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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第2章 大陸南方編

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030 旧魔王領からの帰還

 カポカポカポ。

 硬く踏み固められた土の上を、魔馬が行く。もっとも、それを見ただけで魔馬と思う者がいるかどうかは疑わしい。旧魔王領が近いとはいえ、見た目は普通の馬と変わらない。やや黒く、やや大きいだけでは、個体差にしか見えない。

 しかし、それが旧魔王領から来た、と知れれば魔馬である可能性を考える人間がほとんどになるだろう。だからレテールは、復興の進む旧ロンテールの町を迂回して、現ロンテールへと向かった。


 魔馬の首には、レテールの作った瘴気結界を張る魔術具が掛けられている。真の魔王が存在する以上、魔獣を連れ歩くなら瘴気結界は必要不可欠だ。

 幸い、この魔馬の体表面魔力はそれなりに多かったので、結界を張る魔力が不足するという心配はなかった。


「あれ、何だろう?」

 魔馬の上、レテールの前でレイトが右前方を指差した。レテールもそれには気付いていた。

 平原に、櫓のような物が建っている。2人が旧魔王領へと向かった時にはなかったはずだ。場所的には現ロンテールと旧ロンテールを繋ぐ街道の真ん中付近だろうか。


「旧ロンテールの辺りはまだ瘴気が濃いようだから、村、と言うよりも休憩所のような場所でも作ったんじゃないか? もしくは単に、監視塔か」

「監視塔? ああ、そっか、魔獣が大群で押し寄せて来た時に、早く分かるようにか」

「ロンテールの町に行けば、知っている人もいるだろう」

「そうだね。町で聞いてみようか」

 櫓を横に見ながら通り過ぎ、しばらくしたところで2人の乗る魔馬は街道へと入った。




「あ、見えて来たね」

 やがて、2人の行く先に、ロンテールの外壁が見えてきた。

 2人が旧魔王領に入ってから3季が経とうとしている。もっと長くかかるとレテールは考えていたが、考えていたよりも早く戻って来ることができた。しかも、得られた物は予想を越えるものだった。それを、今後どう活かしていくかは、これから考えるのだが。


 しばらくして、2人はロンテールの門に到着した。陽は西に傾き、1ミックもしないうちに沈むという時刻、魔獣狩りに出ていたらしいハンターのパーティーが2組、町へ入るところだった。

 レイトとれては魔馬から下りて彼らの後ろに並んだ。順番が来ると、ハンター証を門衛に示す。


「ん? お前たち、町から出たか?」

「いや、見覚えがなくはないが……」

 門衛の2人は、レイトとレテールの顔を見て首を傾げる。ロンテールの町の旧魔王領側の出入口は、他の町や村から来る人々はまず使わない。土地が壁で仕切られているわけではないので町の外壁の外から回り込むことは可能だが、わざわざそんなことをする人間はいない。


「しばらく、旧魔王領に近い森の中で野宿していたからな。3季近く前に町を出た記録があるだろう」

「3季前? ああ、思い出した。あの時の2人か。いや、ちょっと待て。ずっと旧魔王領にいたのか? そんなにいたら、魔人化しているんじゃないか?」

 門衛の1人は、レイトたちがここを出た時にいた門衛のようだ。よくよく見れば、この町を出る時に『旧ロンテール付近では1季程度で魔人化する』と教えてくれた顔だ。


「魔人化? お前たち、魔人なのか?」

 もう1人の門衛が“魔人”という言葉に警戒を示す。

「いや、魔人化はしていない。旧魔王領付近の森の中で野宿していたし、旧魔王領に入っても数日で出て来たからな。それに私は魔術士だ。旧魔王領にいる間は瘴気結界で瘴気を防いでいた」

 しれっとレテールは言った。その実、旧魔王領にずっと滞在していたばかりか、魔王城まで往復して来たとは、門衛たちも思わないだろう。


「それは本当だろうな?」

「その馬はどうしたんだ? ここを出る時には連れていなかったはずだが?」

 門衛たちは胡乱そうにレイトたちを見る。

「野生の馬を見つけて捕まえたんです。お陰で行動範囲が広がりました」

 レイトも、虫も殺さぬ笑顔で言ってのけた。


「だとしても、その馬の鞍はどうしたんだ? 別の町にでも行ったのか?」

「町というか村だな。旧魔王領に入ってそう遠くないところに魔人の村を見つけてね、そこで作ってもらった」

「おい、魔人と会ったのか!」

 門衛たちがレテールの言葉に喰い付く。


「それほど驚くことか? 魔王がいなくなって、旧魔王領に接する3国でも、これからは時間を掛けて魔人たちと交易をしていく方針だろう?」

 レテールは門衛たちの反応に首を傾げ、レイトと顔を見交わせた。魔王の影響とはいえ人間と魔人の戦いは何度もあったし、瘴気も残っているので、すぐにどうこうと言うわけではないが、これからはゆっくりと魔人たちとの間に友好的な関係を構築していくはずだ。


「アンタたち、知らないのか?」

「何をだ?」

「何をって……いや、ここ3季、町には戻っていなかったんだな。それなら知らなくても当然か」

 門衛たちの様子を、レイトとレテールは訝しむ。2人が旧魔王領を旅している間に、何か状況が変わったようだ。


「アンタたち、これからハンターギルドだろう?」

 門衛は互いに視線を合わせてから、レイトたちに向き直った。

「ああ、そのつもりだ」

「それなら、ギルドで確認するといいんじゃないか。情報は上がっているはずだ」

「……うん、そうだね」

「そうするか」

 ここで口頭で聞くよりも、ハンターギルドの情報掲示板を見た方が詳細に判るだろう。それに、金を積めばさらに細かい情報を得られる可能性もある。


「それなら、入町手続きを頼む」

「ああ、解った」

 門衛が2人の手続きを進めた。しばらく町を離れていたこともあって入町税を納める必要があったが、旧魔王領では人間たちの使う貨幣は地金としてしか通用しなかったので、支払いには困らなかった。

 手続きの最中、後ろから荷馬車が何台かやって来た。旧ロンテールから戻って来たのだろう。

 手続きを終えたレイトとレテールは、後ろの邪魔にならないようにさっさと町の中へと入った。




 久し振りに来たロンテールの町は、以前に比べてどことなく賑やかになっているように思えた。旧魔王領で立ち寄った魔人の町や村はどこも閑散とした雰囲気だったから、それに慣れてしまったのかも知れない。

 ハンターギルドに向かう前に、レイトとレテールは以前も泊まった宿屋へと向かった。


 宿屋はそう賑やかではなかった。食堂がないからだろう。他の町の食堂が併設された宿屋なら、場所によってはハンターギルドもかくやという賑わいを見せるのだが。

「2人部屋は空いているか?」

 カウンターで、出て来た女将(おかみ)にレテールが言う。


「それから、馬も預かって貰えるだろうか?」

「いらっしゃい。おや? アンタらの顔、見覚えがあるね」

 女将はレイトとレテールを覚えていたようだ。

「良く覚えているな。3季ほど前に1旬だけ世話になった」

「客商売だからね。2人部屋ね。今度は何泊してくれるんだい?」

「取り敢えず2泊、場合によっては延長する」

「2泊ね。なら空いてるよ。馬は、2~3日なら預かるけど、長くなるようなら馬屋に預けた方がいいね」

「そうか。取り敢えず預かってくれ。長くなりそうだったら、馬屋に連れて行く」

「はいよ」

 2人は女将が呼んだ店員に馬を預け、割り当てられた部屋に荷物を置いてからハンターギルドに向かった。


 人間の町は、今まで通って来た魔人の町とは賑わいだけではなく、どことなく雰囲気が違う。長い間、魔人の町や村しか見ていなかった2人は、久し振りに『帰って来た』という感覚を胸に抱きながら通りを歩いた。

 ハンターギルドは以前の通りに賑わっていた。まずは裏に回って来るまでに仕留めた魔獣の素材を売り払い、身軽になる。魔石を補助に使えば、レテールは圧縮魔術を使い続けることはできるのだが、無駄に魔力を消費する必要もない。


 買い取りを済ませてからギルドの表に回り、正面から中に入った。中にいたハンターたちの数人が、入って来た2人を遠慮なしに睨め回す。

 そんな視線を無視して、レイトとレテールはまず、情報掲示板の前へと行った。相変わらず、『真の魔王・ローランディア元王太子・エルテリス』と『元護衛騎士・コルテ』の手配書が貼られている。久し振りにそれを見たレイトが唇を引き結ぶ。が、すぐに別の情報へと視線を動かした。


 レテールは最初から手配書は気にせず、他の情報に目を走らせる。その視線が、1点で止まった。

 少し遅れて、レイトも同じものを見つける。レイトの目が見開かれた。


 そこに書かれていたのは。



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《ローランディア王国・ノーザリア王国を武力併合》


 ローランディア王国は、崩御した前国王ルティエス陛下の後を継いだ、勇者にして新国王ランゼ陛下の采配の元、ノーザリア王国に武力侵攻し、併合した。国王の座を継いでから僅か1季にしてのこの快挙に、この出兵に反対していたローランディア国内の勢力は、勢いを削がれることとなった。

 なお、ランゼ新国王は、ノーザリア王国の騎士団を始めとする軍指揮権のすべてをローランディア軍の下に置いたのみで、ノーザリア地方の統治はノーザリア王家と貴族の自治に委ねた。


 これに対し、旧魔王領と国境を接するもう1つの国・ラビトニア王国は、ローランディア王国に対する警戒を強めている。


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽



「ちち……うえ……」

 レイトの口から小さな声が漏れた。

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