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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第1章 魔王領編
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014 魔人は人間を感知するか

 レイトたちはその町でも2泊して、旅を再開した。次の町までは3日かかるようだ。2日で行ける町も2つあるようだが、方角が少し外れるため、野営が増えても最短で進める道を選んだ。

「少し早いが、この辺りで野営にしよう」

 ディアブルが魔馬を止めると、他の3人に言った。4人の向かう先、1テック(約1km)ほど先には、深い森が見えている。


「あの森が、町で言ってた猿の出る森ね?」

 ディアブルの前に座っているディーゼが、兄を振り返った。

「そうだ」

 ディアブルが魔馬から下り、他の3人もそれぞれに下りて、少し早いが野営の準備を始める。

「でも、猿が人間を襲うんですか? 雑食だけど、襲うのは兎や鼠みたいな小動物だけですよね?」

 手を動かしながら、レイトが聞いた。それに答えたのは、ディーゼだった。


「そんなことないよ。猿は集団になると、人でも鹿でも狼でも熊でも襲って食べるよ」

「そうなの!? 初めて聞いたよ……。魔王領の外と中で獣の行動も違うのかな?」

 レイトは、自分の知らなかった魔猿の凶暴性に驚いた。

「猿と言っても、地域によって種類が違うからな。元々この辺りの猿が大型獣も狩る種類だったのかも知れないな」

 レテールの説明に、レイトはそういうこともあるか、と納得する。


「ここの猿どもは、20人以上の集団ならば襲うことはまずないそうだ。だから普通は、オレたちのような少人数なら森を迂回する街道を使うそうだ」

「まあ、そうだろうな」

「明日1日かけて森を抜けるんでしょ? 襲われないかな?」

「どうだろうな。まぁ、同じ襲われるにしても夜よりはマシだろう」

「暗い森の中で襲われたら堪りませんからね」


 魔猿について話をしながら、野営の準備を整えた。陽が沈むまで少し時間があったので、レイトとディーゼは戦闘訓練を始める。

 その間にレテールは森の浅い場所まで行って魔鳥を2羽獲って来た。

「この短時間で良く見つけられたな」

「魔力で探査すれば、そう難しくはない」

 感心したように言うディアブルに、レテールは魔鳥を捌きながら言った。


「ディーゼに聞いたが、獣はレテールの魔力で逃げてしまうんじゃないのか?」

「魔力を薄くしておけば問題ない。それでも草食で敏感な奴には逃げられるが、鈍感な奴もいるからな」

「それで、鈍感な鳥を狩ってきたわけか」

「そう言うことだ」


 食事の仕度が終わる頃には陽も暮れ、レイトとディーゼも訓練をやめて、ディアブルが起こした焚き火の周りに集まった。焚き火を囲んで、レテールが獲って来た魔鳥の肉を食べる。

 焚き火だけでは暗いので、ディーゼが魔術で明かりを灯している。レテールがやろうとしたが、ディーゼが「魔術操作に慣れたいから」と買って出た。


「明日は森のあっち側で野営でしょ? この森、抜けるのに1日かかるくらいに広いの?」

「町で聞いた限りでは、そうらしい。1日で抜けられるんだ、そう広くはないさ」

 広くないと言っても、明け方から夕方までほとんど歩き詰めになることを考えれば、それなりに広い森だと言えるだろう。


「ところで、ちょっと聞きにくいことなんですけど……」

 レイトがディアブルとディーゼを見て言った。言葉の通りに、少し言いにくそうにしている。

「何だ?」

「その、魔人の人も、魔人と人間の違いは判らないものなんですか?」

「それは、何故だ?」

 レイトの質問にディアブルは首を傾げる。


「一昨日、町で絡んで来た魔人は、姉様が圧縮魔術を使っていたことで人間と推測していたみたいだから、判らないのかと思いました。でも、考えてみると、魔王がいた時は魔人も魔獣も人間を襲うように命令されていたわけですよね? なら、その時は見ただけで区別がついていたのかな、と気になって」

「ああ、そういうことか」

 ディアブルはすぐには答えず、虚空を見上げて何か思うような表情を見せた。

 しかし、レイトが焦れるほどの時間をおかずに口を開く。


「魔王の影響を受けていた時には、確かにはっきりと判ったな。しかし今では判らない。オレたちの村にも、2人が魔人とは違う気がする、と言う奴はいたから、中にははっきりと認識する奴もいるかもしれん。個人差だろうな」

「そうなんですね。すみません、変なことを聞いて」

「気にすることはない」

「でも何でそんなことが気になったの?」

 ディーゼが首を傾げた。


「この先も人間に仲間を殺された、って魔人はいるよね。魔王城に近付くほどに増えると思う。その時にまた、絡まれたら面倒だな、と思って」

「あー、そっか。行く先々であんなのに絡まれたら確かに面倒だもんね」

 レイトの懸念に、ディーゼが頷く。

「そうなると、圧縮魔術はできるだけ見せない方がいいな。私も気を付けよう」

「買い取りの者以外には見せないようにするのがベターだな」


 レテールが人間であるの気付かれたのは、魔術陣を使う圧縮魔術をハンターギルドの受付で見せたためだ。面倒ごとに巻き込まれないようにするなら、圧縮魔術、というより魔術陣の使用を控えた方がいいだろう、とレテールは判断する。

「気にする必要はないんじゃない?」

「そんなことはないよ。実際、それでバレてるわけだし」

 気楽に言ったディーゼに、レイトがすぐに反論する。


「うーん、言われてみると、そうかも」

「町の外でなら、あまり気にする必要はないと思うけどね」

 そう言ったレイトがレテールに顔を向けると、彼女は頷いた。

「そうだな。それに圧縮魔術も使わないと、獲物の持ち運びに不便だからな。それくらいは使うよ」

「圧縮魔術はねぇ。熊でも出たらそのまま運ぶのは大変だもんね」

 レテールの言葉にレイトは納得したように頷いた。




 夜の見張りには、先にレテールとディーゼが立った。2人とも石に座っているが。

「ねぇ、レテール、魔力操作を上達させるもっといい訓練方法とかないの?」

 灯した光を微動だにさせないように、かつ明るさを変えないように意識しながら、ディーゼが聞いた。

「まずはその光を意識しなくても維持するところからだ。が、少しくらいなら別のことをやってもいいか」

「うん、やりたいっ。教えて」

 喰い気味のディーゼに、レテールは苦笑いを浮かべた。


「基本的なことは同じだ。光を動かさず、光量を変えない。ただし、形を変える」

「形を?」

「そう。解りやすいのは、24文字の基本文字の形に順番に変えてゆく。こんなふうに」

 レテールは目の前に、光の文字を出した。その形をゆっくりと次々に変えてゆく。

「こんな感じで、魔力を正確に動かすことで魔力操作の練習をする。光らせなくてもいいんだが、慣れないうちは目でも見えていた方が解りやすいだろう」

「解った。やってみる」


 ディーゼは早速、球状の光の形を変えるが、途端に明るさが変わる。

「あれ。形を変えると魔力濃度を揃えるのが難しい……」

「球状なら魔力も一定に保ちやすいが、形を変えると難しいだろう?」

「うん。でもこれが、魔術陣を使うのに必要なんだよね?」

「それくらいはできないと、魔術陣は作れないな」

「なら頑張るっ」

 ディーゼは真剣に魔術の光を睨み始めた。




 夜半を過ぎ、レイトとディアブルが見張りを交代した。

「レテールは眠っている間も結界を張っているのか」

 ディアブルが焚き火に小枝を追加しながら聞いた。

「はい、そうです。魔石を使ってですけど。ボクのことが心配らしくて。過保護ですよね」

 レイトは少し恥ずかしそうに笑った。

「保護者としては当然だろう。オレも、ディーゼを目の届かないところには行かせたくないからな」

 ディアブルは、毛布に包まって眠っているディーゼをチラリと見て言った。


「やっぱり、ディアブルから見てもディーゼやボクはまだ半人前ですか?」

 ディアブルは視線を焚き火から逸らし、夜の闇を見つめた。

「技術的には、2人ともプロのハンターの域に達している。しかし、心構えがまだだな」

「心構え、ですか」

「ああ。ディーゼもそうだが、レイトも“必ず勝ちにいく”という強い気概が見えない。多分、今までに命の危険ギリギリの戦いを経験したことがないんじゃないか?」

「それは……そうかも知れません。いつも後ろに姉様がいてくれたし」

「命の危機に陥ることがないよう、レテールが気遣っていたんだろうな。そういう心構えを持つために命の危機は必ずしも必要はないんだが、それならそれで、別の方法での試練をレイトに課すべきだが、それができていないのはレテールの落ち度だろう」

「そんなことはありません。姉様はいつでも……」

 言いかけるレイトを、ディアブルは片手を上げて遮った。


「オレもディーゼをそういうふうに鍛えられていないからな。落ち度という点では、オレもレテールと変わらない」

 そう言われると、レイトも口を噤まざるを得ない。

 しばらく沈黙してから、レイトは再び口を開いた。

「どうすれば一人前になれるんでしょう? いや、ディアブルはどうやって一人前になったんですか?」

「そう言われると難しいな。いつの間にかなっていた……と言うより、自分では今も一人前なのかどうかは判らん。が、そうだな、戦いに赴く時はいつも、後ろからの援護はないつもりで、かつ敵は後ろに通さない覚悟でいたな」

「援護はなく、敵を通さない……」

「ああ。もちろん、常にそれがいいとは限らない。パーティーを組んでいたら、後ろを信頼して敵を流すこともあれば、互いに援護し合うこともある」

「……難しいですね。ボクも考えてみます」

 レイトはディアブルの言葉の一つ一つ噛み締めるように、頭の中で反芻した。


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