モンスター潰し
あれから2年間も月日が経っていた。
久しぶりに神殿の外へ踏み出すと、すぐに森の冷たい風が彼を包み込む。ついに初めての実戦を迎えるところだ。森の奥からは、何かが蠢く気配が伝わってくるが、ロイは落ち着いてその気配を感じているだけ。
森の中に入ると、最初にロイの目に飛び込んでくるのは、ヌルヌルとした丸いスライムである。無害であるが、油断は禁物。確実に動きを封じ込め、一撃で仕留める準備する。スターナイトを手に取り、ゆっくりと足を進めた。
(まずはこいつだな・・)
ロイは『十帝』の力を発動させる。その瞬間、スライムの動きが鈍くなり、時間がゆっくり流れているかのようになる。敵の動きを完全に支配している感覚が、全身に広がる。
(悪いな・・)
剣を振り下ろすと、スターナイトはスライムの体を簡単に切り裂く。ゼリーを切るかのように、スライムの粘液質の体が真っ二つに割れ、その場に崩れていく。剣を見つめ、確かな成長を噛みしめ静かに息を整える。
(次は・・・)
次を考えていた瞬間、背後から足音が聞こえる。振り返ると、アントが群れをなして襲いかかろうとしてくる。鋭い顎を持つ彼らは、すでにロイの存在を気づいていたので、猛スピードで接近していた。しかし、ロイは一歩も引かず、再び『十帝』の力を発動させる。
アントたちの動きが鈍くなる。時間が止まったかのようにゆっくりとした動作しか取れなくなっていた。ロイは一瞬で距離を詰め、剣を振り下ろす。次々とアントたちの硬い外殻が砕け、あっという間に群れが消滅していく。
「もう終わりか?」
(歯ごたえがないな・・・)
そう思った矢先、地面が揺れ始める。重々しい足音が近づいてくるのだ。その音を聞き分け、次に来る敵の存在を感じ取る。森の奥から現れたのは、巨大なイノシシボアだ。鋭い牙を持つDランクのモンスターで、森を狂ったように駆け抜けてくるその姿は、迫力がすごい。
「来たか・・」
イノシシボアがロイを目がけて突進してくる。ロイは体勢を低くしてその動きを見極める。次の瞬間、イノシシボアの牙が目前に迫るが、ロイは冷静に剣を構えた。『十帝』の力を発動させると、イノシシボアの動きが鈍くなる。スローモーションのような動きの中、ロイは剣を一閃。
「遅い」
スターナイトがイノシシボアの体を切り裂き、その巨体が倒れ込む。ロイは振り返ることなく、次の敵の気配を感知する。
続いて現れたのは、ワーム。地面の中から突然現れたその巨大な体は、見た目こそ鈍重だが、一度絡みつかれると厄介なモンスターだ。ロイは距離を取り、動きを見る。ワームが一度地面に潜り、再度飛び出してきた瞬間、再び『十帝』の力が発動する。
ワームの動きが一瞬で鈍くなる。その機を逃さず、スターナイトをワームの頭部に向かって振り下ろした。一撃でワームを沈黙させた。
(・・・)
ロイは剣についた血を振り払いながら、目の前の状況を確かめる。しかし、気を抜く暇もなく、上空からキラービーの群れが襲いかかってくる。鋭い針を持ち、針の先端は猛毒が付いており、集団で襲ってくる彼らは、非常に危険なモンスターだ。ロイは素早く剣を構え、次々と襲いかかるキラービーを撃退していく。
「数が多いだけで、動きが遅い」
剣を振るい、キラービーの羽音が止むことなく響く中、一体また一体と討伐する。『十帝』の力によって、敵の動きが遅くなり、確実に仕留めていった。
やがて、すべてのモンスターが地面に倒れ込み、剣を鞘に収める。
(まだまだやれる・・)
その場で立ち止まり、冷静に戦闘を振り返りながら、次の戦いに向けて気持ちを引き締め、剣を鞘に収めた。周囲には森の静けさが広がっているが、その静寂が逆に彼を警戒させる。これまで戦ってきたEランクやDランクのモンスターたちは、思ったよりも早く片付けられたが、森の奥にはさらに強敵が潜んでいることを本能的に感じていたのだ。
(油断は禁物か・・)
再び剣の柄に手をかけ、ゆっくりと森の奥へと進み始める。踏みしめた土の感触が、次の戦闘を予感させる。まばらに木々が並ぶ中、暗がりに隠れているものがロイを狙っている。気配はあるが、どこから襲ってくるのかは分からない。
「本番だな・・」
彼は目を細め、すべての感覚を研ぎ澄ませる。すると、視界の端で一瞬何かが揺れたのを捉えた。ロイが反射的に振り向くと、そこには一匹の巨大なオークが、こちらをじっと見つめていたのだ。今まで戦ったものとは明らかに違う大きさと力強さを持ち、その瞳には獲物を狙う鋭さがある。オークはCランクのモンスターで、冒険者ランクがC以上のレベルが必要であり、パーティを組んで討伐するモンスターになる。
「大きいな・・」
「さっきのようにはいかないかな?」
即座に『十帝』の力を発動させた。オークの動きが鈍くなり、地響きのような足跡で猛進するはずが、左足を上げている所で停まったかのような状況でスローモーションにしか見えない。
「こいつも遅いな・・」
ロイは一瞬で間合いを詰め、剣を一閃。オークの巨体が切り裂かれ、轟音とともに地面に崩れ落ちた。
(・・・)
彼はその巨体を見下ろしながら、警戒を解かずに周囲を見渡す。森は再び静まり返ると、まだ終わりではなそうだ。
その予想は正しかった。森の奥深くから、また別の気配が近づいてくる。今度は木々が激しく揺れ、巨大なクモが顔を出した。そのうねる体は木々を揺らし、枯れ葉を落としながら迫ってくる。口からは鋭い牙が覗き、ロイをその餌食にしようとしていた。スパイダーもCランクモンスターで手強い相手である。
「スパイダーか・・・」
一度深呼吸をすると、剣を構えた。スパイダーの動きは俊敏でクモの糸をつたって移動する。また虫のわりに力強いため、その力と驚異的なスピードが厄介なところだ。一撃で仕留めるためには、弱点を正確に捉えなければならない。
「狙って倒すしかないか・・・」
ロイはスパイダーの頭部を狙い定め、『十帝』の力を使う。するとスパイダーの動きが鈍くなり、これも時間が停まったかのようになる。スターナイトを振り下ろすと、また一瞬で剣はスパイダーの頭部に突き刺さり、一撃で沈黙させた。スパイダーは何があったか分からないまま、倒されたのだ。
(手強いと思って損したな・・)
また、羽音が響き渡る。空を舞っていたのはハーピー5体。ハーピーは空中から一気に襲いかかる動きで獲物を捕り、高いところまで持ち上げ、落としてから食べる習性をもっている。そのため、ハーピーに捕まれば逃げる余地はない。
「ハーピー、数が5体ね・・」
「負けるわけねぇだろ」
しかし、ロイは一瞬で『十帝』の力を発動させ、ハーピーの動きを鈍らせる。羽音が遅くなると、空を飛び回っていたハーピーたちは空中で停止したかのようになり、ロイは脚に力を入れると、ハーピーが飛んでいる空まで、高く上がる。そして、そのまま空中で次々に斬り裂いていく。
斬り終えると、一匹、また一匹と地面に落ちてくる。5体すべてのハーピーが地面に落ちると、先程までモンスターと戦闘をしていたとは思わないぐらいの静けさになる。
彼の心は静かで、自身の成長が著しいと感じ、森での初めての実戦は、物足りなさが残ってしまう。しかし、経験としては大きな経験となった。今のロイは成長に歯止めが効かない状態で、さらなる成長を遂げていくことを感じ取る。
(少しは、前進しているか・・?)
(だが、まだまだ足りない・・)
そう呟きながら、ロイは静かにその場を後にするのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
私の創作小説です。
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