだ。


 ややたじろいだように見える地竜に、レイトはその機を逃さず追撃をかける。ガバッと開かれた地竜の口から、炎が迸る。レイトは前進しつつも右に攻撃を避け、地竜の前脚に剣を振るう。

 ザシュッ。

「ギャァゥッ」

 さらに地竜の腹を斬り裂き、振るわれる尾を上に避けて地竜の反対側に着地、腹を反対側からも斬り裂いて地竜から距離を取る。


 その後もレイトは、地竜の攻撃を避けつつ剣を振るってダメージを蓄積してゆく。致命傷には至らないものの、地竜の動きが目に見えて悪くなってゆく。


(ここだっ)

 喰いつこうとした地竜の顎門を紙一重で避けたレイトは、最初のように上空に飛び上がり、剣を地竜の首に斬り付ける。

「ガギャアァァァァッ」

 切断には至らないものの、鱗は完全に避け、肉まで見えている。レイトは無理をせずに一旦後退、決して軽くはない傷を負ったものの、まだ命の火の消えない地竜にもう一度飛びかかり、首の傷に剣を突き立てた。さらに、剣先の強化に使っていた魔力で炎を起こす。


「ギャウゥゥ」

 喉を焼かれ、そこで地竜は地に臥した。


「はぁ、ふぅ、やった。本当に1人でやれた……」

 レイトは肩で息をする。


「レイト、まだ終わっていないぞ」

「は、はい、姉様!」

 レイトは素早く息を整えると、レテールと共に《雷獣》が引き回している地竜へと駆けた。




 それから15ミールの後には、この場に息をしている地竜はいなくなった。


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