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奴隷の作り方

「ふぁー。もう11時か」

日曜日とはいえ寝過ぎたなとロードは思った。

ぐーっと腹が鳴る。

「……食堂行こ」

食堂に向かって廊下を歩いていると、自分の少し前に男子生徒が見えた。


あれは確かうちのクラスの学級委員長だよな。

別に話したことないけど同じクラスなんだし、挨拶くらいはしとくか。

「おはようリアン君」

振り向いたリアン君の顔には不機嫌が貼り付いていた。

「おはようだと?今何時だと思っている?」

「ああ。そういえば11時だね。おはようには少し遅かったね」

「11時におはようなどあり得ない。恥を知れ」

「お、大袈裟だな。別に11時におはようって言ってもいいでしょ」

「だめだ。挨拶の時間も守れない男になにが守れる」

「うーん。別に自分の身さえ守れたらそれでいいけどね」

「なんて自己中心的な男なんだ。男たるもの女性や子ども等の弱きものを守るのが責務だろう」

「……リアンくんって古風だね」

「黙れ。それにその口の聞き方はなんだ?」

「同級生なんだから普通じゃない?」

「僕は貴族でお前は平民だ。全く別の生き物といっても過言ではない。タメ口など許される筈がないだろう」

「……あー、リアンくんってそういうタイプね」

一応この学園内では生まれも育ちも関係なく平等にとなっているが、王族や貴族にはこういう価値観の悪魔も少なくない。


「どうしても態度を改めないというなら仕方がない。決闘しろ」

「んー。……辞めといた方がいいと思うよ」

「お前を奴隷にしてその腐った性根を叩き直してやる。決闘をうけると言うまで付き纏うぞ」

「えー」

正直かなりめんどくさい。

貴族らしいからそれなりに強いだろうし、お腹が空いて力が出ないし。


……でもな。自分のクラスの学級委員長が身分で差別してくるのはちょっと腹立つな。

平民の奴隷になればその高すぎるプライドも少しはマシになるか。

すぐに下剋上を受けてわざと負けてあげればいいし。


「……そこまで言うならしょうがないね。負けても泣きベソかかないでね」

「君のような平民ごときに負ける訳がないだろう」


二人で寮の外にある中庭に出て決闘を行うことになった。

「立会人は君達の担任のローガンが務めるよ。

……あーめんどくさい。日曜日なのに。せめて平日にやれよ。こちとら休日出勤手当て出ないんだぞ……」

「ふん。負けると分かりきっている勝負を逃げなかった度胸だけは誉めてやる」

「そりゃあどうも」

「勝利条件は相手を戦闘不能にするか。相手に降参と言わせること。それでは決闘開始」


「平民の分際で貴族に対する礼儀がなっていない君に礼儀というものを叩き込んであげるよ」

そう言ってリアン君は大きな火柱を出した。


……なるほど。やっぱり大口を叩くだけのことはあるな。

正面から魔力の打ち合いをして、勝てる生徒はほとんどいないだろう。


「己の無作法を悔いるといいよ!!」

火柱がすごい勢いで近づいてくる。


だがどれだけすごい魔法だろうと当たらなければ意味がない。

俺は魔法でリアン君の真後ろに瞬間移動して、関節技をきめた。


「な!?いつの間に僕の後ろに!!離せ!!後ろから奇襲を仕掛けるなんて卑怯だぞ!!男なら正々堂々勝負しろ!!」

「卑怯だろうとなんだろうと勝てばいいんですよ。ほら早く降参しないとご自慢のキレイな腕が折れますよ」

「くっ!!名門アブスティネト家の僕が平民の君なんかに降参などする訳がないだろう!!」

「……あっそ。じゃあ折るね」

より力を加えた。

「痛い!!痛い!!痛い!!やめろ!!」

「辞めて欲しいなら降参するしかないよね。そういうルールなんだから」

「嫌だ!!平民ごときに屈するぐらいなら、死んだ方がマシだ!!」

「あっそ。じゃあやっぱり折るしかないよね」

さらに力を加えた。

「ギャー!!やめろ!!それ以上は本当に折れる!!」

「あーあ。涙目になって可哀想だね。あとさ。まさかとは思うけど、腕が折れたらそれで終わりなんて思ってないよね?」

「え……」

「腕折ったら次は両足折るからね。それでも降参してくれないなら。そうだなぁ。爪を一枚ずつ剥がしてみようか」

「そ、そんな下劣な真似、許されるはずが!!」

「お貴族様の美学を平民ごときに当てはめないでよ。君が言ったんだよ?貴族と平民は全く別の生き物だって」

「嫌だ!!嫌だ!!誰か助けて……」

「自分を助けられるのは自分だけ。悪魔の常識でしょ。五秒後にまず腕折るからね」

「嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!」

「5、4、3」

カウントダウンの度にリアン君の骨がミシミシと音をたてる。

「2、い」

「こ、降参!!降参だ!!」

「はい。よく言えました」

「クソ!!僕が平民ごときに!!」

「あーあ。また言ってる。これからは身分差別をする度にお仕置きしようか」

「クソ!!なんで僕が……。僕から魔法をとったらなにも残らないのに……」


「ふぁー。あれもう終わったの?」

欠伸をしながらローガン先生が来た。

「……ちゃんと見てましたか?」

「もちろん見てたよ。でどっちが勝ったの?」

「見てないじゃないですか……」

「……ロードが勝ちました」

「へー。すごいね。平民が名家の貴族に勝つなんてなかなかないよ。やるじゃん」

「……ありがとうございます」

褒めてるつもりなんだろうけど、その発言も一種の差別なんだよなぁ。

まあ、別にいいけど。

「じゃあリアン。これつけてね。屈辱だろうけど校則だからさ」

ローガン先生がリアン君にチョーカーを手渡した。

「……はい」

リアン君が悲しそうな顔でチョーカーをつけた。


……なんかちょっと可哀想になってきたな。

さすがにやり過ぎたか?

まあ、いいか。これに懲りて差別発言も少しはマシになるだろうし。

下剋上でわざと負けて全部元通りにすればいい。


「じゃあ、リアン君。早速だけど下剋上申し込んで」

「え……。せめて明日にしてよ。休日出勤手当て出ないんだよ?」

リアン君は俯いたまま、血が出そうな程拳を握り締め、唇を噛んでいた。

「リアン君?」

「…………僕は。僕はまだ君に勝てない……」

「は?……ちょっとちょっと。さっきまでの自信はどこにいったのさ。さっきのはまぐれだって!  君なら勝てるよ!自信持って!」

あれ。なんで俺こんなに励ましてるんだろ。


「……僕が君より弱いからって馬鹿にしないでくれ。現時点での実力差くらい僕にも分かる。

……悔しいけど今の僕じゃ君に勝てない!!」

「いや、あの。俺魔王とかなる気ないし、奴隷とかいらないんだよね。あれだったらわざと負けるからさ。下剋上申し込んでよ」

「やめてくれ!!下に見ていた相手に負けたというだけで死ぬほど屈辱的なのに!!情けまでかけられたら僕は……」

「そ、そんなこと言われても……」

「悔しいが現実は受け入れよう。僕は君の奴隷だ。君の為ならなんだってしよう。即完のカレーパンだって毎日手に入れてやる」

「……俺カレーパン嫌い」

「僕の主人ともあろう者が好き嫌いをするな!!」

「理不尽……」




翌日の昼休み

「カレーパンだ。ありがたく食え」

「……頼んだの焼そばパンでしょ。カレーパン苦手なんだってば」

「高校生にもなって好き嫌いをしてどうする!?いいから早く食べろ!!」

「えー」

「早く!!」

一口食べた。

「……辛すぎる」

「人が買ってきてやった物に文句を言うとは何事だ!?」

「だって頼んでないもん。俺が食べたかったの焼きそばパンだもん」

「黙って食え!!」

「もう頼むから奴隷やめてよ。こっちの身が持たないよ」

「なにを言う。世界一優秀な僕を仮にも奴隷にできたんだ。泣いて喜ぶんだな」

「別の意味で泣きたいよ……」


「ほら宿題見せてやる」

「わーありがとう。これは助かる。六割くらい写そ」

「六割だと?」

「俺の成績じゃ全部写すとバレるからねー」

「仮にも僕の主人がこんな簡単な問題、全問正解できなくてどうする!?すべて写せ!!」

「えー。そんなの絶対バレるじゃん。バレたら補習だよ!!」

「日頃の成績が悪いお前が悪い!!」

「じゃあ自力でやるからいいよ」

「ふん。好きにしろ。せっかくの好機も掴み取れないとはな。

……おい!!なんだそのガーゴイルの鳴き声のような字は!!」

「えー。別に読めたらいいじゃん。ていうかそこまで汚くないでしょ」

「貸せ!!僕が書く!!」

「やめて!!もっと丁寧に書くから!!」

「遠慮するな。頭脳明晰で達筆。おまけに心優しい僕を奴隷にできたことを誇りに思うんだな」

「やめてー!!」


放課後

「ロード。宿題を奴隷にさせるのは校則違反だよ。まあ、気持ちは分かるけどね。宿題なんて面倒くさいし学習面でも効率悪いもんね」

「いやあの。リアンくんが勝手に……」

「人の宿題を好き好んでやる馬鹿なんている筈ないでしょ」

「いるんですよ!!」

「今日は補習だからね」

「そんなー!!」



補習を終え、学生寮に向かって歩いていると

「この僕をこんなに待たせるとは何事だい!?」

不機嫌そうなリアン君がいた。

「待ってなんて言ってないでしょ」

「主人を一人で帰らすわけにはいかないだろう」

「ていうか門限過ぎてるよ。俺は補習だから大丈夫だけど」

「早く帰るぞ」

すでに50メートルくらい先にいた。

「ほんと人の話聞かないよね」


腹立ってきたな。

チョーカーに電流流すか?

でもな。悪気なさそうだからあんまり効果なさそうなんだよな。

自分が納得しないと行動変えなそうだし。

あんまり電流流すとそのうち耐性ができて、制御装置を失ったモンスターに成り果てそうだし。



寮に帰った二人

入り口に入ってすぐ寮母が走ってやってきた。

「リアン君。すごく心配したのよ!!優等生の君がどうしてこんな時間まで……。

……は!?主人になったロード君に脅されたのね。なんて男!!」

「いや違います!!リアン君が勝手に!!」

「優等生のリアン君が主人の命令もなく門限を破る訳ないでしょう!?」

「リアン君もちゃんと否定して!!」

「概ね間違ってないだろう」

「どこがだよ!?間違いしかないよ!!」

「ロード君。罰として1か月間おかわり禁止です!!」

「そんなー……」

「こんな時間まで連れまわされたリアン君の明日の夕食は豪華にしておくからね」

「ありがとうございます」

「……なんで俺ばっかりこんな目に」


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