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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第1章 魔王領編

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027 魔術陣と魔術具の講義

 レテールの教えを受けた翌日には、ノルンは瘴気結界と魔術陣への変換を実現して見せ、それを見たディーゼは意気消沈した。

「気にするな。ノルンは元々、魔力結界も遮音結界も張れていたんだ。スタート地点が違うんだから、ゴールまでの時間が違うのは当然だ。ディーゼも筋はいい。焦るな」

「本当?」

「ああ。ずっと魔力操作の精度を上げる鍛錬をしていたんだろう? そのためだろう、筋はいい」

「え? そぉ?」

 ディーゼが少し顔を綻ばせる。


 レテールの言う通り、ノルンとディーゼはそもそものスタート地点が違う。魔術に関してほとんど素人だったディーゼだが、1日で魔力結界を張れるまでになったのだ。それだけでも、旅路で魔力操作を真面目に練習していたことが解る。レテールが予想した2旬(約2週間)より早く、今のノルンに追い付けるかも知れない。

「レテールにそう言ってもらえると、自信でるよ。よし、頑張るぞっ」

「ああ、頑張れ」

 レテールはディーゼを励ました。




 瘴気結界と魔術陣を会得した後は、具体的な魔術陣の構築方法と魔術具の作製方法の講義を行うのだが、ディーゼの準備が整うまで待つことになる。その間レテールは、ノルンが連れて来た4人の魔人に同じことを教えることになった。魔術士が2人に、魔術具の製作を生業にしている魔術技士が2人。

 ノルン1人では魔術具を揃えるのに手間がかかる。彼女が魔人たちに教えてもいいのだが、レテールが滞在している間に、教師役も含めてできるだけ瘴気結界の魔術具を作れる魔人を増やしておくつもりのようだ。


 レテールも、資料の閲覧や魔王城に宿泊させてもらっているので、その対価に瘴気結界を魔人たちに広めるこてはやぶさかではない。真の魔王が誕生している今(魔人たちの感覚による推測だが)、魔人たちが魔王の影響下に入ることは可能な限り避けておきたい。

 初日の生徒は4人だったが、それからも日を空けて数人ずつ、魔人たちに瘴気結界を教えた。ディーゼと違って魔術の扱いに慣れた者たちだったが、それでもノルンのように1日で実践できる者はおらず、数日は掛かりそうだ。特に魔術技士には結界を張れない者もいて、スタートラインがディーゼとほとんど変わらない。具体的な魔術陣の説明までに間に合わない魔人もいるだろう。


 しかしそれでも構わない。ディーゼが瘴気結界の魔術具を作れるようになるまではレテールも魔王城に滞在するつもりだが、その後はノルンをはじめ、魔人たちに任せるつもりだ。いつまでも旧魔王領にいるわけにはいかないのだから。



────────────────────────



 2旬を待たず、14日でディーゼは瘴気結界と魔術陣を張れるようになった。それを待ってレテールは、ディーゼやノルンたちに魔術陣の具体的な使い方の講義をすることにした。ディーゼとノルン以外にも、5人の魔人も椅子に座る。他にも6人の魔人に瘴気結界を教えたが、まだ会得していない。


「魔術陣は、単に魔力を魔術陣にしただけでは何の効果も(もたら)さない。しかし、これを決まった形状で空間に配置することで、いろいろな効果を発現できる。

 早速、具体的にやってみよう。これが強化魔術陣だ。そこの貴方、魔術陣の中央で発光魔術を使ってみてくれ。控えめに頼む」

「はい」

 レテールが指名した中年男性の魔人は、レテールがテーブルの上空に浮かべている魔術陣に魔力を送り込み、魔力を光に変える。


「おわっ」

 強烈な光に、別の魔人が思わず声を上げた。他の魔人たちも手を顔に翳している。

「どうだ? 普通に魔術を行使するのに比べて」

「は、はい。今込めた魔力からすると、予想以上に強力な発光になりました」

 魔術を行使した魔術士が、レテールの問いに答えた。


 レテールは頷いて、言葉を続ける。

「これが強化魔術陣の効果だ。中で発生した魔術の効力を上乗せする。そして、魔術陣自体は消滅せずに残るから、そのまま別の魔術を使っても強化される」

「強化魔術陣の効力はどれくらいですか? 魔術を何倍くらいにするんでしょう?」

 魔術技士だという魔人が聞いた。


「おおよそ1.6倍というところだ。もう少し複雑にした魔術陣もあるが、それでも1.8倍くらいだな。それから、魔術陣自体に使う魔力濃度でも、効果は上下する」

 なるほど、と魔人たちはレテールの回答をメモに書き込んでゆく。


「取り敢えず、瘴気結界の魔術具を作るのに必要なことについて、一通り話してしまおう。

 魔術陣としては、強化の他に魔術行使、魔術拡張を重ねて使う」

 レテールは魔術陣を変えてゆく。教えを受ける魔人たちは魔術陣の形状を記録したそうにしているが、それは後に回して講義を進める。


「他に、魔力吸収と魔力移動の魔術陣を使うが、この2つは使わなくても、通常の魔術具の作り方でも構わない。

 魔術陣は、意識して維持しておかなければ霧散してしまうのは、通常の魔力と同じだ。そして、魔術具として魔石の中に魔術陣を作れば、意識することなく維持できるのも通常の魔力と変わらない」

「と言うことは、今まで作っていた魔術具に強化魔術を仕込むだけでも、魔術具の効果を上げられるわけですね?」

「そうだ。そして、さっき言ったように魔術陣の魔力濃度が濃い方が効果は高いから、金属や石材よりも魔石の方が効果は高い。まあ、これは通常の魔術具でも同じだが」

 魔人たちはレテールの説明に納得の表情を浮かべる。魔術技士たちは魔術具の作製で実感しているだろうし、そうでなくても魔石を魔力タンクに使ったことがあれば、納得できるだろう。


「瘴気結界の魔術具だが、魔石に強化、魔術行使、魔術拡散の魔術陣を仕込むことで実現できる」

「あの、魔術行使の魔術陣とはどんな物ですか?」

 魔人の1人が質問した。

「文字通り、魔術を行使するための魔術陣だ。魔術陣内の魔力を使って任意の魔術を自動発動する」

「それは、普通に魔術具を作る方法をとれば、不要なのでは?」

「それでも構わない。が、魔術陣を使った方が効率がいいことが判っている。だから、最近は人間の魔術技士は、魔術陣で魔術具を作ることが当たり前になっているな」

 なるほど、と質問した魔人は納得する。


「そしてこの魔術具に、周囲の魔力を吸収して瘴気結界の魔術具に送り込む魔術具を組み合わせる。この魔術具をアクセサリーにして常に身に付着けておけば、体表面魔力を吸収して常に瘴気結界を張ることができるわけだ」

「レテールとレイトも、その魔術具を身に着けているの?」

 ディーゼが聞いた。

「ああ。これがそうだ」

 レテールは首に掛けているネックレス状の魔術具を服の下から取り出し、掌に載せてみんなに見せた。魔人たちが息を呑む。


「え。これにさっき言った魔術陣を仕込むの?」

 絶句する魔人たちの中、ディーゼは遠慮なく質問した。

「そうだ」

「レテールが見せてくれたの、あんなに大きいのに?」

「魔術陣の形を変えず、サイズを縮めるだけだ。魔術陣を覚えてしまえば大したことはない」

「ちょっと、この魔術具に仕込んだサイズで強化の魔術陣を出してみてよ」

 レテールは魔術具を仕舞うと、掌の上に魔術陣を作って見せた。視認はできるものの、見にくいこともあって、魔人たちは身を乗り出す。


「これは……かなり細かいですね」

 魔術士の1人が唸るように言った。

「魔術具を作ると考えれば、そう大したことはないだろう」

「いや、そんなことありませんよ。普通の魔術具はこんなに精密である必要はありませんから」

 魔術技士の1人が唸るように言った。


「しかし、やり甲斐はあるだろう?」

「それはまあ、否定しませんが」

 レテールが挑発するような口調で言えば、魔術技士も口角を上げる。魔術技士の心に火が点いたようだ。

「それから先ほどの魔術具には、効率を上げるためにさらにいくつかの魔術陣を仕込んである。瘴気結界を張る()()なら、先ほどの魔術陣だけで十分だが……」

「全部聞かせてくださいっ」

 レテールの言葉を遮って、魔術技士が身を乗り出した。その目は爛々と輝いている。レテールはニヤリと笑う。


「そんなに言うなら説明しようか。まずは魔力の使用効率を上げ、持続時間を長くするために……」

 レテールは1つ1つ丁寧に、魔術陣について説明してゆく。




「1つ疑問があるのですが……」

 ひと通りの説明を終えた後、控えめに口を開いたのはノルンだ。

「なんだ?」

「この魔術具があれば、人間は魔王領でも自由に行動できるでしょう? けれど、実際にはそれをやらなかった。なぜでしょう? 大軍で責めてくれば、魔王討伐ももっと早く成せたでしょうに。尤も、そうされていたら人的被害も桁違いになったでしょうけれど」

「ああ、そのことか」

 レテールは、何でもないように言った。


「この魔術具は、今のところ2個しかない」

「どういうことでしょう?」

「『体表面魔力を使って継続発動する』という発想を瘴気結界の魔術具に組み合わせたのは、私が最初なんだろう。魔王討伐時には、パーティーの中に強力な魔術士がいて全体に瘴気結界を張っていたか、あるいは各人に持たせた魔術具に魔力に余裕のある魔術士が定期的に魔力を補充していたはずだ」

「確かに、魔術具というと『充填した魔力で機能を発揮する』というものばかりです。ワタシも、言われるまで、その発想がありませんでした」

 魔術技士の1人が悔しそうに言う。


「魔術具というと、誰でも同じ魔術を使えることが売りだからな。個人差の多い体表面魔力に頼るという方法を思いつかなくても不思議はないだろう。私は魔術技士でないから思い付いたようなものだ」

 レテールは慰めるように言ったが、魔術技士は首を横に振った。

「いえ、身に着けるタイプの魔術具としては、体表面魔力の利用というのは極めて有効です。それに気付かなかったのは、技術者としての落ち度と言っても過言ではありません。これからもより使いやすい魔術具を作るべく、既存の技術にばかりに拘ることなく精進したいと思います」

「……ああ」

 それを魔術技士でも彼らの師匠でもない私に言われても、とレテールは困ったが、曖昧に頷いた。


「ではこれからは、まず魔術陣を作る鍛錬、それを小さくする鍛錬に励みましょう。できるようになった者から魔石を配布しますので、続けて魔術具の試作に入ってください」

 ノルンが場を纏めて、その日の魔術陣と魔術具の講義は終わった。

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