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1.怨霊ベビーシッター。

子黒猫虎生誕一周年記念作品……を連載化してみました。


死産・水子・微グロ描写・血・イジメ描写があります。苦手な方、ご注意ください。m(__)m



 まず自己紹介をすると、俺は26歳独身恋人なしの都内勤務のしがない普通サラリーマンだ。

 帰宅先は都内ではなく川崎市内、駅から徒歩15分圏内のワンルーム賃貸マンションである。

 名前は……いや。名乗るほどのものではない。


 とある出勤前の早朝、俺は近所のゴミ捨て場にうち捨てられているテレビを見つけた。

 まだ新しい。

 俺の部屋にあるテレビよりもいいヤツだったので、深く考えずに持ち帰る事にした。

 自宅の部屋に運び入れ、電源が入ることを確認したのちにそのまま出勤。


 どこからともなく怖気(おぞけ)を感じるが、恐らく気のせいだろう。


 その晩独りさみしく家に帰ると、今朝持ち帰ったばかりのテレビの画面がついていたのだが、もちろん電源をつけたままにした覚えなどない。

 何とも薄気味悪い色の砂嵐で、スピーカーからは、


  ザー゛ー゛ー゛ー゛


 という嫌な砂嵐音が大音量で聞こえていた。



 予期してなかった光景に呆気にとられた俺は、しばらくその画面から目が離せずに立ちすくんでいた。

 すると、画面の中から何か黒い(かたまり)が這い出てくるのを見た。


 心臓が飛び出るくらい驚いたが、俺の身体は逃げ出すこともできずに固まっている。

 仕方なしに、俺はその塊を見てるしかできなかった。



 不気味なその塊は、しばらく俺の部屋のフローリングの上でモゾモゾと動いていた。


「これは、いったい何だ?」


 目を凝らして見ると、果たしてそれは人間の赤子だった。

 だが、それは生きた人間の赤子ではないことは、普通サラリーマンの俺でもすぐに分かった。


 これは怨霊の赤ちゃんだ。


 どうしてそう思ったのか、確信できたのかは分からない。

 とにかく分かったんだ。


 しかも恐らく死産して、この世に生まれ出ることが無かった水子の怨霊なのではないか。

 なぜなら形がかなり未熟な状態だからだ。


 その水子の怨霊がどうして俺のところに?

 もちろん、あの今朝拾った例のテレビのせいだろう。

 頭を少し働かせればわかることだ。


 例のテレビの画面から出てきたのだから間違いない。


 形の定まらないグズグズな水子状態だったその子は、初めは目が開いてなかった。

 だが、俺が見ている間に、みるみると人間らしく形が整っていく。

 しかし、その肌の色は明らかに生きた人間のものではない色をしていた。

 そして不気味な微笑み(アルカイックスマイル)を浮かべていた。



 不安と恐怖が俺の心を包み込む中、恐ろしげな姿をした赤子は俺の部屋の中を這いずり始めた。

 いわゆる「ずりばい」だ。

 すっかり人間の赤ちゃんらしい形にまで育っている。

 肌の色は、明らかにおかしいのだが……



「まだ産まれたばかり…………怨霊になったばかりなんだね」


 俺がそうつぶやくと、その問いに応えたかのように、赤子が不気味なハイハイを始めた。

 その時点で、おかしいことなのだが、俺はこの怨霊の赤ちゃんに、普通ではありえない感情を抱き始めていた。


「これは、……父性本能?」



 何もない俺の人生にやってきたこの怨霊の赤子のことを、俺は我が子の様に感じてしまった。

 つまり俺は、この恐ろしくも可愛らしい怨霊の赤ちゃんを育てる気になっていた。



 ◆



 初めは、この子は育たない可能性もあると考えていたが、良いことか悪いことなのか、普通に成長し始めていた。


 この子は彼女(丶丶)だった。


 ただの怨霊と思っていたが、彼女は成長していくにつれ、どこか人間じみた愛らしさを見せ始めた。


 彼女は夜だけに俺の部屋に現れた。

 頻繁にミルクを要求し、初めてのお座り、立っち、そして歩けるようになった。

 俺は彼女の成長を驚きとともに喜び、嬉しそうに彼女に声をかけた。


「凄い! もう、歩いた! 君は怨霊の天才だ!」


 しかし、彼女の成長と共に、彼女の身に宿る強力な呪いの力も増していった。

 俺はすぐにその恐るべき力を目の当たりにすることになる。



 俺はいつしか仕事から帰ってきて彼女と過ごすのを楽しみにするようになっていた。

 そんなある日、仕事から帰ってきた俺は彼女の瞳に以前に見られないような獰猛な輝きが宿っているのを見つけた。


 彼女は俺に向かって襲いかかってきた。


 彼女が俺に飛びついたとき、あまりの冷たさに俺は驚いた。


 実際には、彼女は冷たい訳ではなく、俺の生気を奪っていたのだ。



 俺が呪いによって苦しむ中、「パパ……」という微かな声が聞こえた。



 俺は致命的な怨霊の攻撃を喰らいながらも、彼女の言葉に驚きとともに初めて聞く我が子の声に、静かに感動を覚えたいた。



 そして彼女が怨霊としての本能をもって俺を呪い殺そうとしているのと同時に、親子の感情が芽生えていることも知った。



 そこに一縷の望みをかけた。



「待って。俺は君の花嫁姿を見るまでは死ねない」と腹の上に乗っている闇のオーラを纏った我が子に告げた。


 攻撃が止まる。そして、腹の上でみるみるうちに幼児の姿にまで成長した彼女が言った。


「彼氏見つけてくるから会って」


 すっかり怨霊の美幼女となった彼女に俺はコクリとうなづいた。


 言葉も問題ないようだ。

 それはそうだ。

 彼女はテレビの中から産まれたのだから。

 テレビの中で色々と学べたのかもしれない。



 彼女の成長は普通の成長の仕方とは異なるようだ。

 今しがたも俺と話すために、話すことができる年齢まで、彼女の意思で成長したように見えた。

 もしかすると、明日には大人にまで成長し、あっという間に結婚相手を見つけて連れて来るかもしれない。


 それまでが俺の命のタイムリミットなのだろうか。



 それでも構わない。これからの俺の人生の目標及び人生の悦びは彼女の花嫁姿を見とどけることに、たった今決まった。



 後に「怨霊ベビー」として日本中に噂となる娘と俺の関係はこうして始まった――






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