表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の仇し草  作者: 夢乃
第2章 大陸南方編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/62

035 狩猟

 護衛の依頼を受けた商隊の出発までの時間を、レイトとレテールは町の近くで野獣狩りに費やすことにした。旧魔王領で狩った魔獣の素材や魔石の売却で懐は温かいが、何十日分もの余裕があるわけではない。以前は2人だけだったが、今は馬屋に預けているシュバルの預け賃もある。何より、身体を動かしていなければ、すぐに鈍ってしまう。

 出発前の1日を休養に充てても、2日間は狩猟に使える。


「獲物はなんだ?」

 2人について来たソールが聞くが、レイトもレテールも無視を貫いている。

「それにしても、馬を使った方が良かったんじゃないか? あの森の辺りを狩場にするんだろ? 町から結構離れているじゃないか」

 レイトたちはシュバルを馬屋に預けたまま、徒歩で狩りに出ている。そう長距離を移動するわけでもないので、馬を使うほどでもない。ソールとしても、本気で馬が必要と考えているわけでもなく、話題の1つにしただけだろう。

 エバも、ソールと一緒にレイトたちについて来たが、ほとんど喋らない。不機嫌になっているわけでもないので、元々の性格だろう。


 レイトとレテールは、やがて森に入った。ソールとエバもついて行く。

 林立する木立で視界が悪くなると、さすがにソールも口を噤んだ。木の陰にいるかも知れない野獣に、自らその存在を教えるようなことは、さすがにしない。

 魔石だけの探査結界を張っていたレテールは、森に入ると自分の魔力で探査結界を広げた。彼女の探査範囲はおよそ50テナー。かなりの広範囲に渡る。


 探査結界といっても、その範囲をすべて同時に明確に見られるわけではない。視界の範囲のすべてに焦点を合わせられないようなものだ。それでも、結界内で大きな動きがあれば気付けるし、狭い範囲であれば意識を集中して詳細に見ることも可能だ。獲物を狙うハンターにとって、最強の武器といえる。


 しばらく森を進んだレテールは、足を止めてレイトにハンドサインを送った。レイトは微かに頷き、剣を静かに引き抜く。

 それを見て、エバも剣を抜いた。

「判る?」

「いや……まったく」

 ソールとエバには、レテールの見つけた獲物が判らない。しかし、しばらく進むと、木々の間に2人もターゲットを視認した。鹿だ。(つがい)だろうか、2頭の鹿が草を食んでいる。


 ソールがレテールにすっと近付いた。

「オレたちが回り込んで逃げ道を塞ぐ」

「いや、必要ない」

 ソールの提案を、レテールは瞬時に切り捨てた。

「いや、両側から挟んだ方が確実……」

 ソールがなおも小声で言いかけた時には、鹿を狙いやすい場所へと位置取りを変えていたレイトが、足に集中した魔力で身体強化し、鹿に向けて跳び掛かった。


 2頭の鹿は、レイトが地を蹴るのとほぼ同時に頭を上げ、レイトの姿を認めると同時にそれぞれ別の方向へと逃げを打つ。

 しかしその時には、片方の鹿に肉薄したレイトが、一刀の元に鹿の首を切り裂いた。致命傷を負った鹿はなおも逃げようと2歩3歩と脚を動かすが、それ以上の逃走はできずに地に倒れた。


 それを見もせず、逃げ掛けているもう1頭の鹿に向かう。すでに木の間に隠れようとしている鹿に、走っただけでは追いつけないと判断したレイトは右手を剣から離し、ベルトに挿した投げナイフを抜いて鹿に投げた。その間も、足は緩めない。

 宙を飛んだナイフは鹿の尻に突き刺さった。尻では大したダメージにはならないが、それでも鹿は痛みに一瞬だけ動きを止める。その僅かな時間でレイトは鹿に追い付き、両手で持った剣で後足を切り付けた。鹿が倒れる。


 レイトは、倒れた鹿の首に剣を突き刺し、グイッと切り裂く。鹿は断末魔の声を上げて動かなくなった。

 先に倒れた鹿はまだ息があったが、レテールがそれにとどめを刺す。


「ナイフは使わないつもりだったんだけど」

 レイトが剣の血を払って鞘に戻し、鹿に刺さった投げナイフを抜いてベルトに戻す。

「いや、少し前のレイトだったら、1頭は逃がしていたろう。上達してるよ」

「ありがとう、姉様。これは血抜きして仕舞う?」

「1頭は残して、おびき寄せよう」

「解った」


「いや、待てよ。鹿を2頭も仕留めたら今日は上がりだろ? 2人でやってるなら」

 ソールが大きな2頭の鹿の死体を見下ろして言った。声量が控えめなのは、猛獣を引きつけないようにと意識しているのだろう。

「そうよ。これ以上に狩って、どう運ぶつもり?」

 エバも不審そうに言う。

「私たちのことは気にするな」

 レテールは持っていたバッグを開き、血抜きをした鹿を圧縮して仕舞う。


「圧縮魔術かよ……」

「そりゃあ、ペアでも困らないわけね……」

 ソールとエバは小さく呟いた。

 そんな2人の言葉など聞こえていないように、レイトとレテールは作業を終えた。


「しばらくは待機だ」

「うん。ボクはここで」

 レイトは、太い木を見上げると、腰を少し落としてから勢い良く地を蹴って太い枝に飛び乗った。もちろん、脚を強化してのことだ。レイトの素の力では、この半分もジャンプできない。

 レテールも近くの大木の枝に飛び乗る。いや、転移魔術で移動した。


〈アンタたちも隠れてくれ〉

 レテールが、ソールとエバの2人に念話魔術で伝えた。2人は木には登らず、鹿の死体を監視できる繁みの中に、それぞれ身を隠す。

(くっそ。本当に2人で十分だな。オレたちの誘いをあっさりと蹴ったのも頷ける。しかし離れるわけにもいかないからな。エバと2人でってのはちょっとキツイし……)

 ソールは周りに気を配りながらもレイトとレテールのことを考えるが、すぐに首を振って余所事を頭から追い出す。今はどこから猛獣が来るかも判らない森の中だ。


 ソールも探査結界を張っているものの、その範囲は10テナー弱。これでもハンターとして活動する魔術士としては中の上くらいには入るのだが、レテールの5分の1程度でしかない。魔力の拡散範囲がそのまま魔術士の力量とは結び付かないものの、指標の1つにはなる。

 それでもレテールの方が自分よりも広い範囲を探査していることは、先の鹿の件で把握していたので、ソールは周囲の警戒と共にレテールを注視している。血の臭いで寄ってくる野獣を最初に発見するのは彼女だろうし、彼女はそれをレイトに伝えるだろうから。


 果たして、樹上のレテールに動きがあった。レイトに対してハンドサインを送っている。ソールには、エバにも、その詳細な意味を読み取ることはできないが、やって来る大体の方向と複数頭いるらしいことは、レテールの手の動きから読み取れた。

 やがて、血の臭いに引き寄せられた獣が現れる。狼だ。1頭、2頭、……全部で7頭。最初に現れた1頭は一際大きな体躯をしている。


 7頭目が現れた瞬間、レイトは剣を抜きつつ枝から飛び降り、最後に現れた狼の首を切り裂いた。同時にレテールも飛び降り、残る6頭に雷撃魔術を仕掛け、先頭の1頭の頭にワンドを叩き付ける。

 ソールとエバも隠れ場所から飛び出し、ソールは火炎で狼を攻撃、エバも狼に向けて剣を振る。


 レイトも次の狼に剣を向けるが、狼の方が一歩速い。飛び掛かって来た狼の牙を、剣を咄嗟に横に構えて受け止める。狼はすぐに飛び退き、それをレイトが追って剣を振り下ろす。狼は横に飛び退くが、それを予期していたレイトは狼の動きに合わせて剣筋を変え、狼の前足を切り付けた。動きの鈍くなった狼は、続くレイトの攻撃を避けきれなかった。

 レテールは地下の土の一部を固めて槍とし、土中から打ち上げて動きの鈍くなった狼の首を射抜く。


 エバも最初の一閃を避けられたが、返す刃で狼を仕留めた。最後の1頭はソールが炎に包み込んだ上で、頭部をワンドで殴ってとどめを刺した。




「アンタたち、2人で十分と言うだけのことはあるな」

 ソールが、レイトとレテールに言った。

「解ったら、パーティーを組むなら別を探せ。アンタたちの実力なら欲しがる奴らはいくらでもいるだろう」

 素っ気なく言うレテールだが、ソールとエバの実力自体は認めているようだ。


「いやいや、いくら実力はあっても、2人だけでの活動は色々と無理が出るだろう? 目は多い方がいいし、場合によっては二手に別れての行動も必要だろう。困る前にオレたちと組んだ方がいいと思うがね」

「要らぬ心配だ。……アンタたちが仕留めた獲物の所有権は譲るが、運ぶのは自分たちでやれ。私たちも、今日はこれで終わる。レイト、行くぞ」

「はい、姉様」

 レテールは、餌にした鹿と4頭の狼の血抜きを済ませて圧縮し、バッグに納めて歩き出した。周囲を警戒していたレイトも、レテールの後に続く。


「あ、おい、待てよ」

 ソールが慌てて言うが、彼らの獲物はまだ血抜きも終えていない。血抜きもしていない獲物の肉は臭みが強く、買取価格も下がる。かと言って、放棄する愚も犯せない。

「どうするのよ」

 エバが言った。


「仕方ないな。こいつを棄てていくほどの余裕もないし、処理してから帰ろう。どうせ同じ宿に泊まっているんだし、仮に宿を変えたところで3日後の護衛依頼は引き受けているんだ、その契約を破棄はしないだろう」

「なら、3頭とも血抜きしていいのね」

 すでに1頭を吊るしていたエバは、2頭目にかかる。


「だけどアイツら、どうやって血抜きしてるのよ」

「ありゃ、転移魔術を使っているな」

「転移魔術? 死体の血液を外に転移してるってこと?」

「多分ね。くっそ、オレも転移魔術を使えればな」

「ない物ねだりしても仕方ないわよ。さっさと血抜きして帰るわよ」

「ああ、そうだな」

 2人は周囲を十分警戒しつつ、狼の処理を進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ