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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第1章 魔王領編

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024 レテールの魔術講座

 翌日からレイトとレテールは魔王城の資料庫で、魔人たちが翻訳したという資料の閲覧を始めた。

 そうは言っても魔王が斃れてから翻訳を始めたと言っていた通り、現時点での量は大したことはない。しかし、元の言語を良く知らない魔人たちが翻訳しているだけあって、読みにくい上に誤訳がどれほどあるのかも見当が付かず、閲覧には思った以上に時間がかかる。


 翻訳前の資料も見せてもらったのだが、ノルンの言っていた通りそれは音声で、聞いたところでさっぱり解らない。見たこともない、魔術具なのかどうかすら解らない道具から流れる音声に、レイトもレテールも眉を顰めるしかできなかった。


 レイトとレテールが資料を閲覧している間、ディアブルとディーゼは魔都に下りて、ハンターとして活動している。とはいっても、外輪山と外郭都市に囲まれた魔都に野生の魔獣が入り込むことはまずない。入り込むとしても、稀に魔鳥がやって来る程度らしい。

 そのため、ディアブルとディーゼは荷運びや畑の手伝いなど、日雇いの仕事を探してこなすことにしている。




 午前中はそうしてそれぞれに過ごし、昼食を終えてから1ミック(約1時間)ほどが過ぎてから、レテールはノルンと戻って来たディーゼを相手に瘴気結界の説明を始めた。


「2人には当たり前のことだと思うが、まずは魔術についてのおさらいからだ」

 瘴気結界の説明の前に、レテールはまず、魔術の基礎から講義するようだ。


「人はもちろん、獣も植物も体内て魔力を生み出し、体内に貯め込んでいる。貯めきれない魔力は全身から体外に放出され、ある程度の量は体表面に残るが、次第に大気中に拡散され、消えていく。

 体内に蓄積された体内魔力と、体外に出てから拡散前の体表面魔力は、本人の意思で自由に操作できる。まあ、精密な操作は訓練しないと身に付かないのは、2人も知っての通りだがな」

 魔力をまともに操作できないと、魔術を行使しても本人の思うように使えないばかりか、行使された魔術が本人に牙を剥くことすらある。例えば、少し離れた場所に炎を作ろうとして、自分が火達磨になってしまったりする。


「魔術とは基本的に、魔力により何らかの現象を起こすことだ。例えば、解り易いところで言うと、発火や発光だな」

 レテールは自分の前の空間に炎を作り出し、それを消して今度は光を生み出す。

「他にも、発雷、発熱、冷却、物を動かす、などの現象を起こすことができる。これが魔術の基本的な使い方だな。

 次いで一般的な使い方は武器や防具、服、それに自分の身体の強化だな。強い魔術士を相手に剣士や槍士が真正面から対峙するのはきついからな。武器や身体を強化することで魔術に対する耐性を上げられる。正確には、魔術で発生した現象によるダメージを軽減する、といったところか。加えて、単純に物理的な耐性も上がるがな」

 そうでなければ、剣はすぐに刃毀れしてしまうし、防具も獣の爪や牙で簡単に傷んでしまう。ハンターや、戦いの場に身を置く者にとって、武具強化、身体強化は必須の魔術だ。


「次に、念話や転移だな。思考は頭周辺の魔力を揺るがせる。そこで、自分の魔力で相手の頭を包んでその揺らぎを読み取るわけだ。また、こちらから揺らがせることで伝えることもできる。

 転移は、2点間の魔力とそれに包まれた物の交換だ。包まれた物というより、自分の魔力を満たした物、だな」

 ノルンは静かに、ディーゼはフンフンと頷きながら聞いている。


「そして、少々変わった使い方として、結界がある。物理結界や魔力結界、探査結界、少し変わったところで遮音結界などがあるな。

 探査結界は、要は魔力を操作して普段は体表面に留まっている魔力を広範囲に広げて、魔力で物や生物、他人の魔力を感じ取るものだな。

 魔力結界は、広げた魔力の膜のようにして特別な状態にし、他人の魔力の侵入を防ぐためのものだな。

 物理結界と遮音結界はもう少し特殊だな。物体に触れた時、あるいは音が触れた時に、それを打ち消すように物を動かすわけだ。慣れない奴は物が触れる触れないに関わらず常に動かしているから、魔力消費が激しい上に、遮音結界を張ることはできないわけだ」

 ディーゼはフムフムと熱心にメモを取っている。ノルンも筆記具を用意しているが、それを手にする様子はまだない。


「それから魔術具だ。魔石に込めた魔力に魔力の行使方法を記録しておき、別の魔石に込めた魔力を謂わば燃料として使って、自動的に魔術を発動させる物だな。

 昔は魔石ではなく精錬した金属を使っていたそうだが、魔石を採れるようになってからは専ら魔石が使われるようになった。これは、魔石が金属よりも遥かに多くの魔力を貯められるからだな。

 簡単に流したが、ここまでが魔人も知っている魔術だ。補足があれば言ってくれ」

「いいえ、ありません」

 ノルンが頷いた。


「最後にもう1つ、魔術陣だ。これは100年ほど前に発見された方法で、魔人には伝わっていないとディーゼから聞いた。ディアブルは、名前くらいは知っているようだったが。その認識で間違いはないな?」

「ええ。昨日も言いましたが、魔王討伐の際に一部の人間の魔術士が変わった魔術の使い方をしていると知りましたが、具体的なことは知りません」

 ノルンは淀みなく答えた。


「魔術陣というのは、魔力障壁のように魔力を特殊な性質を持つ状態に変え、さらに決まった形に配置することで、魔術を強化したり特殊な使い方をしたりする方法だ。例えば、普通に発光を使うとこれくらいだ」

 レテールはテーブルの上の空間に光球を生み出した。部屋の天井が発光しているのでそれほど明るくは見えないが、それでも見て判る程度には明るい光の球が現れる。


「次は魔術陣を使う。少し眩しいから、気を付けてくれ」

 数ミテン(≒秒)でその光を消したレテールは、強化の魔術陣を空間に作る。さらにその中央に注いだ魔力で光を発生させる。

「わっ!!」

 ディーゼが叫びつつ両腕で顔を覆った。まるで部屋の中に太陽が現れたかのようだ。天井の光を暗く見せるほどの光量で放たれたそれは、すぐに消える。


「今のは、魔術強化の魔術陣だな。光球に使った魔力は先ほどと同量、が、効果は今見た通り、魔術陣を使うことで数倍にはなる。魔術陣自体に使う魔力濃度を増やせば、さらに強化される」

「これが魔術陣ですか。じっくりと見たのは初めてですね。しかし、魔術陣に使う魔力を発光に使えば、同じ効果が得られるのではありませんか? むしろ普通に魔術を使うよりも魔力消費が多いのでは?」

 ノルンが冷静に指摘した。しかし、その瞳は先ほどまでと違い、爛々と輝いている。魔術士として、これまでに触れたことのない魔術の使い方に興味津々といった様子だ。


「そうだな。魔術強化の魔術陣1つに絞れば、魔力効率はそれほど良くはない。しかしこれでも、体内魔力の少ない人にとってはかなり有効だ。魔術陣はその魔力の制御を手放すまで残るから、連続して魔術を行使するなら、消費魔力量は最終的に減ることになる」

「なるほど」

「それに魔術陣は魔術の強化だけではない。魔力を圧縮して魔力濃度を高める、魔術に指向性を持たせる、魔術そのものの行使に使う、など様々な魔術陣がある」

「その、最後の『魔術そのものの行使』には意味があるのでしょうか?」

 ノルンが首を傾げた。


「人に寄るが、特定の現象生起が苦手な者もいるだろう? 炎は起こせるが光らせるのは苦手だ、とか。そういう者でも、魔術陣を使えば苦手な魔術を行使できる」

「なるほど」

「もっとも」レテールは苦笑いで続けた。「普通に魔術を使うよりも魔術陣の方が難易度はずっと高いから、魔術陣を使えるのに特定の現象を起こせない、という者は少ないんだが」


「『少ない』ということは、人間の中にそういう者もいる、ということですね?」

 ノルンはレテールの言葉尻を捉えた。

「まあな。体内魔力は豊富なのに魔術の行使は苦手で、しかし何故か魔術陣だけは非常に高い精度で使い熟す、という変わった魔術士を1人、知っている」

「まさに、魔術陣を使うべくして生まれたような方ですね」

 ノルンは微笑んだ。


「ああ、そうだ。魔術陣の発見前の時代に生まれていたら、そいつは豊富な魔力を持っていても、一生涯、魔術士を名乗ることはできなかっただろうな」

 レテールも笑顔で答えた。


「さて、ここまでが魔術のおさらいだ。ここからは瘴気結界の説明だ」

「いよいよだねっ」

 元気に言ったディーゼに、レテールとノルンは笑みを零した。

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