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魔王の仇し草  作者: 夢乃
第1章 魔王領編
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013 逆恨み

 ハンター証を作って町を出たその日の昼、レイトたちは休息を取っていた。

「……誰もつけて来てはいないな」

「今のところは」

 ディアブルとレテールが確認し合う。

「何のこと?」

「……昨日言ってた、監視?」

 ディーゼとレイトは、言われるまで判らなかったようだ。監視の目に気付けなかったのだから、それが『ない』ことには気付きようもないだろう。


「そういうのって、どうすれば鍛えられるの?」

 水で喉を湿らせたディーゼが聞いた。

「そう言われると、難しいな。レテールは何かあるか?」

「そうだな。改めて聞かれると難しいな。まずは五感をフルに使えるようにすることからかな」

「五感をフルに使う?」

 ディーゼと一緒に聞いていたレイトは首を傾げた。


「そう。まずはそうだな、視覚以外の感覚を視覚並みに上げるところからだな」

「どういうこと?」

「人の感覚はそのほとんどを視覚に頼っている。その証拠に目を閉じただけで、ほとんどの行動ができなくなるだろう? 逆に、耳を塞いだところでそう大変なことはない。それだけ視覚に頼っている、ということだな。

 つまり一番手っ取り早いのは、視覚を閉じてそれ以外の感覚で周囲を捉える訓練からだな。目を閉じた状態で周囲の状況を感じられるようになって、さらにその感覚を磨いていけば、気配を感じられるようになるんじゃないかな」

 レテールの説明を聞いたレイトとディーゼは、さっそく目を閉じてみる。


「そろそろ出発だぞ。もっと時間のある時にやるんだな」

「はぁい」

「すみません」

 ディアブルが笑い混じりに嗜めると、2人は素直に目を開いた。


 昼の休憩を終えた4人は再び魔馬に乗り、次の町を目指した。レイトとディーゼは視覚以外の感覚を研ぎ澄ませようとしているのだろう、魔馬の上で目を閉じている。魔馬に揺られた状態でのそれは難しいだろうが、レテールもディアブルも何も言わなかった。上昇志向があるのはいいことだ。



────────────────────────



 翌日の夕刻、4人は予定通りに次の町に到着した。町に入るとまずはハンターギルドへ。レテールとレイトは2日の行程で捕えた魔獣を売却し、ディアブルとディーゼはギルドに魔王についての警告をしておく。


「どうして今日は、二手に分かれて先に宿を取るんじゃなくて、全員でギルドに寄ったの?」

「……この町は広いからな、宿を決めるまで別れない方がいいと判断しただけだ」

「そっか」

 ディーゼは、ディアブルの説明に疑問を感じることなく頷いた。しかしレイトは、ディアブルの言葉に引っかかりを覚え、周囲を見回そうとする。

「レイト、余所見をするな」

 レテールがレイトを嗜める。それでレイトは、ディアブルに感じた違和感が自分の勘違いではない、と確信する。


(何かある?)

(まあな。宿に着いたらな)

 レテールとこっそりと話したレイトは、周囲に気を配る。しかしレイトには、怪しい気配などはまったく判らない。


 ハンターギルドで聞いた宿屋は、大通りから一本隣の通りだったので、途中で4人は脇道に入った。

「ちょっと待て」

 後ろから掛けられた声に、4人は足を止めて振り返った。数人の魔人が道を塞ぐように、身構えて立っている。

 ザザッという足音に行く方を振り返れば、そこにも魔人たちが。


「何の用だ」

 ディアブルが言った。

「貴様ら、人間だな?」

「いや、魔人だ」

 ディアブルが即座に答えた。

「嘘言えっ。そっちの女、明らかにおれたちの知らない魔術を使ってやがったよなっ」

 別の魔人の男がレテールを指差した。レイトとディーゼには覚えていなかったが、レテールとディアブルはその男が、前の町のハンターギルドにいたことを覚えていた。


「彼の言うことは事実だ。彼は魔人だ。私は、人間だがな」

 レテールがレイトに魔馬の手綱を渡し、一歩前に出た。手綱を受け取ったレイトも何か言いたそうに踏み出すが、レテールが手で制した。

「で、私が人間だったらどうだと?」

 挑発するようにレテールが言った。

「貴様、貴様ら人間のせいで、魔人が何人も死んだんだぞっ。あいつだって……! よくもノコノコとおれたちの町に来れたもんだなっ。生きて帰れると思うなよっ」

「ほう? つまりどこの誰だか知らない人間に知り合いを殺されたから、無関係の私に復讐したいと、そういうことか」

「そんなのタダの八つ当たりじゃないっ!!」

 飛び出しそうなディーゼの肩をディアブルが掴んで止める。


「当たり前だっ! 魔人を殺した人間どもなど、全員ぶっ殺してやるっ!!」

「ほう。その理屈がまかり通るなら、知人が魔人に殺された私にも、貴様ら全員ぶちのめす権利があると言うことだな」

「人間にそんな権利あるかっ!!」

「人間に権利がないなら、貴様らにもないな」

「うるっせぇっ! 人間と魔人は違うんだよっ!!」


「おい。彼女はオレたちの連れだ。手を出したら、オレたちも黙ってはいないぞ」

 ディアブルが槍を握る手に力を込めて威嚇する。

「はっ! 人間の味方をするなら貴様も同類だっ!」

「やっちまえっ!!」

 男たちが一斉に剣を抜く。


「ディアブル、後ろを頼む。レイトとディーゼは馬を頼む」

 レテールは腰に下げたワンドを手に取って構え、囲まれる前から広げていた魔力で相対する6人の男たちに電撃を浴びせる。バチバチッと空気が爆ぜるような音が立つ。


「アババババッ」

 6人のうち2人が身体を痙攣させて倒れた。4人は身体強化魔術で防御したようだ。それでも、一瞬の硬直時間があった。レテールが魔力濃度を高めて電撃魔術で攻撃すれば、その4人の防御も突破できるだろう。しかし彼女はそうせず、一足飛びに相手に肉薄し、1人目が硬直から回復する前にワンドで剣を叩き落とし、さらに脳天を叩いて意識を刈り取る。

 続いて硬直状態から回復して剣で斬りかかって来る2人目の手首にワンドを叩き付けて剣を落とさせ、顎をカチ上げる。

 続けて3人目と4人目が左右から斬り掛かる。レテールはワンドの先端で右の男の剣を、続けて柄尻で左の男の剣を弾く。さらにその直後、その2人を魔術で弾き飛ばした。2人は左右の壁に背中をぶつけて意識を失う。


 意識を保っている2人目の男に向けてワンドを突き付けておき、道の反対側を振り返ると、ディアブルが相手をしていた5人のうち4人は地面に倒れており、残る1人も武器を失った上に喉元に槍の穂先を突き付けられ、両手を上げて震えていた。

「こ、こんなことをして、た、ただで済むと、思うのか」

 レテールにワンドを突き付けられている男が声を震わせた。

「ただでは済まないか。それなら、お前ら全員息の根を止め、後顧の憂いを絶っておくか」

 レテールの握るワンドの先端に、ボッと炎が灯る。男ばズザザッと尻餅をついたまま後退った。


「まっ、待てっ。待った、参った、人間がこんなに強いなんて知らなかったんだ、見逃してくれっ!」

「それは弱い奴はこれからも襲うと言うことだよな。そんな奴らは、ここで終わりにしておいた方が町のためにもなるんじゃないか?」

 ボッとワンドの先の炎の熱量が増す。男はさらに後退り、倒れている別の男にぶつかった。

「お、おい、まさか本気じゃないよな」

「お前たちは冗談で他人に剣を向けるのか? 剣を向けても殺されることはないとでも思ったか?」

「う……」


 口籠る男を見下ろして、さてどうしたものか、とレテールは考えたが、その必要はなかった。

「何をしているっ!!」

 男たちの倒れている向こう側に、4人の衛兵が現れた。この騒ぎを聞きつけたか、あるいは町民が通報したか。どちらにしろ、こいつらを引き渡して終わろうと、レテールは炎を消してワンドを引く。


「衛兵さん! この男たちが突然襲ってきたの! お兄ちゃんとお姉ちゃんがやっつけてくれたけど、とっても怖かった!!」

 魔馬の手綱を放り出したディーゼがタタタッと先頭の衛兵に駆け寄り、両手を胸の前に組んで訴えた。普段とはあまりにも違う彼女の態度と口調に、レイトは目を丸くする。


 衛兵たちは、ディーゼの言葉とレイトたちを10人以上の男が挟んでいる状況から、彼女の訴えを概ね信じてくれた。

 男たちは魔力を抑制する手枷で拘束され、連行されて行った。レテールとディーゼも、調書を取るためと衛兵に同行した。


 レイトはディアブルと共に宿屋へと向かった。

「やっぱり人間嫌いになっている魔人もいるんですね」

「それはいるだろう。オレたちの村でも、あんな極端な奴はいなくても、態度の微妙な奴はいただろう?」

「そうですね。魔王がいなくなってからまだ半年と少し、魔王が原因とはいえ戦争状態だったわけですから」

「ああ。オレたちの村は魔王領の外縁で、村と村の距離もあって人間も迂回して行けたからな。人間との衝突はゼロではないが、少なかった。この辺りもまだ似たようなものだが、中にはあんなのもいるだろう」

「魔人と人間の融和は長い道、ですね」

「レイト……お前、一介のハンターなのに為政者みたいなことを考えているんだな」

「え? あ、いえ、そう言うわけじゃなくて、ハンターとして活動するにしても、魔人と人間の関係は良好な方が活動しやすいですから」

「ふ、そう言うことにしておくか。……宿屋はあれだな」


 2人はギルドで聞いた宿屋を見つけ、そこへと向かった。

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