婚約者の作り方
寮の一室に金のように輝く髪をした少女と双子の美男子奴隷がいた。
「こちらの男性はどうでしょう。財閥の代表の一人息子ですので、金銭面ではメア様と釣り合いがとれているかと」
「うーん。悪くはないけれどお金持ちとはいえ平民の方でしょう?……次」
「こちらの男性はどうでしょうか。公爵家の一人息子ですので悪くない条件かと」
「そうね。悪くはないけど……。
公爵家とはいえお国自体が小国だものね……。 やっぱりルディーノ王国第一王女の私が嫁ぐのだもの。出来れば王族の方がいいわよね」
「……でしたらこちらの方は如何でしょう。セリュー王国の第三王子、アスト様です。国力、金銭面、お立場。全てにおいて申し分ないかと」
「あら。誠実そうで素敵な方ね。条件も全て当てはまっているわ。
……決めた。この方にする!早速会いに行くわよ!グラス。カルア」
「「かしこまりました。メア様」」
三人はアストのいる、空き教室の前にやってきた。
ノックをし部屋に入る。
「お邪魔するわ!」
「……邪魔をするなら帰ってくれ」
「分かったわ!」
が扉を閉める。
三秒後、再び扉が開く。
「用件も聞かずに追い出すだなんて!失礼よ!」
「……事前に約束も取り付けず、突然尋ねてくる君の方が余程失礼だろう」
アストは怒りながら読んでいた本を閉じた。
「そ、それは……。ごめんなさい……。
だけどあまりお時間は取らせないからお話を聞いて欲しいの!」
「嫌だね。帰ってくれ」
「五分でいいから!」
「はぁ。……話を聞くまで帰らなそうだな。聞いた方が早そうだ。さっさと話して帰ってくれ」
「じゃあ単刀直入に言うわね!私と結婚してちょうだい!」
「はあ?」
「よろしくて?」
「良い訳ないだろう!!君は常識が無いだけでなく、頭までおかしいのか!?」
「まあ失礼!王女として身につけるべき教養は一通り身についているわ!!貴方の妻として申し分ないはずよ」
「……僕が言っているのは勉学のことじゃなくて。はぁ、頭痛くなってきた」
「あら大変!グラス。お薬を用意して」
「かしこまりました。メア様」
「はあ。君はどこまでも僕の神経を逆撫でるね。第一僕のどこが好きなんだ?
お会いしたのは今日が初めての筈だが?」
「どこも好きではありませんよ」
「……はあ?」
「写真で見た時は誠実そうな方だと思いましたのに。短気ですし人の話もなかなか聞こうとしない。お言葉にも棘があるわ。
見た目は整っているとは思いますがあまりタイプではありません」
「……ああ。はいはい。そうですか。こんな不誠実な男では大国の第一王女のメア様とは釣り合いがとれませんのでさっさとお引き取りください」
「そういう訳にはいかないのよ。
私の兄はシスターコンプレックスを患っていて、私が学園を卒業したら国内の法を改正して、私と結婚しようとしているの」
サイコパスって遺伝するんだな。とアストは思った。
「兄妹間での結婚だなんて、倫理的におかしいでしょう?私利私欲のために法改正するのも間違っているわ。独裁者が生まれた時が国家の終わりの始まりだと歴史が証明しているもの。
だから私卒業までに結婚相手を見つけなければいけないんです!」
「……仮にそうだったとしても、僕じゃなくていいだろう。他を当たってくれ」
「貴方が結婚相手の条件に一番当てはまっているんです!お兄様を納得させるためには結婚相手は王族であることが望ましい。
しかしあまりに大国だと国家間の力関係が崩壊しかねませんし。小国だとお兄様が納得なさらない可能性があります。
貴方の国の国力は大き過ぎず小さ過ぎず。丁度良いんです!」
「……褒められているのだか。貶されているのだか」
「もちろん褒めています!」
「……全く嬉しくないな。とにかく貴方と結婚する気は毛頭ありません。お帰りください」
「むー。……これじゃ埒があきませんね。
一先ずお互いのことをもう少し知りましょう。貴方が今読んでいる本はなんですか?」
「……人間界の書物で灰かぶり姫という物です。シンデレラとも呼ばれているそうですが」
「シンデレラですか!?」
「へー。ご存知なんですね。人間界の書物は珍しいのに」
「ええ。昔お兄様にプレゼントしていただいたんです!」
「面白いですよね」
「ええ!初めて話が合いましたね!」
「特にシンデレラが衣装箱から服を出して欲しいと義母に頼み、顔を突っ込んだときに支えていた蓋を離して首を折って殺害する場面は良かった」
「え……」
「その後その提案をした家庭教師を新たな義母に据えたあげく仲が悪くなりまた虐められるなんて。子どもに因果応報を学ばせるのに最適な教材だ」
「……そ、そんなシンデレラ……私しらない……」
「ん?ああ。君が読んだのはシャルル・ペロー版か。シンデレラには色んな話があって、シンデレラが義母を殺す話もあるんだよ」
「嘘よ!シンデレラが人殺しなんてするはずないわ!」
「……まあ、そう思いたいなら好きにすればいいけど。君も王族なら一つの事柄だけを正しいと思うでものは辞めた方がいいんじゃないか。正解は一つではないことが多い」
「……私ずっと……シンデレラになりたかったのに……」
「……僕は理不尽な虐めになんの行動もしなかったシンデレラより、人殺しのシンデレラの方が余程好感を持つけどね。真に欲しいものがあるなら、どんな手段を用いても手に入れる。
それが僕たち悪魔の矜持だろう?」
「そ、それはそうかもしれませんが……。
私は殺すのは和解の方法を全て試みてからだと思います。話し合えば分かり合えることも多いはずです」
「……やはり君とは考えが合わないな。もう帰ってくれ。綺麗事を聞かされるのは不愉快だ」
「帰りません!!貴方も言いましたよね?どんな手段を用いても手に入れる。それが悪魔の矜持だと。
私だって同じです!!貴方にどれだけ迷惑がられようと。不愉快だと言われようと。結婚相手の条件に合う貴方と結婚するためなら、私どんなことでもいたします!!」
「……どんなことでもねぇ。本当になんでもするのか?」
「ええ!もちろんです!アルス王国第一王女の私に不可能なことなどありません!」
「なら後ろにいる奴隷をどちらか殺せ」
「はぁ!?……奴隷を殺害するのは校則で禁止されています」
「それは学外での身分が平民以上の場合のみだろう。学外での身分が奴隷の者を主人が殺すのはなんの問題もない筈だ」
「…………」
「どちらを殺すかは君に任せるよ。能力が劣る方を殺せばいい。
さあ、選択しろ。どちらの奴隷の命を取るか。
それとも僕との結婚を諦めるか」
「グラスは料理ができません」
「……ならそいつを殺すか」
「カルアは掃除ができません」
「ならそいつを」
「グラスは洗濯ができませんし、カルアは髪を綺麗に結べません」
「……僕は君の奴隷への愚痴を聞きたい訳ではないんだ。さっさとどうするか決め」
「でもグラスの出来ないことをカルアは出来るし、カルアの出来ないことをグラスは出来ます!!
どちらが劣っていてどちらが優れているか。
そんな単純な事ではないんです!!
お互いの欠点を補いあって充分な結果が出ているならそれでいいでしょう?
……奴隷を殺せだなんて貴方には本当に失望しました」
「……僕はこういう考えの生き物だ。変えようと思っても変えられないし、他人のために変えるつもりもない。
分かったらさっさと出て行ってくれ」
「……分かりました。出て行きます」
三人は踵を返し、扉を開けた。
「また来週来ますね」
「はあ?」
「今日一日で貴方を説得するのは諦めました。結婚を承諾して頂くまでこれから毎週お伺いします」
「……勘弁してくれ」
「その腐った性根も叩き直させていただきますから覚悟してくださいね!それでは!」
「ちょっと待て!!来ていいなんて言ってない!!」
あっという間に出て行ってしまった。
「はぁ。クソッ!……ミスったか」
心優しく根が真面目そうな彼女に残虐な事を強要すれば、俺に失望して結婚なんて辞めたくなんと思ったのに。
要らぬ火まで点けてしまったかもしれない。
廊下を歩くメアとグラスとカルア。
「我々の命で婚約が決まるなら」
「殺していただいてもよかったのですよ」
メアは振り向き、二人にデコピンした。
「「痛い」」
「私は死んでもそんな事しないと分かっているくせに!!怒るわよ!!」
「えー」
「もう怒っているじゃないですか」
「私が怒ったらこんなもんじゃないと貴方達はよく理解していると思ったんだけど?」
「それはそうですけど」
「痛いものは痛いです」
「自分達の命を軽んじる発言は決してしないでちょうだい」
「「……かしこまりました。メア様の御心のままに」」
先程までの独りよがりなプロポーズを遠隔魔法で見ている男がいた。
「……こんなことしたって国王様からは逃げられないのに。……哀れな人だな」