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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第2章 大陸南方編

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034 護衛依頼

 翌日、朝早く起きたレイトとレテールは、朝食も摂らずにハンターギルドへと向かった。この町で数日を過ごすのであれば、ハンターとしての活動は欠かせない。

 ハンターの仕事は主に獣や魔獣の狩猟だが、それ以外にも依頼として様々な仕事がギルドに持ち込まれる。狩猟よりも実入りのいい仕事があれば、率先して受けるのは言わずもがな。もちろん、そんな依頼は競争率も高いのだが。

 また、獣の買取でも土地や季節によって価格は変動するので、こまめな確認は欠かせない。レテールが高効率の圧縮魔術を使えるので、そこまで気にする必要はないのだが。


 2人が朝食を摂らずに宿を出たのは、もちろんソールやエバと距離を置くためだ。彼らの意図が判らない以上、親密にすることはできないし、探りを入れて逆に探られるような危険を犯したくはない。


 レイトとレテールがハンターギルドに着いた時には、ギルド内はまだ閑散としていた。それでも何人かのハンターが椅子に座っていて、入って来た2人をジロリと見た。

 レイトもレテールもそれを気にした様子もなく、情報掲示板へ足を向ける。

 昨日、この町に到着した直後も確認したばかりなので、目新しい情報はない。最も目立つ情報と言えば、真の魔王エルテリス元王太子とその護衛コルテの手配書だ。どこの町でも変わらない。


 ロンテールの町とはやや異なる獣素材の買取価格をしっかりと確認すると、2人は依頼掲示板の前へ移動した。掲示板に貼られている内容を、サッと吟味していく。

「ボクたちに合うのはないね」

「いや……この依頼は受けてもいいんじゃないか?」

 レテールが示した依頼は、商隊の護衛依頼だ。3日後、この町を出発して南方へ向かう。次の町までの旅程は3日間の予定。募集人数は10人だが、それが消されて残り4人に書き換えられている。


「目的地までっていうのはボクたちに都合はいいけど、残り枠4人に2人って断られないかな?」

「聞くだけ聞いてみよう。断られたところでデメリットはない」

「姉様がそう言うなら」

 レイトも頷いたので、レテールは依頼の番号を覚えて受付へと向かう。


「少々お待ちください……はい、まだ4人の空きがありますよ。最終的に雇うかどうかは依頼者当人の面接で決まります。埋まっている6人は……1つのパーティーですね」

 受付嬢は、資料棚から該当する依頼の資料を探し出し、それに目を通しながら説明した。


「依頼主はどんな人なんだ?」

「旅商人です。王都を中心に、王国全域の町や村を回っていますね。各町に10日から20日ほど滞在し、護衛を雇って次の町に行く、という行動をしている商人です」

「専属の護衛を雇わない理由は聞いているか?」

「専属もいるらしいですよ。でも、町に滞在している間も給料を支払うとなると高く付きますからね、移動の時だけ多く雇うそうです」

 町に滞在中も雇っているとなれば、その間も護衛への給料は発生する。厳密には、契約内容によるが。件の商隊は、必要な期間だけ必要な数の護衛を雇う、という方針でやっているようだ。


「雇われたハンターパーティーはどんな人たちなんですか?」

 レイトが聞いた。

「ここリンベールの町を拠点にしている《雷獣》というパーティーです。依頼を地道に(こな)している、堅実なパーティーですね。依頼を指名する人もいるくらいに、リンベールでは名前が知られていますね」

「ありがとうございます」

 レイトは受付嬢に礼を言う。


「どうされます? 依頼を受けるのでしたら、紹介状を用意しますが。ただ、2人組で活動しているハンターは少ないですから、実力に関わらず断られるかも知れませんが」

 それはレイトも心配していたことだ。残る募集人数が4人で、そのうち2人をレイトとレテールが取ってしまうと、残りが2人になる。ハンターは4人から8人程度でパーティーを組んでいることが多いので、空きを埋めるハンターを探すのが難しくなる。

 とは言っても、レイトたちのように2人組のハンターもいれば、ソロで活動しているハンターもいるから、絶対に埋まらないということもないだろうが。


「まあ、交渉してみるさ。断られたところでこちらにデメリットはない」

「解りました。それでは、紹介状を用意しますね」

 受付嬢が紹介状を用意しようとした時。

「その依頼、オレたちも受けるよ」

 横から割り込んで来た男が、受付嬢に爽やかな声で言った。


「ソール……」

 思わず振り返ったレイトが、男の名前を口にした。傍にはもちろん、エバもいる。そしてレテールは、気付かれないように溜め息を吐いた。

 探査結界を張っていたレテールは2人がギルドに入ってきた頃から気付いていたが、知らぬ振りを貫いていた。そのまま気付かずに去ってくれれば、と都合のいいことを考えていた彼女だったが、そう都合良くはいかない。遮音結界も張っておけば、と後悔したレテールだったが、声が聞こえなくなればやはり注意を引いてしまっただろう。


「オレたち4人で受ければ、少なくとも人数を理由に断られることはないだろう?」

「そうですね。4人のパーティーだったんですね」

「ああ」

「いや、違う」

 受付嬢の言葉に、ソールとレテールが正反対の答えを返した。レテールは迷惑そうにソールを睨み、ソールは人懐こそうに笑う。


「おいおい、この町まで一緒に旅した仲じゃないか」

「お前たちが勝手について来ただけだろう。それも昨日の半日だけ」

「細かいことはいいじゃないか」

「いい訳がない。私たちとこいつらは別だ」

「……解りました。では、紹介状はそれぞれに用意します」

 レテールとソールの様子を見た受付嬢は、その方が面倒が少なそうだ、と紹介状を別に用意することにした。ソールは不満そうだったが、エバに睨まれて引き下がった。




 レイトたちがうけることにした依頼の主は、町で一番大きな宿に泊まっているようだ。受付嬢からそれを聞いた4人は、つれだってその宿に向かった。

「ちょうど4人の空きがあって良かったよな。別の町に移動する時は護衛依頼があると時間を無駄にしなくて済むからなぁ」

 ソールは相変わらず饒舌だ。しかし性格というより、無理に喋っているようにも思える。


「喋っていないで足を動かせ。置いていくぞ。いや、その方がいいか」

「そんなこと言うなって。採用されれば仕事仲間なんだからさ」

「2人でやっていく自信のない貴様らじゃあどうだかな」

「あん? 何だって?」

 それまで黙って歩いていたエバが気色ばむ。


「ふん。レイト、急ぐぞ」

「はい」

「あ、おい、待てって」

 レテールとレイトは足を早め、ソールとエバも慌てて2人を追った。


 レテールとしては、ソールたちが話に割り込んで来たところでこの依頼を断る選択肢も考えた。しかし、それをしたらソールたちも依頼の受領を止めてレテールたちに予定を合わせて来るだろう。付き纏われることが判っているのだから、相手の行動で自分たちの行動を変えるのは時間の無駄だ。

 朝早く、朝食も抜いてハンターギルドに来たのにも関わらず、あのタイミングでレイトたちの前に現れたのだから、ソールとエバの目を誤魔化して姿を眩ますのは難しいだろう。それなら、隠れられるよりも目の届く範囲にいてもらった方がいい。




 宿屋に着いてカウンターで用件を告げると、件の依頼主は朝食の最中だった。それが終わるのを待たせてもらい、食堂から出て来たところを宿の主人に声を掛けてもらった。

「護衛の件ね。じゃあ、部屋に来てくれ」

 男は、専属の護衛らしき2人の男を伴い、レイトたちを自分の部屋へと案内した。


「俺はマルチェル、旅の商人なのは知っているね。ん? 君たちは1つのパーティーではないのか」

 レテールとソールがそれぞれに差し出した紹介状を手に、マルチェルと名乗った旅商人は、4人を見比べた。


「ああ。2人で活動している。こいつらとはギルドでたまたま同じ依頼に目を留めただけだ」

 レテールの言葉に、ソールは何か言いたそうにしたが、黙っていた。

 マルチェルは依頼内容について、改めて詳細に説明した。その上で4人に目を向ける。


「依頼内容はこんなところだ。これで良ければ、契約の前にあなた方の実力を知りたい。それぞれのパーティー、いや、ペアごとに自己アピールを頼む」

 レテールはチラッとソールに視線を送り、軽く顎を上げて促した。

「オレとエバの2人だけで、狼5~6頭の群れなら問題なく相手をできる」

「ほう? 護衛対象がいても?」

「もちろんだ。後ろに抜けさせたりしないさ」


「大した自信だな。そちらの2人は?」

 マルチェルはレイトとレテールに顔を向けた。

「そうだな、熊程度なら1人で対処できる」

「どちらが?」

「2人とも、だ。2人でなら、地竜も倒せるな。いや、今ならレイト1人でも倒せるか?」

「ボク1人では無理じゃないかな? 姉様は前から1人でも余裕で倒すけど」

 レテールとレイトの申告にマルチェルは少し目を見張り、それから相好を崩した。


「4人とも、実力に問題はなさそうだな」

「いいのか? 実際に確認しなくて」

 ソールが首を傾げる。

「これでも人見る目はあるつもりだ。君たちは仕事に真摯に向き合う人間だろう。ならば、自己評価が過剰になることもあるまい。君たちも問題なければ、契約しよう」

 マルチェルが出した契約書に、レテールとソールのそれぞれがサインした。


「出発は3日後の早朝だ。もう1つのハンターパーティーともそこで顔合わせしよう。遅れないように頼む」

 マルチェルの笑顔の挨拶を受けて、4人のハンターは部屋を後にした。

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